ナタリー PowerPush - HEAD PHONES PRESIDENT
ヘヴィロック界の至宝が語る バンド再生とメンバーの絆
HEAD PHONES PRESIDENTがニューアルバム「Stand In The World」をリリースした。2010年にオリジナルメンバーのMAR(G)が脱退し、残されたメンバー4人で精力的な活動を続けてきた彼ら。今作は4人編成になって初の音源ということもあり、5人時代からの変化や新たな挑戦などが詰め込まれた意欲作に仕上がっている。
今回のインタビューでANZA(Vo)、HIRO(G)、NARUMI(B)、BATCH(Dr)は4人編成としての個性を確立するまでの話や、アルバム「Stand In The World」制作を通じて迎えた心境の変化、以前よりも強まったメンバー間の関係性について吐露。かつてないほどに開かれた作風の本作がどのようにして完成したのか、このインタビューから読み取ってほしい。
取材・文 / 西廣智一 インタビュー撮影 / 高田梓
バンド結成13年で初のスタジオ合宿
──新作「Stand In The World」は、フルアルバムとしては約5年ぶりなんですね。「PRODIGIUM」(2009年発売のミニアルバム)や「Pobl Lliw」(2010年発売のセルフカバーアルバム)といった作品が定期的にリリースされていたので、2007年の前作「folie a deux」からそんなに時間が経ってるとは思いませんでした。
ANZA(Vo) 周りからもよく言われるんですけど、自分たちもそんなに経ったんだって気付いてませんでした(笑)。
──今作はギタリストのMARさんが抜けて4人編成になってから初の作品という意味合いもあるのか、バンドとしての変化を強く感じさせる作品だと思いました。以前までのダークな要素は残しつつも、最後までスルッと聴ける1枚というか。そのへんは制作する際に意識したんでしょうか?
ANZA そうですね、5人から4人になって初めてのアルバムっていうことで、新しい面を出していきたいって気持ちがメンバーそれぞれにあったと思うんです。ただ、このバンドってあまりミーティングをしないんで、そうしようと話し合ったわけではなく、集まって音を合わせたらこうなったっていう。実はライブのパフォーマンスに関しても一度も話し合ったことがないんです。
──そうなんですね。
ANZA 今まではHEAD PHONES PRESIDENTっていう世界観を大事にしつつ、個々が感じるものを好きなように表現していこうっていうやり方で、今回もその流れで進めたんです。で、これまでの楽曲の骨組みって辞めたMARが作っていたものが多くて、彼がいなくなったことで曲作りのやり方も変えようということで、初めてスタジオ合宿をしたんですね。そこではHIROが曲の骨組みを作って、みんなでアレンジをしていったんです。
4人になったことで1人ひとりの音がより明確に
──合宿はバンドにとって成果のあるものだったんですか?
HIRO(G) はい。合宿では「Stand In The World」「Dive」「In Scrying」っていうテイストの異なる3曲ができたんですよ。この3曲を4人で作れたというのが大きな自信になって、ここからアルバムにつなげるにはどういった曲が必要になるかが容易に想像できたんです。うまくバランスを取るように、次はドロドロした曲、次は悲しげな曲という感じで。先程アルバム全体をスルッと聴けたとおっしゃってましたけど、僕たちもそこを意識しつつ曲順に関しては相当揉めながら決めていったんですよ。
ANZA 確かに曲順は一番悩みましたね。今までの作品は後半に重い曲が集中して、聴いてるとだんだんしんどくなる傾向が強かったんですけど、今回は曲のバリエーションが広がったのと1曲1曲の個性が強まったのが大きくて。それと、ギタリストが2人から1人になったことで、バンド全体のサウンドも1人ひとりの音が以前よりも明確になったと思うし。その点は個人個人がそれなりに悩んだんじゃないかな。
HIRO そもそもアルバムを作る前に、5人でやっていた既存の曲をどう4人で演奏するのかっていうのがすごい試練で。それを試行錯誤しながらこなしていく流れで完成したのが、このアルバムの曲たちなのかなって。そういう意味では自然に作れてはいるんですよね。
NARUMI(B) 一から新しいバンドを始めたようなところもあったし。
BATCH(Dr) それもあってか、今までの曲をリアレンジするより新しい曲を作るほうが作業としては楽でしたね。メンバー個々の音がしっかり出るので、逆に開放感があったっていうか、気持良く作れてます。ギターが1本になったことでベースとドラムはより前に出てくるので、その分楽しかったですよ。
ANZA 最初に4人でリハーサルやったときに、ちょっと驚いたことがあって。4人になったことでシンプルなんだけど、メロディが演奏に乗りやすくなったというか、とても歌いやすかったんです。リズム隊の音がより聴こえやすくなって、今まで感じたことのないグルーヴを見つけることができて。そこで私は「これは4人でも行けるかもしれない」って確信できたんです。
この4人がHEAD PHONES PRESIDENTの最終メンバー
──ところで、MARさんが脱退したとき、なぜ新メンバーを加えずに4人で活動を続けようと思ったんですか?
ANZA MARはオリジナルメンバーでもあったので、今から新メンバーを入れて彼がいた頃の状態まで持っていくのは難しいだろうなって思ったんです。HEAD PHONES PRESIDENTには既に明確な色があったので、それにふさわしいメンバーを見つけるには相当時間がかかるだろうし。で、いろいろ考えた結果、この4人でHEAD PHONES PRESIDENTを守っていかなきゃいけない、HEAD PHONES PRESIDENTを続けていかなきゃいけないっていう結論に達しました。
──なるほど。でも、HIROさんはもう1人ギタリストがいたほうが楽だとは思いませんでしたか?
HIRO もう1人入れるんだったら、ANZAにちょっと弾いてもらおうかな。
ANZA ええっ! それにはもう10年くらいかかる(笑)。
HIRO もしくはNARUMIにギターを弾いてもらう。
──あ、NARUMIさんは元々ギタリストですものね。
NARUMI じゃあANZAがベースを弾いて、この4人でなんとかしようっていう。
──結局この4人なんですね(笑)。
ANZA ほかのバンドのことはわからないけど、例えば誰かが風邪を引くと私は心配でしょうがないんですよね。この1年半は家族より一緒にいていろんな困難を乗り越えてきたけど、悪いところもひっくるめて大好きになったというか、バンドのメンバーをこんなにも愛おしく思ったのは初めて。もし次に誰かがバンドを抜けたら、そのときは解散だろうなと。正直いつまで続けられるかわからないけど、この4人がHEAD PHONES PRESIDENTの最終メンバーになるんだと思います。
収録曲
- Stand In The World
- My Name Is
- In Scrying
- Melt
- Dive
- Where Are You
- Just A Human
- Rainy Stars
- Enter The Sky
- Lost Place
- Rise And Shine
- Eyes
- Purge
HEAD PHONES PRESIDENT
(へっどふぉんぷれじでんと)
ANZA(Vo)、HIRO(G)、NARUMI(B)、BATCH(Dr)からなるヘヴィロックバンド。ANZAの華やかかつアグレッシブなボーカルと、トライバルなリズムとヘヴィなグルーヴを取り入れたメタルサウンドで人気を博す。2002年にはニューヨークで初の海外ライブを敢行。以後、ロサンゼルスやフランス、スウェーデン、台湾、中国、韓国などでもライブを行っている。国内でもIN THIS MOMENTヤTHE AGONIST、DOMENICAといった海外バンドと共演。2008年には「LOUD PARK 08」「TASTE OF CHAOS」といったフェス、イベントにも出演し好評を博した。2012年4月には10万人の動員を誇るアメリカのカルチャーフェス「MTAC OMEGA」にヘッドライナーとして出演。同年6月に通算3枚目のフルアルバム「Stand In The World」をリリースした。