ナタリー PowerPush - HanaH

愛を分け合う新作と知られざるヒストリー

HanaHの2ndアルバム「loveflower」が完成した。前作「i'm not alone」から1年半をかけてじっくりと作り上げた本作には、彼女の本来の姿が表れていると言ってもいいだろう。卓越したボーカルスキルが遺憾なく発揮されているのはもちろん、歌詞は愛情にあふれた彼女の人柄がよくわかり、サウンドはメジャーデビュー前から長く親しんできたプレイヤーによって奏でられている。

そんなHanaHの生い立ちについて、世間に知られるところはまだ少ない。今回のインタビューでは幼少期のエピソードから、たくさんの音楽仲間と出会ったデビュー前の日々のこと、メジャーデビューに至った背景、そして未来の目標まで、あらゆるテーマで話を訊いてみた。

取材・文 / 鳴田麻未 インタビュー撮影 / 井出眞諭

テーマは「愛を分け合おう」

──「loveflower」は、どんなテーマを持って作られたんでしょうか?

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今回は「愛情」をテーマにしようと思っていて、とにかくタイトルに「love」という言葉を入れたかったんです。具体的に言うと、「愛を分け合おう」というのが作品のスローガンでした。

──「愛を分け合おう」というフレーズが出たきっかけは?

去年、ブータンという国がちょっと話題になったじゃないですか。ブータンは、道行く人に「あなたは今幸せですか?」と質問して「幸せです」と答える確率が世界一なんだって。私、そこから興味を持ってブータンについて調べてみたんだけど、あそこは核家族じゃなくて、おじいちゃんおばあちゃんも一緒に住んでいる家庭が多くて、ごはん食べるにしても、笑うにしても泣くにしても、みんなで分け合ってる。それが、1人ひとりが幸せに感じられる秘訣なんじゃないかなと思ったし、愛情をシェアすることってすごく大事だなと感じたんです。

──日本でも昨年3月に東日本大震災が起きたことで、愛情を分け合うということに国民が意識的になったかもしれません。

まさにそうだと思います。顔も名前も知らないけど被災地の人の力になろうっていう気持ち自体が本当に大事ですよね。日頃から「この人寂しいんじゃないかな」って思う相手にちょっと声をかけてあげたり、身近な友達に優しくしてあげたり、やさぐれずにそういう気持ちを持っていたいなと。

「メジャーに行って音楽性変わったよね」って言われたことも

──今作は全体的にアコースティックなサウンドで、手作り感が強いですね。

アコースティックなサウンドのものは聴いていて一番落ち着くし、歌っていてもしっくりくるの。それに手作り感というのも、まさにシンプルなものを作りたかったんですよね。小難しくなく、気取らず、大人ぶらず、子供ぶらず。完成品は、例えるならただのTシャツとGパンを着てる私っていう感じですね。すごく自分らしいものができたなと思います。

──メジャーデビュー後初のアルバムとなった前作「i'm not alone」とは、毛色が少し違いますよね。

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「i'm not alone」のときは、音楽性や一緒に音楽を作る人の幅を広げるっていうことに興味がありました。今まで会ったことがない人に自分の持ってるものを引き出してもらう作業が刺激的だった。これまで挑戦したことないような、打ち込みのサウンドとかコーラスの重ね方は、私自身もすごく新鮮だったんです。まあ恋愛でも「今までこういうタイプの男性と付き合ったことないけど面白くて刺激的でちょっと惹かれちゃう」ってことあるでしょ?(笑) そういう感じですね。

──前作は良い意味でメジャーレーベル然としたアルバムで、新鮮に感じたのはHanaHさん自身だけでなく、以前からのファンも同じだと思います。

実は「メジャーに行って音楽性ちょっと変わったよね」って言われたこともありました。でもあれは私にとって挑戦っていうか、新しいことをするのが面白くてやってたんです。結果的に新しいリスナーとも出会えたし、自分の内面も変わったと思うし、音楽を作るプロセスも勉強になったし、やって良かったなって思いますね。

プロデューサーや周りの人のことを信頼するようになった

──ご自身では、前作から今作までにどんな成長があったと感じます?

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今までだったら「このドレス着てみなよ」って勧められるままに着て“着させられてる”感があったものも、ちょっと裾を短くすれば気に入るかもとか思えたり、自分のものにできるようになってきた。28歳にしてやっとそういう感じが出てきました(笑)。自分から出た音楽ってやっぱりどこを切っても自分らしいものだなって。

──なるほど。ほかにはいかがですか?

前よりプロデューサーや周りの人のことを信頼するようになったかな。今回は作品のビジョンを制作チームみんなで話し合って共有できたんです。それができると良いものができるんだなって、とても勉強になりました。

──どうやってビジョンを共有するんですか?

まず自分の意思をちゃんと伝えることですね。例えば自分が失恋した時に作った曲だったら、「同じように失恋した人が思わず泣いちゃうような音の質感にしたいんです」っていうことを説明して、ときには参考資料みたいなものを出したりして、理解してもらう。もちろん「ここはもうちょっとリバーブ下げて」みたいな具体的なリクエストもして、音作りには積極的に意見を出しました。

ニューアルバム「loveflower」 / 2012年3月21日発売 / 2100円(税込) / NAYUTAWAVE RECORDS / UMCC-1053 / Amazon.co.jpへ

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CD収録曲
  1. love ~限りある時間が終わる前に~
  2. また笑って会えたら
  3. life is only one time feat. COMA-CHI
  4. ピンクのハート
  5. paradise
  6. 奇跡はあなたの中に
  7. 愛されたくて 愛したいだけ (acoustic version)
  8. Music Can Change the World (Album Version) / quasimode feat. HanaH(ボーナストラック)
HanaH(はな)

1983年生まれの女性シンガーソングライター。ジャズギタリストの父、ジャズシンガーの母の間に生まれ、幼少の頃から音楽に囲まれた環境で育つ。10歳から曲作りを始め、高校卒業後より音楽活動が本格化。さまざまなレコーディングやセッションを重ね、渋谷界隈のアンダーグラウンドシーンのアーティストたちと交流を深める。MISIAのバックコーラスや、エリカ・バドゥやBOYZ II MENの来日コンサートでデュエットするなど、その歌唱力は国内のみならず、海外アーティストからも絶大な支持を得る。2008年12月、ミニアルバム「soulflower」を発表。翌年8月にシングル「明日また、笑えるように」でメジャーデビューを果たす。その後、2010年8月に1stアルバム「i'm not alone」、2012年3月に2ndアルバム「loveflower」をリリース。ダイヤモンドのような輝きと強さを併せ持った歌声は、人々の心を魅了し続けている。