ナタリー PowerPush - 八王子P

ボカロ界の“貴公子” ついにメジャーデビュー

自分でも今の状況にはびっくりしてます

──その後、2011年11月にアップされた「Sweet Devil」が1週間で10万再生、かつ3日で1万マイリスト登録というすごさで。さらに、これまでの集大成として、2月1日にメジャーデビューアルバム「electric love」がリリースされるという展開です。このアルバムについて、ご自身ではどんな作品に仕上がったと思いますか?

新曲の「Baby Maniacs」は、特に気合入れて作りましたね。あれは一応「Sweet Devil」の続編的存在なんです。「Sweet Devil」を超えるような曲を作ろうって思ったんですよ。あと、やっぱり表題曲の「エレクトリック・ラブ」は外せないですね。最近作った曲に比べると音作りの面ではちょっと劣るかなって気はするんですけど、1つ1つのフレーズやメロディ、歌詞それぞれのバランス感や勢いが、今聴いてもすごいなって思います。これがよく当時の自分に作れたなと。自画自賛ですみません(笑)。

──ちなみに、人気曲「Sweet Devil」の世界観は、どんなふうにして生まれたんですか?

元々はバレンタイン用に作った曲だったんです。でも、チョコレートとかそういう直接的な表現は絶対したくなくて。ひねくれた感じのバレンタインソングにしたかったんです。なので、ツンデレ的な表現にしたら面白いよねって話からはじまって。

──なるほど。そして「Baby Maniacs」ではどんなテーマを表現しようと?

自分の曲って、強気な女の子っていうか、ツンデレ的だったりドSっぽい感じだったりする詞が多いんです。なので逆に、ちょっと弱気な感じなんだけど、サウンドや表現は力強いっていう楽曲にしたくって。好きな人になかなか振り向いてもらえないジレンマを描いた楽曲ですね。

──そういえばサウンドから、2000年代のトランスの影響を感じるんですが、いかがですか?

多分影響受けてますね。サイバートランスとかも好きでした。あとは、スーパーカーの影響が大きいかもしれません。音作りやメロディなどに、にじみ出てるのかなって感じるときはありますね。

──元々音楽教育は受けているんでしたっけ?

いえいえ、学校の音楽の授業ぐらいしか。本当に何もできなくて。

──まさに自己流であり手探りなんですね。ある意味、テクノロジーの申し子ですね。

わからなくなったらネットでチュートリアル動画とか観て調べまくってました(笑)。

──なんかそれって、勇気づけられるユーザーって多いかもしれませんね。

自分でも今の状況にはびっくりしてます。

──ロック的なノリが強い「LOVE IS OVER」という曲も気になってるんですが、八王子Pとしては新境地を開拓した曲なのでは?

「LOVE IS OVER」は、ドラムンベースなリズムが気に入ってます。僕が作る曲は、4つ打ちリズムのものがほとんどなんですよ。でも、最近よく聴いてる音楽はダブステップや、ドラムンベースなんですね。それで、歌モノにするならアップテンポなドラムンベースのほうで作ってみようかなと。さらに中盤で、ダブステップ風な要素も入れてガラッと雰囲気変えたりして。自分で作ってて楽しかった曲ですね。

大事なのは、自分たちがやってる音楽の楽しさをどれだけ伝えられるか

──八王子Pさんの曲って、気持ちいいと思える“快楽ポイント”がたくさん詰め込まれてるんですよね。

そうですね。できるだけ詰め込もうって思ってます。ニコ動にアップする曲は、その辺を考えて作りますね。動画って初めのイントロが大事で。そこで判断されちゃうんですよ。最初のイントロでユーザーの心を掴んで、どうやってサビまで聴かせるかが勝負なんです。だから、聴いてもらうポイントをしっかり押さえて作り込んでるんです。

──ボカロPって、アーティストでもあり、プロデューサーでもあり、スタッフでもありますよね。たくさんの視点を持てる反面、全部1人で背負ってる感じはありませんか? 

あー、確かにそうかもしれないんですけど……そこまで深く考えてなかったですね……。でも大事なのは、商業的すぎる感じではなく、自分たちがやってる音楽の楽しさをどれだけ伝えられるかなんですよね。それをみんなで楽しもうよ、みたいなノリが一番大切だなって思ってます。

──なるほど。そういえば、アルバムの初回限定盤のパッケージが、レコードの7インチサイズで驚かされました。

自分も今初めて見て、思ったよりデカくて驚きました(笑)。付属のイラスト写真集が豪華なんですよ。楽曲ごとのテーマに沿ってイラストレーターの方々に描き下ろしてもらって。

──しかも、DVDも付くんですよね。こちらには「MMD(MikuMikuDance)」(3DCGムービー制作ツール)の第一人者である、わかむらPさんとタッグを組んだ動画が収録されるそうで。

自分が元々、わかむらさんが作っていた「アイマス(THE IDOLM@STER)」のMAD動画のファンで。あと、わかむらさんがMMDを始めるときに「エレクトリック・ラブ」で作品を作ってくださったんですね。しかも、僕からお願いしたとかとかではなく、2次創作な広がりなんですよ。アップされる前にTwitterのDMで連絡いただいたときは、相当うれしかったですよね。

──そうやってクリエイター同士がつながっていくんですね。わかむらPさんは、今では八王子PさんがDJをされるときのVJも担当されてますもんね。

そうですね。そういうつながりができるのは、ニコ動をやってて良かったなって思ったことです。曲を作ってDJをやってた時期は、音楽の作り手以外とのつながりって少なかったんですよ。でもニコ動は、動画も絵師も、ダンサーも歌い手もオーディエンスも、全部揃ってるんですよね。クリエイターがたくさん集まっているところで自分の曲を聴いてもらえるのは、それだけいろんな人と出会うチャンスが広がってるってことなんですよね。

──音源制作がPCで、ボーカリストはボーカロイドで、映像はMMDで、発表の場がニコ動って、数年前は全部存在しなかったものだっていうのが驚きですよね。そこのみでシーンが確立されてるのも面白いです。まさに、音楽の作り方、楽しみ方、伝え方の全てを再定義しているってことになりますよね。

はい、本当に驚きですよね。そして、自分がやっぱり一番びっくりしてると思います。台湾でCDを発売したり、DJができるだなんて思ってませんでしたから。国を超えて応援してもらえるなんてうれしいことですよね。せっかくのチャンスなので、これからもできる限りがんばっていこうと思ってます。

1stアルバム「electric love」 / 2012年2月1日発売 / Sony Music Direct

  • Amazon.co.jp
  • 初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 3500円(税込)/ MHCL-2015 / Amazon.co.jp
  • 通常盤 [CD+DVD] 3000円(税込)/ MHCL-2018 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. overture
  2. Sweet Devil feat. 初音ミク
  3. Baby Maniacs feat. 初音ミク
  4. Mad Lovers feat. 巡音ルカ
  5. Keep Only One Love feat. 初音ミク
  6. エレクトリック・スター feat. GUMI
  7. Free feat. 初音ミク
  8. CRAZY GiRL feat. 初音ミク
  9. LOVE IS OVER feat. 初音ミク
  10. サクラサク feat. 初音ミク
  11. whiteout feat. 初音ミク
  12. Distorted Princess feat. 初音ミク&巡音ルカ
  13. KiLLER LADY feat. GUMI
  14. twilight feat. 初音ミク
  15. エレクトリック・ラブ feat. 初音ミク
DVD収録内容
  • エレクトリック・ラブ feat. 初音ミク
  • Sweet Devil feat. 初音ミク
  • Baby Maniacs feat. 初音ミク
  • NONSTOP LOVE MIXXX

※初回限定盤には豪華描き下ろしイラスト集付属

八王子P(はちおうじぴー)

音声合成ソフト「ボーカロイド」を使って音源制作をする「ボカロP」として活躍する男性ソロアーティスト。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め、有名ボカロPの仲間入りを果たす。これまでニコニコ動画やYouTubeで公開した関連動画の総再生数は700万回を超える人気ボカロP。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売り上げチャートで4位に入る健闘ぶりを見せる。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビュー。