音楽ナタリー PowerPush - ヒャダイン(前山田健一)×末光篤

2人のポップ職人が教える「繰繰れ!コックリさん」の彩り方

自分の楽曲と自分自身のあるべき距離感

末光 全然話が変わっちゃうんですけど、作曲ってAメロ、Bメロ、サビって順番に作っていきます?

ヒャダイン 最初に思いつくのはだいたいAメロか、サビですね。今回は事前の打ち合わせのときに「けも耳」(人型のキャラクターの頭部に付いた動物の耳=ケモノの耳の略。コックリさんにはキツネの耳が生えている)っていう言葉を初めて知ったんです。で、なんかかわいらしい響きだな、って気になってて。そこからさっきお話した、意味のないフレーズ「けもけもけも けもけもけ」っていうフレーズを思い付いて。それをサビに持ってこようっていうことで、曲を書き始めてます。あっ、だから今回の曲はAメロとかサビのメロディが先とかじゃなくて、詞先だ(笑)。で、サビの詞からメロディを膨らませて、最初にオープニング用の89秒バージョンを仕上げてからフルコーラスを作るんです。

末光篤

末光 それもすごいですね。僕、絶対にフルコーラスからしか作れないですから。今回も全部できあがってからアニメバージョンに編集してますし。

ヒャダイン 真摯! 僕、アニメのタイアップものはあざとく89秒バージョンから作るんですよ(笑)。だいたいこれで89秒に収まるかな?っていう1コーラス分のメロディを作って。もし89秒をオーバーするようならBPMを微調整する。

──お2人とも売れている作曲家であること、ピアノで作曲すること、小西さんファンであること以外、ホントに正反対ですね(笑)。

末光 そうですね。僕、詞先はできないタイプですし、あとさっき前山田さんが言っていた「声優さんが歌うんだから」っていう曲の作り方もしなくて。曲を書くとき歌い手のことをイメージすることはないんですよ。

ヒャダイン 野宮(真貴)さんとか(木村)カエラさんに曲を書いたときなんかも、特にお2人の顔を思い浮かべたりは……。

末光 してませんね。どちらかというと彼女たちの音源を散々聴いて、どのコードに乗るとキレイに聞こえる声なのか、この音にどの母音を当てればキレイなのかとか、そういうことだけ考えてます。あとは自分の思ういいメロディを作るっていうことしか考えてない。まあ、それは自分の曲を書くときも同じなんですけど。

ヒャダイン 「This Merry-Go Round Song」のキーレンジがすごく広いのもご自身が歌ったとき、キレイに聞こえるのがこの音域だったからなんですか?

末光 あっ、そう考えると、自分の曲のときは自分のことをないがしろにしている気が(笑)。ほかの方に提供するときはもちろんキーチェックはするんですけど、この曲、自分のキーに合っているかというと、厳密には違いますし。もちろん歌えなくはないんだけど、歌うの大変ですから(笑)。

ヒャダイン 自分が「いいな」と思った曲を自分で作って、自分で弾いて、それをもう1人の自分に歌わせてるみたいな感じ?

末光 それに近いものがありますね。

ヒャダイン あっ、そこは一緒です(笑)。僕もヒャダイン名義のときですら自分をプロデュースしている感覚ですから。で、たぶんそれって僕も末光さんも小西さんの影響を受けてるからなんだと思いますよ。僕がすごく好きな小西さんの発言に「僕はピチカート・ファイヴの大ファンの1人です」っていうのがあるんですけど……。

末光 そう言ってしまう気持ちはすごくわかります。それって自己愛ではないんですよ。自分ベッタリではない。たぶん小西さんはピチカートをもっと俯瞰していたんですよね。で、言われてみれば僕も僕の曲は好きなんだけど、とはいえ一歩引いたところから僕というアーティストを見ている気はします。

ヒャダイン そうやって、ほどよい距離感で自分の曲と付き合っている、付き合おうとしているところは似てますよね(笑)。

だから末光篤は妬ましい

──では2015年は、具体的にどういう感じで音楽とお付き合いしましょう?

末光 やってみたいことはあるんですけど、それって今の活動と直接接触していることでもないんです。だからそれを実現するには今後どういうキャリアを積めばいいんだろう?ってマジメに考えてみようかな、とは思ってます(笑)。

左から末光篤、ヒャダイン。

ヒャダイン やっぱりやってみたいことってあるべきなんですよねえ……。

末光 ないんですか? 例えば誰か曲を書いてみたい人や会ってみたい人がいたりとか。

ヒャダイン 何かに寄り添い続けて34年の音楽人生なので(笑)。作曲や作詞のお話をいただけたらいいなあ。いただいたら楽しく曲を作りたいなあ、みたいなことしか……。あっ、でも末光さんが少女隊のレイコさんとご一緒してたのだけはホントに悔しかったです!(末光は少女隊のデビュー曲「Forever」をカバーした縁で、メンバーの安原麗子のイベントにゲスト出演している)

末光 ははははは(笑)。

ヒャダイン あとラ・ムーを復活させたいかなあ。

末光 ラ・ムー、カッコいいですよね。でも、ホント僕らが子供だった頃の80年代歌謡にお詳しいですよね。対談の前にもお互いそんな話しかしてなかったですし(笑)。世代的には90年代ですよね?

ヒャダイン そうなんですよね。80年生まれなので音楽をマジメに聴き始めたのは90年代。小室(哲哉)さんとか、つんく♂さんとか、伊秩(弘将)さんの影響が大きいんですけど、80年代アイドルの楽曲もホントに素晴らしいと思っていて。だから必然性のある転調ができる上に、80年代カルチャーにしっかり乗っかっている末光さんのことはホントにうらやましいし、妬ましいんです(笑)。

末光篤(スエミツアツシ)

末光篤

1971年広島県生まれ。名古屋音楽大学卒業後となる2004年、ディズニー関連楽曲のカバー盤「Mosh Pit on Disney」に参加したことが話題となり、翌年、Rhythm REPUBLICレーベルより1stアルバム「Man Here Plays Mean Piano」をリリースする。2006年にはシングル「Sherbet Snow and the Airplane」でメジャーデビュー。2007年にはアニメ「のだめカンタービレ」のオープニングテーマ「Allegro Cantabile Cantabile」と同エンディングテーマ「Sagittarius」をシングルリリースし、またメジャー1stアルバム「The Piano It's Me」も発表する。以降、自身の楽曲をリリースする傍ら、木村カエラ「Butterfly」や、野宮真貴「私の知らない私」、坂本真綾「eternal return」など、数多くのアーティストへの楽曲提供も積極的に行っている。そして2014年11月にはテレビアニメ「繰繰れ!コックリさん」のエンディングテーマ「This Merry-Go Round Song」を含む新作「TVアニメーション『繰繰れ!コックリさん』エンディングテーマ e.p.」をリリースした。

ヒャダイン

ヒャダイン

本名、前山田健一。1980年生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たし、2012年11月には初のソロアルバム「20112012」をリリース。2014年は郷ひろみの99thシングル「99(ナインティナイン)は終わらない」での作詞・作曲およびサウンドプロデュースや、椎名林檎のセルフカバーアルバム「逆輸入 ~港湾局~」にて「プライベイト」のアレンジを担当をするなど、幅広いアーティストからの支持を獲得する。秋には小野大輔、櫻井孝宏、中田譲治が歌うアニメ「繰繰れ!コックリさん」のオープニングテーマ「Welcome!! DISCO けもけもけ」をプロデュースし、そのシングルが11月にリリースされる。