「あの音、何のアンプで作ってるんですか？」

──アルバム「BABEL,BABEL」についてもお話を伺えればと思います。斎藤さんには対談前に「BABEL,BABEL」を聴いていただいてますが、いかがでしたか？

斎藤　率直にすごくよかったです。曲の流れだったり、1枚を通しての駆け引きがとってもステキだなあと思いました。それとずっとGRAPEVINEの曲を聴き続けている身としては、今作にちょっと新しさを感じたんです。アプローチが今までとは違うというか、サウンド面でも新しいと思いましたね。

田中　そうですね。いろんなことがやれたらいいなと思いながら毎回作ってますから、挑戦的なことにも手を出しています。

斎藤　「BABEL」の最初に流れるリフの音が、死ぬほどいい音だなと思いました。

田中　ありがとうございます。

斎藤　あの音は、何のアンプで作ってるんですか？

田中　「BABEL」は、いつもライブで使ってるSuper-Sonicですね。ただSuper-Sonicにはリバーブが付いてないので、うちのエンジニアの人が持っている大きなリバーブボックスを借りて録ってますね。

斎藤　すごく印象に残った音だったので気になってたんです。

田中　いい音の基準は人それぞれだけど、僕らが作った音を気にしてもらえるのはうれしいですね。「こだわってる」なんて言うと、聞こえがカッコよすぎますけど、僕らは自分たちのイメージした音に近づけようとして毎回音を作っていますから。

──前回のインタビュー（参照：GRAPEVINE「EAST OF THE SUN / UNOMI」田中和将×高野寛対談）では、シングル曲のプロデュースを務めた高野寛さんとの対談を組ませていただきました。今回のアルバムには高野さんプロデュースの楽曲がシングル曲のほかに2曲入っています。

田中　そうですね。3曲目の「SPF」と8曲目の「Scarlet A」をやってもらいました。「SPF」はハモり、コーラスに関してすごくいろいろアドバイスをいただいて。

──昨年リリースしたシングルの収録曲「UNOMI」では、高野さんのアイデアでギターを擦ったり、叩いたりした音を入れたと話していましたが、曲によって高野さんがこだわるポイントが違うんですね。

田中　そうですね。アイデアを交換しつつ、いろいろ試していく作り方だったんですけど、「SPF」はハモりにこだわってましたね。もう1曲「Scarlet A」では、結果的にバンジョーを入れたんですけど、それを入れるまでに弱音器っていう器具を持ってきてもらっていろいろ試しました。率先していろんな遊びに付き合ってもらった感じでしたね（笑）。

ミュージシャンがグッとくる

──斎藤さんはGRAPEVINEの楽曲を聴くとき、どういうところに注目していますか？

斎藤　GRAPEVINEの楽曲には、ミュージシャンがグッとくるポイントがすごくたくさん入ってると思うので、まっさらな気持ちで聴いてもいろんなところが気になるんです。例えばさっき質問させてもらったような「機材は何使ってるのかな」って思わせる音だったり、「ギターソロ、カッコいいな」だったり。ほかにも「ギターソロのバッキングが凝ってるな」とか、どこを聴いても面白いですね。今作も聴きどころがたくさんありました。

田中　いろいろ褒められるのも、なんだかこそばゆいですね（笑）。

斎藤　それぞれのメンバーがすごく自然にプレイして、1つの楽曲ができあがっていると感じるんです。「がんばりすぎていない」と言うとちょっと語弊があるかもしれませんが、自分の中にあるものをそのまま出し合った結果、楽曲が成り立っているんだろうというのがわかるんです。そういうところに説得力が込められているんだろうって。

田中　恐れ入ります。昔からうちのバンドはワンマンバンド感が希薄なところがありますからね。特に最近は、ジャムセッションで作るような曲が多いですから、1人ひとりができることを持ち寄る形で、自然に曲作りができているのかもしれないですね。

──今回のアルバム収録曲だと、セッションからできた曲はどれですか？

田中　亀井くんがクレジットに載っている曲以外は全部、ジャムセッションからできた曲ですね。収録曲でいうと半々くらいかな。

アルバムを作ってツアーを回る、自然なサイクル

──今作のリリースの報を聞いて、GRAPEVINEの制作ペースが少し上がっているのかな、という印象がありました。1年に1枚アルバムを発表するというペースは変わっていないのですが、昨年はシングルを2枚出し、ツアーも2回開催しています。多忙な中、制作は滞りなく進んでいったのでしょうか？

田中　そうですね。去年は忙しかったけど、実は夏フェスにほとんど出てないんですよ。なので、夏の間にレコーディングを集中的にやってました。よく考えるとアルバムを1年に1枚出すというペースもなかなか早いんですけどね。

斎藤　確かにそうだと思います。

田中　アルバムを作ってツアーを回る、というサイクルを自然にできてる感じがするんですよね。なので制作もそんなに気張るわけでなく、順調に進んだ気がしますね。

──レーベルを移籍してからすでに2年以上が経過していますが、移籍後はツアーやリリースも多いですし、これまでになかったミュージックビデオが撮影されるなど（参照：GRAPEVINE田中和将が女性に拘束されるMV、フルサイズで公開）、バンドの活動がより活発になった印象があります。

田中　新しいスタッフたちが積極的に提案してくれて、未経験のこともいろいろやらせてもらってますね。

──新しいことと言えば、ライブのリハーサルにお客さんを招待するという企画も、これまでにない施策ですよね（参照：GRAPEVINE、ニューアルバム購入者をツアーリハに招待）。

田中　そうなんです。これまでやったことなかったですし、リハを観るのはけっこう面白いと思います。

斎藤　バンドによってリハの進め方って違いますし、バンド内のパワーバランスが見えますからね。引っ張っていく人がいたり、すごく神経質な人がいたり。本番ではわからないメンバーの一面が垣間見えるかもしれませんね。

田中　僕の場合はだいたい飲みながら……。

斎藤　えっ!? リハのときから飲んでるんですか？

田中　そうですね。飲んでるときもあります。楽屋で弁当食べるときにランチビールをしちゃって、ということがよくあります。すみません（笑）。

斎藤　いや、でもそれが自然体なんですよね。

田中　でも今年はちょっと飲酒を控えようかなと思ってますから。「飲まない」とまでは言いませんが。

──斎藤さんは近年のGRAPEVINEの動きについては、どう受け止めているんですか？

斎藤　いろいろと環境が変わっている中でも、軸にある音楽やバンドの在り方みたいなものは変わっていないと捉えています。

田中　であれば、うれしいですね。

斎藤　もちろん、いろいろ活発な動きがあるのはうれしいですし、僕にとってはGRAPEVINEというバンドが変わらずにいてくれて、そこにちゃんと聴いてくれる人たちが変わらずたくさんいるっていうのが、先輩として心強いですね。