先輩にハーブティーを入れてもらったのは初めてです
──後藤さんとしては、自分の意思を反映させたいという思いはあったんですか?
僕としては完全にお任せでしたけど、藤井さんは何があっても僕にまず聞いてくれるんですよ。とにかく事細かく「今アルバムの発売に対してこういうこと決めなあかんねんけど、これでええかな?」みたいなことを必ず聞いてくれて。例えば「名前の表記はフットボールアワー後藤輝基って書いてるほうがいいのか、あるいは後藤輝基だけなのか。どれがいいと思う? 僕はこうやねんけど」って、必ず選択肢と自分の答えをもってきてくれる人で。
──ホント、藤井さんってちゃんとしてるんですよね。
ちゃんとしてるし、自分の考えの候補も言ってきてくれる。しかも、用意されたいくつかの選択肢の中で藤井さんの答えが一番いいんですよ。
──藤井さんの気遣いのスピードがすごかったと、掲示板・terukinland(参照:terukinland (てるきんらんど))に書いていましたね。「暗所での撮影で手元が見にくいスタッフには即座にスマホで手元を照らし、移動時には誰よりも先に三脚を持ち、初めて会うスタッフに『〇〇さん』とすぐに名前で声を掛け、極寒の撮影の合間には母の様に温かいホットコーヒーを並べてくれている」って。
すごいですよ、ホンマに。先輩にハーブティーを入れてもらったのは初めてです(笑)。ちょっと僕が1回歌ってまた出てくる間に、すぐハーブティーが出てくる。
──僕が一緒にイベントをやったときも、誰より先に壇上で座布団を用意していました。
異常なんですよね。ああいうことをされると、適当なことできへんというか、こっちもがんばろうと思いますよね。
──本気ぶりが伝わりますよね。
伝わりますね。ジャケット撮影のときはすごい雨でしたけど誰よりも動いてましたし、次の場所に歩いて移動するときも傘を僕に渡して雨の中を濡れながら走っていって、場所の確認をしてましたからね。すごいなあ、作るのが本当に好きなんだなあと思って。だからこそジャケットに藤井さん本人は映ってないですけど、藤井隆色がはっきり見えるなって僕は思いますね。
──わかります、ジャケのセンスから何から。
うん。あの人の頭の中をのぞいているような感覚はすごくありますね。
──結果、素晴らしいものができたと思います。
……どうでした、僕の歌は?
──歌いいですよ! 俳優感というか、うまいとか下手を超えた魅力を感じるんですよね。色気もあるし、あと不思議と堂々としてる。
ははははは。確かにやると決まれば堂々としたもんでしたけどね。藤井さんは仮歌やマスタリング前の音源も必ず送ってくれるんです。で、「奥さんに聴かせてくれ」と言うんですよね。「後藤くんの魅力を知ってるのは奥さんやから」って。そう言われたんで聴かせたら、嫁は「いつもの声と違うけど、ちょいちょい出てくる後藤が腹立つ」と(笑)。
──よく知ってるからこそ(笑)。
「あー、後藤おる! わー、後藤きた後藤きた」みたいな、そんな感じでしたね(笑)。いいとは思ってるみたいですけど、嫁的には恥ずかしさ半分もあるんですかね。そう言えば、ジャケット撮影で撮った1361枚の写真の中から、藤井さんがジャケットやブックレットに使いたい写真をいくつか選んで送ってくれたんですよ。「どれがいいと思う?」と聞かれたので、あれこれ見ながらその中の1枚を「コレは後藤が出すぎてますわ」と言ったら「出すぎてええやん! 後藤くんをもっと出していこうよ!」と言ってもらって、それがうれしくて。なのに、後日決まったアルバムのジャケットを見たら後藤がぼやけてるんですよね(笑)。
──一番、後藤が出てない写真(笑)。
僕が「ぼやけてるやん!」って言ったら、「いや違う」と。「これだけしか後藤くんが映ってないし、ぼやけてるのに、後藤くんってわかんねん! それがすごくいいなって思うねん!」と力説されて。「ああ、そうですか……」と言いましたけど、あんまり納得もできてない(笑)。やっぱり藤井隆の頭の中は面白いと思いますね。
澤部渡とのすごい縁
──レコーディングではアレンジャーの方々とも交流はあったんですよね?
コロナ禍であまりしゃべり込む感じではなく、皆さん淡々と音楽を作っていく感じでした。でもKASHIFさんはぼそぼそ面白いこというし(笑)。澤部(渡 / スカート)さんはどっしりしてるけど、すごくきれいな声で。あとは奥田(健介 / NONA REEVES、ZEUS)さんがギターソロを録るというので、僕の分のレコーディングは終わってたんですけど残ってちょっと見せてもらったり。たまたまですけど、誰が劇伴を作ったか知らずに「音楽」というアニメーション映画を観てて、それがめちゃくちゃ面白かったんですよ。「すげえなこれ、誰が作ったん?」と思って調べたら、音楽を担当したのが澤部さんなんですよね! それにはすごい縁を感じました。
──それまでスカートとかNONA REEVESを聴いてきたりは?
接点がなかったんですね。今回こういう機会で一緒になって初めて聴かせてもらいました。おしゃれというか……。
──本当に文化圏の違う世界に単身飛び込んで(笑)。
僕が聴いてきた音楽のジャンルとはまったく違う(笑)。
──そこにギターという武器も取り上げられて立ち向かわなきゃいけない(笑)。
でも、誰かの「こんなんやりたいねん」に応えていくのは基本好きですね。テレビもそうじゃないじゃないですか。番組はまずスタッフの意向があって、それをみんなで作っていくわけですから。
──与えられた状況下で何ができるか。
それは似た部分があるかもしれないですね。
──自分でギターを弾くお笑い要素が強い音楽とは、やっぱり心境的なものは違いましたか?
心境も違いますし、例えば「アメトーーク!」でギター持って「何を言うてんねん」みたいなのって、そこには反応があるじゃないですか。「マジ歌選手権」でも真剣に歌う→笑う→「笑うな!」とか。でも、「マカロワ」に関してはお客さんから返ってくる反応がまだないので、この時間差は全然違いますね。だからさっきも吉田さんに「どうでした……?」って(笑)。
──まずは反応を確認したいという(笑)。
そうなんですよ(笑)。
──笑いの要素がないものをやるのは不安ですか?
うーん、それは不安ですね。でも、なんかよすぎて笑ろてまうみたいなのもあるじゃないですか。だから、どう取ってもらってもいいんですけどね。「真剣に歌ってるよ、あいつー!」という笑いなのか、「ホンマにええやんこれ!」なのか、それは聴く人に任せますけど。逆にいうと両面で言ってるようなところもあるとは思います。僕も以前から藤井さんが作った曲を新幹線で移動してるときに聴いたりとかしてるんです。「この人すごいな、いい曲やな」と思っていたんでね。奴姉さん(椿鬼奴)の「IVKI」(2018年9月発売のミニアルバム。参照:椿鬼奴「IVKI」特集 椿鬼奴×堂島孝平×林原めぐみ 鼎談)だと途中でアニメの世界観をそのままアルバムにしたみたいな言葉のやりとりとか、「何をしてんねん!」って新幹線で吹いたことはありますけどね(笑)。
──藤井さんの歌のイベント(「MUSIC COLLECTION bonus stage 2019」)にシークレットゲストで出たこともありましたよね。
告知に「シークレットゲスト・後藤輝基」って書いてあったんですよ。それも意味わからないんですけど(笑)。「書かんでええやん!」って(笑)。それもあの人らしいんですけど。イベント自体、サンリオピューロランドでやったこともあって、これもまた面白いなと思って。ここでライブをやりたくなるあの人のアンテナの長さもそうやし、折曲がり具合もそうだし、いびつなアンテナを持ってるなって思う。だから僕らも「なんでここでやんねん!」「いいところですけど!」とか言いながら、舞台上にキキララが出てきたら「うわあ! キキララやん!」みたいな(笑)。自分の楽曲とサンリオのキャラクターが一緒にいるところがすごくいいんだというあの人のセンスすごいなって、褒めてばっかですけど。僕が歌っている横でポチャッコが踊ってて、不思議でしたね(笑)(参照:藤井隆らSLENDERIEアクト集合! サンリオピューロランドで「live ideal」)。
──最初にシークレットゲストとして出た際は、歌っているときに島田珠代さんが絡みまくったと聞きました。
そうそう。僕がそこに出たときに、原田真二歌う→島田珠代さんが邪魔する→「邪魔すな!」みたいに返したら、藤井さんが「なんで文句言うの? 珠代姉さん最高やん?」という感じでくるんです。「いや、文句ちゃうやん、俺歌いたいねん!」って言うてお客さんを見たら隆と同じ顔してるんですよ(笑)。
──私たちの珠代姉さんになんで文句言うんだって(笑)。
そうそうそう。そっちのポジションに立つんですよ、お客さんが(笑)。ツッコミとして笑ってほしいのに、「なんでそんなあんた文句言うの」みたいな感じで見てくる。それも、わざとノリで見てるんですよ。本気で俺のこと怒ってるわけじゃなくて、ちょっと演者になってるんですよね。あれも面白かったな。だからdental chもようわからんのですよ。
──藤井さんにも言ったことあるんですけど、サムネイルも全部同じだったりするし、このYouTuber時代に再生回数を伸ばしたいという思いがあるのかっていう(笑)。
恥ずかしいから再生回数1800とか見せるのやめてくれへんみたいな(笑)。dental chは特に意味がわからんからどんどん視聴回数も減ってる(笑)。まあでも、それもそれでそう言えるからええかって。
──そうやって料理されるのも好きなんですかね。
好きだと思いますね。それでああだこうだ文句言ったりツッコむのは好きだし、そもそも僕がいじられてそれに返してだんだん1人の仕事が増えるきっかけを作ってくれた人ですからね。大阪の「土曜はダメよ!」でムチャぶりじゃないけど、「これ後藤くんどういうこと?」みたいな。そこで藤井さんにどんどん返していくってなったときに、同時多発的にほかもそんな感じになってきてみたいな時期があって。
誰よりも後藤のことを考えている
──ムチャぶりの方向が音楽になってきたんですね(笑)。今後も歌を聴き続けたいなって思いましたよ。
うれしいな、そう言っていただけると。ライブもあるんですよ。Billboard Liveで、アレンジに参加した全員とバンド形式でやりましょうって企画らしいんですけど、いや、なんでBillboardでやんねん! どうすんのBillboardで(笑)。
──なかなかいないですよね、Billboardでライブやる芸人(笑)。
芸人はいないでしょう! そのライブを考えてるのがめっちゃ楽しいねんって。「がんばってな」と藤井さんに言われて、「いやいや、『がんばってな』じゃなくて藤井さんも一緒に出るんですよね?」と返しましたけど。今のところ本人は出ない予定みたいで。いろいろ考えてもらってる感じですかね。
──ムチャぶりがまだ続くんですね。
今年いっぱい続くんじゃないですかね。まあでも面白いですね。乗っかりたくなる人ですよ。
──とにかく、その本気ぶりは信用できる。
それはもうホンマに、仕事に関しては真剣ですね。LINEで「次こういう感じでやりたいから」って、地方公演でホテルに滞在しながら毎日舞台やってるのに、その合間合間に夜中までミュージックビデオの絵コンテをずっと書いてる。誰よりも後藤のことを考えてくれて、MVの絵コンテを描いてるときに「新婚さんいらっしゃい!」の司会が発表されて、「幅広いなあ!」と思って(笑)。面白い動き方する人やなあって。
──「アルバムの参加アーティストや、SLENDERIE RECORDの関係者だけが書き込める掲示板ができたから書き込んで」みたいな感じで今も巻き込まれてるんですね(笑)。
そうですね(笑)。俺、SNSやったことないけど「後藤くんやってほしいねん」「わからないですけどやってみましょうかね」みたいな。やったらやったで「なんやねんこれ!」って言われるのも面白いし、「楽しい楽しい」って言ってくれるのもうれしいし、両面みたいなところはありますかね。見てる人がめっちゃ少なかったら、それはそれでいいかみたいな。この間解禁になりましたけど、みんなが見てくれてるのか、まったく見てないのかを知る術がないんですよ。だから「これ誰が見てんの?」みたいな(笑)。
──アルバムを買ったら、お客さんもコメントが書き込めるんですよね。ちなみにdental chの反響って、聞いたことあります?
まったくないです! 「dental ch観ました。すごいですね」って言われたのは1回だけ。僕の行きつけの歯医者さんです(笑)。
──ダハハハ! なるほど(笑)。
これマジですよ(笑)。「あれすごいっすね! 僕ら歯医者っていうのはピックアップされることないんですよ。それを後藤さんが言ってくださって、めちゃくちゃうれしいんですよ!」って。そこまで喜んでいただけるとは。そしたら、「ほな、後藤さんの歯の手術の動画を送りますんで」「いやいや大丈夫です!」「それdental chで出して」「いや、そういう感じでもないんですけど!」「いやいやぜひ短いやつ作りましたんでそれ送りますよ!」って(笑)。
──いい話(笑)。歯科業界には届いていたんですね。
そこの歯医者さんは全員観てるらしいですよ。「週末に学会があるんでdental chのことを言っていいですか?」「やめてください! そういう趣旨じゃないんで」って(笑)。
──反響はそれぐらいしかなくて、Tシャツを目の前で着てるのも僕くらいの感じなんですかね(笑)。
そうなんですよ。あれエプロンもあるんですけど、嫁も着けないですね(笑)。
ライブ情報
インストアイベント
- 2022年5月15日(日)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 18:00 - 2022年5月29日(日)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
START 13:00
「マカロワ」リリース記念ライブ
- 2022年9月8日(木)大阪府 Billboard Live OSAKA
- 2022年9月15日(木)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
<出演者>
後藤輝基
ZEUS / KASHIF / スカート
バンドメンバー:冨田謙(Key) / 小松シゲル(Dr) / 南條レオ(B)
藤井隆(Bp)
プロフィール
後藤輝基(ゴトウテルモト)
吉本興業所属のお笑いコンビ・フットボールアワーのツッコミ。2003年に「M-1グランプリ」で優勝し、知名度が一躍全国区に。長渕剛とBLANKEY JET CITYのファンとして知られ、テレビ東京「ゴッドタン」の人気企画「芸人マジ歌選手権」で自身が作詞作曲した楽曲「ジェットエクスタシー(ジェッタシー)」を披露してから、その音楽センスが大きな話題となる。2020年10月にリリースされた藤井隆監修のオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」にボーカリストとして参加。2022年5月に藤井プロデュースによるカバーアルバム「マカロワ」をリリースした。