後藤輝基が藤井隆のムチャぶりに乗っかったカバーアルバム「マカロワ」発表、吉田豪に逆質問「……どうでした、僕の歌は?」

フットボールアワーの後藤輝基がソロアーティストとしてカバーアルバム「マカロワ」をリリースした。

藤井隆プロデュースによる本作には、2020年10月リリースのオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」にも収録された本田美奈子「悲しみSWING」をはじめ、篠原涼子「リズムとルール」、伊藤銀次「こぬか雨」など藤井が厳選した6曲のカバーを収録。後藤の表現力豊かな歌唱に加え、澤部渡(スカート)、奥田健介(NONA REEVES、ZEUS)、KASHIFによるアレンジもこの作品の大きな魅力となっている。

音楽ナタリーでは「悲しみSWING」のカバーを当時の年間ベストソングTOP10に選出していた吉田豪を聞き手に迎え、歌手・後藤へのインタビューを実施。プロデューサーでもある藤井隆との関係性がよくわかるエピソードや、謎のYouTuber活動“てるきん”についての話などを聞いた。

取材・文 / 吉田豪撮影 / 斎藤大嗣

ギター封印

──素晴らしかったですよ、藤井隆プロデュースによる今回のアルバム「マカロワ」。

ありがとうございます。吉田さんのインタビュー、緊張するなあ。

──なんでですか!

いや、「悲しみSWING」がリリースされたときに、吉田さんがその年の年間ベストソングの9位に選んでくれたと藤井さんに聞いて、うれしかった半面、プレッシャーで。にしても、藤井さんの物作りの仕方は面白いなっていつも思いますね。

──異常ですよね、あの人。

異常ですねえ、ホンマに。それはずっと頭にあって。そう言えば吉田さん、番組(日本テレビ「超S級エンタメ情報マシマシTV」)の収録のときに“てるきん”のTシャツ着はってましたよね(笑)。

──藤井さんが後藤さんの公式グッズとして作った「dental ch Tooth-shirt nighty」(参照:SLENDERIE RECORD公式オンラインストア)ですね。通販で買わせていただきました。

そうです。これ俺、イチから説明せなあかんなって思って(笑)。てるきんの説明はなかなかテレビでは大変でしたけど。

──要するに、後藤さんが歯に関する話をする謎のYouTuber活動を、藤井さんのレーベルSLENDERIE RECORDの公式チャンネルでやっていて。

そう、「dental ch(デンタルチャンネル)」ね(笑)。

──そこで“てるきん”と呼ばれているという。ああいう謎企画に巻き込まれるのは楽しいですか?

巻き込まれて「なんやねんこれ!」っていうのは嫌いじゃないかもしれないですね。だから「悲しみSWING」に関しても急に決まったというか。藤井さんとは長らく大阪でレギュラー番組をやらせてもらってるんですけど。

──共演期間は相当長いみたいですね。

長いです。大阪でもうすぐ20年になる「発見!仰天!!プレミアもん!!! 土曜はダメよ!」(読売テレビ)という番組なんですけど、藤井さんが司会で。あるとき急に「これだけ長くやっててもごはんってあんまり行ってないな。番組の忘年会ぐらいやな」みたいなことを言うてくれはって、一緒にごはんに行ったんですよ。そしたら音楽の話になって、「後藤くんも歌ってよ!」と言われたのが始まり。ただ、この飲みの誘いのときにアルバム「SLENDERIE ideal」で歌ってほしいという考えがあったかどうかは本人にしかわからないですけど。

──藤井さんにその話、聞きましたよ。一緒にカラオケに行ったりして、後藤さんは色っぽさのある人だし、バラエティ番組で歌ったりしてるから、笑いじゃない歌の世界にお迎えしようと思ったということでした。

そうなんですか……じゃあ頭にはあったってことなんだ! 僕も番組でギター持って、ちょけて歌ったりしているので、「歌って」と言われて「全然、僕でよろしければ」と答えたんです。そしたら藤井さんに「後藤くんにはギターを持たせない」って。

──真っ先に得意なことを封印された(笑)。

あの人はそこを封印してくるんですよ。「ギターを弾きながら歌う後藤くんのことはすごく好きでよく観てるけど、その後藤くんはもう知っているから僕はそれをやらない!」って。嘘やん!? それができるから引き入れたんじゃないの?って思ったんですけど(笑)。やっぱり隆プロデューサーの頭の中はわからないことが多いですね。

──後藤さんって、音楽的には長渕剛とBLANKEY JET CITYの人っていうイメージだと思うんですよ。

そうなんですかね? まあ「マジ歌」(テレビ東京「ゴッドタン」の人気企画「芸人マジ歌選手権」)とかでそんなんやってますけど。

──後藤さんの「ジェッタシー(ジェットエクスタシー)」はブランキーへのオマージュだとわかりますよ。

いやいや、それ言うとまたファンに怒られるんちゃうかなって(笑)。

──愛は伝わるじゃないですか(笑)。

好きは好きですね。「音楽好きですよね」ってよく言われるんですけど、頭に入ってる種類が限られてるんですよ。

後藤輝基

──GO☆TO名義のデビュー曲「COME ON BABY!」(CBCテレビ「ノブナガ」発の企画シングル)はCOMPLEXオマージュでしたよね。

はははは。いろいろ聴いてはるなー! 「COME ON BABY!」の出だしは、、最初そんなつもりはなかったんですけど、今田(耕司)さんと東野(幸治)さんから「出だしのフレーズ、ほかにもっとないんか」と言われたので、ボケて「ヒーヒーフー」とラマーズ法を真似したのが採用されたんです(笑)。番組で共演していた小倉優子ちゃんの出産に向けて作ったんですけど、発売前に出産しはって。この曲で小倉優子ちゃんを手助けできなかったから、自分の息子の出産のときに嫁に「そのCD持っていって聴きなー」と冗談半分で渡したんです。ほんで出産して退院するときに荷物を見たら封が開いてなかったんですよ(笑)。

──藤井さんから聞いたのは、後藤さんがお姉さんの影響で原田真二さんも好きで、歌ってもらったらすごいよかったという話で。僕もSLENDERIEの動画を漁っていたときに後藤さんが原田真二さんの「キャンディ」を歌っている動画を観たんですけど、めちゃくちゃよかったんですよね。

はははは。ありがとうございます。

篠原涼子さんがすっごい喜んでくれた

──たぶん後藤さんがそういう方向でもいけると考えて今回の企画になったと思うんですけど、選曲にはどれぐらい関わっているんですか?

ゼロです! まったくのゼロやし、それこそ「キャンディ」とか入ってくるんかなと思っていました。

──ですよね。そういう手堅い曲が普通なら入るはずで。

入ると思ってましたけど、あの人は入れないんですね。

──異常ですよ、この選曲。

異常なんですよ! 正直、はっきりわかった曲は「Carnival」(宝生舞)、うっすらわかった曲が「リズムとルール」(篠原涼子)と「こぬか雨」(伊藤銀次)くらい。

──宝生舞の「Carnival」ははっきりわかったんですか!

「Carnival」は知ってました。

──へえー。あまり知られてないですけど、めちゃくちゃいい曲ですよね。僕も大好きです。

その3曲はわかりましたけど、あとはピンとこなかったですね。

──それが普通だと思います。選曲が攻めすぎなんですよ。

いやー、ホンマに。最初に「この曲やりますよ」とオリジナルの音源を渡されるんですけど、「どれもすげえいい曲やん」と思いました。

──Winkも「なんでシングル『One Night In Heaven ~真夜中のエンジェル~』のカップリング?」と思いますよね?

ねえ!? なんでこれにしたかったんかな。

──「悲しみSWING」も、本田美奈子好きの僕ですら記憶の谷間でした。

ええー!

本田美奈子「悲しみSWING」のジャケットをオマージュした後藤輝基。

本田美奈子「悲しみSWING」のジャケットをオマージュした後藤輝基。

──前後のシングルのインパクトが強くて、あまり印象に残ってなかったんですよ。「孤独なハリケーン」と「あなたと、熱帯」の間で、MINAKO with WILD CATSになる前の最後のシングルだったから。

ありましたね、「あなたと、熱帯」。それと、この前仕事で篠原涼子さんと一緒になったときに「実は歌わせてもらうんですよ」って言ったらすっごい喜んでくれて!

──ましてや「恋しさと せつなさと 心強さと」から6年後の移籍後初シングル「リズムとルール」をカバーすると聞いたら絶対に驚きますよね。

はい(笑)。「えええー!」って(笑)。相田翔子さんにも「人志松本の酒のツマミになる話」で一緒になったときに「実はWinkの『Cat-Walk Dancing』をカバーさせてもらいます」って言ったら、「ええ!? それですか!……ステップ……ですよね?」って、ちょっと思い出すのに時間かかってましたね。

──ダハハハハ! 間違いなくすぐには出ないと思います(笑)。

うん、本人がそれですから(笑)。

藤井隆のプロデュース、わかれへん!

──すさまじい選曲のいいアルバムだと思います。

ありがとうございます。僕はレコーディングっていうものをそんなにたくさんやっているわけじゃないんですけど、ああいう現場って「もうちょっとキーを高めに」とか、あるいは「もうちょっとリズムを詰めて」とか、音楽的要素で指導していくような勝手なイメージがあったんですよ。そしたら藤井さんは「いや後藤くん、違うねん」と。「この曲は大御所の役者さんが『歌ってくださいよ』と言われて、当日なんとなく覚えて歌った歌がものすごくよくて、『これでいいの? じゃあね』と帰っていく曲の雰囲気やねん!」って……わかれへん(笑)。

──言ってましたよ、確かに。柴田恭兵さんみたいなイメージでって。

そう! そう! まさにそれ!

──本業じゃない人が気軽にやって、それがカッコいい感じで。

そういうイメージで言ってましたね。「Carnival」に関しては「TBSドラマの主題歌やねん。主題歌やけどそのドラマには自分は出てない感じでいこう」みたいな(笑)。なんやねんそれ!って(笑)。

──特殊すぎるプロデュースなんですよね(笑)。

ははは。独特ですよ。ほかにそんな人いないですよね。「Carnival」に関しても「この歌は生きるとか死ぬとかそういう歌詞だから、1回死んでほしいねん」と。

──は?

「後藤くん、次ブース入ったときに1回死んでから生き返って歌ってほしいねん」って。もうわかれへん(笑)。

──ハードルが高すぎますね。

高すぎる(笑)。笑いながらですけど「1回死んできまーす」とか言いながら進めていた覚えはありますね。

──よくやりきりましたね。

やりきったのかどうなのかもわからないです! 「ほな1回死んできますわ!」ってバーンと歌ったら「いい、すごくいい!!」って言われたんですけど、自分は実感ゼロ。そのまま「おつかれっした!」って帰りました(笑)。

──これが正解かどうかもわからない(笑)。だいたいそんな感じだったんですか?

そうですね。「こぬか雨」では「後藤くん、この曲はな『ハートカクテル』(わたせせいぞうのマンガ)の世界観やねん」って言われて。「あの感じに後藤くんはなれんねん。この曲は実はそんなにメッセージはないけど、状況を美しく歌ってる曲やから『ハートカクテル』のストーリーというよりは、その絵を描いてほしいねん」みたいな。「なるほどね……わかりました、ちょっと歌ってきます」と歌ってみたら「……『ハートカクテル』やん!」って。ちょっとわかれへん!

伊藤銀次「風になれるなら / こぬか雨」7inchアナログジャケットをオマージュした後藤輝基。

伊藤銀次「風になれるなら / こぬか雨」7inchアナログジャケットをオマージュした後藤輝基。

──難解だけど、褒めて伸ばすタイプですよね(笑)。

確かに(笑)。