go!go!vanillas特集|10年の歴史と成長が詰まったアルバム「DREAMS」

go!go!vanillasのデビュー10周年記念アルバム「DREAMS」が10月25日にリリースされた。

2013年にインディーズデビュー、2014年にメジャーデビューを果たしたgo!go!vanillasにとって、今年と来年は“ダブル10周年イヤー”。「DREAMS」は「gift」「goodies」と題した2枚のCDと、映像ディスク「visions」で構成されており、「gift」にはメンバーがセレクトした既発曲の再録音源と新曲「コンビニエンスラブ」の全12曲が収められている。一方の「goodies」は、メンバー自ら選出した全20曲を発表時の音源のまま収録したベストセレクション。本作は2枚のCDでバニラズの10年間の歴史と新たなモードが感じられるアルバムになっている。

音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューし、10周年イヤーを迎えた現在の思いや、再録するにあたっての既発曲との向き合い方、「コンビニエンスラブ」の制作エピソードなどを聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / NORBERTO RUBEN

10年の歩みを表現

──go!go!vanillasは今年がインディーズデビュー10周年。そして来年にはメジャーデビュー10周年を迎えます。10年という数字については、どう捉えていますか?

牧達弥(Vo, G) あっという間でしたね。あんまり実感はないですけど。

ジェットセイヤ(Dr) 日々の積み重ねですからね。

柳沢進太郎(G) うん。気付いたら10年経ってたというか。

長谷川プリティ敬佑(B) 「10年!?」とビックリしてます。本当に気が付けばという感じですね。

──普段、過去を振り返る機会もそんなに多くないでしょうからね。

 そうですね。ちょっと前にやったファンクラブツアーでは、ライブ中にお客さんと対話するコーナーを作ったんです。その中で「中学生くらいのときにバニラズを聴き始めて、今は成人して社会人です」みたいな人がいて。そういう話を聞くと「10年経ったんだな」と。

セイヤ そうだね。

 「小6から聴いていました」という人もいて、うれしくなりましたね。僕が小6の頃に聴いてたのは、モーニング娘。とかなので(笑)。

──では、デビュー10周年を記念して制作されたアルバム「DREAMS」について聞かせてください。DISC 1の「DREAMS - gift」には、メンバーの皆さんがセレクトした代表曲の再録バージョンと、新曲「コンビニエンスラブ」が収録されています。バニラズの歴史と現在を体感できる作品ですが、代表曲を再録するというアイデアはどこから出てきたんですか?

 去年リリースしたアルバム「FLOWERS」はアナログというか、「メンバーが鳴らす音」というところにベクトルが向いていて。このタイミングで10年間を振り返る作品を出すと決まったときに、僕ら4人だけじゃなくサポートメンバーの力も借りながら、これまでの楽曲を改めて録音するのがいいだろうなと思ったんです。最近のライブなどでお世話になっているミュージシャンに加わってもらって、僕の頭の中にあるものをより具現化したというか。原曲を制作した当時も「こういう音にしたい」という思いはあったけど、それを100%表現できていなくて、今回の再録でそれが形にできたのかなと思いますね。

牧達弥(Vo, G)

牧達弥(Vo, G)

──もともとイメージしていた理想のアレンジと音像を実現できた、と。

 それぞれの曲に対して「この曲はこの形がベストだろうな」ということを意識して再録できたと思います。曲によってやり方は違いますけどね。ブラッシュアップしたり、アレンジを変えたり。でも全体的にあまりギミックを入れすぎず、原曲の魅力もしっかり感じてもらえることを考えました。選曲については代表的な楽曲、ライブで大事にしている曲、あとは単純に再録したい曲とか。僕らの好きな曲を選んでますね。「このアルバムで10年の歩みをどう見せたいか?」ということを、うまくパッケージできたのかなと。

──確かにライブの定番曲も多いですよね。それこそ何百回も演奏しているような。

セイヤ そうですね。一番やってるのは「エマ」かな。

 リハとかも入れたら、トータルで何回演奏してるんだろ? カウントしてみたい(笑)。

──そういう楽曲を改めてレコーディングして、どんなことを感じました?

柳沢 今回のアルバムには僕が加入する前に発表された「Magic Number」(2014年11月にリリースされたメジャーデビューアルバム)の収録曲を再録したバージョンも入ってるんですよ(柳沢は2015年7月に加入)。原曲のレコーディングに参加していない曲を録り直せたのはすごくうれしかったですね。その頃の曲って、お客さんとしてフロアで聴いていた印象が強くて。そんな曲のレコーディングに参加するのはちょっと不思議な気分でした。

進化したバニラズの音

──原曲との違い、リアレンジについてはどうですか?

 そもそもライブでもけっこう音源と変えていて、基本的にはその感じでアレンジしてますね。あと、音自体もアップグレードしていて。4人で一緒に作ってきたバニラズの音をしっかり出せたらいいなと思ってました。

セイヤ 実はこの再録、リズム隊は2日間で録り終わったんですよ。けっこうタイトなスケジュールだったんですけど、だからと言って、ライブ盤みたいな勢いだけの音にはしたくなくて。しっかりアレンジした作品にしようと話していたし、ピアノ(井上惇志が担当)、フィドルやマンドリン(手島宏夢が担当)、トランペット(ファンファン、山田丈造が担当)の音も加わりました。ゲストの4人にも参加してもらったことで、進化したバニラズの音を感じてもらえるんじゃないかなと思います。ライブではおなじみの編成で作品を作れたこともうれしいですね。

ジェットセイヤ(Dr)

ジェットセイヤ(Dr)

──なるほど。それにしても2日間で11曲のリズム録りというのは、なかなかタイトなスケジュールですね。

セイヤ しびれました(笑)。でも意思の疎通も早かったし、10年間の阿吽の呼吸もあったので思ったよりスムーズだったんですよ。あと、ピアノのあっちゃん(井上)が「こうしたらいいかもね」とアドバイスをくれたりして。アルバムに付いてる映像作品(数量限定生産盤のみに付属)にレコーディングのドキュメンタリー映像が入ってるので、それを見れば現場の雰囲気が伝わると思います!

プリティ さっき話に出ていた「原曲からどこまで変えるか」というのは、メンバー間で相談しながらいろいろ試しました。原曲を聴いてくれている人たちから違和感を持たれないようにって。これもさっき言っていましたが、原曲の中で「本当はこうしたかった」という部分を変えたりもしてますね。「エマ」だと「この音、いらないな」「ちょっと全体の調和を邪魔してるな」と気になっていた音があるんですけど、そこを調整してるんですよ。曲に対する解像度が上がったというか、ちゃんと今の目線で録り直せたのもよかったなと。

長谷川プリティ敬佑(B)

長谷川プリティ敬佑(B)

──既存の曲で「今だったら、こうするのにな」と感じることって、けっこうあるんですか?

セイヤ 牧は常にありますね。すぐ「この部分、こうしない?」と言い出すので。

 うん。そう思ったらすぐに変えて、ライブではアレンジしたバージョンで演奏してます。

柳沢 録り終わった翌週のリハで変えたりしますからね(笑)。

 そんなときもあるね(笑)。ただ、もはや原曲がどうだったかわからなくなっているのが怖くて。この前も「エマ(alt ver.)」を友達に聴かせたら、「イントロの入り方、原曲と全然違うよね? リズム取れないんだけど」と言われたんですよ。聴いてみたら確かに違ってて。

柳沢 ハハハハ。

 そういう細かい違いはけっこうあるかも。「こうしておけばよかった」というのを日々少しずつ加えて、形にしていっている。今回のアルバムに入ってるのは完成形ですね。串カツ屋さんの秘伝のタレみたいなもんです。

──ライブを通して楽曲が変化していくって、バンドらしくていいですね。

 そうですね。生き物って感じがする。

ファンクやソウルの要素が強くなったボーカル

──「コンビニエンスラブ」からは最新のバニラズの音が感じられますね。

 ありがとうございます。「コンビニエンスラブ」、作り終わったときに「あ、『エマ』や」って思ったんですよ。楽曲の展開が「エマ」にすごく近くて。意識していたわけではなくて、作っていく中で勝手にリンクしたところがあったんですよね。演奏自体は大人になっているというか、10年前だったら絶対にできないことをやっているんですけど。このタイミングでそういう曲ができたのは面白いなと。

セイヤ うん。俺は「この人が作った」とわかる曲が好きで。「コンビニエンスラブ」は牧って感じがしますね。本人が言うように「エマ」の進化型みたいなところもあって。

柳沢 歌うのはムズいと思いますけどね。この曲だけじゃないんですけど、牧さんの歌って本当に独特なんですよ。フォークや海外のロックがルーツだと思うけど、どっちにも属してない。日本語的でも英語的でもないし、牧さんにしかない歌い回しなんですよね。もちろん「エマ」にもその要素はあるし、「コンビエンスラブ」はその最新型ですね。

──独特の歌い回し、確かにありますよね。牧さん、自分ではどう思います?

 自分ではわからないです(笑)。

柳沢 (笑)。ゲストボーカルに参加してもらうとわかりやすいんですけどね。みんな「バニラズの曲、歌いづらい」って言うし、逆に牧さんがほかのバンドで歌っていても、歌いづらそうにしていて。

柳沢進太郎(G)

柳沢進太郎(G)

セイヤ 裏の拍が好きよね。あと、歌にスウィング感があって、ファンキーなんですよ。この数年でファンク的な要素がより強くなったんじゃないかな。

 それは「PANDORA」(2021年3月リリースのアルバム)くらいから言われますね。「歌い方がソウル寄りになってる」とか。それまではもっと前のめりだったので。

柳沢 裏のリズムを感じるだけじゃなくて、そこからシンコペーションするのがすごくて。「裏で入ったのに、次のターンでは前にいる。その緩急、何?」みたいな感じなんですよ。

 急に差し込んでくるっていうね(笑)。

プリティ ちなみに僕のベースの師匠の真船勝博さんは「牧くんはリズムの取り方がブラックミュージック寄りだから、そこにベースを合わせていくのは相当難しいよ」と言っていて。それを聞いたときに「そうなんだ?」と思いました。それまで意識してなかったんですけどね。