go!go!vanillas|混沌とした現代に贈る、無償の愛を詰め込んだ“パンドラの箱”

go!go!vanillasが3月24日にニューアルバム「PANDORA」をリリースした。

前作「THE WORLD」以来およそ1年10カ月ぶりのアルバムとなる本作には、2018年末の交通事故により長期休養を余儀なくされた長谷川プリティ敬祐(B)の復帰作「アメイジングレース」や、今年1月発表の配信シングル「ロールプレイ」など全14曲を収録。現在の社会をリアルに反映した歌詞、さらに幅を広げたサウンドなど、彼らの新たな方向性を示した1枚となっている。今回のインタビューでは、“パンドラの箱”をモチーフに混沌とした現代における希望を描いた本作の魅力について語ってもらった。

また特集の後半にはオカモトレイジ(OKAMOTO'S)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)、The Anticipation Illicit Tsuboi、マンガ家の石黒正数、芸人の都築拓紀(四千頭身)、都市伝説系YouTuber のNaokimanshowというgo!go!vanillasと関わりのあるアーティスト / クリエイターによる「PANDORA」に対するコメント、バンドへのメッセージを掲載する。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 草場雄介

自分自身と向き合った制作期間

──「PANDORA」には昨年から続くコロナ禍の状況や、皆さんの感情がかなり強く反映されているなと感じました。

牧達弥(Vo, G) 去年1年かけて作ったアルバムなので、もちろん影響はあったと思います。メンバー全員がそうだと思うんですけど、自分のパーソナルなところに深く潜って、自分自身と対話する時間がかなりあったので。これまでは外から刺激を受けることが多かったんですけど、今回のアルバムは純粋に自分の中から出てくるものを表現した感覚が強いですね。

──確かに去年はコロナ禍による自粛期間もあって外出する機会も減りましたよね。

 僕らはもともと、洋楽のテイストをどう自分たちのスタイルに混ぜていくかを意識しながら音楽をやってきたんです。ほかのバンドから刺激を受けることも多かったんですけど、去年はそれが全部なくなったことで周りの状況を気にせず、自分たちの探究心や好奇心だけで作品を作れたのはいい経験になりました。

柳沢進太郎(G) ライブがなかった分、1曲1曲のアレンジにかける時間は増えましたね。ギターのアレンジもしっかり練ることができたし、より意味のあるフレーズをちりばめられたんじゃないかなと思います。今まではリフを中心に組み立てることが多かったんですけど、今回のアルバムではリフがほとんどないんですよ。フレーズの抜き差しだったり、リズムにフォーカスしながらより音楽的に考えていって。完成度も高いし、1つひとつの楽曲がすごく際立っているんですよね。1曲目の「アダムとイヴ」から最後の「パンドラ」まで、すぐ終わっちゃうんですよ、ホントに。

長谷川プリティ敬祐(B) 全部の曲を録り終わるまでに1年かかってるんですけど、その分、リズムやフレーズ、音色をしっかり考える時間があって。練習時間もたくさん取れたし、アルバムを聴いても演奏のクオリティが上がったなと。

ジェットセイヤ(Dr) 俺はアルバムが完成したとき「全曲のMVを作りたい」と思いました。今回はラブソングが多いんですけど、どの曲にも物語性があるし、リアルな現代性も入っているので、映像作品として残せたらいいなって。

 それ、誰の目線? プレイヤー目線じゃないよね(笑)。

セイヤ プロデューサー目線かな(笑)。例えばシングルの表題曲がバンドのイメージになりがちだけど、今回のアルバムはすごく多面性があるし、そこも全部伝えたいので。

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社会の中に存在する音楽を

──アルバムを通して聴いてみて、歌詞が昨今の社会状況をフィクションとして表現している印象を受けました。

 自分の経験も含まれているし、友達から聞いたエピソードも盛り込まれていたります。僕は今31歳なんですけど、この世代って少しずつ重要な役割を与えられ始めて、重圧を感じたり、理不尽なことも増えていく年齢だと思うんですよ。僕自身はバンドをやってるから、一般的な社会とは一歩離れたところで生活している感じもあるんですけど、去年はリアルな声をたくさん聞いたし、人の嘘や裏側もいっぱい見てしまって。そういうリアルな部分を歌詞にしたいと思ったんですよね。僕らはアーティストだけど、どういう人間でどういう意思や思想を持っているかについても、どんどん表現していくべきだなと。

──バンドマンも社会の一員だと。

 それはすごく感じました(笑)。最近バンドマン以外の人と話す機会が増えてきたんですよ。例えばZOOM飲み会だったり、Clubhouseで話したりしてるうちに、「社会の中に存在する音楽を作らなくちゃいけない」と思うようになって。僕らは普段マニアックな音楽の話ばかりしてますけど、一歩社会に出たらそんな話誰もしてないですから(笑)。

柳沢プリティセイヤ ハハハハ(笑)。

 それってオタクというか、ナード的な趣味なんですよね。それはそれで楽しいんだけど、今の日本の社会の中に存在して、ちゃんと話題になるような音楽をやっていかないとなって。そういった意識の変化が今回の歌詞に現れている気はしますね。

──ライブができなくなって“エンタテインメントは不要不急”なんて言われましたからね。社会とどう関わっていくかは確かに大事なテーマだと思います。

柳沢 もっと身近なことで言えば、「ライブはお客さんがいることで成り立っていたんだな」と改めて気付かされました。それって当たり前じゃないですよね。

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 そうだね。

柳沢 ファンの皆さんからメッセージをもらうことも増えたんですよ。「音楽がなくなって困ってます」と言ってくれる人もいて、だったらTwitterやInstagramで情報をもっと発信しようと思うようになりました。あと個人的な変化で言うと、最近は周りの大切な人にきちんと気持ちを伝えようと意識しています。使い方にもよるけど、SNSって虚像だらけの世界じゃないですか。そこに頼るんじゃなくて、近くにいる人を大事にしたいなと。

セイヤ SNSは「これは確かな情報なのか?」ということもあるし、ネガティブキャンペーンに使われたりもするからね。このコロナ禍でそのことに気付いた人も多いだろうし、俺もまずは身近な人との関係が大事だなと思っています。周りが平和じゃないと何も始まらないというか。

プリティ そうだね。そういう時代性みたいなものが今回のアルバムの歌詞には強く出てる気がします。今の社会の成り立ちや見方を考えさせられるというか、違う視点を持てるような感覚もあって。

 僕としては社会に対してというより、“自分の言葉をなるべくリアルに”というところにフォーカスしているんです。去年は人と直接コミュニケーションを取る機会が少なくなって、ネットやメディアを通してやり取りすることが増えましたけど、それがちょっと怖かったんですよね。SNSで人を人とも思わないような言葉が飛び交うのを見ると、実際の会話がなくなることで自分自身もドライになってしまう気がして。なので歌詞の中では人と人のぶつかり合いをしっかり描きたいと思ったんです。愛し合ってるが故にいがみ合う瞬間だったり、人間らしさを生々しく表現して“いがみ合えるなんて最高だな”みたいな(笑)。