ナタリー PowerPush - 銀河英雄伝説
河村隆一が熱弁する原作&舞台への思い
ヤンと僕との共通点は日常をリラックスして暮らすこと
──ちなみに、先程河村さんがおっしゃっていた「ヤンはこんなことをしない」というガイドラインはどんなものですか?
そうですね……。具体的に言えば、自慢をしない、声を荒げない。さらには無駄に歩かない。この3つかな。ある意味、全く模範的な大人ではないんですよ。片付けが苦手で部屋は散らかりっぱなしだし、すぐに寝坊するし(笑)。何より戦いが大嫌いで不平不満ばかり口にしているんです。でも、敵の一歩先の戦術を見破る力は天才的で、その1点においてはまさに英雄なんです。
──河村さん自身と似ているところはありますか?
タイプが一緒かどうかはわからないんですが、ヤンが戦いのある一瞬に異彩を発するように、僕はレコーディング時のマイクの前や舞台などで最大限の実力を発揮していたいという思いがあるんですよね。そのために、それ以外のときは意図的にゆるむようにしているんです。そうすることで感情のピークや能力の極みを温存しているんですよね。
──集中するために、ですか?
いや、全力疾走するために休むのではなくて、普段精神をゆるめることによって緊張がほぐれて、気合が空回りしなくなるんです。歌って、タイムを計ったり周りと比べたりするものではないからこそ、僕は普段はリラックスをして、いざというときにピークを持ってこれるようにしているんですよね。
──なんだか、出産のようですね(笑)。
ああ、そうかもしれないですね(笑)。多分、芝居も出産も全て、“生きる”ということはそういうことなのかもしれないなって思うんです。いざというときに力を発揮するためには、普段はしっかりリラックスしなくちゃいけないのかもしれないですね。あるお医者さんに聞いたことがあるんですが、スポーツ選手の最大限の実力が出るゾーンって、交感神経と副交感神経のバランスが整ったところなんだそうです。これはアーティストにも言えることで、自分が信じられないほど声が出て歌えるときもあるし、きっと役者でもその瞬間ってあると思うんですよね。それは集中の極みの瞬間。ちなみに僕はそのゾーンに入ると、物静かなんだけど、どこか体の一部が熱く感じるんです。この舞台でも、そのゾーンに入ったような感覚になれたらいいなと思っています。
書き下ろした楽曲にこの舞台のテーマをすべて詰め込んだ
──そして、舞台のクライマックスでは河村さんが今作のために書き下ろした楽曲「Searching for the light」が歌われるんですよね。
はい。まず、僕自身は、この物語は人が星の輝きに魅せられて、その星を自分の手につかみたいという気持ちから始まったんじゃないかと思っているんです。光にひきつけられるのは、ピュアで自然な思いだったのかもしれない。美しいものがあったらそれを奪いたいと思うのは自然なことだというのはわかりますよね。でも、ときにその思いが加熱しすぎてしまうと、競い合い、奪い合うようになってしまう。それは現代における領土問題やイデオロギーの問題に発展するんです。さらにその問題が大きくなって、紛争や戦争が起こる。そうなると、あってはいけない大義名分が生まれてしまうんです。「戦わなくてはいけない」という錯覚と暗示にかかる瞬間がどうしてもあるんじゃないかと思うんですよね。
──確かに、今現実世界で起きている戦争はそういうことですよね。
はい。さらに、この曲では歌詞の中で「放たれて 傷ついて」と歌っているんですが、戦いに夢中になっているうちに、いざその焦点となっている星の本体はなくなっていて、その光だけは何億光年も見えている、ということになっている場合もあると思うんですよ。いざ、戦いの無意味さに気付いたときには、求めていたものは実態のない光になっていた……そんな思いを閉じ込めたんです。
──すごく深い歌詞なんですね。さらに楽曲は、そんな世界観を包み込んだ壮大なバラードに仕上がっています。あえてバラードにしたのは意味があるんですか?
この曲は全員で歌うために書き下ろしたんです。いざ歌ったときに、キャストの全員が満天の星空を織りなす1粒1粒の輝きであってほしいと願い、壮大なサウンドに仕上げました。できたらこの曲はお客様全員とも一緒に歌いたいんですよね。そこで一体感を感じられたら、言うことはないですね。
──では、最後にナタリーの読者へのメッセージをいただけますか。
この作品は原作も有名だし、とっつきにくい印象もあるかもしれませんが、この舞台で初めて「銀河英雄伝説」に触れる人も、絶対に楽しめる娯楽作品になると思うんです。僕が目指しているのは“何度も観たくなる”舞台。もし、セリフが全部聞き取れなくても、ちゃんと最後には物語の流れがわかるようにしたいし、みんなで一緒に泣いて笑って楽しめるものにしたいんです。そして2度目に観たときは、ヤン以外の視線で見るのもお勧めなんですよね。これは舞台ならではの楽しみ方。いろんな視点から、それぞれ楽しんでもらえたらと思います。そして、もしこの舞台を観たことで興味が湧いたのなら、ぜひ原作も読んでもらえたらうれしいですね。
公演情報
2012年4月14日(土)~ 22日(日)
東京都 東京国際フォーラム ホールC
2012年4月28日(土)~ 29日(日・祝)
大阪府 NHK大阪ホール
料金:SS席10000円 / S席9000円
(ともに全席指定)
チケット一般発売中
メインキャスト
河村隆一(ヤン・ウェンリー)
馬渕英俚可(ジェシカ・エドワーズ)
野久保直樹(ジャン・ロベール・ラップ)
大澄賢也(ムライ)
天宮良(アレックス・キャゼルヌ)
中川晃教(オリビエ・ポプラン)
松井誠(ワルター・フォン・シェーンコップ)
西岡德馬(シドニー・シトレ)
河村隆一(かわむらりゅういち)
1970年神奈川生まれ。1990年代を代表するロックバンド・LUNA SEAのボーカリストとしてデビューし、1997年からソロ活動を開始。連続でリリースした4枚のシングルはそれぞれ70万枚を超えるヒットとなる。シンガーとしてだけでなく、俳優、音楽プロデューサー、小説家、レーサーなど多方面で活躍するほか、バラエティ番組ではその独特のキャラクターを発揮。バンド時代のイメージを一新し、お茶の間の人気を獲得する。2005年にはINORAN、H・Hayamaと新バンド「Tourbillon」を結成。さらに2010年8月にはLUNA SEAの活動再開を発表し、リリース、ライブともに精力的な活動を展開している。