ナタリー PowerPush - 銀河英雄伝説

河村隆一が熱弁する原作&舞台への思い

河村隆一インタビュー

人間の性(さが)が強く描かれていて、深く考えさせられる

──河村さんは元々、「銀河英雄伝説」の原作の大ファンだったそうですね。

インタビュー写真

はい。僕が最初に「銀河英雄伝説」を見たのはCS放送のアニメだったんです。そのアニメを何気なく観ているうちに、作品の完成度の高さに引き込まれて、すぐにDVD-BOXを全巻大人買いしたんですよね(笑)。その後、自然な流れで原作を読むようになりました。

──そこまで河村さんがハマった魅力はどこにあると思いますか?

簡単に言えばこの作品は、元々同じ地球に生まれた人間であるにもかかわらず、「銀河帝国」と「自由惑星同盟」に二分してしまった勢力の戦いを描いたものなんです。でも、ただの戦争モノと違って、どうしようもない“人間の性(さが)”がとても強く描写されているんです。

──戦争モノ、となると、女性はとっつきにくい印象を受けるんですが……。

一見、そう思われるのもわかるんですが、知れば知るほど女性もハマると思うんです。というのも、帝国側はイケメンが揃った集団で、僕らが今度演じる同盟軍は性格重視の集団。僕らの仲間は女性が理想とする男性の優しさを持っている人が多いので、きっと女性の心もつかめるんじゃないかな、って思うんですよね。

──なるほど。

あとは、現代の女性はしっかりと社会進出しているので、自分のやるべきことは自分で成し遂げる、強い責任感を持っている人も多いと思うんです。実際、アメリカ軍には女性の軍人も多いんですよね。日本は戦後、比較的とても平和な日々を過ごしていますが、こういう物語を通して、男性だけでなく、女性も「なぜ人は戦うのか、戦っていたのか」ということを知るのは大切なことだと思うんです。

“戦争の天才”ヤンの葛藤を演じきりたい

──戦いって、敵味方関係なくフラットな気持ちで見ると、本当に葛藤や矛盾だらけですよね。

そうなんですよ。まさにこの「銀河英雄伝説」ではそんな葛藤を描いているんです。今回上演する「第二章」は同盟側が主役になるので帝国側は敵側になりますよね。その帝国側に、将来皇帝となる名将・ラインハルト・フォン・ローエングラムという人がいるんですが、僕が演じるヤン・ウェンリーが彼を「英雄」と評したあとに言うセリフがとても素敵なんですよ。

──どんなセリフなんですか?

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「英雄も、また愚将と呼ばれるダメな指揮官も、道義上の優劣はない」というセリフなんです。これは、“戦争”という大義名分がなければお互いただ殺し合いを繰り広げてるだけだという意味なんです。指揮官であるヤン・ウェンリーはそこにしっかりと気付き、こう唱えていることに大きな意味があると思うんですよね。

──確かに、、そこは盲目になってしまいがちなところですよね。

言ってみれば、軍人が指揮官に「あそこに行け」と指示されれば絶対に行かなければならないんです。でも、それが悪い指揮であれば、死に直結するんですよね。ヤン・ウェンリーは、指揮官が優秀じゃないと大勢の兵士を死なせてしまうことに気付き、心を痛め、葛藤しながら、未来の平和のために戦いを続けるんです。

──すごく皮肉な話ですね……。

そうなんですよ。ヤン・ウェンリーは元々、歴史を研究したかっただけなんですよね。でも、幼い頃に両親を亡くし、授業料のかからない傭兵学校に入学するんです。そこで戦争の歴史を学んでいくうちに、いつのまにか“戦争の天才”になってしまい……。同じ地球で暮らしていた人間なのに、そこから離れて民主主義の「自由惑星同盟」と帝国主義の「銀河帝国」が作られてしまったことに、ヤンはずっと葛藤し、心を痛めているんです。でも、そんな個人的な意見は全く無視されて、ヤンは天才であるがゆえに指揮官となり、戦闘へとズブズブと飲み込まれてしまうんですよね。そんな切なくも皮肉な人間ドラマが、しっかりとこの舞台で描かれているんです。

──とても考えさせられる話なんですね。

物語ではヤンだけでなく、周りの人たちの葛藤もしっかり表現されているんです。例えば、ヤンの親友ジャン・ロベール・ラップと婚約したジェシカ・エドワーズが、幸せの絶頂の中ラップを戦争で失い、反戦運動に身を投じる経緯が描かれていたり。戦争は男性だけでなく、女性にとっても本当に辛い出来事だということなんです。そんなそれぞれの人たちの生き方や考え方を通して、“人間の性(さが)”や、戦うことの意味を考えさせられるんです。そこが、原作者である田中芳樹先生の天才的な部分だと思うんですよね。だって、そうじゃなければあれだけ壮大な物語が、こんなふうにアニメや舞台などさまざまなメディアで再現されないと思うんですよ。

ヤンを愛しぬいているからこそヤンになりきる自信がある

──それにしても、河村さん演じるヤン・ウェンリーは、本当に果てしない葛藤の中に身を置いていると思うんです。その気持ちの機微を舞台で表現するのは大変ですよね。

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実は僕の場合は、ヤンの気持ちを具体的に表現するのが大変というのではないんですよね。というのも、僕がこの作品を観すぎるくらい観ているし、読みすぎるくらい読んでいるので、ヤンの気持ちは手に取るようにわかるんです(笑)。でも、だからこそ僕の中で勝手に「僕のヤンはこんなことをしない」というガイドラインができてしまって、プロテクトしてしまっている部分があるんです。それはしっかり外さないと、舞台で初めて生まれる“新生”ヤン・ウェンリーや“新生”同盟軍の空気感が作れないと思うんですよね。そこが一番大変かな。

──好きだからこその葛藤ですね(笑)。

そうなんです(笑)。真似をするわけではないけど、アニメや原作のファンを納得させたいんですよね。僕は誰よりもヤンが好きな自負があるので、それはできると思っているんです。もちろん難しいとは思いますけどね(笑)。

──葛藤を演じる、ということは、表情でみせる演技が多いということですか?

そうですね。もしカメラがあるのなら顔にぐいっと寄ってきてほしいと思うほど、表情の動きが大切な演技になると思うんです。もちろん、戦闘シーンもあるし、激しい描写もあるんですが、基本的には宇宙戦艦の中で戦っているので、被弾しない限りとっても静かな環境なんです。それを舞台の上で表現しようとするなら、お客様全員に目の動きや飛び散る汗を感じてもらえる芝居にしなくちゃいけないと思っているんですよね。言ってみれば、今は、舞台だからこその演出で、新しい銀河英雄伝説が生まれていこうとしている前夜だと思うんです。

──すごくワクワクしてきました!

まあ、大変すぎて苦痛でもあるんですけどね(笑)。原作を愛しすぎているからこそ、新しい伝説を作るというプレッシャーは異常なほどですよ(笑)。

──そうですよね(笑)。でも、それだけ原作を愛しぬいている河村さんだからこそ、納得のできる舞台になると、ファンの皆さんは思っているのではないでしょうか。

例えば、子供の頃に観ていたマンガがアニメ化されるときに、主役の第一声を聞いて「え!? イメージと違う!」と思うか「ピッタリ!」と思うかは、自分で勝手に想像していた主役の声と合致するかどうかってことなんですよね。それがさらに実写になると「顔が違う!」と思うことも。なので、新しく生まれ変わらせることもできるけど、ファンのイメージの中の原作を壊しかねないのも事実。だからこそ、この「銀河英雄伝説」の舞台化というのはやりがいがあるし、生みの苦しみがあるのも当たり前だと思うんです。

舞台 銀河英雄伝説 第二章|自由惑星同盟篇

公演情報

2012年4月14日(土)~ 22日(日)
東京都 東京国際フォーラム ホールC

2012年4月28日(土)~ 29日(日・祝)
大阪府 NHK大阪ホール

料金:SS席10000円 / S席9000円
(ともに全席指定)
チケット一般発売中

メインキャスト

河村隆一(ヤン・ウェンリー)
馬渕英俚可(ジェシカ・エドワーズ)
野久保直樹(ジャン・ロベール・ラップ)
大澄賢也(ムライ)
天宮良(アレックス・キャゼルヌ)
中川晃教(オリビエ・ポプラン)
松井誠(ワルター・フォン・シェーンコップ)
西岡德馬(シドニー・シトレ)

河村隆一(かわむらりゅういち)

河村隆一

1970年神奈川生まれ。1990年代を代表するロックバンド・LUNA SEAのボーカリストとしてデビューし、1997年からソロ活動を開始。連続でリリースした4枚のシングルはそれぞれ70万枚を超えるヒットとなる。シンガーとしてだけでなく、俳優、音楽プロデューサー、小説家、レーサーなど多方面で活躍するほか、バラエティ番組ではその独特のキャラクターを発揮。バンド時代のイメージを一新し、お茶の間の人気を獲得する。2005年にはINORAN、H・Hayamaと新バンド「Tourbillon」を結成。さらに2010年8月にはLUNA SEAの活動再開を発表し、リリース、ライブともに精力的な活動を展開している。