「僕が出さないと」という使命感に駆られた
──「ガラスの靴」で何かを得たところでアルバムは後半戦に突入するわけですが、「透きとおる夏」がサンバつながりではありつつも、急にどメジャーになります。アルバム前半はほぼマイナーキー一辺倒だったこともあって、めちゃくちゃ空気が変わる感じがしました。
そうですね。「ガラスの靴」で「私はガラスの靴を捨てるのよ」みたいなことをマイナーのムードで歌ったあとに、“透明”つながりの「透きとおる夏」で、浄化された“私”が「比較なんて意味ないんだ」みたいなひとつの確信に達するわけです。ここでいったん解脱してもらおう、みたいな。
──解放される感じはすごくありますね。
これ、実を言うとけっこう急いで作った曲で。「夏曲を出さなきゃ」という衝動に駆られて生まれた曲なんです(笑)。こういう感じのコード感ってめっちゃいいもののはずなのに、最近あまり聴かないじゃないですか。だから「僕が出さないと」という使命感に駆られたんです。
──その視点があるのが面白いですよね。単に作りたいものを作るだけじゃなくて、「世の中にこういう音楽が必要だと思うから、ないなら俺が作る」みたいな。
いや、ホンマそうなんです。「さあ乾杯!」とかもその感じがけっこうあると思いますよ。典型的なジャズのアンサンブルって感じで、ゆったりした4ビートのスウィング曲なんですけど、「この感じがドラマのエンディングとして聞こえてきて、果たして許されるのか?」みたいな。
──これはあれですよね、前作の「パーティーチューン」からの流れというか。
そうなんです。うれしいことに、ドラマ「晩酌の流儀」から再びお声がけいただきまして。前回はオープニングだったんですけど、今度はエンディングということだったので、入眠に誘えるような感じをイメージしました。
──僕がすごくいいなと思ったのが、サビメロが「パーティーチューン」にも通ずるようなシンプルで強いメロディなんですけど、今回はハーモニーに少しひねりが加わっていますよね。
あ、そうですね。ほどよいところを狙いました(笑)。どちらの曲でもIII7っていうコード(3度の音をルートにしたセブンスコード)を使ってるんですけど、「パーティーチューン」では正面から「はい、ここが聴かせどころですよ!」という使い方をしているのに対して、「さあ乾杯!」ではもっとさりげなく入れている。それによってブルース感も入ってくる、ジャズブルース感みたいなところは意識しましたね。
──1曲飛んじゃいましたけど、「さあ乾杯!」の前の「遠い空には」が……。
ありがとうございます、そんな1曲1曲触れていただいて。うれしいです。
──いや(笑)、個人的にこのアルバムは“流れ”こそがポイントだと感じたので。その「遠い空には」なんですけど、これはちょっとほかと毛色が違いますよね。ユニコーンでいうところのテッシー曲みたいな立ち位置の曲だなと。
あー、確かに! ちょっと“作家が違う感”はありますもんね。前後はジャズを通ってる作家の曲で、これはJ-POP作家が作りましたみたいなムードがある。
──これがあるから「透きとおる夏」と「さあ乾杯!」という、いわば“民生曲”がより際立つみたいな。だからこそ間に「遠い空には」が必要というか。
スパイスでもあり、橋渡しにもなってるということですよね。なるほどなあ、面白い感想です。
人生って矛盾だらけじゃないですか
──で、僕の中では10曲目の「さあ乾杯!」で1回アルバムが終わってるんですよね。
それはもう、完全に僕の術中にハマっていますね。
──(笑)。
「さあ乾杯!」まで行ったあとに、「ZEROの時間旅行」でもう1回ゼロに戻るんですよ。「うつろ」にも通ずるような、「これでよかったんだろうか?」ゾーンが始まる。僕としてはエリカ・バドゥのイメージなんですけど、いわゆるポップスのフィールドにはない文脈の音が急に紛れ込むことで、一度出たと思われた結論を煙に巻く曲ですね。
──そして次の曲が「At Parade」という英語詞のハウスナンバーで、さらに混迷を極めると同時に“終わりに向かってる感”が増していきます。ちなみにこれはなんで英語なんですか?
英語にしようとしたというよりは、サビのドロップ的な部分が浮かんだときに「I wanna be」みたいな言葉がすでにあって、それじゃないと辻褄が合わなかったんですよ。ほかのAメロとかには日本語も交えてK-POP風にする案もあったんですけど、このメロディに日本語を乗せてしまうと、スピード感が損なわれるような感じがして。
──“意味としての言葉”から距離を置きたかった、という感じ?
そうですね。言葉に引っ張られて情景が明確になる状態は避けようとしていました。たぶん英語ネイティブの人が聴いても日本語訛りを強く感じるでしょうし、外国語のように感じてもらえるんじゃないかと。それによってパレードの刹那感、幻想のひとときに生み出されるちょっとした孤独感みたいなものを、生々しすぎない程度にうまくにじませられたかなと思っています。
──そして13曲目の「ステラ」で、アルバムは完全なる大団円を迎えます。12曲目までの間に起きた紆余曲折を経て、「いろいろあったけど全部引き受けますよ」という曲ですよね。
「ZEROの時間旅行」で「これでいいのか?」モードになったあと、いろいろあって「やっぱりこれでよかったんだよね」という確信をここで手に入れるんです。その“正解”みたいなものを「ステラ」という言葉で表現しているんですけど……この曲はこのアルバム制作の最初の頃に、タイアップ案件とともに生まれた曲(OSTechグループのWeb CM「さあ、今日から新社会人!」テーマソング)で。めっちゃ正直に言うと、今の僕がこんな話をして果たして意味あるんだろうか?という気持ちもちょっとあったんですよ。
──というと?
新入社員を応援するプロジェクトの曲なので、もっとメジャーどころの、大きな成功を収めた人が言わないと説得力がないんじゃないかと。逆に言えば、タイアップだからこそ歌えた曲ですね。なので、アルバムの物語としてはこれでハッピーエンドでもいいんですよ。もちろん。
──そうは問屋が卸さない(笑)。せっかく「ステラ」で大団円を迎えたのに、まだ「夢遊病」が待ち構えているんですよね。
人生って、矛盾だらけじゃないですか。この「コントラスト」というアルバムは、「よかったね」「うまいことまとまったね」とは絶対に受け取られたくなくて。
──絶対に(笑)。
このアルバムは結局、明暗を繰り返しながら矛盾だらけの人生を受容する物語なんです。それを「うまいこと受容しました」と終わらせるわけにはいかないので、「夢遊病」が最もラストにふさわしいなと思った次第でして。たぶん、人によって読み取り方がかなり異なる1曲だと思うんですよ。「今までの話は全部夢でした」というふうにも受け取れるし……確信を得て飛べるような気がしたけど、それは本当のことだったのか夢だったのか、どっちとも取れるように作って。結論を明示しないことによって生まれる読後感、みたいなものは狙いました。
“そういう人”だと思われるんちゃうかな
──ところで今回、「Question」「透きとおる夏」「夢遊病」の3曲で外部のアレンジャーを起用していますよね。ほかはすべてご自身の編曲ですが、これはどういう切り分けなんですか?
基本的には全部一旦自分でフルで作るんですけど、自分では再現しきれないであろうサウンド感が欲しいときに、そのアプローチができる方に「この感じで」とお願いすることが多いですね。
──プロデューサー目線で見たときに、「アレンジャーはがらりじゃないほうがいい」という判断が下る?
それもあるし、完全に計算ずくというよりは、偶然生まれるものに対する期待もけっこうありますね。バンド的な発想といいますか、自分だけでやっていると偶然の入り込む余地はほとんどないので。
──なるほど。わりと一般的にありがちなのは、「タイアップ曲では外部のクリエイターを入れて、ポピュラリティや商業性を担保する」という判断なんですけど、今回の3曲は全部ノンタイアップなんですよね。
そうでしたっけ? (資料を確認して)あ、ホンマや(笑)。
──それが面白いなと。
偶然です。いや、でもありがたいですね。逆にぜいたくなやり方をさせてもらっているってことですから。
──ということもあり、非常に充実したアルバムを完成させたわけですが、2026年はどうしていきましょう?
ぼちぼちライブをしなければ、という。
──「ライブをやりたい」というのは以前からおっしゃっていましたね。
そうなんです。今年1年が思いのほか制作に集中する期間になったこともあって、そろそろうまいことライブ活動も紛れ込ませていけたらいいなと思っております。
──制作の日々を送る中で、アーティストとしてのあり方的に「ライブという要素が足りないな」と思ったりするわけですか?
思いますね。このままいくと、“そういう人”だと思われるんちゃうかなと。
──楽曲制作だけに特化した、クリエイター寄りのアーティストとして見られかねないということですよね。
もちろん楽曲提供のお話をいただけるのもうれしいしありがたいんですけど、“そこもできる人”くらいの感じで思われたいかなあ。
──実際、録音作品でも歌だけじゃなくピアノやギターなどもご自身で演奏しているわけですしね。プレイヤーとしての濃度が高いアーティストだというのはもっと知られるべきだと思いますし、個人的にもライブはぜひ観たいです。
ありがとうございます。ちゃんと興行として成立するくらいには人が呼べるようにならないといけないですね。
──その発言がまたシステムエンジニアっぽいんですよね(笑)。アーティストなら「ライブやりたいです!」だけでいいんですけど。
どうしても経営視点になっちゃうんですよね(笑)。
プロフィール
がらり
システムエンジニアから転向し、2022年に音楽活動を開始した大阪出身のシンガーソングライター。楽曲ごとに“がらり”と変わる作風が特徴で、作詞作曲に加え、ジャケットアートワークやミュージックビデオの制作など作品に関するほぼすべてのクリエイティブを自ら手がける。TikTokに投稿された「さよならは真夜中に」がリリース前に大きな反響を呼び、約150万回再生を突破した。2024年11月に1stアルバム「手のひら望遠鏡」をリリース。2025年はOSTechグループのWeb CMや、日本テレビ系ドラマ「AKIBA LOST」主題歌など多数のタイアップソングを制作し、それらを収録した2ndアルバム「コントラスト」を2026年1月に発表した。


