きっかけはダジャレ
──「フライヤー feat. RHYMESTER」ではGAKUさんがトランペットを演奏しています。トランペットを始めたのは1年半くらい前ということですが、きっかけはなんだったんですか?
「ラッパーがラッパを吹いたらカッコいいんじゃない?」というダジャレを妻があんまり笑わなかったことかな。ちょっとカチンと来て(笑)、「よし、吹けるようになってやる!」と。SOIL&"PIMP"SESSIONSのタブゾンビさんと楽器屋さんに行って、トランペットを選んでもらいました。教えてくれる先生を見つけて、2週に1回レッスンを受けていたんですよ。今は月1くらいですけど、日常的に行っているサッカーの前にグランドでトランペットも練習するようにしています。
──楽器をやると、音楽の捉え方が変わりますよね?
そうなんですよね。アコギを弾くようになってラップがすごく変わったし、自分ではうまくなったと思っています。トランペットの音の当て方も覚えることで、ラップや歌にいい影響があるんじゃないかなと。とにかく難しい楽器なので1歩ずつですけどね、上達している気がします。
──ライブでも演奏してるとか。
はい。こんな性格なのでほぼ見切り発車ですけどね。最初は当然うまくないから、お客さんも笑ってたんですよ。でも、次のツアー、その次のツアーと続けてると、ちょっとずつうまくなるので、お客さんも「お!」という反応になって。そのあとに「なんだってやれるんだぜ!」みたいなテーマの曲を歌うと、お客さんへの染み込み方が変わってくると思うんですよ。今日たまたまツアーTシャツ(「NO CHALLENGE NO CHANGE」という文字が書かれている)を着てますけど、挑戦なければ変革なしです。
──まさに有言実行ですね! 「フライヤー feat. RHYMESTER」のサウンドディレクションはNumaさんで、アルバムのうち9曲に関わっています。
Numaくんはウカスカジーのバンドメンバーで、僕がバンド編成でライブをやるときも参加してくれています。凄腕ギタリストであり、アレンジジャーとしてもプロデューサーとしても素晴らしいし、なおかつヒップホップが大好きなんですよ。コミュニケーションも取りやすいし、全般にわたってサポートしてくれてます。RHYMESTERとレコーディングしたときは、「ずっと聴いてました」とうれしそうに伝えてました。
転んでもただでは起きない
──「What' s real?!」の「全てやり切ったのか」、「いますぐにまっすぐに」の「まずは一歩 踏み出してみよう」というフレーズなど、自分の現状を見つめたリアルな楽曲も印象的でした。
日々感じたこと、思い浮かんだことを自分のメールフォルダに送ってるんですよ。それを読みながら、自分と話をするような感覚で歌詞を書くこともあって。「自由奔放」もそうだし、「What' s real?!」「いますぐにまっすぐに」もですね。でも、自分の内面が変わる瞬間って、誰かと触れ合ったときだったりもするんですよ。新しい出会いから生まれる曲もあるし、“アルバム”とはよく言ったもんで、「Master of Ceremonies」は制作期間中の思い出が詰まった作品でもあると思います。
──「それでも日々は続く session with YoYo the “Pianoman”」にはピアニストのYoYoさんが参加しています。
「それでも日々は続く」は前作(「立ち上がるために人は転ぶ」)にも入っていた曲で。ライブでやるときにYoYoに参加してもらって、自由に弾いてもらったら、それがめちゃくちゃカッコよかったんですよ。今回のアルバムでもぜひセッションしてほしくて、もう1回YoYoに弾いてもらいました。本当に素晴らしいミュージシャンですね。
──YoYoさんは、ヒップホップユニット・SOFFetのメンバーとして2003年にデビューしました。当時から交流があったんですよね?
はい。僕のライブのオープニングアクトを務めてもらったこともあるし、何度も一緒にやっていて。YoYoの喉の調子が悪くなってSOFFetは休止したんですけど、もともとピアノがすごく上手だったし、今はジャズマンとしてリスタートしたんです。その潔さも素晴らしいし、なかなかできることじゃないと思いますね。
──「骨 ~ピンチこそがチャンス~」は、GAKUさんが骨折してしまったときの経験がもとになった楽曲です。「Bone 折って Reborn」というサビのフレーズ、最高です。
なかなかのパンチラインですよね(笑)。2021年にサッカーをやってて手首の骨を折ってしまいまして。ツアーの直前だったので、皆様に多大なるご迷惑をおかけしたんですが、病院で撮ったレントゲン写真をTシャツにしたり、入院中にライブ用の映像を撮ったり。この曲もアルバムに入れられたし、転んでもただでは起きないスタイルでやってます。
──ケガは怖いですけど、GAKUさんにとってはサッカーも大事ですよね。
健康にもいいですから。僕、Jリーグの月間MVP選考委員会に入ってるんですよ。毎節10試合くらい見て、MVP選考の会議にも出席して。真面目に参加しないと「何見てるんだ」とサポーターに言われるだろうし、試合を見るだけではなくて、自分でやるのも大事なんです!
この年齢じゃないと言えない言葉がある
──「人生にキャンピングカーを」も、GAKUさん自身の体験から生まれた楽曲ですよね。
キャンピングカーで全国弾き語りツアーをやってきましたからね。ソロとして25年、グループ時代を入れると30年以上やってるので、ライブで47都道府県すべて行ったことがあって。ただ、ライブ会場、打ち上げ会場、ホテルのトライアングルばかりで、「よく考えたら、観光とかしたことがないな」と思ったんですよね。で、あるときハイエースでツアーを回ってみたら、これが本当に面白くて。「静岡は東西に長いんだな」とか「瀬戸内海ってすごくいいな」とかいろんな発見があったし、「キャンピングカーで回ったら、もっと面白いんじゃないかな」と。そしたら日本RV協会(キャンピングカーの普及・発展を目指す一般社団法人)がサポートしてくれて、オリジナルのキャンピングカーを作らせてもらったんですよ。キャンピングカーはダブルベッド2台が基本なんだけど、シングル4台にしてもらったり。今年もキャンピングカーの弾き語りツアー(「独ガク2024」)をやりましたが、最高でした。
──「これ楽しそう」「やってみよう」が次の活動につながる。
そうですね。キャンピングカーがあれば、おじいちゃんになってもツアーできそうだし。いつかキャンピングカー好きが集まるフェスもやってみたいです。
──「Drive and Live ~ Today is the Day ~ feat. 東田トモヒロ」では、シンガーソングライターの東田トモヒロさんをフィーチャーしています。
今年の夏、2人で島巡りツアー(「GAKU-MC × TOMOHIRO HIGASHIDA THE DAY~島巡り LIVE TOUR 2024~」)をやったんですよ。屋久島、種子島、天草などを2人で回って、弾き語りして。東田くんは、若い寅さんみたいなイメージなんです。僕なんかよりも自由だし、ちょっと破天荒で。彼と一緒にいると「こんなに自由でいいんだな」と思えるし、楽しいですよね。東田くんとはコロナ禍の2021年に、キャンピングカーで一緒にツアー(「キャンピングカーであなたの街へ GAKU-MC × 東田トモヒロ. DRIVE AND LIVE TOUR 2021 THE DAY.」)をしたことがあって。「テーマソングがあったほうがいいね」ということで作ったのが「Drive and Live ~ Today is the Day ~」です。そのときの映像もぜひ観てほしいです。
──「晴れたらみんなで」は未来に向けたポジティブなビジョンが伝わる楽曲だなと。
「晴れたらみんなで」もまさにコロナ禍のピークの頃に作った曲で。もともとは「#晴れたらみんなでボール蹴ろう」(フットボールクラブ・TOKYO CITY F.C.を運営する小泉翔がGAKU-MCをはじめとするサッカー仲間とコロナ禍でスタートさせたプロジェクト)の応援ソングとして制作したんですよ。MVのために友人のサッカー選手(中村憲剛、大久保嘉人、本田圭佑など)がリフティングやトレーニングの動画を提供してくれて。「コロナ禍が明けたら、みんなでまた集まってボールを蹴りたいね」という思いで作った曲だし、アルバムを締めるのもこの曲がいいんじゃないかなと思って、フルサイズを作って収録しました。
──そしてCD盤のボーナストラックには、ライブ音源が5曲収録されています。
「どんなライブをしてたのかな?」と聴き返すのが楽しかったですね。このライブ音源で一番古いものは2012年なので、ギターとかだいぶヘタっぴなんですが(笑)。そこも含めて楽しんでもらえたらなと。
──11月にはアルバム「Master of Ceremonies」を携えた全国ツアーが開催されます。“ソロ25周年は通過点”という感覚も大きいのでは?
そうですね。新たに手にしたトランペットはもちろんですけど、ギターもまだまだヘタクソだし、もっともっとうまくなりたいので。そうすれば必然的にラップもよくなるだろうし。あとね、この年齢じゃないと見えてこないテーマ、言えない言葉があるんですよ。若い頃は「そのうち言いたいことがなくなるのかな」と思ってたんだけど、思うことは常にあるし、言葉も降ってくる。それは幸せなことなんだろうなと思ってます。もちろん、僕の音楽を聴いてくれる皆さんの存在も大きくて。お客さんたちにここまで連れて来てもらったと思っているし、ライブに来てくれた人が「楽しかった」「明日もがんばろう」と思ってくれることが音楽活動をする一番の目的かもしれないです。
公演情報
GAKU-MC LIVE TOUR 2024「Master of Ceremonies」
- 2024年11月3日(日・祝)静岡県 LIFE TIME
- 2024年11月4日(月・振休)大阪府 Yogibo HOLY MOUNTAIN
- 2024年11月10日(日)宮城県 誰も知らない劇場
- 2024年11月15日(金)北海道 PLANT
- 2024年11月24日(日)福岡県 ROOMS
- 2024年11月30日(土)東京都 浅草花劇場
プロフィール
GAKU-MC(ガクエムシー)
東京都出身のラッパー。1992年にヒップホッグループ・EASTENDを結成し「Beginning of The END」でCDデビュー。1994年にEASTEND X YURI名義で発表した「DA.YO.NE」がミリオンセラーを達成する。1999年に「僕は僕で誰かじゃない」でソロデビュー。2024年10月にソロ活動25周年を記念したアルバム「Master of Ceremonies」をリリースし、11月に全国ツアー「GAKU-MC LIVE TOUR 2024『Master of Ceremonies』」を行う。GAKU-MCの活動の傍ら、音楽とフットボールを通じて人々をつなげることを目的とした団体MIFA(Music Interact Football for All)を立ち上げ、明治安田Jリーグ月間表彰選考委員会の特任委員に就任するなど日本サッカーの発展にも貢献。桜井和寿(Mr.Children)とのユニット・ウカスカジーとしても活躍している。
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