古内東子×横山剣(クレイジーケンバンド)対談|相思相愛な2人が語り合う、新作「体温、鼓動」と曲作りの秘訣 (2/2)

古内東子の曲にはキラーワードが必ずある

横山 ピアノトリオの研ぎ澄まされた音も素晴らしいですが、古内さんの歌詞には胸に刺さるキラーワードが必ずありますよね。

古内 自分ではわからないんですけど、お気に入りのポイントはありますね。

横山 今回のアルバムでは「時はやさしい」という曲にドキッとしました。かつての恋人に偶然会って、心が乱れるのかと思いきや「意外と大丈夫みたい」というところに女性と男性の違いを感じたり……。

古内 そこに至るまでにはきっと彼女もボロボロになった時間もあったはずなんですけどね。

横山 その少し残酷でリアルな描写が切ないんですよね。そういうストーリーを想像させてくれるのが古内さんの歌のグッとくるポイントなんですよ。

古内 剣さんの歌は、カッコつけてないのにカッコいいのがすごいと思います。去年ライブを拝見したとき、Original Loveの「接吻」をカバーされていて、すごくエロティックで素敵でした。

横山 ありがとうございます。田島貴男さんのような歌い方を少し真似てみたんですけど、あの田島さん独特の粘り気はなかなか(笑)。

左から古内東子、横山剣。

左から古内東子、横山剣。

──「接吻」が大ヒットしたのも、古内さんがデビューした1993年でした。当時のシーンを振り返って、どのようなことを思い出しますか?

横山 Original Love、ピチカート・ファイヴ、ラヴ・タンバリンズなど、渋谷系が盛り上がっていた頃ですね。

古内 そうでしたね。私は渋谷系には入っていなかったですけど。

横山 でも、古内さんの曲も本牧のクラブでかかっていましたよ。音の粒立ちがいいからフロア対応もバッチリで。僕も、CKBが毎年開催している「箱根ヨコワケハンサムワールド」のクラブイベント「不良倶楽部」でDJをするときは、必ず古内さんの曲をかけます。

古内 そうなんですか!?

横山 深夜のDJブースで「なんで古内さんのような女性がこんなつらい思いをしなくちゃならないんだ!」という気持ちになりながら(笑)。切ないんだけど、グルーヴがあるからソウル系のバラードと同様にハマるんですよね。

古内 私は1987年のマイケル・ジャクソンの日本公演を後楽園で観て以来、ブラックミュージックが好きになって、70年代のアルバムをさかのぼって聴いたりして。クインシー・ジョーンズやスティーリー・ダンなんかも好きでした。デビュー当初はシンガーソングライターというくくりだったんですが、キャロル・キングとかその頃はほとんど知らなかったんです。

横山 スティーリー・ダンやボズ・スキャッグスは僕も好きでしたね。クールスR.C.でリーゼントをキメながら、普段はこっそりAORを聴いていたという“国賊”です(笑)。一緒にCKBの事務所を興したトニー萩野も普段は部屋に観葉植物を置いて、サーファールックでしたから。

古内 CKBの幅広い音楽性はそういうところから来ているんですね。

入り混じるフィクションとノンフィクション

──クレイジーケンバンドは、初のカバーアルバム「好きなんだよ」を昨年リリースされました。主に1970年代から80年代の日本の名曲をカバーされていますが、男性ボーカル・女性ボーカルを問わない選曲でしたね。

横山 ユーミンさんをはじめ、女性の作る曲、歌う曲が好きだというのもあるんですが、いい音楽に性別はあまり関係ないと思いますね。日本には女性言葉の歌を男性が歌う伝統がありますし、増位山太志郎のように相撲力士なのに女言葉の曲が大ヒット(笑)、みたいな文化も面白がっていきたいんです。

古内 剣さんが歌うとスッと聴けるというか、違和感がないんですよね。それは男性としてのカッコよさを確立していらっしゃるからかもしれないですね。私もたまに“あちら側”になってみたくなって、男言葉で歌詞を作るときがあります。

横山 そう。そこがソングライティングの妙で、想像を膨らませたり、遊ぶことが楽しいんですよね。ラブソングも自分の経験だけではなく、いろんな妄想を織り込んで書くのが面白い。

古内 私も同じです。もちろん歌詞に自分の気持ちは込めるし、自分が思わないことや言わないことは書かないし、書けないけど。

横山 だから、古内さんの歌は共感を呼ぶんでしょうね。

古内 曲によってフィクション、ノンフィクションのブレンド具合は違うんですが、自分のフィルターを通すとリアリティが出てくるのかもしれない。

古内東子

古内東子

──CKBも妄想とリアルが入り交じった歌詞が多いですよね。

横山 歌にするときに盛ってはいるけど、オリジナルとなる感情やストーリーはあるんです。「ヨコスカ慕情」(2020年10月発売のアルバム「NOW」収録曲)という曲では、女医と入院患者という設定で歌詞を書いたんですが、肺炎で入院したときに映画の「慕情」を思い出したことがきっかけでした(参照:クレイジーケンバンド「NOW」インタビュー)。

古内 剣さんはすごくロマンチストなんですね。タイトルだけでどんな歌なのかすごく興味が湧いてくる。

横山 古内さんにも「銀座」という曲がありましたよね。「銀座」という文字霊が、そのまま曲になったような歌でシビれました。

古内 銀座は好きな街だったので自然に出てきたんですけど、リリース当時の1998年は「なぜ、銀座なの?」という反応もあったんですよ。

横山 いや、あの頃古内さんの口から出てきた「銀座」はすごく新鮮でした。街の雰囲気と曲や古内さんのしっとりしたボーカルのマッチングが抜群で。

──1998年は、CKBが1stアルバム「PUNCH!PUNCH!PUNCH!」をリリースした時期です。

横山 CKBを結成して間もない頃で、まだ海のものとも山のものともわからない時代だったので、古内さんがひときわ眩しく見えましたね。

古内 私もあの頃は、毎年アルバムをリリースして、海外レコーディングなど刺激的な経験もさせてもらったりしましたけど、世の中的には小室哲哉さん全盛期だったと思うので、私はどちらかというと異質な存在だったかもしれないです。

横山 だからこそ、僕を含めたリスナーの耳を惹き付けたところもあったんだと思います。

古内 剣さんには、音楽を共にするお仲間がいるから、ソロの私から見るとうらやましいです。初めてライブを観たときは、銅鑼を鳴らしたり、決まりごとのある、日本にはないタイプのエンタテインメントショーに驚きましたけど、それを継続されているのもすごいなって。

横山 バンドを続けるうちにいつの間にかそうなったんですよ。ジェームス・ブラウンのマントショーじゃないですけど、あえて決まりごとをスタンダード化させるのが面白いと思って。

古内 今でも演奏や歌を楽しんでいるのが、見ていて伝わってきます。その秘訣ってありますか?

横山 どんなに音楽スタイルが変化していっても、ポルシェやメルセデスのようにエンブレムだけは変えないという気持ちがあればと思っています(笑)。

古内 それでもう25年というのは、剣さんと皆さんのお人柄ですよね。

横山 いやいや。古内さんの音楽はエバーグリーンだから、どの時代の曲も今聴いても遜色ないのがうらやましいです。

古内 私も今は聴けない、歌えない曲はありますよ。そういう曲はライブで歌ってないですね。

横山 確かにライブでやらなくなっちゃう曲はたいていそうですよね。

古内 今回の「体温、鼓動」はピアノトリオなのでライブで実現しやすい曲が多いですね。編成を変えると、以前の曲でも歌いやすくなったり、大人っぽくなったりするし。

横山 うちは11人もいるので、“大は小を兼ねる”のフレキシブルな考え方でやっています。バンド内でトリオ編成というのもできますからね。

横山剣

横山剣

古内 私は1人でやってきたので、バンドを長く続けている方は尊敬しちゃいます。

横山 僕はCKBでデビューしたのが30代後半でしたからね。あまり気合いを入れすぎないでやってきたのがよかったのかもしれない。

古内 私も今までいろんなミュージシャンとご一緒してきましたが、いつも片思いに近いんです。「私はいつもあなたを見ているのに、あなたはいろんなアーティストと共演するのね」って(笑)。

横山 まるで古内さんの歌みたい!(笑) さすが!

改めて感じる30年の重み

──古内さんはデビュー30周年を目前に控え、剣さんは40周年を迎えて、今思うことはありますか?

古内 30年目を迎えて、このアルバムをきっかけに私もライブをちょっとがんばってみようかなと思っています。4年ぶりにアルバムを出して、かつてOL時代に私の音楽を聴いてくれていた女性から反応をいただいたりすると、感慨深いものがあるし、10周年、20周年では感じなかった30年の重みも感じながら、これからも自分らしい歌を歌っていきたいです。

横山 リスナーの方と一緒に年月を重ねていく幸せは、長年活動してきたから味わえるものですよね。古内さんのライブは、女性が多いから「いい匂いがする」と言われていますけど、そういう素敵な場所がもっと増えると男もうれしいです。

古内 私もそういう場所にしたいし、行きたいです。でも最近は、男性のおひとり様も増えてきたんですよ。お酒を飲みながら1人で聴いてくださるんです。

横山 いいですね。1人で古内さんの歌をうっとり味わいたい男の気持ち、誰よりもわかります!(笑)

左から古内東子、横山剣。

左から古内東子、横山剣。

古内東子 公演情報

TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY LIVE TOUR

  • 2022年4月30日(土)広島県 Live Juk
  • 2022年5月1日(日)愛媛県 MONK
  • 2022年5月13日(金)熊本県 CIB
  • 2022年5月14日(土)福岡県 ROOMS
  • 2022年5月29日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年7月2日(土)新潟県 新潟県民会館 小ホール

TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY 体温、鼓動

  • 2022年6月4日(土)大阪府 Billboard Live OSAKA
  • 2022年6月12日(日)神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA
  • 2022年6月30日(木)東京都 Billboard Live TOKYO

古内東子 ホールライブ

  • 2022年10月6日(木)大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
  • 2022年10月11日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールC

プロフィール

古内東子(フルウチトウコ)

1972年生まれ、東京都出身の女性シンガーソングライター。高校生の頃に姉のDX7を使用して作曲を始め、レコード会社に送ったデモテープがきっかけとなり、1993年2月にシングル「はやくいそいで」でデビューを果たす。1995年にリリースしたシングル「誰より好きなのに」がヒットし、同曲を収録したアルバム「Hourglass」もロングヒット。恋心を鮮烈に歌い上げた都会的なナンバーで多くの女性の共感を呼んでいる。2022年2月にデビュー30周年イヤーを迎え、3年4カ月ぶりのアルバム「体温、鼓動」を発表。4月には同アルバムのアナログ盤をリリースする。

横山剣(ヨコヤマケン)

1960年生まれ、神奈川県出身。1997年に自身がボーカルを務めるクレイジーケンバンドを結成し、翌1998年にアルバム「PUNCH! PUNCH! PUNCH!」でデビューを果たした。2002年発表のシングル「GT」が話題を呼び、ロック、ポップス、ファンク、ブルースといったさまざまなジャンルを取り入れた音楽で多くのリスナーに愛される。2020年10月に20thアルバム「NOW」、2021年8月にCKB初のカバーアルバム「好きなんだよ」を発表した。