「PSYCHO」で歌う“本当の私”
──「Your Love」からの流れで「PSYCHO」を聴くと、「PSYCHO」という曲が持つ強さのようなものがより際立って伝わってきました。これはあくまで私自身の受け止め方なのですが、シングルとしてリリースされた際に聴いたときは、いい意味でFurui Rihoっぽい曲だなと思ったんです。つまり「本当の私って何なんだろう?」と自問自答する、これまでFuruiさんが描いてきた一連の流れにあるものだと。
ああ、そうですね。
──だけどこのアルバムに収録されることによって、“私”が相対化されているというか、悩んでいる“私”も、他人のことを気にしてしまう“私”も、「私は私だ」だと振り切ろうとする“私”も全部が等しく“私”なんだと認められている。そのうえで「PSYCHO」というタイトルがものすごくシニカルに客観視しているように思えたんです。
確かにそうかもしれないですね。この曲を作っていた時期はもう私が何をすべきかっていうのはわかったうえで、ステージが怖いとか締め切りは待ってくれないとか言っていた感じで(笑)。だから最後の最後で「“PSYCHO” ここに本当のアタシ…」と歌っているんです。
──なるほど。全部自分だと。
はい。なんだか面白いですね、こんなふうに分析してもらえるっていうのも(笑)。
北海道と東京、どちらも大切な場所
──7曲目に収録されている「Friends(Album ver.)」は、Furuiさんの地元である北海道のテレビ局・HTBのドラマ「弁当屋さんのおもてなし」の主題歌のアルバムバージョンということですが、本作に収録するにあたりどうアレンジしたのでしょうか?
そもそもドラマ主題歌のお話をいただいたときは、北海道の光景とドラマのストーリーを重ね合わせるように仕上げていったんです。でも、アルバムに入れるとなると、この曲だけ少し異質な見え方になりそうな感じがしたんですよね。東京の街並みから突然、北海道の自然豊かな光景に切り替わっちゃうみたいな。でも私にとってはどちらも大切な場所で、東京はお仕事のメインの場所だし、北海道は生まれ育った場所で今も住んでいるところなので、どちらかのイメージに寄せていくというよりも、いい具合に原曲のムードを残しつつほかの曲に馴染ませていく、という方向性でアレンジしました。もともとのフォーキーな温かさに、ちょっとリッチな要素をプラスしていくという感じで。
──「Friends」の次に「We are」という流れもいいですね。曲調は違いますけどメッセージが通底していて。
ちなみに「We are」は「Your Love」の兄弟なんですよ。
──それは音楽的にということですか?
はい。2019年にSayoさんが「Your Love」の原型を作ってくれたと話しましたけど、その原型を変化させたのが「We are」で、原型に忠実なのが「Your Love」なんです。
──なるほど。確かに、どちらもゴスペルがルーツの曲でもありますもんね。
そうなんですよ。コード感も一緒だったりします。
飛行機の中、1人で泣いた「SAPPORO TOKYO」
──そしてアルバムの最後に収録されているのが「SAPPORO TOKYO」です。ドキュメンタリータッチの曲で、少しオルタナティブR&Bっぽい雰囲気がありますね。
そうですね。けっこう変わった感じというか、メロディを乗せるのが難しかったですね。最初はA.G.Oくんと「最近どんな曲聴いてますか?」みたいな普通の会話からやりとりを始めて(笑)。だんだんと「こういう感じがいいかも」というイメージと方向性が見えてきて、上がったトラックを聴いたら「めっちゃいい!」となって、そこにメロディを乗せて歌詞を入れてという流れでした。
──通常通りの感じで(笑)。
はい、通常通りのやつです(笑)。
──A.G.Oさんには歌詞のテーマは伝えなかったんですか?
はい。上がってきたトラックが少しノスタルジックな雰囲気だったので、前からテーマとしてストックしていたものを、このトラックならハマるかもしれないと思って歌詞に仕上げていきました。この曲の歌詞は飛行機の中で書いたんです。飛行機で移動するというのが曲のテーマでもあったので。サビに出てくる「123」とか「ABC」という言葉は飛行機の座席のことなんですよ。
──ああ、なるほど。
飛行機の中だと集中できるので、よく歌詞を書いてるんですけど、いい歌詞が書けたときは涙が出てくるんです。だからこの曲を書けたときは飛行機の中で1人「いい歌詞ができた!」って泣いていました(笑)。しかもテーマがテーマだったので、リアルに今までのことを思い出してしまって。
──上京ソングは世の中にたくさんありますけど、行ったり来たりする曲ってないですよね(笑)。
確かに(笑)。タイトルは「SAPPORO」だけにすればよかったかなと思ったりもしたんですけどね。「SAPPORO」って海外の人もわかる地名なので。
──でも「SAPPORO TOKYO」と並列にされることで、2つの場所を行ったり来たりしながら活動しているFuruiさんの状況がわかるし、何より飛行機の便名っぽくていいじゃないですか(笑)。
ホントだ! そこは意識してなかった(笑)。
作詞へのこだわりと思い
──Furuiさんの作詞に対するこだわりや考え方についてもお伺いできれば。先ほどトラック、メロディ、歌詞という順番で作業を進めるというお話がありましたけど、歌詞はトラック、あるいはメロディから連想されることが多いんですか?
絶対にそうだというわけでもないんですけど、トラックを聴くとどうしてもメロディを作りたくなっちゃうんです。一番いいのは歌詞があって、それとともにメロディをトラックに乗せていくというやり方で、そのほうが強度のある言葉になってリスナーに伝わりやすいんですよ。それはわかっているんですけど、「メロディを作りたい!」という私の抑えきれない欲望があって(笑)。あとメロディから先に作ると、曲として聴きやすいものにはなるんですよね。おそらくほとんどのアーティストの方がメロディが先だと思うんですけど、やっぱりメロディって存在自体が強いので、まずはそのクオリティにこだわらないと、いい曲は作れないというのもあります。
──「SAPPORO TOKYO」の例でいくと、まず書きたいテーマがあったとおっしゃっていましたよね。
はい。
──ということは、テーマがあったうえでトラックに合わせて先にメロディを作り、そこに歌詞を乗せていく。こう言うとなんですけど、ひと手間多くかけている感じがします(笑)。
そうなんですよ(笑)。だから時間がかかっちゃうんですよね。書きたいテーマがすでにあるなら歌詞もメロディも一緒に作ればいいんですけど、どうしてもトラックを聴いたらメロディにいきたくなっちゃうという。でもそれも良し悪しで、先にメロディを作ったからこそ出てくる言葉も確実にある。「SAPPORO TOKYO」で言えば、メロディを作っている段階で「カッコいいもんじゃないな」という言葉が出てきたんです。で、それが飛行機で行ったり来たりしている、というテーマの中にきちんと落とし込まれていく。運命を感じる瞬間っていうか。
──なるほど。Furuiさんは、三浦大知さんの最新アルバム「OVER」の収録曲「Everything I Am feat. Furui Riho」で歌詞を共作されていますよね。誰かと作っていく場合は、また全然違う意識で歌詞を書いている?
より作家脳になって、「三浦さんはこの曲に何を求めているんだろう?」という意識が加わりますね。だから自分のエゴをどこまで抑えられるか、あるいは自分のエゴをどう出していくかを考えます。
──共作する場合でも、表現者としてのエゴはなくしてはいけないものですもんね。
はい。
──そのエゴが、例えば最初から「誰かを感動させよう」「元気付けよう」という方向に作用したものと、あくまで自身の体験や感情をもとに書かれた歌とでは届く深さに違いがあるような気がするんです。つまり、このインタビューの冒頭にFuruiさんが話してくれた残り20%の余裕という部分につながってくるんですけど、後者の場合は受け取った側、リスナーの自由がありますよね。「この人もこう思ってるんだ」とか「この人はこんなふうに感じているんだ」って。
「これはこうなんだ」と押し付けることは絶対にしたくないですね。やっぱり主体が自分にあるべきというか、「自分はこう思っています。だけどあなたはどうですか?」とか「自分はこんな経験をしました。あなたもこんな経験をしたことがありますか?」とか、常に相手の考えを聞くスタンスで曲は作りたいと思っています。
変化の途中をパッケージしたアルバム
──改めて、Furuiさんにとって「Love One Another」はどういうアルバムになりましたか?
変化の過程をきちんとパッケージできたなと思います。言葉を選ばずに言えば、私の未完成な部分も入った作品になったと思っていて。「LOA」「Your Love」あたりは特に次のフェーズでやっていきたいことに挑戦した曲だったりするんです。だからこのアルバムを起点に「これからどんどん『Love One Another』というテーマを深めていくよ」という宣言ができたと思っています。やっぱり今まで以上に愛が必要だと思うんですよね。自分の音楽に関しても、スキルよりもホスピタリティというか、心の部分をより大切にしたものをやっていきたいですね。
──5月にはFuruiさんにとって過去最大キャパとなるEX THEATER ROPPONGI公演を含むライブツアーが始まります。
だんだんとチームの絆も深まっているので、よりいいものをお見せできるんじゃないかなと思います。まだまだ自分の理想のライブはできていないけど、もっとよくなると思っているので、その理想に向けて1歩ずつ近付いていきたいと思います。次のツアーではライブアレンジももっと踏み込んでやろうと思っているので、楽しみにしていてください。
ライブ情報
Furui Riho Live Tour 2024 -Love One Another-
- 2024年5月3日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2024年5月5日(日)大阪府 Music Club JANUS
- 2024年5月15日(水)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2024年5月26日(日)愛知県 ell.FITS ALL
- 2024年6月7日(金)東京都 EX THEATER ROPPONGI
プロフィール
Furui Riho(フルイリホ)
幼少期から続けたゴスペルクワイアでの活動をルーツに作詞作曲のみならず、ときには編曲にも携わる北海道出身のシンガーソングライター。aoをはじめアーティストへの楽曲提供も行うなど作曲家 / プロデューサーとしての顔も持ち合わせている。ユーモアに富んだリアルな歌詞、細部までこだわったグルーヴで人気を集める。大学時代に活動をスタートさせ、2019年に初の配信シングル「Rebirth」をリリース。2022年には「Rebirth」以降の活動の集大成となる1stアルバム「Green Light」を発表した。2024年4月に2ndアルバム「Love One Another」をポニーキャニオンからリリース。5月からは過去最大キャパとなる東京・EX THEATER ROPPONGI公演を含む全国5都市ツアー「Furui Riho Live Tour 2024 -Love One Another-」を開催する。