音楽ナタリー PowerPush - 藤巻亮太

ソロとしての覚悟を決めた「ing」

節目節目で自分の原点に戻る必要がある

──このタイミングでレーベルを移籍したという環境の変化も大きいですよね。

藤巻亮太

この2年間いろんなことを考えていく中で、レミオロメンをやるのかソロをやるのかっていうことにかなり悩んだし、ここからソロをやるならやるで気持ちをリセットする必要があって。ソロをやろうという覚悟が決まった段階でOORONG RECORDSをやめてSPEEDSTAR RECORDSに移籍するという選択をしました。SPEEDSTARはレミオロメンが新人のときにお世話になったレーベルだし。

──古巣に戻ったとも言える。

そう。移籍して僕自身ももう一度リスナー1人ひとりに丁寧に音楽を伝える大切さをしっかり考えてやっていかなきゃいけないし、それを一緒にやれるパートナーとしてSPEEDSTARがふさわしいと思って。

──「ing」はギター1本の弾き語りでも機能するほどシンプルで、ストレートで、力強い曲です。歌詞の言葉数が多いのも印象的で。先ほどから藤巻さんが言ってる「自分を丸ごと音楽にしていく」という姿勢がここに表れていると思うし。

そうですね。この曲が一番最近できた曲で。僕の中で移籍もそうだし、「オオカミ青年」のリリースから2年も空いたっていうことも含めて、自分がどういう思いでまたソロをやろうとしているのかという意思を伝える曲を聴いてもらわなければ意味がないなと思って。最終的にはリスナー1人ひとりがこの曲を自分の歌にしてくれるのが一番うれしいんですけど、その前の段階で1人のシンガーソングライターとして原点に返る必要があったんです。それは何かと言うと、そもそも僕が歌を作るというのは、自分を歌うという行為から始まったんですよね。自分を歌うことで癒されたという経験から始まった。僕が音楽に魅せられた根底にあるものってそこなんですよ。自分で歌を作り始めた19、20歳くらいのときはなかなか自分の人生を受け入れられなかったし、いろんな部分で中途半端だった。でも、歌を1曲作ったときに自分の人生を少し肯定できたんですよね。そのときに「ああ、音楽ってすごい力があるんだな」って思ったから。そこからバンドを組んで、活動のスケールがどんどん大きくなって、いつの間にか自分の歌というものが「僕の世界」から「僕らの世界」になっていって。レミオロメンのときも節目節目で自分の原点に立ち返るタイミングがあって、そういう歌を作ってきたんだけど、今回もこのタイミングでまた自分の原点に戻る必要があったんです。

──原点に戻って今と未来を歌うという。だからこその「ing」であり。

人がホントの意味で前に進むというのは、自分の気持ちや思いや現状をちゃんと受け入れたときにできることであって。まさにそれが「ing」に込めた思いなんですけど。例えば、やっぱり夜は暗いじゃないですか。「夜は暗くなんかない!」って思ってるうちは絶対に夜の闇に怯えてるわけで。冬は寒いけど、「寒くない!」って強がってるうちはその寒さに苦しめられてる証拠でもあるから。でも、そこで「夜は暗いし、冬は寒いもんだよね」って受け入れられたから、人間は「火を灯そう」とか「暖を取ろう」って次のプロセスに向かうことができた。それこそがホントの意味で前に進むってことだと思うんですよ。だから、現状をありのままに受け入れることってすごく大事だなって思う。僕自身も──2年もかかったけど──レミオロメンのこと、ソロのこと、自分が音楽をやっていくことを受け入れることで見えてきた世界があったから、この2年間で見えてきたことをちゃんと歌おうって思ったんです。リスナーにとっては、歌詞の「今年はどんな1年だったかな」っていう部分はそれぞれの思いで聴いてもらえばいいんですけど。だけど、その前に自分の根底を込めなきゃという思いがとにかく強かったですね。

ありがとうの気持ちしかない

藤巻亮太

──このシングルはカップリングの「アメンボ」も「Happy Birthday」も最終的にはラブソングとして帰結していると思うんですね。そういう意味でも「ing」の歌詞のラストラインで「I love you」と歌えてる意味はすごく大きいんじゃないかと思っていて。

ホントに1人になってみて人のありがたさを身に沁みて感じてるから。周りにいる人たち、リスナー、ライブに来てくれる人たちに対しては「ありがとう」という気持ちしかないんですよね。だから特定の君というよりも、もっと広い意味で「I love you」という言葉が自然と出てきて。自分の音楽で誰かの心に傘をさすことができるならさしたいなって素直に思えたし。人が生きていく中で時間はどんどん流れていくし、他者との関係性も流れていってどこかで消耗するじゃないですか。人と関わっている以上はプラスのことももちろんたくさんあるけど、やっぱり疲れてしまうこともたくさんあって。でもそこに音楽が心の傘になって寄り添えることができたらいいと改めて思ったし、そういう歌を作ることが自分の仕事だと思ったんですよね。これからはそういう活動を常に心がけないといけないなって。この2年間はリリースがなかったから表立った活動はしてなかったんですけど、弾き語りライブで各地を回ったときに歌える喜び、そして、それ以上にそこにお客さんが来てくれる喜びをすごく感じて。やっぱり自分は応援してくれる人たちがいて成り立ってるということを強く実感したんです。これからその感謝をもっともっと音楽で返していかなきゃいけないという使命感にかられたし。ホントに「オオカミ青年」以降は空っぽの状態でもあったので。でも、そこから自分が音楽をやっていくことを受け入れて、歌を作って、循環していくことの大切さに改めて気付けたのは大きかったです。音楽ってやっぱり人に聴いてもらって、循環して育っていくもので。ソロ第2章の始まりを、そういう思いをすべて注ぐことができたこの「ing」という曲で始められてよかったなと思います。この曲を作れたことでちゃんと2015年に進めると思う。

──もちろん、ニューアルバムの制作も見据えているだろうし。

そうですね。2015年はアルバムを作ろうと思ってるし、ツアーを回ろうとも思ってます。「あ、藤巻亮太はちゃんと動いてるな」って感じてもらえるようにがんばっていきたいと思います。

ニューシングル「ing」2014年12月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
初回限定盤[CD+DVD]1944円 / VIZL-771
通常盤[CD]1296円 / VICL-37001
CD収録曲
  1. ing
  2. アメンボ
  3. Happy Birthday
  4. ing~エレキ語りver.~(初回限定盤のみ)
初回限定盤DVD収録内容
  • ing [MUSIC VIDEO]
藤巻亮太(フジマキリョウタ)

2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲群が多くのファンからの支持を集める。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。同年8月に2ndシングル「月食 / Beautiful day」、10月に1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表し、2013年1月から初のワンマン全国ツアーを開催した。2014年12月17日に3rdシングル「ing」をリリース。