藤井隆「Music Restaurant Royal Host」インタビュー|多彩な料理人と豊富なメニューが自慢の“ミュージックレストラン”完成 (2/2)

“他人が思い描く僕”を似合わせたかった

──アルバムとしてはどういうものを作ろうとしていたんですか?

まず、人様が思い描く自分はどういう姿なんだろうということに興味があって。例えば舞台「ゲゲゲの鬼太郎」のねずみ男役を引き受けたとき、明治座の人に「このたびは引き受けてくださってありがとうございます。ねずみ男ってお金に汚くてズルくてお風呂に300年入ってない男なんですけど、藤井さんにピッタリだと思って」と言われて「は?」となったんですけど(笑)。

──「そこが?」って(笑)。

自分が思いも寄らないものをピッタリだと言う人もいるんですよね。例えば美容師さんは、お客さんに「こういう髪型にしたいです」と言われたら、それが似合わなくても似合うように合わせてくれるでしょ。それと一緒で、ほかの人の提案に自分で似合わせていくことがしたかったんです。だから詞が書きたいとか曲を作りたいとか全然思わなかったですし、ホントの自分を知ってほしいみたいな欲求もまったくなかったですね。自分の好きなことややりたいことは、これまでの自分の作品やプロデュース作品で存分にやれたので、“他人が思い描く僕”というのをやってみたいと思ったんです。

藤井隆

藤井隆

──これまでの藤井さんって、自分のことを徹底的にコントロールするタイプだったと思うんですよ。

コロナ禍に見舞われたこの2、3年で、考え方を変えなきゃやっていけないという意識が芽生えたのかもしれません。舞台もコンサートも「できません」だったら仕方ないんですけど、「いらない」と言われた気がしたから。

──いざというとき、生活に真っ先に必要なものではないと。

はい。それは震災のときにも経験していて、重々承知のうえでやってきたつもりだったんですけど、ちょっとガタンと落ち込んだんですよね。そのときに考え方を変えようと思いました。

──それこそ「新婚さんいらっしゃい!」の新MCも、誰かに求められたことにちゃんと応えてみようという意思だったんでしょうか。

「新婚さんいらっしゃい!」は、50何年続いてる番組を終わらせずにMCを替えるという選択をした朝日放送さんにビックリしたので、それに乗っからせていただいたという感じです。自分からやりたいと手を挙げたわけではないので、プレッシャーに感じるのもおこがましいというか。僕でいいならスタッフの方がやりたいことを全部やらせてくださいとなりました。今は始まる前になんの打ち合わせもしてないですけど、コロナ前なら「細かく打ち合わせしましょう」とか「これってどうなんですか?」とか言っていたかもしれませんね。それはコロナ以降に生まれた考え方の1つかも。

結局僕はロイヤルグループがめちゃくちゃ好き

──だからこそ、今回のアルバムはこういうわかりやすくインパクトのあるジャケになったんだろうし。

そうかもしれません。「ロミオ道行」(2002年2月発売の1stアルバム)や「絶望グッドバイ」(2001年12月発売の3rdシングル)のジャケットでは自分の顔を出していなかったんですけど、仲のいい人には「写真を使ってもらってないやん!」と言われたり。CM集でも自分は出たくないと言って、「あんたが出てへんって意味わからん」とスタッフの人に注意されたり。つい自分不在にしがちだったんですけど、今回はロイヤルホストの存在があまりに大きいので、自分がやりたい、オニオングラタンスープを2つ持ちたいと思いましたね。

──ジャケが最高のバランスなんですよ。ちゃんと藤井さんらしさが出つつ、顔も出し、おかしな感じも出ていて。

吉田豪

吉田豪

ロイヤルホストさんはよく許してくださったなと思います。実はロイヤルホストツアーもやらせていただくんですよ。

──どういうことですか?

全国のロイヤルホストの店舗で2時間店長とか、あと給仕する方を「スター」というんですけど、2時間スターとか。CDを購入した方に集まっていただいて、僕がロイヤルホストの店員としてお客様と触れ合うというツアーをやらせてもらうんです。

──めちゃくちゃいいですね、それ。

そうなんですよ。こんなことよう許してくださったなと思うんです。東京に住むようになってからシズラーがすごく好きになって。シズラーがロイヤルホストのグループだということはあとで知るんですけど、何かの番組でシズラーにロケも行かせていただいて。その放送でシズラーのサーバーがパンクしたんですって。なのでロイヤルホストの社長さんに「このアイデアをやらせてください」と最初にご相談したとき、「シズラーじゃなくていいんですか?」と言われて。

──ダハハハハ! まあ、その二択ではあったわけですよね。

そうなんです。あと「天丼てんや」もめっちゃ好きなんですけど、てんやもロイヤルグループなんですよ。結局僕はロイヤルグループがめちゃくちゃ好きだとわかったんです。ロイヤルグループが醸し出す明るさと品とユーモアに憧れているんだと思います。

左から藤井隆、吉田豪。

左から藤井隆、吉田豪。

左から藤井隆、吉田豪。

左から藤井隆、吉田豪。

太陽が今田さんで、月明かりが東野さん

──今回のアルバムには、今まで絡んでこなかった人たちを積極的に迎え入れようという考えもあったんですか?

そうですね。共同プロデュースをお願いしてる高村(佳典)さんと打ち合わせをしているときに「ケンモチヒデフミさんに頼んでみません?」と提案があったり。ケンモチさんにも楽曲提供をお願いするときに「いいと思うものをください」と言ったんですけど、「とはいえどういうのが好きですか?」と聞いてくださったので、「津軽三味線を入れたいんです」とご相談したんです。実は「SLENDERIE ideal」をリリースしたときにライナーノーツを東野(幸治)さんに書いていただいて。そこに「津軽(三味線)をSLENDERIEでやらせてください」みたいなことを書いてくださっていたので、冗談でも東野さんがそこまで言ってくださるのはありがたいなと思って、今回演奏をオファーしたんです。僕が東京で仕事を始めたときは、東野さんと今田(耕司)さんのバーターに次ぐバーターというところからスタートしたので。

──最初はそんなにバーターが多かったんですね。

そうです。僕にとって太陽みたいな明るい感じが今田さんで、月明かりが東野さんというイメージだったので、この曲のタイトルを「ムーンライトアドバイス」にしてくださったんだと思います。

──そういうことだったんですか!

今田さんは「あれ面白かったね」とか「タカスィーと一緒におったら楽しいわー」といつも褒めてくださって、僕がフルエンジンでベストを尽くせる言葉を言ってくれるシャイニングスターなんです。東野さんは自分が面白いと思っていた番組が終わるときに「残念やな。あれ、藤井くんらしかったのにな」と言ってくださったり、「あれあかんで」と注意してくださったり、確実にお告げというか、「ああしたらいいんじゃないの?」と導くような言葉をくれます。年末に生放送の特番でご一緒して、ごはんに連れて行っていただいたときに「来年どうしたいの?」と聞かれたので、「原稿読みがしたいんですよ」と言ったら、「君は変わってるな。普通芸人はカンペを出されてもその通りにやりたくないから違うことをやるのに、なんで君は原稿を読みたいの?」って。

──“原稿読み”ってなんですか?

吉本のニュースを扱う番組をやりたかったんですよ。「この人の楽屋でこんなことがあった」とか「楽屋泥棒が出た」とか、スポーツコーナーがあったり……と説明したら東野さんは「そんなのCSでやったらええやん」とアドバイスしてくださって。そのおかげで「ヨシモト4WEEKS NOW」(2008年から2011年までヨシモトファンダンゴTV、Yahoo!動画、GYAO!にて放送・配信されたニュースバラエティ)をやることができました。この番組以降、自分のバラエティのやり方が変わったので、東野さんのアドバイスは本当に大きかったですね。

──まさに「ムーンライトアドバイス」だった。

はい。最初、東野さんのクレジット表記は津軽三味線から取って「tsugaru」にしようとしたんですけど、ご本人に確認したら、「いやいや、津軽なんてとんでもない。その手前の盛岡で」とおっしゃったので「morioka」になりました。

──そういうことなんですか。この「津軽三味線:morioka」という謎クレジットはなんなんだろうと思っていました。

めちゃくちゃお世話になってる先輩の1人なので、こういう形でご一緒できたのはうれしいです。

──東野さんは不思議と信用できる人ですよね。

そうですね。東野さんには昔から「君は変わってる」とずっと言われてきたんですけど、僕はそれが理解できなかったんです。自分が変わってると思っていなかったので。でも今となっては、そう言ってくださってた理由がわかります。自分がまだ20代だった頃によく見てくださっていたんだなと感謝しています。

──藤井さんは変わっていることへの自覚のなさがすごいんですよ。

椿(鬼奴)さんに「変わってますよ」と言われると、「絶対に椿さんのほうが変わってます!」といつもケンカになるんです(笑)。RGさんも「藤井さん変わってるから」って言うんですけど、お二人は“変わってる”の質が違うと思うんですよ。椿さんとRGさんはエンタメの“変わってる”だから憧れるんですけど、僕の“変わってる”はたぶんちょっと違うじゃないですか。

──もっと静かに狂ってるというか。

サイコ的なことでしょ? 昔、東野さんにすっごい「サイコ」って言われてたんですけど、絶対ちゃうわ!と思っています。「ムーンライトアドバイス」の最初の歌詞は、僕が話した東野さんへの思いをケンモチさんがラブソングみたいにまとめてくださったんですけど、「いや違うんです!」と訂正して、ピラミッドの話にしてもらいました。

──東野さんへのラブソングに東野さんが三味線を入れている曲なんですね!

BL感をつま弾いてほしいということになりますね(笑)。それは冗談ですけど、今田さんと東野さんは本当に大好きなお二人なんです。今田さんの「ナウロマンティック」が僕の中ですごく大きいので、ああいう歌をいつかやりたいと思っています。

藤井隆

藤井隆

人様がやってくださることを信じようとつくづく

──砂原良徳さんの「Chocolate」はちょっと意外でした。

まりんさんは何年か前に「加賀温泉郷フェス」に出たときに、終わってから飲みましょうとなったんです。TOWA TEIさんや野宮真貴さんもいらっしゃって、なんちゅうとこやねんと思って。そのときにm.c.A・Tさんがいてくださって助かったんですよ。

──A・Tさん最高ですね。

大好き、A・Tさん! ずっとしゃべってくださって助かるわーと思って、ますます好きになりました。そのときまりんさんとは二言三言しかしゃべってないんですけど、すごく優しくしてくださったんですよ。それでダメ元でお願いしてみたら引き受けてくださって。詞はYOUさんにお願いしようと最初から決めていたのですが、制作を進めるうちにどうやら洋楽っぽい曲だからもっと英語の歌詞があったほうがいいかもとなって。「英語わかんなーい」というYOUさんと一緒にLEO(今井)さんが考えてくれました。仮歌もLEOさんに歌っていただいたんですが、めちゃくちゃカッコいいんですよ! このままSLENDERIEから出させてくださいという感じでした。

──それくらいお任せしてたんですね。

そうです。特にMoe Shopさんはすがすがしかったですよ。何も聞かれなかったし、お会いしてもいないし、文章だけのやりとりでしたけど、Moeさんとチームの方がめちゃくちゃ僕のこと考えてくださったんやろなと思うんですよ。「うちのリビングで踊ろう、この時間が楽しいよね」という歌詞は自分では書くことはできないけど、そういうふうに思ってくださっているのが本当にうれしかったです。

──今年50歳になった人のアルバムじゃないですよね。

ハハハハハハ! そうですね。でもそれは高村さんのおかげです。新しいことをしたほうがいいということでいろんな人を教えてくださって。前だったら全部自分で作っていたと思うんですけど、人様がやってくださることを信じようとつくづく思いました。舞台の仕事はそう思ってやってるんですよ。舞台は演出家さんのものだし、役作りなんて自分が考えるより衣装さんやメイクさんが考えてくださったものを身に付けてみたほうがよっぽど早かったりするし。

──音楽は別ですもんね。ましてや自分でレーベルをやっているとなおさら。

「全部自分で!」となっちゃうので。しかもプロデュースした後藤(輝基)くんのカバーアルバム「マカロワ」(参照:後藤輝基が藤井隆のムチャぶりに乗っかったカバーアルバム「マカロワ」発表)と同時進行だったので、後藤くんのことばっかり考えて自分のことを後回しにしていたら高村さんに「後回しにしないで」と言われたときもありました。

──「マカロワ」の「藤井隆仮歌集」(タワーレコード限定特典)も最高でしたよ。

ありがとうございます。後藤くんには忙しい中5曲も歌ってもらうから、原曲のYouTubeを貼りつけて「これ聴いといて」は失礼やなと思って。しかも女性の歌が多くて、女性ボーカルで聴くとそっちに引っ張られる可能性があるから、癖のない僕が男のキーで歌うとこうなりますというのをただ届けたかっただけなんです。それを特典にするなんてほかの人だったら許してくれないけど、後藤くんなら許してくれるかなと思って。後藤くんでよかったです。自分のアルバムを出さなかった5年の間に状況もシステムも変わって、ますます「盤はいらん」と言われるようになりましたけど、僕はこれからもCDというものをあきらめずにがんばりたいんです。Spotifyのおかげで配信の楽しさも知りましたし、僕の曲だってまったく知らない10代の子が何かのきっかけに聴いて、いいと思ってくれたらホントにうれしい。でもやっぱり鈴木京香さんの「dress-ing」(2019年2月にSLENDERIE RECORDからリリースされた藤井隆プロデュースシングル。参照:鈴木京香「dress-ing」特集 藤井隆インタビュー)は写真集とセットで出したかったし。最後の悪あがきかもしれないですけど、これから少しでも多くの方にCD作品を届けられるように、リクープラインを超えるようにして続けたいです。

左から藤井隆、吉田豪。

左から藤井隆、吉田豪。

ツアー情報

Music Restaurant Royal Host Release Tour 2022

  • 2022年10月1日(土)北海道 Sound Lab mole
    <出演者>
    藤井隆 / 後藤輝基 / パソコン⾳楽クラブ
  • 2022年10月9日(日)京都府 METRO
    <出演者>
    藤井隆 / パソコン音楽クラブ
  • 2022年10月15日(土)福岡県 LIVE HOUSE evoL
    <出演者>
    藤井隆 / 後藤輝基 / パソコン⾳楽クラブ
  • 2022年10月22日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
    <出演者>
    藤井隆 / 後藤輝基 / パソコン⾳楽クラブ
  • 2022年10月23日(日)大阪府 SUNHALL
    <出演者>
    藤井隆 / パソコン音楽クラブ
  • 2022年10月29日(土)宮城県 誰も知らない劇場
    <出演者>
    藤井隆 / パソコン音楽クラブ
  • 2022年11月6日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
    <出演者>
    藤井隆 / KAKKO(鈴⽊杏樹)/ 堀込泰⾏ / パソコン⾳楽クラブ / DJ ケンモチヒデフミ

イベント情報

「Music Restaurant Royal Host」 発売記念インストアイベント

  • 2022年9月30日(金)札幌市内のロイヤルホスト
  • 2022年10月14日(金)福岡市内のロイヤルホスト
  • 2022年10月18日(火)大阪市内のロイヤルホスト
  • 2022年10月21日(金)岡山市内のロイヤルホスト
  • 2022年10月28日(金)仙台市内のロイヤルホスト

プロフィール

藤井隆(フジイタカシ)

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業に所属。2000年にはシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場した。シングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりにアーティスト活動を再開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」を主宰レーベル・SLENDERIE RECORDから発表した。同レーベルでは自身の作品のほか早見優「Delicacy of Love」、レイザーラモンRG「いただきます」、椿鬼奴「IVKI」、鈴木京香「dress-ing」、伊礼彼方「Elegante」といった他アーティストの作品もリリース。2020年10月に藤井自身が楽曲セレクト、トラックメイカーの選定、アートワークなど全面プロデュースを手がけたオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」を発売した。同じく藤井が全面プロデュースした、フットボールアワー・後藤輝基によるカバーアルバム「マカロワ」を2022年5月にリリース。同年9月に自身5年ぶりのオリジナルアルバム「Music Restaurant Royal Host」をリリースした。