ナタリー PowerPush - フジファブリック
キーパーソン3組とメンバー3人が語る アルバム「STAR」完成への道のり
音楽を作る原動力は、去年から既にあふれ出ていた
──「フジフジ富士Q」のステージでバンド活動続行を宣言してから1年2カ月。志村くんが遺したデモをもとに作り上げた前作「MUSIC」から、オリジナルの12曲で構成された新作アルバム「STAR」へ。その歩みが確かであったことがひしひしと伝わってくる素晴らしい作品だと思いました。
山内総一郎(Vo, G) 去年の後半は、金澤くんがアジカン、僕が斉藤和義さんやくるりのツアーにサポートで参加したこともあって、「フジファブリックとして」とか「すぐにアルバムを」ということよりも、この3人で音楽をやっていこうという気持ちがまず強かったんです。ただ、活動していくにあたっては曲が必要なので「3人それぞれの気持ちを音楽に落とし込んでスタジオで曲を作り始めよう」って話し合って、去年の10月あたりからその作業をスタートさせたんです。そこでは気持ちを表現することを念頭に置きつつ、音楽をやって生きていくわけですから、楽しいことだけをやりたかった。と同時に、この1年2カ月は自分が本当にやりたい音楽を見つめ直す時間でもあったと思います。
──活動を再開するにあたって、3人の間ではどんなことを話し合われたんですか?
加藤慎一(B) 一言でいえば「後ろ向きじゃないことをやりたいね」ということ。そういう共通認識のもと、生まれてくるものは自然と前を向いたものが多くなりましたね。
山内 曲作りに関しては、志村くんとバンドをやってきた経験が3人には染み付いているわけですから、そのまま取り組めばいいんだろうなと思っていましたし、逃避しているわけではないんですけど、志村くんがいなくなった実感がないというか、常に彼がそこにいるような感覚があったんですよね。だから、彼のことを強く意識して曲を書くことはなかったにせよ、「志村くんだったらどう思うだろう?」ってことを考えることはありました。ただ、彼は僕らにとってもつかめない人間だったので(笑)、彼の立場で曲を書くことはできませんし、「音楽で何を表現したいか? バンドで何を提示したいか?」という問いに対しては、自分たちの中から出てきたものでなければ、答えることができないんですよね。だから、曲作りはひたすら自分を掘り下げていくという作業でした。
──そして作った曲をスタジオで合わせてみたわけですね。
山内 はい。「TEENAGER」のレコーディングでスウェーデンに行ったときの通訳さんの旦那さんでフレドリックというドラマーがいて、彼と僕ら3人でまずはスタジオに入ったんです。そこで合わせたのは「MUSIC」を作る前、志村くんを含めた4人での“デモ聴き会”に僕が持っていった「君は炎天下」、それから去年できた「ECHO」という2曲ですね。ただし、その時点でボーカルを誰が担当するかは決まっていなかったので、「とりあえずは曲を書いた人が歌うことにしよう」ということで、その2曲を書いた僕が歌いました。
加藤 10月のリハーサルのあと、「CHRONICLE」からドラムを叩いてもらっている刄田(綴色)さんを交えて12月にも音を出してみて、「これは何かできそうだな」っていう手応えがあったんですよね。音楽を作る上での原動力が残っていたというより、もう既にあふれ出ていたというか。そのことが確認できて、安心感を抱いたことをよく覚えていますね。
山内 僕は参加したくるりや斉藤和義さんのツアーで、それぞれにものすごいバンド感とそこから生まれるパワーを感じたし、そこに混じることで自分の中から引き出してもらったものがたくさんあったんです。そして自分たちがやってきたことを振り返ったとき、そういう独特なバンド感や雰囲気がフジファブリックにもあるんだなと思ったんですよね。実際、今回のレコーディングでは、作るに当たっての話し合いはいろいろしましたけど、音楽に対する探求心や愛情、ムード……そういういろんなものを3人が共有していたこともあって、作業では言葉を交わすことが少なかったし、作業もスムーズだった。そして、パッと出てきたサウンドに自信を持っていいんだなと思ったんですよね。
「立ち止まっていては何もできない」という思いから歌詞が生まれた
──ただ、サウンド面はともかく、アルバム1枚のまとまった作詞は3人とも今回が初めてですよね?
山内 かつては志村くんが一手に引き受けていたこともあって、確かに今回の作詞は僕ら3人にとって未開の地だったんです。だから、自分たちが書いた歌詞を同じミュージシャンの立場から客観的に見てくれる人にいてほしくて、同じ事務所の真心ブラザーズの桜井(秀俊)さんにその役割をお願いした次第なんです。
──アルバムに歌詞のアドバイザーとして桜井さんがクレジットされているのはそういうことだったんですね。
山内 「再始動したバンドを邪魔してはいけない」とか、「自分が何かを付け加えてはいけない」とか、桜井さん自身が課したそういう制約がたくさんある中で、僕らと顔を合わせてアドバイスしてくださったことは本当にありがたかったです。今回のアルバムは桜井さんがいなければできなかった作品だなとも思いますし、本当に感謝しています。
──中でも「STAR」や「ECHO」、「Drop」といった曲では、そこにいない誰かに思いを馳せながら、歩みを進めていこうという心境がまっすぐな言葉で歌われていますよね。
山内 今挙げていただいた曲は、フジファブリックの活動を通じて実感した「立ち止まっていては何もできない」という思いから生まれたものなんです。ただし、志村くんのことが頭にありつつも、ここでは彼のことだけを歌っているわけではなく、大きな意味での出会いや別れを書いたつもりというか、聴いた人にそれぞれの捉え方で聴いてもらえたらうれしいなって。「ECHO」は「答えはどこにもないんだから……」という思いで歌詞を書いたんですけど、そういう気持ちこそが前に進んでいく原動力というか、それはこのアルバムに一貫して言えることだと思いますね。
──今回歌詞の面では、共作も含めて7曲を手がけている加藤さんが大活躍ですよね。中でも「アイランド」に象徴される情景描写は加藤さんならではというか。
加藤 ありがとうございます。どうやら僕は頭の中に情景が浮かぶような歌詞を書くのが好きみたいですね。その上で山内くんが歌える歌詞になるように考えました。共作した歌詞については、話し合いながら徐々にそのやり方をつかんでいった感じです。
金澤ダイスケ(Key) 僕は今回歌詞を書いてみて、書きたい思いがあっても、それを言葉にするのはこんなに大変なのかと思いましたね。ただ、言葉にもリズムがあるという意味で歌詞とサウンドには共通するものがあると思うんですよ。そして歌詞を書くようになったことで音楽の聴き方も変わってきたし、作業を通じて歌詞を書くことがどんどん面白くなっていった感じです。
山内 歌いたいことっていうのは、曲を作ったときに頭の中にあるものなんですよね。そしてそれを言葉にしてみる。最初は適当なものであったとしても「自分は何が言いたいんだろう?」って掘り下げていくことで、歌詞が形になっていくんですよ。だから気持ちはもちろんのこと、音に触発される部分、その音に含まれたメッセージっていうのも、歌詞を書く上では大切なんだなって思いましたね。
CD収録曲
- Intro
- STAR
- スワン
- ECHO
- 理想型
- Splash!!
- アイランド
- 君は炎天下
- アンダルシア
- Drop
- パレード
- cosmos
初回限定盤DVD収録内容
“STAR” MUSICVIDEO
フジファブリック
志村正彦(Vo, G)を中心に2000年に結成されたロックバンド。都内を拠点に活動を開始し、2002年にミニアルバム「アラカルト」をリリース。そのユニークなサウンドと捻りの利いたアレンジ、志村の綴る独特の歌詞が注目を集める。2004年4月にシングル「桜の季節」でメジャーデビュー。「フジファブリック」「FAB FOX」「TEENAGER」といったアルバムがいずれも高い評価を受け、2009年5月発売の4thアルバム「CHRONICLE」でさらに支持を拡大するも、同年12月24日に志村が急死。バンドは山内総一郎(Vo, G)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(B)の3人でその活動を継続し、2011年9月に新体制で初となるアルバム「STAR」をリリース。
2011年9月21日更新