渕上舞|新しい世界切り開いた両A面シングル

渕上舞が2月5日に両A面シングル「予測不能Days / バレンタイン・ハンター」をリリースする。

このシングルにはテレビアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅」のエンディング主題歌「予測不能Days」と、バレンタインソング「バレンタイン・ハンター」を収録。どちらの曲も渕上自身が作詞を手がけており、「予測不能Days」はさわやかなポップチューン、「バレンタイン・ハンター」は艶やかな歌謡曲テイストの楽曲と、異なる表情を見せている。音楽ナタリーでは渕上に初めてインタビューし、アーティストデビュー以降の変化や、本作の制作過程について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 塚原孝顕

私にはキラキラしたものがない

──渕上さんは1月24日にアーティストデビュー2周年を迎えられますが、この2年間でどのような変化がありましたか?(※インタビューは1月上旬に実施)

主にメンタル的な部分で大きな変化があったと実感していて、アーティスト活動を始めてから自分の世界がすごく広がったんですね。もともと私はインドア派であまり外の世界に興味がないというか、誰かとどこかに遊びに行くどころか、人と会うこと自体を避けてしまうことが多くて。行動として家の外に出るのも、内面の関心を外に向けるのも苦手というか、ときに面倒臭がってしまうタイプの人間なんです。

──そうなんですね。

渕上舞

今も本質的な部分は変わらないんですけど、特に作詞に関わらせてもらうようになってから、自ずと外に目が向くようになったんです。物理的に外に出るのも「面倒臭い」から「ちょっと楽しいな」くらいに思えるようになって、例えば雑誌で見た素敵なカフェに行ってみたりして。その目的はおいしいスイーツだったりするんですけど、カフェにいるときに周りから聞こえてくる他愛のない会話も面白いと感じるようになって。そこから人と会うことにも積極的になり、仲のいい友達をお茶やごはんに誘ったりする機会も徐々に増えていきました。

──作詞のネタ探しをするために外向的になった部分もあると?

そうですね。ただ、それを強いられている感じは全然なくて、自分に負担のないように動けているというのが不思議でもあります。

──渕上さんはデビューアルバム「Fly High Myway!」(2018年1月発売)から収録曲の半分を自ら作詞なさっていますが、それはご自身の希望で?

はい。きっかけはアルバム表題曲の「Fly High Myway!」だったんです。この曲の歌詞はもともと結城アイラさんが書いてくださったんですけど、ものすごく素敵な歌詞だなと思う一方で、ぼんやりと「私じゃないな」と感じてしまい。じゃあ、私らしい歌詞にするには自分で書いたほうがいいのかなと、なんとなくメロディに合わせて歌詞を書いてみて「こっちだとどうですか?」と楽曲会議で提出させてもらったんです。そしたら、アイラさんも「舞ちゃんが書けるんだったら絶対に書いたほうがいい。自分自身のためにもなるし、お客さんもきっと喜ぶから」と背中を押してくださって。

──以降、シングルやミニアルバムでも当たり前のように作詞をしていますね。

やっぱり作詞家さんにいただく歌詞だと、どうしても前向きでキラキラしているものが多い印象なんですね。もちろん、それはそれでとても美しいし、そういう歌も必要だとは思うんですけど、さっきも言ったように私は根がインドア派でネガティブで、おまけに世の中をバカにして生きているようなところもあったりして(笑)。要するに私自身の中にキラキラしたものがないのに、そういう歌を歌うのはおかしいというか、なんの説得力もないじゃないですか。

──「キラキラしたものがない」って言い切りましたね。

ないんですよ、本当に。だからそれよりも、ネガティブでマイナス思考かもしれないけれど、私なりの言葉で歌を届けていきたいなって。そして作詞の回数を重ねるごとに、もしかしたらそのネガティブさを好きになってくれる人や、逆に応援ソングみたいに受け取ってくれる人もいるかもしれないと思うようにもなりました。

曲に合わせて出てきた声が正解

──そもそもアーティストデビューする際はどういうお気持ちだったんですか?

もともと歌は好きだったので、乗り気でしたね。あと、デビューのきっかけが声優活動10周年というのもあって、大げさですけど、「渕上舞として生きてきた証を残したい」という気持ちもありました。

──声優さんがアーティストデビューする場合、それ以前にキャラクターソングを歌われていることが多いですよね。渕上さんもアニメ「ガールズ&パンツァー」の西住みほをはじめ、さまざまなキャラクターとしてキャラソンを歌ってこられました。

はいはい。

──そこから「渕上舞として歌ってください」となったとき、「私の声って?」みたいに悩んだりは?

渕上舞

ああ、悩みましたね。特に、初めて歌ったのが今お話しした「Fly High Myway!」だったんですけど、そのときは「どのトーンで歌おうか?」という戸惑いはありました。でも、その戸惑いをあんまり引きずることはなくて。「一番楽なトーンで歌えばいい」という理解に至るまでそんなに時間はかからなかったと思います。

──歌っていくうちに自分の歌声が定まっていった感じですか?

いや、むしろ定めようとするのをやめました(笑)。デビューアルバムが曲調も雰囲気もバラバラな曲で構成されていたというのもあって、その曲に合わせて出てきた声が正解だというラインを自分の中で引いて歌ったんです。それと同時に、ディレクションをしていただいた部分については素直に受け取りつつ。

──おっしゃる通りデビューアルバムはバラエティ豊かな楽曲群で、その中で渕上さんも多彩なボーカルを披露しています。楽曲に関しては、渕上さんから「こういう曲を歌いたいです」みたいなオーダーを?

させてもらいました。まず、私は鳥がすごく好きなので、アルバムのコンセプトの1つとして「全曲、鳥の歌にしたい」というのがありまして。ただ私は音楽の専門的な知識があるわけではないので、「フラミンゴの曲が作りたいです」とか「カラスの曲がいいです」とか、ふわっとしたオーダーだったんですけど。

──それが「フラミンゴディスコ」と「A Crow」になったわけですね。

そうですそうです。特に「A Crow」、つまりカラスの曲はけっこう悩んだというか。カラスって、人によってイメージが違うんですよね。私としては、早朝の新宿歌舞伎町でゴミを漁っているイメージだったんですけど、最初に上がってきたデモがすごくおしゃれで、言うなれば夜の歌舞伎町だったんです。ちょっとスカしたホストみたいな(笑)。なので「もっとみすぼらしい、かわいそうな感じで」とお願いしたりして。

──「A Crow」は重く引きずるようなロックナンバーで、アルバムの中でよいアクセントになっていますよね。

ありがとうございます。歌うのは難しかったんですが、こういう暗い曲のほうが歌詞は書きやすいです(笑)。