「劇場版 ハイスクール・フリート」 PR

劇場版 ハイスクール・フリート|「はいふり」は「ガルパン」があったから生まれた── 萌えミリタリーの歩みを振り返って見えた2作の立ち位置

「劇場版 ハイスクール・フリート」が1月18日に全国公開を迎える。「ハイスクール・フリート」は“国土水没により海上大国となった日本”を舞台に、海の安全を守る職業・ブルーマーメイドに憧れる少女たちの絆を描く海洋学園ドラマ。キャラクター原案は「のんのんびより」などで知られるあっとが担当。2016年4月にTVシリーズが放送された同作が、2017年5月発売のOVAを経て、満を持して銀幕に登場する。

コミックナタリーでは映画の公開に合わせ、同作の原案を担当する鈴木貴昭にインタビューを実施。鈴木は「ガールズ&パンツァー」でも考証・スーパーバイザーを担当するなど、多くの萌えミリタリー作品で活躍する人物。そこで今回は、「ハイスクール・フリート」と「ガールズ&パンツァー」の2作品に焦点を当て、両作の魅力を掘り下げることをテーマに話を聞くことに。鈴木は萌えミリタリーの歴史を紐解きながら、クリエイターとして大切にしている考え、「ガールズ&パンツァー」の人気の秘訣、「ハイスクール・フリート」に込めた思いなどを語ってくれた。

記事の最後には「ハイスクール・フリート」の主人公・岬明乃役の夏川椎菜、「ガールズ&パンツァー」の主人公・西住みほ役の渕上舞からのコメントも掲載している。

取材・文 / 鈴木俊介

萌えミリタリーは架空戦記の失速から始まった

──今回は「ハイスクール・フリート(以下、はいふり)」の魅力を、先行する同じ“萌えミリタリー”作品の「ガールズ&パンツァー(以下、ガルパン)」と重ね合わせることで掘り下げていけたらと考えています。戦車と艦船という違いはあれど、アニメファンの間では共に語られることも多い2タイトルかと思うのですが、両作に深く携わられている鈴木さんはどう感じられますか。

「劇場版 ハイスクール・フリート」より、晴風の艦長・岬明乃。

「ガルパン」と「はいふり」では、立ち位置こそ似ていますが、向いている方向がけっこう違うんじゃないでしょうか。今の「ガルパン」はキャラクターのディテールも成熟していますし、考証の人間も増えて、スタッフさんも本当に細かいところにまでこだわって作っています。でも、そのぶん今から入るにはハードルが高いと感じる人もいると思うんです。一方で「はいふり」は、今回の劇場版でもとにかく“初心者が入りやすいこと”を第一にしています。これをきちんと説明するためには、萌えミリタリーの歴史のお話から始めないといけないと思うんですけど……。

──ぜひ、お願いします。

「萌えよ!戦車学校 戦車のすべてを萌え燃えレクチャー」©野上武志/田村尚也/イカロス出版

1990年から2000年頃って、“架空戦記”がすごくブームだったんですよ。現代の部隊がタイムトラベルするものから、何かの要因で歴史が変わって戦争の結果が違っていたりとか、そういう作品です。ただ内容がどんどんマニアックになっていってしまって、10年経ってふと気が付くと、ファンのほとんどが10年前に入ってきた人たちだった。要は編集サイドがターゲット層を固定してしまって、マニアを喜ばせるばかりで、新たな読者を増やすことを怠ったわけです。新人が入らなくなったジャンルはどうなるかというと、死んでしまうんですね。架空戦記も10年でパタッと人気がなくなってしまって、今はとても少なくなってしまいました。私はそれを見ていて、マンガ家の野上武志さんと「これではミリタリーというジャンルが死んでしまう」「なんとかして新しい人を入れなくてはいけない」と話していたんです。そんな頃、野上さんが田村(尚也)先生と「萌えよ!戦車学校」という本を出しまして。当時はちょうど「萌えで○○」という本がいっぱい出ていた時期で、「萌えよ!戦車学校」もそのブームに乗ってヒットしたんです。

──そのおかげで新しい人が入ってきた。

ええ。でもただ新しい人が入ればいいのでなく、定期的に、3年ごとくらいに若手を入れ続けなければならない。これはおそらく、少年誌なんかでも意識していることだと思いますが、我々にもそれが見えてきたので、なんとかして常に新人向けの作品を作っていかねばならなかった。そういう状況があってまず作ったのが「ストライクウィッチーズ」でした。

ミリタリー、アニメでいけそうだ

「ストライクウィッチーズ」は、“入り口の敷居は低く、中に入ったら地獄のように深く”というのがテーマだったんです。馬鹿にするつもりでもいいから、とにかく観てくれればいい。でも観てみたら細かいミリタリーのネタがちりばめられていて、「ひょっとしたら真面目に作ってるのかも」って思ってもらえる。

アニメ「ストライクウィッチーズ」ビジュアル ©2007 第501統合戦闘航空団

──キャラクターこそ美少女だけれど、中身はしっかり作っているぞと。

そう、あんな格好してるけど、ちゃんと考証もされてるし、ストーリーは王道でアツいよね、ということでお客さんが入ってきてくれた。それも我々の予想以上だったので、「このジャンルはいけそうだ」と。

──「ストライクウィッチーズ」で手応えを感じられた。

古くを言うと、その前に「LAST EXILE 〈ラストエグザイル〉」という作品をやらせてもらっていて。これは萌えミリタリーというよりもっとハードな内容でしたけど、ミリタリー要素を出していったときの反応がよかった。例えば右舷(みぎげん)と左舷(ひだりげん)のことを、それまで一般的には“うげん・さげん”と読んでいた。でも“うげん・さげん”というのは、本来の号令としては誤りなんですね。「LAST EXILE」ではそれを強く主張して、物語に入れてもらったんです。そうすると放送されたとき、最初は「うげん・さげんも読めないのか」と視聴者にツッコまれるわけですよ。それをミリタリーに明るい人たちが「それは違うんだ、正しくはこうなんだ」と訂正してくれる。

──ミリタリーに明るい人たちからすると、「わかってるじゃん」という感じだったのでしょうか。

そうですね、それこそ架空戦記とかを読んでいたような人たちからも「ちゃんとミリタリーしてるじゃないか」って受け入れてもらえた。「LAST EXILE」では放送後に、そうした疑問・質問を想定した用語集を公式サイトで公開していたんですが、それを読んだ視聴者からも「すごい、こんなことまで考えているのか」と言ってもらえた。「ミリタリー、アニメでいけそうだ」という確信めいたものは、その頃から抱いてましたね。

萌えミリタリーのジレンマ

「ガルパン」は「ストライクウィッチーズ」がひとまず終わって、次どうしようかと思っていたときに、アクタスさんからご連絡をいただいたものです。

TVアニメ「ガールズ&パンツァー」ビジュアル

──「ガルパン」は戦車同士の模擬戦がスポーツのように描かれていて、枠組みとしては青春部活もののそれですよね。これも敷居は低くというのを意識されていたのでしょうか。

私が入った当初からマニアに向けては作らない、ただしマニアが観ても恥ずかしくない戦車の描写はする、というコンセプトはありました。水島(努)監督も最初は「戦車が少し出てきます」なんておっしゃっていましたよね(笑)。でも作品が人気になるに従って、戦車が好きな人たちがたくさん集まり、試合の描写もどんどん増え、だんだんハードルが高くなってきて……。軍事考証も私1人では足りなくなったので、イタリア軍研究家の吉川(和篤)先生に加わっていただいたり、「萌えよ!戦車学校」の田村先生が参加なさったり、どんどん増えて。

──軍事考証が足りなくなるというのは、やはりジャンルによってはもっと詳しい方がいらっしゃるからということですか?

私1人でもやろうと思えばやれるんですけど、いくつも作品を担当させてもらっていると単純に手も回りませんし、それにミリタリーの詳しい人たちって「1人1ジャンル」って言われているくらいで、これは誰に聞けばいいというのがすぐわかるんですよ。たとえば「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」のときは、金子(賢一)さんに途中で考証に加わってもらったんですが、なぜかというと自衛隊の軍装とかを調べるのが一苦労だった。でも金子さんは軍装コレクターだから、「この軍装について知りたいです」って伝えると、「じゃあ本物を用意しますから、写真を撮ってください」って言えちゃうわけですよ。それなら私が間に入るより、アニメのスタッフに金子さんを紹介するほうが早いですし、楽ですよね。

「『ガールズ&パンツァー 最終章』第2話」では、雨の密林で戦いが繰り広げられた。

──なるほど、そのほうが効率がよかったわけですね。

私はアニメが面白くなればそれでいいし、クオリティを落としてまで仕事を抱えたくない。だからどんどん人を紹介するんですが、でもそうすると、みんな専門分野だからがんばっちゃうんですよね。こんなのもあります、ここは本当はこうですと細かい部分までこだわり始めて、スタッフさん側も負けてられないぞとさらに上を目指してしまう。

──それはある意味ではいいことだけれど……。

時間もかかりますし、それじゃ回らないじゃないか、とも感じているわけです。敷居は低くと始めた「ストライクウィッチーズ」も、やっているうちにどんどんマニアックな方面に進んでしまいました。「ガルパン」も、スタッフがこだわって作るうちにハードルが上がって、制作にも時間を要するようになってしまった。新しいものを定期的に作って新陳代謝をはからなきゃならないという命題もあり、「ストライクウィッチーズ」で“空”をやった、「ガルパン」で“陸”をやった、じゃあ次は“海”だ──と動き出したのが「はいふり」です。