FRIENDSHIP.特集第2弾|ゲストにmabanua迎えた楽曲試聴会レポート&インタビュー キュレーターたちが選出したアーティスト2組決定

可能性を感じた2組

──今回の楽曲試聴会では投票後の話し合いの結果、シンガーソングライターのスウさん、3人組のロックバンド・Pablo Haikuの楽曲がFRIENDSHIP.からリリースされることになりました。

mabanua

mabanua 僕が「通過」票を入れたのはその2組だけでした。

──そうだったんですね。どういった理由からこの2組を選んだのでしょうか?

mabanua 作品として完成されている音源を送ってきたアーティストはほかにも数組いたんですよ。その人自身のミックスがうまいのか、ちゃんとスタジオで録ってエンジニアにミックスしてもらったのかはわからないですけど、スタイルとしてこれ以上ない程完成していた。だけど例えば「一緒に何かやりたい」「そこからどれだけ進化していけるか」と考えたときに、スタイルがある程度確立されつつも柔軟性がありそうなスウさんからその可能性を感じたんです。僕はある程度の技術が伴っている演奏が好きで、スウさんの場合はメロディに対して後ろに当ててくるコードから「普通はそっちに行くけど、あえてこっちに行く」という意図が伝わってきて。たぶん独自の音楽を作りたいというこだわりがあると思うので、その探求している感じに伸びしろがあるなと思って。

──なるほど。

mabanua 保留にも入らなかった人は今回の応募曲を聴く限り一緒にやっても音源としては変わらないかもしれない。向こう十年やっても同じような音しか作れない可能性もあるから、残念ですけど今回は通過できなかったのかなと思います。

──もう1組の通過者であるPablo Haikuはいかがでしょうか?

mabanua  Pablo Haikuはメロディの作り方が好みだったんですよ。コード進行が流れていく中でメロディも展開していく作品が多かったんですけど、彼らの場合はメロディが反復している状態で展開や表情を付けていて。それがすごく気持ちよかったし、洋楽的なアプローチも僕の好みでした。そのあたりがほかのキュレーターの皆さんが「今っぽいね」と言ってたポイントなのかなって思います。あとはPablo Haikuのほかの楽曲を聴いたときに「あれ? ちょっと違うかも」となるのか「もっとほかの曲も聴きたい」となるかはわからないけど、ワクワク感みたいなものは一番ありましたね。

──今後の可能性を感じたと。

mabanua はい。リスナーとしてもそうですし、自分がレーベルの社長だったらと想像したら「一緒にやっていきたい」と思えるようなバンドだなと思いました。

──では逆に今回通過できなかった作品について、落選の理由があれば教えてください。

左からmabanua、タイラダイスケ。

mabanua さっき言ったように「進化していきそうだな」「本人ががんばったら面白い楽曲を作れるかも」みたいに伸びしろが感じられるかどうかって大事だと思うんです。「たぶんあのアーティストが好きなんだろうな」みたいなのが見えるけど、それに必要な演奏力や歌唱力が酷だけど追い付いていない作品が多かったように感じます。音楽的にあえて下手に聴こえるのがいいってことあるじゃないですか? あれって下手そうに見えて実は技術がないとできないんですよ。それがわかってるかどうかって、音楽活動をしていくうえですごく重要だと思うんです。ドラムのよれたサウンドが好きですっていう子に、普通のビートを叩かせたらそれもよれてたみたいなことってよくあるんですよ。なので初歩的なことですけど、演奏力や歌唱力のスキルアップは大事だと思いますね。

──タイラさんはどうですか?

タイラ さっきThe fin.のYutoと雑談したんですけど、今回は全体的にレベルは高いけど“〇〇っぽい”みたいな作品が多かったんですよね。演奏する人やそもそもの楽曲が違うからオリジナルではあるんだけど、参照元が透けて見えてしまったり、曲の展開が「次はこうなるだろうな」と思った通りだったりして。やっぱりそこは整合性が取れてなくても「これは聴いたことがない」みたいな音楽を聴きたいんですよね。延長線上にもっとすごいアーティストがいるのなら、そっちを聴けばいいじゃないですか。その先に誰もいなければ一番ってことなので、難しいかもしれないけど、そういう応募者が増えたらいいなと思います。

──では最後に。mabanuaさんから若手アーティストへアドバイスなどあればお願いします。

mabanua うーん、言い方が難しいですが、僕は「努力すれば報われる」っていう励ましで終わらせてしまうのはあまり好きじゃないんですよ。努力はもちろん必要ですが、音楽業界は努力しても報われないことのほうが多いと思うし、でもそういうマインドで打ち込まないと報われもしない厳しい世界なんですよね。つまりは後悔だけはしないでほしいと思います。やって失敗した後悔より、挑戦しなかった後悔の方がずっとつらいので。先ほどタイラさんがおっしゃった通り、オリジナリティの追求は大事だと思います。それと今回、プロフィール文をしっかりと書いてくれた人がたくさんいたんですけど、音を聴いてもらってなんぼだと思うので、まずは音作りに重点を置いてプロフィールはあくまで補助と捉えてもらった方がいいかもしれないです。もちろんアーティストが自分の言葉をSNSなどを通して発信するのも重要ですけど、こんな世の中だからこそ自分の作る音をより大事にしてほしいなと思いますね。質問の答えになってなかったらすみません(笑)。

ゲストキュレータープロフィール

mabanua(マバヌア)
mabanua
ドラマー、プロデューサー、シンガー。ブラックミュージックのフィルターを通しながらもジャンルに捉われないアプローチですべての楽器を自ら演奏し、国内外のアーティストとコラボして作り上げたアルバム「Blurred」が各国で話題を集める。Chara、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、米津玄師、矢野顕子、ゆず、くるり、RHYMESTER、藤原さくら、Daichi Yamamoto、向井太一などのプロデューサー、ドラマー、リミキサーとして100曲以上の楽曲を手がけながらCM楽曲や映画、ドラマ、アニメの劇伴も担当。またトロ・イ・モワ、チェット・フェイカー、マッドリブ、サンダーキャットなど海外アーティストとも多数共演している。Shingo Suzuki、関口シンゴとのバンド Ovallのメンバーとしても活動中。
FRIENDSHIP. キュレーターコメント
片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ)
片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ)

mabanuaさんとリラックスした雰囲気の中で一緒に考えることができてよかったです。音源のレベルは上がってきているんですけど、決め手に欠けるものが多くて選定が難しかったです。

井澤惇(LITE)
井澤惇(LITE)

今回初めてゲストキュレーターを迎えるということで緊張感のある現場になるかなと思っていたんですけど、mabanuaさんのキャラクターなのか、いつも通りリラックスして試聴会に参加することができました。俺はいつも正直に意見を言うだけだから、それに対してみんながリアクションしてくれたり、反対意見を言ってくれるのはこの試聴会のいいところだと思います。みんなの評価が高い作品でも、自分の中でしっくりこなければ「わからない」と言えるし、みんなの説明を聞いて「なるほどな」と納得することもあるから。それはいろんな価値観を持ったキュレーターが集まるFRIENDSHIP.だからできることだと思うし、そのいつも通りの雰囲気でmabanuaさんを迎えることができてよかったです。

Yuto Uchino(The fin.)
Yuto Uchino(The fin.)

FRIENDSHIP.のキュレーターって音楽の趣味や聴き方、バックボーンがそれぞれ全然違うんですよ。今回はmabanuaさんという新しい視点を持った人を迎えたことで、投票内容もこれまでとは違うものになったし、より広いところから作品を選定できたんじゃないかと思います。

奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー)
奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー)

みんなが言うように妙な緊張感なく、いつも通りの雰囲気でやれたのはよかったですね。あとmabanuaさんの提案で音源を2回通しで聴いたことで、より細かいところまでチェックして自分の意見をまとめることができました。

金子厚武(音楽ライター)
金子厚武(音楽ライター)

今回はジャッジが難しかったです。平均点は高いんだけど、飛び抜けていい作品は少ないというか、驚きや面白さに欠ける作品が多かったように感じます。今の時代、正解のサンプルがたくさんあって、簡単にアクセスできるから、どうしても何かに似ちゃうんですかね。既存の正解にとらわれずに「俺はこれをやるんだ」って意気込みのある人がもっと増えてほしいし、そういう人の作品をもっと聴きたいと思いました。

タイラダイスケ(FREE THROW)
タイラダイスケ(FREE THROW)

金子さんの意見は本当にそうだと思います。やっぱり70点くらいのものが一番面白くなくて、それなら20点でもオリジナルなものを聴きたいというか、そっちのほうが伸びしろがあると思うんです。今回選出された2組はどちらも今後の可能性を感じる音源を送ってくださったので、無事通過してよかったです。