ナタリー PowerPush - FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013
被災地支援フェス開催の真意!!!!!!!
カオスではなく整然としたコスモス
──そしてFREEDOMMUNEといえばある種“カオス”とも評される、意外性のあるラインナップも特徴です。
これでも筋道立ててやっているんですけどね(笑)。昨年のラインナップもカオスに映っていたのかもしれませんが、自分の中ではむしろ整然としたコスモスです。そこにはカオティックな要素は一切ありません。ブッキングには僕の中ではきちんとした文脈がありますし、違和感のある人は絶対に登場していないはずです。例えば瀬戸内寂聴さんは「さようなら原発10万人集会」のときにも京都の寂庵からわざわざ東京に出て来られて説法をされている。そして今回はCRASSの創設者であるペニー・リンボーを呼んでいますが、氏はパンクムーブメントに政治性をもたらせ、CRASSはDIY / アナーコパンクの概念自体を形成したバンドです。今、彼らの声を聞くのは大変重要なことです。彼らはヒッピーイズムを進化させるような形で、70年代から環境問題について語っていたし、さらには反戦、反核、フェミニズム、アニマルライツ、そしてアナキズムを以前から唱えていました。ここには僕らと共通した思想が存在しています。さらにはCRASSのアナキズムと、寂聴さんの世俗を離れ仏門に入る“出家”の概念には重なるアティテュードがあると思っています。
──では瀬戸内寂聴さんの説法も決して唐突なものではないと。
その通りです。フェスというのはウッドストックの時代から文化全体を含むもので、音楽だけではなく講演も並行して行われてきたという歴史が普通にあります。僕らが意識しているのはいわゆる「夏フェス」ではなく、ヒューマンビーインの哲学と、シチュアシオニストの思想をデジタルネットワークを使って新鋭化させることでした。ビーインは1967年に西海岸で始まった、社会における人間性回復を求める人々の集会です。これはヒッピームーブメントがもたらした平和運動であって、カウンターカルチャーの重要なコンセプトですね。パリ5月革命の思想的準備を整えたと伝えられるシチュアシオニストは、文化も政治も芸術も、そして日常のすべてが、スペクタクルの社会を構築するためのメディア上の表象としてしか機能しなくなった状況を露わにし、そこにどのようにして亀裂を生みだし裂け目を作り出すか? そのことを世に問うていました。
──なるほど。だからFREEDOMMUNEにもトークブースがあるんですね。
そういう意味ではFREEDOMMUNEはウッドストックの正当な後継者と言えるかもしれないですね(笑)。ただ寂聴さんは今回トークブースではなく、メインステージに立っていただき、1時間半の法話を唱えてくださいます。奇をてらっているわけではないんです。これは社会における人間性回復のための運動なのです。シチュアシオニストのスローガンに「退屈は反革命だ!!」というものがありますが、革命には予定調和な物語ではなく、DIYな実験精神とエクストリームな想像力、そしてハードコアな熱狂が必要なのではないか?といつも考えています。
──一貫した思想のもとに行われているにも関わらず、突き詰めすぎているがゆえに、人からはカオスに見えるということでしょうか?
はい。FREEDOMMUNE以降、奇をてらったラインナップで注目を集めるフェスも出てきましたが、僕たちがやろうとしていることには常に思想的根拠があります。ただかなりエクストリームすぎているので誤解されるのかもしれません(笑)。
──ところでFREEDOMMUNEはビジュアルイメージとして宇宙を前面に押し出していますが、これはどういう意図なんですか?
これは先ほど話した“フレンドシップの拡張”の究極のイメージなんです。自分が所属するコミュニティへの愛が日本、世界と広がって最終的には宇宙になる。それが世界平和につながっていく。そしてそれを象徴しているのが冨田勲先生の「惑星」です。冨田先生はFREEDOMMUNEにとって特別な存在です。今回、元GONGのスティーヴ・ヒレッジが参加して「ドーンコーラス / Dawn Chorus」をパフォーマンスしてもらうということは世界的にも大きなトピックです。ドーンコーラスとは、電磁波が太陽の黒点の影響を受け引き起こされる自然現象です。その電磁波をコイルアンテナで採集し、フレミングの法則でコイルの中に電流が生じ、ハープやギターの弦を弾くような現象が起きる。そのサウンドはまるで深い森の小鳥たちがいっせいに夜明けを迎える喜びをさえずり合っているように聞こえることから「暁の合唱」と呼ばれるようになった。つまりは太陽と冨田先生の共演なのです(※当日の太陽の黒点の状況によってはリアルタイム受信の音とともに、2011年に北軽井沢・浅間山麓で行われた受信実験時に採集したドーンコーラスをバックアップとして使用する)。僕らDOMMUNEは開局当時から先生と大変仲良くさせてもらっていて、復興支援以前から、自分たちのメディアのあり方を冨田先生が持つ宇宙意識に代弁してもらってるという思いがあります。
出演者が生きているかどうかはまったく問題ではない
──そして今回は「OSAMU TEZUKA / AVEND of GOD」という展示もありますね。
はい。僕は手塚るみ子さんとも懇意にさせていただいていて、今回るみ子さんにキュレーターになっていただき、晩年の手塚治虫先生の仕事の現場をそのままワープさせようという試みを一緒に企てることとなりました。未完の遺作となった「ルードウィヒ・B」を執筆していた新座スタジオの仕事場の机をはじめ、長年使っていたマンガの筆記具、愛用のベレー帽、執筆の必須アイテムであるチョコレートや、そして「火の鳥」や「ブッダ」の生原稿に至るまで、氏の忘れ形見と貴重なクリエイティブの数々を展示にて披露し、さらには生前「ブッダ」について語った手塚先生本人の肉声をも解放します。るみ子さんは開催日がちょうどお盆だということもあって「これは法事のようなものだ」とおっしゃってますが、僕が期待しているのは、親子シャーマニズムで、るみ子さんにイタコの口寄せをしていただきたい、ということなんです(笑)。これは氏のライフワークであった「火の鳥」よろしく、古代からはるか未来まで、地球、宇宙を舞台に、生命の本質、そして人間の業を独自の世界観で描き続けた手塚治虫先生の“気配”を呼び覚まそうという儀式ですから。しかも冨田先生は「ジャングル大帝」や「リボンの騎士」のテーマの作曲者でもあります。さらに過去BOREDOMSは「ジャングル大帝」のカバーをやっている。完全につながっています。
──興味深い試みですが、通常のフェスのラインナップとはだいぶ趣を異にしていますね。
でもそれを言うなら去年のヘッドライナーは夏目漱石さんでしたから。つまり故人がフェスにヘッドライナーとして出演したわけです。あのとき我々が第1弾として発表した出演者は夏目漱石さんの「脳」だけでしたから。
──実際、会場では夏目漱石が原稿を朗読していましたね。
晩年の作品で「思ひ出す事など」というエッセイがありますが、その中に宇宙論を語っているシークエンスがあります。「何を思い出していたのか?」以前に、漱石が「思い出そうとしていたか?」が重要だと考えました。だからこそ当時フル稼働させて「思い出していた器官」である脳そのものを展示した。しかも最晩年の書であるということは、まさに「そのこと」を「最近思い出していた」状態で脳が保存されていると捉えることができるからです。さらにはその「思ひ出す事など」から数ページを、漱石の骨格から声紋を可視化させ、モンタージュボイスとして合成し音声信号化させた。そして隣ではやくしまるえつこさんに同じ原稿を朗読していただきました。最晩年の漱石の創作を発声、運動(筆記)、そしてその信号をネットワークしていた脳の展示によって、僕は“実存”していた漱石という“存在”を気配として立ち上がらせることができたと自負しています。あの展示「NATSUME SOSEKI / THE UNIVERSE」は、つまり現代のアミューズメントテクノロジーであるホログラムやモーションキャプチャに対しての美術の側からのアンチテーゼでもあります。
──あのパフォーマンスに衝撃を受けた人は多いと思います。
実は今回も手塚先生以外にも並行してインスタレーション枠を考えていて、“カッパのミイラ”にも出演を打診していました。
──どういうことですか?
ヘッドライナーはカッパのミイラ(笑)。僕は今回こそは絶対にカッパを出演させねばならないと強く思っていました。
──カッパは空想の生き物だと思っていましたが……。
いやいや、カッパのミイラは確認しているだけで日本に3体あります。そのうち1体が佐賀県の酒蔵にある。酒蔵の屋根の工事の際に梁上から出てきたミイラなんですが、そこではご本尊として扱われていて動かしようがないと断られてしまいました。ほかのミイラも当たったんですが全部ダメでした。「この際UMA(未確認生物)ならなんでもいい」という発想で、鬼やカラス天狗も探していました。しかしそれらも外部への持ち出しが禁じられていて、ことごとく借り出すことができない。そうこうしているうちに、許可が出ない理由は過去に民放のテレビ局がそれらを粗雑に扱っていたせいだということを知るわけです。彼らは奉られているUMAを外部に持ち出してX線CTで検証してしまう。そして例えば彼らがカラス天狗と言っていたものが、実はトンビの死骸のコラージュだったという事実を暴いてしまったわけです。さらにはボロボロの状態で返却したりということもあり、僕らはそれを扱えなくなってしまった。これがテクノロジーによるファンタジー潰しです(笑)。民放テレビがUMAを晒し者にして、それがまかり通ってしまった。しかし実行委員長のMARSくんが100以上のUMAに当たってくれて、最後にお借りできることになったのはチベットの即身仏でした。しかしこれはありがたい“人間の死体”で、もうファンタジーの領域ではなくなってしまうので、お断りする以外なかったです。
──ファンタジーを求めていたということですか?
僕が重要視しているのは一貫して意識の拡張なんです。自由意識に到達するためのフリーチケットを自らに与えるイニシエーション。それがFREEDOMMUNEの概念なんです。意識拡張のためのトリガーを何に求めるのかということ。つまりそれは91台のドラムが奏でる音魂だったり、太陽の黒点が放つノイズだったり、僧侶の説法でもあり、アナーキズムでもあり、ロボットバンドでも、未確認生物のまとったファンタジーでもあって、偉人が成し遂げた創作でもある。その光を浴びることによって意識を拡張させ、オーディエンスの無限の潜在能力を引き出そうという発想です。そうした霊的な視点で考えると、出演アーティストが生きているか死んでいるかはまったく問題ではない。
──しかし普通のフェスは生きてる人しか出演しません。
そこがFREEDOMMUNEと他のフェスとの大きな違いです。FREEDOMMUNEには今回も故・手塚治虫先生という偉人が出演します。気配さえ呼び覚ますことができればよいのです。ベレー帽と机というのは手塚先生の気配であり、手塚先生の一部である。そして使用していたGペンや机。肉筆と肉声。これらをマッピングすれば、もうご本人に出演していただいていることに等しい。これは友人の占い師のマドモアゼル朱鷺さんに教わったことなのですが、集合意識として複数個体間での意識共有があるならば、つまりそれこそが紛れもなく「生きている」状態であるということなんです。マドモアゼル朱鷺さんはリアルイタコ(笑)なので、今までさまざまな霊を降ろしてくれました。死者の魂を呼び覚まし交霊し、憑依させ、生身の身体を明け渡して死者に代わって口寄せし、語る。かつてあの人は死者だけではなく、ドラえもんやゴジラやモンチッチも降ろしています(笑)。創造されたキャラクターであっても、集合意識の上でアウラとして存在していれば問題ない。ゴジラを降ろしてもらったときは「実はアンギラスとの戦いが大変だった」と語っていましたし(笑)、モンチッチは「寒い、寒い……」と10分くらいずっと寒がっていました(笑)。交霊を終えたあとの素の朱鷺ちゃんに「モンチッチは『寒い』しか言ってなかったよ」と言ったら「寒くて当然。ディズニーやサンリオのキャラクターに押されて、モンチッチは本当に今、寒いと感じているのよ! だからあなたたちがもっとモンチッチのことを暖めるような活動をしないといけない!」と言われてしまい(笑)、僕の妻はその後「モンチッチ図鑑」を河出書房からリリースし、後のモンチッチブームに一役買いました。これは冗談のように思えるかもしれませんがある意味真実です。つまりは例えシュミラークルであっても、実存すらをも超えた状態で熱狂さえあれば生きているに等しい。そしてたとえ故人であったとしても、アウラを呼び覚ますことができれば、それは生きていることと同義でしょう。だから漱石もカッパも生きている。もちろん手塚先生も生きている。だからこそFREEDOMMUNEにご出演いただくのです。
FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013
2013年7月13日(土)千葉県 幕張メッセ
OPEN 17:00 / START 17:30 / END 29:30(予定)
出演者
- LIVE / DJ
- 冨田勲 / Steve Hillage(SYSTEM7)/ 瀬戸内寂聴 / Penny Rimbaud co-founder of CRASS / BOREDOMS presents 7 x 13 BOA DRUM / Z-MACHINES / 大友良英&あまちゃんスペシャル・ビッグバンド / ZAZEN BOYS / 灰野敬二 Voice & Electoronics Solo Live / Open Reel Ensemble / 初音階段 / にせんねんもんだい / TOWA TEI / CLAUDIO PRC(Prologue / from ITALIA)/ MILTON BRADLEY(Grounded Theory / from BERLIN)/ RODOLPHE COSTER(Flexa / from BELGIUM)/ DJ NOBU(FUTURE TERROR)/ GOTH-TRAD(DEEP MEDi / BACK to CHILL)/ EP-4 unit3+伊東篤宏 / KYOKA(onpa / raster-noton)/ MOODMAN(GODFATHER)/ HARUKA(FUTURE TERROR)/ KURUSU(FUTURE TERROR)/ Chris SSG(MNML SSGS)/ NHK'koyxen(from BERLIN)/ RYOSUKE(RUSH)/ KABUTO(CABARET / LAIR)/ KURI(BLACK FOREST)/ CMT(POWWOW)/ Shhhhh(SUNHOUSE)/ GONNO(WC / Merkur / International Feel)/ KENSHU / hanali(GORGE.IN)/ HiBiKi MaMeShiBa / dubstronica(GORGE.IN, ヌルマユ, SUGODJs)
- TALK&PERFORMANCE
- 東浩紀(哲学者 / 作家)/ 金子勝(経済学者)/ 津田大介(ジャーナリスト / メディアアクティビスト)/ 牧村憲一(音楽プロデューサー)/ 都築響一(編集者 / 写真家)/ 玉袋筋太郎(浅草キッド / 芸人)/ 坂口恭平(建築家 / 作家)/ 磯部涼(音楽ライター)/ 九龍ジョー(ライター / 編集者)/ 柳下毅一郎(特殊翻訳家 / 映画評論家)/ 中野貴雄(国際秘宝監督)/ 根本敬(特殊漫画家大統領)/ 岸野雄一(スタディスト)/ 大友良英(音楽家)/ 伊藤千枝(振付家・演出家・ダンサー)/ 珍しいキノコ舞踊団 / アサノコウタ(建築家)/ 古川日出男(小説家)/ 開沼博(社会学者)/ 小川直人(せんだいメディアテーク)/ 珍しいキノコ舞踊団(コンテンポラリー・ダンスカンパニー)/ PENNY RINBOUD(co-founder of CRASS / 音楽家 / 哲学者 / 活動家)/ 前田毅(編集者)/ 成田圭祐(IRA / アナキズム文献センター運営委員)/ TAKAMORI K.(クリエイティブディレクター / 通訳・翻訳)/ 高須光聖(放送作家)/ 福田雄一(劇作家 / 放送作家)/ 杉本達(演出家 / TVディレクター)/ 三宅洋平(音楽家)/ 初音ミク(ボーカロイド)/ JOJO広重(ノイズミュージシャン)/ T.美川(ノイズミュージシャン)/ 笠島久嗣(イアリンジャパン)/ 齋藤精一(ライゾマティクス)/ 若林恵(WIRED編集長)/ 野田努(ele-king編集長)/ 三田格(音楽評論家 / 編集者)/ 松村正人(編集者 / 文筆家)/ 五所純子(文筆家)/ 宇川直宏(現代美術家 / DOMMUNE)
- VJ / STREAMING
- DOMMUNE / TYMOTE / maxilla / Yasuhiro Kobari / yasudatakahirio / ogaooooo / DOMMUNE FUKUSHIMA! / BENZENE by VMTT / NOISE ELEMENT / onom / KRAK / rokapenis / SphinkS / visual and echo japan / DOMMUNE VIDEO SYNDICATE / 宇川直宏
- EXHIBITION
- 手塚治虫 / 手塚るみ子 / 宇川直宏
- 3D PROJECTION MAPPING
- Rhizomatiks
入場方法
- 入場料:
- エントランスフリー(ただし、入場の際に1名1000円以上の寄付をお願いしています)
- 入場方法1:
- FREDOMMUNE0<ZERO>2013 は被災地支援の為のフリーフェスですが、入場予約申込フォームからご予約の上、来場ください。こちらからお客様の情報をご登録いただくことで、入場予約ができます。予約登録をしていただき、入場時に返信されてくるメールを見せることでご入場いただけます。
- 入場方法2:
- 音楽配信ストリーミングサイト「Music Unlimited」のメンバー全員はFREEDOMMUNEに登録予約せずに入場可能になります。当日、入場ゲートにて、会員ページを見せるだけです。
宇川直宏(うかわなおひろ)
1968年生まれ、香川県出身。グラフィックデザイナー、映像作家、ミュージックビデオディレクター、VJ、文筆家、京都造形大学教授、そして“現在美術家”などなど、幅広く極めて多岐にわたる活動を行う全方位的アーティスト。2010年3月に個人で開局したライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数を叩き出し、国内外で話題を呼び続ける。現在彼の職業欄には「DOMMUNE」と記載されている。2013年7月13日には千葉・幕張メッセにおいて東日本大震災被災地支援イベント「FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013」を開催。