flumpoolが自分たちの役割を再確認、20周年に向けて放つ「Shape the water」

flumpoolのニューアルバム「Shape the water」が3月5日にリリースされた。

2024年にデビュー15周年を迎えたflumpool。彼らにとって約5年ぶりのアルバムとなる「Shape the water」には、アルバムに先駆けて配信リリースされた「君に恋したあの日から」といった楽曲のほか、トオミヨウ、釣俊輔、UTAそれぞれとのコライトで新たなエッセンスが加えられた楽曲を含む全13曲が収録され、意識していないと水のように流れていってしまう時間、時代、命の大切さが音楽を通して表現されている。音楽ナタリーでは山村隆太(Vo, G)、阪井一生(G)にインタビューし、アルバムの制作エピソードや10年ぶりとなるZeppツアーへの意気込みを聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 梁瀬玉実

今の自分たちにとっての命題

──ニューアルバム「Shape the water」の制作はいつ頃から取りかかったんですか?

阪井一生(G) 去年の5月にキックオフした感じでしたね。ただ、ツアー(2024年3月から8月にかけて開催された15周年アニバーサリーツアー「This is flumpool !!!! ~15の夜に逢いましょう~」)もあったので、本格的に動き始めたのはそのあとかな。

──7月14日の東京公演でアルバムがリリースされることを発表されていましたよね。

阪井 そうでしたね。あの段階ではまだ、アルバムの制作は半分くらいの進み具合だったと思います。

山村隆太(Vo、G) リリースのタイミングを考えると、まあだいたいいつものペースだったとは思います。ただ、今回はアルバムのタイトルやコンセプトをしっかり決めたうえで制作をスタートしたのがいつもとは違うところで。

山村隆太(Vo、G)

山村隆太(Vo、G)

──「Shape the water」というキーワードを掲げたうえでの制作だったわけですか。

山村 はい。“Shape the water”は“水をかたどる”といった意味ですけど、そういう形のないものに形を与えるのが今の自分たちにとっての1つの命題じゃないかなと思ったんです。去年のツアーは「This is flumpool !!!!」というタイトルでしたけど、その中でやった「証」という曲では“This is Yours”という言葉をモニターに投影したんですよ。

──15年活動してきたflumpoolという存在は、“Yours”=ファンのみんなによって形作られているというメッセージが伝わってくる感動的な演出でしたよね。

山村 flumpoolの曲を卒業式で歌ったとか、恋人と一緒に聴いたとか、悲しいときに1人で聴いたとか、そういう皆さんの記憶の中にある思い出1つひとつが、僕らflumpoolに明確な形を与えてくれているということを強く実感したんです。そういう形のないものって、生きている中で気付かずに流れていってしまう瞬間も多いじゃないですか。例えば10代の頃のように恥ずかしげもなく1つの夢を追う気持ちを、大人になると忘れてしまったりとか。僕ら自身も、先のことばかりに目を向けすぎて、今この瞬間に大切にしなければいけないことから目を背けてしまっていたところもあったし。なので今回のアルバムでは、そうやって意識していないと流れていってしまうような大切な時間、時代、命みたいなものを水にたとえて、それらを音楽というものを通して形にしていこうと思ったんです。水のように手のひらからこぼれてしまうものもあるかもしれないけど、でもできる限り今、目の前にある大切なものを音楽として明日に運んでいけたらいいなと。

flumpool

flumpool

flumpoolの役割

──そのコンセプトはアルバムを聴かせていただけば明白ですよね。どの楽曲にも自分自身や大切な人との間にある、目には見えない思いが丁寧に刻まれています。そういった思いを持って楽曲を作り上げていくのはいかがでしたか?

阪井 いやー、ハードルはかなり高かったです。デビュー15周年を迎え、ベストアルバムを出し、ベストなツアーを回ってひと区切りしたうえで出すひさしぶりのアルバムですからね。当然、今までの自分たちを超えた新たなものを生み出したい気持ちが大きくて。そのハードルが相当高かったです。

──生みの苦しみを味わった感じですか。

阪井 そうですね。いろいろ試して、さまざまなタイプの曲を作りました。「これは違う、あれも違う」と言いながら。だからデモ状態のやつも含めたら、アルバムに収録されている数よりもだいぶ多く作りましたね。

──アルバムの特設サイトには「自分たち自身とその音楽を再確認・再構築するものになる」というコメントも出されていましたよね。

山村 はい。そういう気持ちも強くありました。自分たちを再確認という意味では、今の自分たちにどんなものが求められているんだろう、みんなには何が響くんだろうといったflumpoolの役割みたいなものをすごく考えて。そのうえで次の20周年に向けてバンドとしての大きな一歩にしなければいけないとも思ったし。だから曲は一生がたくさん出してきてくれてはいたけど、それをふるいにかけるとなかなか残っていかないという悩みもあったんですよね。

小倉誠司(Dr)

小倉誠司(Dr)

──昨年のライブのMCで山村さんは、「15年やってきたけど、『これがflumpoolだ』『これが僕らだ』と感じられるものはまだ見つかっていない」というお話をされていました。そういう意味では今回の制作もそれを見つけていく作業になったのかもしれないですよね。

山村 そうですね。その思いが、まさに形のないものをつかむという「Shape the water」のコンセプトに合っていたというか。この曲は絶対すべての人に響くだろうな、という確信ってやっぱりないし、そもそもそんなことは不可能じゃないですか。だったら自分たちが作りたい音楽を作るということを大前提としたうえで、この曲のワンフレーズがもしかしたら誰かの救いになるかもしれない、なってくれたらいいなと思いながら曲を作っていくことこそが大事なんじゃないかと改めて思えた。それが届くか届かないかは結果としての話なので、僕らはまず伝えにいくという姿勢を見せたいなと。そんな曲たちが集まったアルバムにはなったと思いますね。

阪井 そうね。次のflumpoolとしてどんな音楽をやっていくかというのは去年からさんざん話し合ってきたけど、結果的には今の自分たちに一番相性のいい曲を見つけていく作業になったというか。先行で配信した「君に恋したあの日から」や「いきづく」もそうだし、アルバムに入っている曲はすべて今のflumpoolのモードを反映したものになっていると思います。

山村 その結果、今回収録したもの関しては「これや!」っていう曲がいい意味でなかったもんな。全部が「これや!」やったから(笑)。

阪井 そうそう。リード曲を決められへんかったもんな。

山村 こんなに悩んだのは初めて。いつもだいたいリード曲ができてから、周りが埋まっていく感じだったのに。最終的に「Keep it up!!」と「アラシノヨルニ」をリード扱いに決めましたけど、俺の中ではどの曲がリードでもよかった。

阪井 うん。捨て曲がないよね。

阪井一生(G)

阪井一生(G)

トオミヨウとのコライトで生まれたポップな「Keep it up!!」

──生みの苦しみを味わいながら数多くの楽曲を作り、それらを今のflumpoolとしてふるいにかけた結果、最高のラインナップになったわけですね。阪井さんから上がってくる楽曲群を聴いたほかのメンバーはテンションが上がったんじゃないですか?

山村 そうですね、うん。面白かったのは、一生が「これあんま自信ないわ」と言うときに限って、僕らにとってはすごくいい曲だったりするんですよ。いや、自信があるときの曲が悪いわけではないんですけど(笑)。

阪井 あははは。でも確かにそうやったな。なんなんですかね。自分が求めていたものができなかったとか、イメージしていたものと違う形になったりすることがよくあるので、そういうときはやっぱり不安になったりするんですよ。で、「これ、自分で思ってたのと違う仕上がりになったんやけど……」と伝えてから聴いてもらうと、みんなが「めっちゃいいやん!」ってなるという。

山村 そこもこのアルバムらしいなと思いましたけどね。目に見えないものをつかむという意味において、メロディを作ることには絶対不安はつきものですからね。届くかどうかわからないけど、思いを音楽にする。さっきも言ったように、それこそが今の僕らが届けたいものだったので、まさにこのアルバムにふさわしい曲たちだと思います。

──アルバムの1曲目は、2月に先行配信された「Keep it up!!」。ホーンセクションが印象的な、アルバムの幕開けに相応しいポジティブなナンバーですね。

山村 悲しいときに聴いても、脳が錯覚して楽しくなってくるような曲になったらいいなと思って。ある種、催眠のような(笑)。そういうキャッチーなポジティブさを持った曲を目指して作ったのは初めてだったので、新鮮さもありました。人生を重ねていく中で失敗や苦労などさまざまな経験をしていくと、透き通っていた気持ちが曇ってきてしまうところがあるじゃないですか。だから歌詞では、10代の頃に抱いていた熱い気持ちを“Keep it up”=“そのままに”持ち続けていこうというメッセージを書きました。歌とダンスを一生懸命やっている10代の子と話す機会があったので、それがきっかけでこういう内容になったところもありましたね。

尼川元気(B)

尼川元気(B)

──作曲はアレンジも手がけているトオミヨウさんとのコライトになっていますね。

阪井 今回、自分にはないエッセンスが欲しくてコライトを3曲ぐらいやったんですよ。この曲に関しては、トオミさんがまずピアノで軽く弾いてくれたものに対して、僕がメロディを付けるという流れで。今までにない挑戦でしたね。

──楽曲の着地点のイメージを最初に共有していたところもあったんですか?

阪井 この曲はありました。1970年代、80年代のポップソングのような曲ができたらなと思っていたんですよね。生楽器の温かさ、華やかさのある曲を今の自分たちがやったらハマるんじゃないかなって。結果、本当にアルバムの1曲目にふさわしい曲になったし、自分の中では新しいものができた感覚がありますね。トオミさんの感性に引っ張られたことで、ひさしぶりにこんなにポップな曲を作れた気がする。ちょっとこっ恥ずかしさもあるんですけど(笑)、でもこれだけシンプルでわかりやすいメロディを作れたのは、コライトをしたからこそだと思います。