ファーストサマーウイカ|デビューは言わば“脇役のスピンオフ作品” ファンの期待に応え音楽シーンに舞い戻る

ファーストサマーウイカが、シングル「カメレオン」でユニバーサルミュージックよりメジャーデビューした。

ウイカは2013年5月にアイドルグループ・BiSに新メンバーとして加入し、高い歌唱力と奔放なキャラクターでアイドルシーンにその存在を知らしめた。2015年1月からはNIGOプロデュースのBILLIE IDLEで活動してきたが、2019年12月にグループは解散してしまう。しかし、BILLIE IDLE終了直前に出演したテレビ番組で大きなインパクトを残し、バラエティ、ドラマ、ラジオなど各種メディアで引っ張りだこの存在に。奇しくもタレントとして大成功を収めたウイカだったが、音楽に対する愛情は人一倍強く、このたびソロアーティストとして音楽の世界にカムバックすることになった。

ソロデビューシングル「カメレオン」の作詞作曲を手がけたのは、彼女が敬愛するシンガーソングライター・阿部真央。ウイカとの会話をもとに、彼女の持つ内面を歌詞で表現している。音楽ナタリーでは、これまでグループの一員として活動してきたウイカにソロで歌う理由や、芸能活動をするうえでの美学について聞いた。

取材・文 / 西澤裕郎(SW)

超特急列車のBiS、鈍行列車のBILLIE IDLE

──BILLIE IDLE解散後、ウイカさんはタレントとしてさまざまなメディアに引っ張りだこです。その中で音楽に関する取材を受ける心境はいかがですか?

タレントになった今、過去の経歴としてBiSやBILLIE IDLEなどの音楽活動を語るのは今までとはひと味違いますね。音楽を中心に自分を語ると、ルーツ的な部分に触れられるからうれしいですし、グループの当事者としてではなく、少し遠くから俯瞰して話すことができるというのもまた楽しいですね。

──2013年にBiSに加入した当初のインタビューでも、自分はグループを俯瞰して見ているということを言っていましたよ。

うわー、なんか嫌なやつですね、私(笑)。でも何事も1歩引いて全体を見ようとする性格は、当時も今も変わらないと思います。

──振り返ってみて、実は俯瞰できていなかった部分もありますか?

最初は俯瞰できていたと思うんです。でもBiSは“超特急列車”のようなグループだったので、降りようにも降りれないし、いつの間にか取り込まれていったというか。逆に「目の前のことしか見えない!」ぐらいでよかったのかなと今は思いますね。

──むしろ、今も超特急列車に乗っているような感覚じゃないんですか?

BiSの頃が一番速かったですね。逆にBILLIE IDLEが鈍行だったので、そういう意味では、今は、主要駅に停まる急行ぐらいですかね(笑)。

人生の半分以上が音楽活動だった

ファーストサマーウイカ

──タレント活動が本格化してからも音楽活動をやりたい気持ちは強かったんですか?

中学1年生で吹奏楽部に入って楽器を始めて、劇団に入ってからもバンドをやっていたし、上京してからはBiS、BILLIE IDLEと、人生の半分以上音楽を続けてきたんです。だからBILLIE IDLEが解散して音楽がなくなると決まった瞬間、「あ、音楽やっていたい!」と思って、鮮度が落ちないうちに動き出そうと、解散直前ぐらいから周囲に相談していました。あと何より、「歌っているウイカちゃんが一番好き」「音楽をやってほしい」というファンの皆さんからの声を、たくさんいただいていました。それが本当にうれしくて。皆さんに求めてもらえているうちに、その思いにもなるべく早く応えたい!と思いました。

──今回はグループ活動ではなく、ソロで歌うことを選択されました。

グループ活動は劇団で組んでいたバンドやBiS、BILLIE IDLEで十分やることができたから、集団で何かやる発想はもう自分にはなくて。野性爆弾のくっきー!さんと遊びでスタジオに入らせてもらってバンドも楽しくやったんですが、スケジュールを合わせるのが大変で、スピード感を考えるとやっぱり1人のほうがいいかもしれないと。あとやっぱり自分は集団の中でセンターを担えるキャラクターではないなと実感しました。ソロだったら音楽活動への捉え方も変わるかもと思ったし、1人でメジャーデビューをしてみたいなと思ったのも大きいです。

──ウイカさんの中でやりたいことがあって、それを周りのスタッフやチームと共有していったと。

阿部真央さんに曲をお願いしたいという希望や、編曲作業、アーティスト写真のスタイリング、MVの内容についても、積極的に発言をさせてもらって、随所で採用していただきました。私としては文化祭みたいな気持ちというか、何か1つをみんなで完成させる感覚でしたね。ソロ活動の中でも、劇団、バンド、グループのときと同じように、集団で物作りをする喜びを味わえるとは思いませんでした。

真央さんが解剖してくれた

──「カメレオン」を制作するにあたり、どういう部分に一番こだわりましたか?

真央さんのやり方で作ってほしいという思いがありました。まず、2人きりでお会いして、取材みたいな形で私の考え方を聞いていただいたり、ディスカッションさせてもらって。それをもとに歌詞を書いてくれました。曲調に関しては、初期の真央さんの「ふりぃ」とか「モットー。」みたいに元気が出るようなアッパーな雰囲気をお願いしたんですけど、上がってきたのが真逆の「カメレオン」で。デモの時点ではギター1本の弾き語りだったんですが、かき鳴らしながら訴えるように歌う真央さんの声から、歌詞が突き刺さって涙が出ました。そして真央さんから「いろいろ考えたんだけど、ウイカちゃんに歌ってもらうことを思いながら書くと、こうにしかならなかった」と言ってくれて(笑)。オーダーと真逆だったので驚きもありましたが、それを超えてくる感動があったので、「絶対この曲を歌いたいです!」と即答しました。

──阿部さんが感じたウイカさんのイメージを曲に落とし込んでくれたんですね。

そうですね。さらにakkinさんの編曲の力も素晴らしいですね。歌詞も曲調も暗いというわけじゃないけど、人間みんなが持っているヌメッとした部分が入っていて。しこりに近いのかな。取っ払えない腫瘍っぽい部分が表現されているというか。そこまで察してくれた真央さんは本当にすごいなと思いました。私のことを知ってくれている人は「ウイカっぽい」と思ってくれるだろうし、モノマネで「めざせポケモンマスター」とかを歌う姿を観ている人には、アーティストとして新しい一面を提示できるかなと思います。歌詞を通して、真央さんが私を解剖してくれた気がしますね。

──確かにバラエティでの明るいウイカさんをイメージしながら聴くと、びっくりすると思います。

最初の1曲だからこそ、自分の内面も乗っかっているものを名刺代わりに出す。そこにアーティストとしてやる意味があると思ったんです。自分で作詞作曲をしていない以上、私の感情や考え方が表れているものを歌えることは願ってもないことだし、真央さんが「ウイカちゃんと私、似てる」と言ってくれて。寄り添って書いてくれましたね。

笑顔が嘘くさいと言われる私をどう書く?

──そもそも、ウイカさんは阿部さんのどういうところに惹かれて、楽曲制作のオファーをしたんでしょう。

私は1990年代初期の、特に男性のロックバンドが好きなんですけど、高校生のとき、真央さんの曲に衝撃を受けて。ソロの女性アーティストさんの音楽をあまりこだわって聴いてこなかったんですが、真央さんは別格で。個人的には椎名林檎さんの次にセンセーショナルなシンガーだと思います。同世代というのもあって特別に聴いていたのかもしれません。真央さんの音楽はまさにロックなんですよね。アーティストだから、カッコつけても、嘘をついても、きれい事を言っても、曲になっちゃえば全部成立するから、歌の中では何をしたっていいはずなんです。でも、真央さんの曲には全然嘘がない。真央さんは高校生のときにデビューされていて、がんばっているけどうまくいかない葛藤を常にその時々の目線で背伸びせず歌われているように感じていました。

──そうした嘘のないところに惹かれたわけですね。

逆に私は「本質が見えない」とよく言われるんです。けっこうあけすけで正直なタイプなんですけど、ワイプで笑っている顔が嘘くさいと言われることもある(笑)。世間にそう思われている私を真央さんがどう書くんだろうという好奇心もあったし、真央さんが書くロックだったら間違いないと思っていました。何より、私に書いてくれた曲をいちファンとして聴きたいという気持ちは強かったです。

──「カメレオン」のどういう部分にウイカさんの本質が描かれていると感じましたか?

フレーズでいうと、Aメロの「はなから透けてる私になって その場に合わせた私で接して」と、サビの「100出して君はついて来れるのか? 100出して君は受け入れられるか」。みんなに当てはまると思うんです。誰しも接する人それぞれに合わせたモードがあるし、SNSと現実世界でも違う人格があったりする。「君が見てたいだけの編集点」という歌詞もあるんですけど、これは私の話が下敷きになっていて。本当はそういう意図じゃないのに、他人の手によって編集されて違う話として世に出ることがあったりします。編集する側も受け取る側も、相手のいいところだけ、悪いところだけ切り取って、「この人こういう人だよね」とレッテルを貼って人を認識することってあるよなって。自分も無意識にやっているかもしれない。だったら、結局100%素の自分を見せても受け入れられないんじゃない? そもそも100%素の自分とか存在するのか?と自問自答しながらも、あきらめずに戦う気持ちを歌っているのではないかと考察しています。私は自分のことが書かれている曲だと思っているけど、この時代にも合っているし、きっとみんなも共感してくれるような内容だなと、歌えば歌うほど思います。

──たしかに100%素の自分を出せるかというと、どこかで繕ってしまうというか。

どんなに心を許していても、その人に合わせた自分になっているでしょうしね。