ファーストサマーウイカ|デビューは言わば“脇役のスピンオフ作品” ファンの期待に応え音楽シーンに舞い戻る

例えるならクリリンの主演作

ファーストサマーウイカ

──どこかで「私が主役になりたい」という気持ちや欲は出てこないですか?

むしろ、主役にはなれないと思い知らされることのほうが多いんです。テレビで活躍している人はモンスターばかり。本物の天才がゴロゴロいて、客観的に分析できてしまうがゆえに現実を見るわけです。「こいつを倒すぞ」という気持ちにはなれない。「ドラゴンボール」の悟空や、「ONE PIECE」のルフィみたいな猪突猛進な天才。「ドラゴンボール」で例えると、私は地球人で、天才はサイヤ人。ただ、地球人のクリリンが倒されたことにブチギレてくれるサイヤ人がいるわけですよ。天才が必要としてくれる人になる道は、私にまだ残されていると思うんです。だから私はクリリンのような存在になりたい。自分で言うのもなんですけど、名脇役は目指せる気がします。だから、ソロデビューはスピンオフっぽいというか、クリリンが主役の物語っていう感じがするんです(笑)。

──あくまで主役を支えるポジションなんですね。

自ら中心となってバンドを組むとか劇団を作るとか、自分が主となる物語を作る発想は出てこない。でも組織を仕切ったり回したり軌道修正するようなことはやりたいので、センターというよりは縁の下を支えようとするタチなんでしょうね(笑)。天才が主人公のほうがマンガは面白いし、自分のキャラクターだと、脇役で2、3番手にいるほうが100倍おいしいというのもわかっている。「踊る大捜査線」シリーズで言うと「交渉人 真下正義」みたいな。「ちょっと面白いキャラクターだからスピンオフ作ってみようか」というのが今回のメジャーデビューですね。

──わかりやすい例えですね(笑)。

私の中ではそう考えているけど、ソロデビューは傍から見たら主演作だと思うんですよ。主演作があったら、バイプレイヤーとしてはさらに箔がつくじゃないですか。「あ、最近もう主演もやっているんだ、この脇役」みたいな。鳴り物入りで若くしてセンターに立たせてもらうよりは、2、30年キャリアを積んで、脇役だけど気付けば主演映画がある。私の美学では、それが一番カッコいいんです。

スキマ産業じゃ通用しない

──今まではグループの中で歌割りがありましたけど、1人で最初から最後まで歌うのはまた違う部分があるんじゃないですか?

普通にしんどいなと思いましたね(笑)。5人組のグループと同じ濃度をソロで出すためには、1人で5つのパートを担当しなきゃいけないというか。例えば喜怒哀楽も、それ以外の感情も、1人で全部表現しなきゃいけない。そのためには、やっぱり技術が必要なんです。それこそ天才だったら、何も考えずにライトの下で歌うだけで成り立つのかもしれないけど、自分はそうじゃないから。今までは「この役割が足りてないから、ここを私が担おうか」という相対的な見方で自分を配置していたんです。今は自分が何かをやらないと何も生まれない絶対的なポジションになっていて。それって意外と自分でやってこなかったことだし、もしかしたら一番経験の浅いことかもしれないですね。スキマ産業が得意で、空いている陣地を埋めるような作業をしてきたけど、何も埋まってないところを「ご自由にどうぞ」と言われているような感覚なので、得意か苦手かもまだわからない状況ですね。

──「カメレオン」の聴きどころを挙げるとしたら?

大きな間奏を挟んだBメロの部分が個人的には気持ちが乗りますね。基本、私はグーで殴りに行くような性格なんですけど、ボクサーが両手をダラーンと下ろしてノーガードで向かってくるとき、ゾクっとする怖さがあるじゃないですか。ぬらぬらーと歩いてくる動作が、ちょっと不気味というか。私は2Bメロをそんなふうに捉えていて。これまでのグループで、私はアッパーなサビを担当することが多かったから、あまり集団の中では見せることのなかった要素をうまく表現できているのかなと思います。まさにノーガード戦法というか。

──MVもかなりこだわりの強そうな作品です。ウイカさんが熱演されていますね。

絵コンテの段階ではここまでクオリティの高いものを撮っていただけると思っていなくて完成したときは震えるほど感激しました。アイデアを話しているときは面白要素が強かったので、コントっぽくなるのかなと思っていたんですけど、田辺秀伸監督が本格的な映画のワンシーンみたいにしてくださって。マダムに扮した私のヘアカーラーが武器になっているシーンがあるんですけど、打ち合わせで「トゲトゲになっていて武器になったらオモロないですか?」と思い付きで言ったことを、めちゃめちゃクオリティ高く再現してくれていて。一緒に作れてすごく楽しかったです。

──ウイカさんらしいユーモアもありつつ、真剣さもあって。テーマとしてはどんなことを盛り込もうと考えていたんでしょう。

まずベースに、芯の強い女性、戦う女性のイメージがありました。そのうえで「カメレオン」という曲の多面性を描きたかったんです。同じ人間だけど、あらゆる面がある。それを1人2役で表現しています。ストーリー部分もかなり私のアイデアを採用してくださったんですけど、俯瞰をしている自分というのがいて、戦っている自分なのか、戦わされているのかわからないけど、さまざまな自分が葛藤している。それを冷ややかな目で見ているのか、熱狂しているのか、いろいろな自分がいるよね、というところを、私の趣味であるテレビゲームのシーンも取り入れて表現できたらいいなと思ったんです。ちょっとベタかもしれないけど、そこをうまく曲と合わせることによって、映画っぽくいい着地ができたのは感動しましたね。「みんなで作品を作っている!」という高揚感がありました。

興行として成立させたい

──もともと音楽活動をしてきたウイカさんにとって、音楽作品を通して自身の考えや思いを伝えるのは、とてもうれしいことなんじゃないでしょうか。

ファーストサマーウイカ

今、私が活動する主なフィールドはバラエティやラジオですが、そういうお仕事って刹那的なんです。「あのラジオ神回だったね」と語られることもあるだろうし、テレビでバズって一瞬話題になることはあるかもしれないけど、よほどじゃない限り未来に残りにくいというか。でも音楽を作品として世に出すと、長く人の心に残っていく。音楽は色褪せない。そして、今回だったらこの「カメレオン」を入口に、BiSやBILLIE IDLEの作品も聴いてもらえるかもしれない。「カメレオン」の楽曲とMVが完成して、作品を残すことの素晴らしさを強く感じましたね。そこにあり続けることの強さというか。

──この先、ウイカさんが挑戦してみたいこと、やってみたいことがあれば教えてください。

コロナ禍でのソロデビューということもあって、今まで当たり前だったことができないんですけど、アーティストとしてのファンの方が増えてくれるとうれしい。そのうえで、その人たちに会う術を作っていけたらという願いはあります。1年前にソロ活動の話が動き出したときは「フェスも狙っていきたいです!」と息巻いていたんですけど、そもそもコロナの影響でフェスも開催されない日々が続いていて。本当にライブがやりたいです。なので今は、どこそこの会場でワンマンライブをやりたいという夢より、この状況下でも、興行として成立させて契約が長く続けばいいなと(笑)。あまりアーティストとしてのドリームが語れなくて、ちょっと恥ずかしいんですけど。

──「日本武道館に立ちたいです」と言うより、ウイカさんらしいなと思いますよ。

武道館に立つんだったらワンマンじゃなくていいかなと思っちゃうんです。武道館で主催のスリーマンとかできないのかなとか、そういうことを考えますね。今は、音楽やステージ業界の火を絶やさないように、みんな奮闘をしているところだと思うんです。私はその舞台から1年ぐらい離れてしまっていたから、まずその輪の中に入って、自分にできることをやりつつ、貴重なイベントとかに呼んでもらえるような価値を見出すために考えて行動していきたいですね。私は曲を書けないし、今回の阿部真央さんとの化学反応がすごく面白くて感動したので、いろいろな人にラブコールを送っていきたいなと思っています。なので「ぜひ一緒にやろう!」 って思ってくれる方がいたら、連絡ください!