音楽ナタリー PowerPush - fhána

憂鬱の向こう側示す1stフルアルバム

ミトがベースを弾いた渋谷系曲

──2曲並べて収録されている「lyrical sentence」と「スウィンギングシティ」の流れが個人的にヒットでした。

佐藤 非常に軽やかな2曲がお好きで(笑)。「lyrical sentence」はクラムボンのミトさんにベースを弾いていただいたんですよ。

──え、そうなんですか!? オシャレな仕上がりですよね。

佐藤 オシャレ曲を並べました(笑)。この2曲はBメロがなく、Aメロ→サビ→Aメロ→サビっていう構成。そういうのはアニメのタイアップ曲ではなかなかできないんで、ここでは自由にやりました。「lyrical sentence」は僕の大好きな渋谷系を今っぽいエレクトロなサウンドで包み込んだ感じだし、アルバム用に新たに作った「スウィンギングシティ」は、さらに渋谷系全開な感じだと思います。

yuxuki 僕も渋谷系好きなんで、楽しかったですね。特に「スウィンギングシティ」はfhánaにしては珍しく音数が超少ないので、単純に歌やリズムを楽しめる感じ。そこが僕としては気に入っているところですね。

towana ライブでもよさそうだよね。

──確かに楽しそう。ただ、歌は息つく暇がない感じですよね。

towana あははは(笑)。歌いっぱなしですね、はい。でもこういう跳ねてるノリの曲で歌うのは個人的に好きなので、楽しくレコーディングできましたよ。

──そして「Paradise Chronicle」はyuxukiさんが作曲を手がけています。

yuxuki はい。バンド的なノリを出したかったから、ここでもミトさんにベースを弾いていただいてます。ライブに向けて作った曲でもあるので、シンガロン的なコーラスが入っていたりサビを四つ打ちにしたりとギミックをいろいろ入れました。これは1年くらい前からあった曲だけど、去年の夏にライブをたくさんやった経験が生きて、ガラッと雰囲気が変わったところもあって。今だからこその仕上がりになったと思います。

佐藤 SNSの世界をパラダイスに見立て、そこからの別離をテーマにした歌詞をオーダーしたんですけど、林くんがSNSだけでなくさまざまなコミュニティに当てはまるようにテーマを広げてくれました。結果的にすごくエモーショナルな内容になったのがよかったですね。

ファンタジーで伝えるリアル

──本当にさまざまなタイプの楽曲で紡がれたアルバムですが、全編通して人と人とのつながりを感じさせる内容だったのもすごく印象的で。インターネットの世界を出自とするメンバーを中心に結成されたfhánaが持つ、生身の温かさもまたユニットとしてのアイデンティティである気がしましたね。

佐藤 今回のアルバムのアートワークに全体のテーマを補足するために序文と終文を付けているんですけど、その序文で書いていることがまさにそういうことなんです。インターネットが普及したことで価値観が多様化して、それぞれが自分の好きな趣味の世界に閉じこもるようになって、昔のように1つの大きな価値観みたいなものをみんなで共有することが少なくなったというふうによく言われているじゃないですか。「みんなの心が離ればなれになってる世界だよね」みたいな。

──はい。

佐藤 だけど人の心っていうのは本質的にはそんなに変わらないはずじゃないですか。ネットが生まれる前の世界の人も、今の人も、たとえ国籍が違っていたとしても、本質的にはもっとシンプルに人とつながりたいとか幸せになりたいとか、願っていることはあまり変わらないはず。ただ、今はその心の奥の本質にたどり着くまでのルートが複雑になってしまっているから、なかなか言葉が届かなくなってしまっているんじゃないかなって。だからこそ僕らはそれを音楽を通して伝えていきたいなって思うんですよね。

──ループもの、セカイ系、パラレルワールドといった言葉を聞くとどこかフィクションやファンタジーの世界を想像してしまいますけど、fhánaが描き出し、伝えようとしていることはリアルな現実世界へとつながっていますもんね。

佐藤 そうですね。ゲームではさまざまな選択をすることによってエンディングが変化しますが、それって現実の世界も同じで、みんな人生の中で膨大な選択を積み重ねて、今の自分があるんだと思います。もし別な選択をしていたら全然違う自分もあり得たわけですが、そこで本当はこうがよかったとか、あのときこうすれば……と憂鬱に思うのではなく、「どうとでもあり得たけど、こうでしかない今の自分と周りの世界」をかけがえのないものとして肯定していこうよっていう、それこそが「憂鬱の向こう側」なんだっていう、そんなメッセージを感じ取ってもらって、聴いてくれた人が新しい希望の扉を開いていってくれたらすごくうれしいなって思いますね。

1stワンマンライブはすごく重要

──3月1日には待望の初ワンマンが東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催されます。最後に、そのライブにかける意気込みを聞かせていただけますか。

towana ワンマンライブは初めてなので、どんな方々が来てくださるかドキドキしてるんですけど(笑)、私たちだけを観に来てくださる方々に心から楽しんでもらえるような内容にしたいなって思ってます。以前から応援してくださっている方々には直接感謝の気持ちも伝えたいですし。とにかくみんなで一緒に楽しみましょう!っていう感じですね。

yuxuki ワンマンじゃなきゃできないことをガツンと見せたいですね。みんなにとっていい思い出になるようなライブをするために、ここから準備をしっかりがんばらなきゃなって感じですね(笑)。

kevin 僕はもう単純に、イベントと比べて曲数をたっぷりできるのがうれしくてしょうがないですね。アーティストにとって1stアルバムが大事なものであるように、1stワンマンっていうのも一度きりですごく重要なものだと思うので、一生に一度であることを大事にしながら楽しみたいと思います。

佐藤 このアルバムを通して見つけたfhánaとしてのアイデンティティを、さらにしっかりと表現していきたいですよね。昔の曲から今の曲まで、現時点までの歴史を総括するようなライブになればいいなと思います。

──きっとそのライブではオーディエンス全員を“憂鬱の向こう側”へと連れていってくれるんでしょうね。

一同 あははは(笑)。

佐藤 セラピーみたいな感じで(笑)。

yuxuki いやいや(笑)。「みんな一緒に行こうぜ!」っていう感じですね。

1stアルバム「Outside of Melancholy」 / 2015年2月4日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+Blu-ray Disc] / 3888円 / LACA-35473
通常盤 [CD] / 3240円 / LACA-15473
CD収録曲
  1. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~
  2. tiny lamp
  3. divine intervention
  4. lyrical sentence
  5. スウィンギングシティ
  6. はじまりのサヨウナラ
  7. いつかの、いくつかのきみとのせかい
  8. Paradise Chronicle
  9. ARE YOU SLEEPING?
  10. ケセラセラ
  11. innocent filed
  12. 君という特異点 [singular you]
  13. 星屑のインターリュード
  14. white light
初回限定盤Blu-ray DISC収録内容

[MUSIC VIDEO]

  1. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~
  2. 星屑のインターリュード
  3. いつかの、いくつかのきみとのせかい
  4. divine intervention
  5. tiny lamp
  6. ケセラセラ

[LIVE VIDEO(2014.9.23 深窓音楽演奏会 at Shinjuku BLAZE)]

  1. tiny lamp
  2. 星屑のインターリュード
  3. kotonoha breakdown
ライブ情報
1stアルバム発売記念ライブ「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」
2015年3月1日(日)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
ワンマンツアー「Outside of Melancholy Show 2015」
2015年5月17日(日)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
2015年5月23日(土)大阪府 OSAKA MUSE
2015年5月24日(日)京都府 METRO
fhána(ファナ)

佐藤純一(FLEET)、yuxuki waga(s10rw)、kevin mitsunaga(Leggysalad)という3人のプロデューサーと、女性ボーカリストtowanaによる4人組ユニット。それぞれ個別に活動していた佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaの3人が2009年に出会い、ボーカリストを固定しないユニットとして始動した。2012年秋にはゲストボーカルの1人だったtowanaが正式加入。「僕らはみんな河合荘」「ウィッチクラフトワークス」「ぎんぎつね」「有頂天家族」「天体のメソッド」といったアニメ作品でテーマソングを担当して高い評価を集めた。さらにChouChoや相沢舞のプロデュース、さよならポニーテールやDECO*27の楽曲のリミックスなども行っている。2015年2月には1stフルアルバム「Outside of Melancholy」を発表。また同年3月には初のワンマンライブ「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」を東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて開催する。