「Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅵ」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:田中美海)

スマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」のサウンドトラック第6弾「Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅵ」が7月26日にリリースされた。音楽ナタリーでは前作のインタビュー(参照:「Fate/Grand Order Original Soundtrack V」芳賀敬太&毛蟹インタビュー(聞き手:石谷春貴))に続いて、「FGO」シリーズの音楽をメインで制作する芳賀敬太と、BGMのアレンジャー・毛蟹へのインタビューを実施した。今回のインタビュアーは「FGO」第2部 第7章に登場するキャラクター・ニトクリスおよびニトクリス〔オルタ〕の声優であり、「FGO」のヘビーユーザーである田中美海が担当。ニトクリスおよびニトクリス〔オルタ〕が活躍する「FGO」の第2部 第7章「黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン」をはじめとしたサウンドトラックの制作秘話や、TYPE-MOONの音楽像について聞いた。

※本記事は「Fate/Grand Order」本編シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

取材 / 田中美海文 / 酒匂里奈撮影 / 曽我美芽

謎解きしているような音楽

──今回のサントラには「FGO」の第2部 第6.5章「死想顕現界域 トラオム」、第7章「黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン」の音楽が中心に収録されています。まずは「トラオム」について、章を通して楽曲制作のテーマは何かありましたか?

芳賀敬太 シナリオで描かれている戦争の部分に着目して作りましたね。ちょうどゲームのタイトル画面の曲が変わってから初めての章だったのでその楽曲と絡めたり、第6.5章の肝となる最後のシーンと全体的なつながりが出るようには考えました。

──ライナーノーツには「トラオムは全体的に曲が重め」と書かれていましたね。

芳賀 より大きな局面に向かっていったり、戦争でどんどん命が散っていったりというストーリーからそうなりました。もしシャルルマーニュがもっと活躍するストーリーだったら、音楽もまったく違ったものになっていたかもしれません。

田中美海

田中美海

毛蟹 全体的に重めだという話は芳賀さんから事前に聞いてはいたんですけど、いざ曲が実装されてみると戦争的な重さじゃなくて、パーソナルな重さを感じて。「トラオム」の話の中心にシャーロック・ホームズというキャラクターがいるというのもあると思うんですけど、全体を通して謎解きしているような感覚を覚えたというか。

芳賀 確かに「トラオム」の曲の半分程度はキャラクターに紐付いていますね。ホームズもそうだし、クリームヒルトやジェームズ・モリアーティも。

毛蟹 音楽にミステリーやサスペンス的な要素も含まれていたのかなと感じたんですがどうですか?

芳賀 モリアーティ戦の曲はそういうイメージもありますね。“複雑な大物感”みたいなものをどう表現しようか考える過程は、自分としても謎解きというか、パズルのような感覚でした。

──1.5部「亜種特異点Ⅰ 悪性隔絶魔境 新宿 新宿幻霊事件」でのモリアーティの曲「アンチヒーローズ ~BATTLE 3~」のフレーズが、「トラオム」のモリアーティ戦で引用されていたのが印象的に残っていて、1人のオタクとしてエモくなりました。そういうプレイヤーの気付きは、楽曲制作者の方からするとやりがいにつながりますか?

芳賀 そうですね。気付いてもらえたほうがエモみが深まります。モリアーティに関してはまったく新しい曲を作るよりは、「新宿」はアラフィフ、「トラオム」はヤングのモリアーティだから、曲にもつながりがあったほうがいいだろうなと思って。

曲のアイデアは受信する

──過去の曲の派生版やアレンジバージョンを作るのと、新しくイチから曲を作るのとでは、それぞれどんな難しさがありますか?

芳賀 一番悩むのは中心となるメロディやリフのパターンなので、そこが最初からあるという意味では派生版を作るのは楽ですね。ただ元の曲をどうにでもしていいわけではないと思っていて。何をどこまで残すとか、そのあたりのバランスを調整するのは難しいですね。「トラオム」で言ったら、「Fate/stay night」の曲「静かなる声」をアレンジした「静かなる声 ~FGO~」で悩みました。

──「静かなる声」は「Fate」シリーズファンにとっては思い入れのある曲だと思います。なぜこのタイミングでアレンジバージョンが「FGO」で実装されたのでしょうか?

芳賀 もともとは「FGO」と関係ないところでアレンジのアイデアが浮かんで。ただ「FGO」の制作サイドからは汎用曲は常に求められているので、「こういうのできたから使えるときがきたら使って」とだいぶ前に曲自体は提出していたんです。それが「トラオム」のミステリアスな感じにマッチしたのかなと。

──そういう経緯があったんですね。毛蟹さんはいかがですか? 過去曲の派生版やアレンジバージョンを作るのと、イチから曲を作ることの違いについて。

毛蟹 使う頭は根本的に違います。僕は0から1を生み出す作曲は時間がかかっちゃうタイプで。アレンジは1から100にする作業だと思ってるんですけど、そっちのほうが手が早く動きます。芳賀さんはアレンジだとバランスを考えるのが大変だとおっしゃってましたけど、僕の場合は芳賀さんがチェックしてくれるので。最初からやりすぎたアレンジにしても芳賀さんにブレーキをかけてもらえる安心感はありますね(笑)。

芳賀 修正依頼が一番気を遣うし、苦手な仕事なんだけどね(笑)。

──お二人がイチから曲を作るときに、どんなふうに作っているのか気になります。ふとしたタイミングで頭の中にメロディが浮かんでくるんでしょうか?

芳賀 そうですね……曲によって違いますけど、基本的には受信してます。

──受信……? 空からとか……?

芳賀 かもしれません(笑)。自分でこういう曲を作りたいという思いが頭の中にあると、そのうち受信するんです。作業できる時間は多くないので、発注を受けた時点で、脳内へある程度の情報の入力を済ませておく。そこから受信できたらラッキーだし、できなかったらとりあえず手を動かし始めて力技で要求に応えていきます。

田中美海

田中美海

田中美海

田中美海

──毛蟹さんは受信、されていますか?

毛蟹 受信という表現が天才すぎて……(笑)。

芳賀 演算って言うべきかな(笑)。

毛蟹 自分もメロが頭に湧き出るタイミングはあります。風呂に入っているときや寝る前にアイデアが湧くことが多くて。それを鼻歌で携帯に録音しておくんです。翌日起きて改めて聴いたらぜんぜんよくなくて絶望するパターンも多いですけど。だから携帯のボイスメモは何千件とか、すごい数になっています。

芳賀 自分の場合だと、アイデアが浮かびやすい状況は、「この1分で浮かばなければすべてが終わる!」と追い詰められたときですね(笑)。毛蟹さんのようなやり方が一般的だと思うんですけど、自分はあまりストックは作っていないというか、ストックを作る余裕がなくて。もちろんふとしたときにアイデアが浮かぶことはあるんですけど、デスクに着いたときに忘れていたらその程度の曲だったと思うことにしています。

威厳のあるエジプトらしさ

──続いて「ミクトラン」の話に移らせてください。さっそくですが私が演じたサーヴァント(神話や伝説発祥、もしくは実在した英雄の魂“英霊”を儀式によって召喚し、プレイヤーが使役可能となったキャラクター)について伺いたく! ニトクリス〔オルタ〕の宝具(サーヴァントが持つ切り札)BGMの制作エピソードを教えてください。

芳賀 いつもお世話になっていますから、これは気合いを入れないとなと思って作りました。ニトクリス〔オルタ〕のイラストレーターが社内の人間だったので、イラストを事前にチラッと見せてもらえたんです。そこから得たオルタの強いイメージを落とし込んで、頭の中で編集して宝具に合いそうなサウンドを作っていきました。

──ニトクリス〔オルタ〕らしい、威厳のあるエジプトらしさが出ていたように感じました

芳賀 そうそう。エジプトらしさね。必殺技みたいなイメージもありつつ、エジプトっぽさも出せるといいなというのは今回のテーマでしたね。

田中美海演じるニトクリス〔オルタ〕。

田中美海演じるニトクリス〔オルタ〕。

田中美海演じるニトクリス。

田中美海演じるニトクリス。

──そういうお国柄というか、“らしさ”みたいなものを出したいときって、事前にリサーチするんでしょうか?

芳賀 一応調べはしますけど、結局その国の本格的な音楽ってそれほど耳なじみがないんですよね。どちらかというと日本のゲームやアニメを楽しむ中で刷り込まれたであろうイメージを大事にしています。自分のイメージがズレていないかは武内(TYPE-MOON代表の武内崇)と話し合うことはありますね。

──「ミクトラン」の音楽に関して、メインシナリオライターの奈須きのこ先生からの発注はどんな内容でしたか?

芳賀 今回は全体を通してのテイストみたいなものはなくて、曲ごとに発注や要望をもらいました。

──確かに「炎のストライカー」とかはいきなりテイストが変わっていて、かわいいなと思いました(笑)。

芳賀 ははは。サントラに収録するうえでは、流れが変わるのでちょっと扱いに困りましたね。

毛蟹 あの曲はワールドカップを観ながら作ったんですか?

芳賀 見たあとだと思う(笑)。