映画「ブラックナイトパレード」主題歌担当・Eve×原作マンガ家・中村光インタビュー (2/2)

音楽で自分の精神と作品を合わせる

──中村さんにとって、ご自身が原作を手がけた作品のテーマ曲や主題歌はどんな存在なんですか?

中村 マンガを描くうえで欠かせない存在ですね。私は複数の作品を同時並行で連載することが多くて、例えば「聖☆おにいさん」を描いたあと「ブラックナイトパレード」の原稿に向き合うときや、自分の精神を作品に合わせるときに必ず音楽を聴くようにしています。そのときに聴くのはやっぱりテーマ曲が一番いい。自分の精神を戻すためのアンカーみたいな役割なのかな。

Eve「白雪」ジャケット

Eve「白雪」ジャケット

Eve 音楽がそういう形で力になっているんですね。

中村 自分の頭を切り替える際に音楽がすごく力になってくれるんです。音楽がないと仕事ができないというか、必ず音楽を聴いて自分の集中力を増すようにしています。逆にEveさんは普段、どういうときにマンガを読んでいるんですか?

Eve 最近でこそ小説や活字を読むようになりましたけど、もともとマンガやアニメといった視覚に訴えてくる作品が大好きで、もう暇があればマンガやアニメを見ている時期がありました。マンガにはマンガのよさがあるからアニメとはまた違う魅力があるし、僕の作ってきた音楽や音楽とセットになっているミュージックビデオにも、マンガやアニメの影響は出ていると思います。

中村 マンガがもとになって曲が生まれるようなことはありますか?

Eve マンガを読んでいる最中に「これを何かクリエイティブに生かそう」みたいには考えていなくて、なるべく純粋にマンガやアニメ、映画を楽しむようにしていて。結果として巡り巡って「あのときの作品が曲に生きてるかもしれないな」と思うことがありますね。なので、マンガにはすごく刺激をもらっていると思います。

田中たなか皇帝カイザーのモデルになった高校生

──アーティストとマンガ家という立場から、何かお互いに聞いてみたいことはありますか?

中村 私は家で仕事しているとすぐ眠くなっちゃうので、外に出ないと仕事ができないんです。なので、喫茶店の端っこの席で音楽を聴きながら仕事をしているんですが、Eveさんは集中したいときどうしていますか?

Eve 基本的に家で制作をしていますが、僕も集中力がそう長く続くわけではなくて。集中が切れちゃったときは思い切って寝てしまうか、散歩をしたり、人と会ったり、ごはんを食べたりして息抜きをするようにしています。

中村 そもそも音楽の制作って家じゃないとできないですもんね。機材とかもありますし。

Eve そうですね。でも作った音源を聴き直すときはけっこう外に行くことが多いですよ。気持ちを切り替えて曲と向き合ったほうが新たな発見があるんです。僕からも質問していいですか?

中村 もちろん、なんでも聞いてください。

Eve 僕、今日中村先生にお会いするまで、どんな方なのか全然想像がつかなくて。「聖☆おにいさん」や「ブラックナイトパレード」といった作品から想像するに、もっとはっちゃけた感じの方だと思い込んでいたんですよ。

中村 昔からよく言われます(笑)。家にいるときはもう少しバカな感じですけど(笑)、外にいるときは単純に緊張しているからかな。

Eve そうだったんですね。初対面でこんなことを伺うのも恐縮なんですが、こうしてお話ししていると、どうやって「ブラックナイトパレード」に登場するインパクトのあるキャラクターたちが中村先生から生み出されるのか想像がつかなくて……すごく落ち着いていらっしゃいますよね。

中村 けっこう単純で、私がこれまで知り合った人とか、テレビでよく見る芸能人とか、最近よく連絡を取り合う人とか、そういう人たちをそのままキャラクターにしていることが多いですね。今日はEveさんにお会いしたので、Eveさんのような空気感のキャラクターの原案が体内にストックされるんですよ。これから先、もし、落ち着いた雰囲気のアーティストをマンガに描くときがきたら、Eveさんのようなキャラクターが勝手に出てくると思います(笑)。

Eve ということは、「ブラックナイトパレード」の田中皇帝(主人公・日野三春と同じコンビニで働いていたチャラ男。三春とはサンタクロースハウスで再会し、ともに働くことになる)さんにも、ちゃんとモデルがいるんですね(笑)。先生からどうやったら皇帝のようなキャラクターが生まれるのか、すごく気になっていたんですよ。

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

中村 彼は私が高校の入学式で出会った男子をもとにしたキャラクターです。キティちゃんの紙袋を持った男子が「めっちゃ頭よさそうだね」って、いきなり私に話しかけてきて、隣でコーラを飲み出したんですよ。その記憶がずっと残っていたけど、これまで描いたマンガには合わなくて、「ブラックナイトパレード」を描くときにようやく出番が回ってきた、みたいな感覚ですね。

Eve 面白いですね。今日、お話が聞けてよかったです。

中村 こちらこそ、ありがとうございました。

──最後に「ブラックナイトパレード」の公開を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします。

Eve 僕はまだ完成形を観れていないので、皆さんと同じように公開を楽しみにしています(取材は11月に実施)。僕の曲が流れるエンドロールまでしっかり楽しんでもらいたいです。

中村 映画に出演してくださるキャストの方が本当にそれぞれのキャラクターにピッタリで。出演してくださるキャストの方々に話を伺ってみたところ、すごく楽しく撮影をしてくださったようなので、その楽しさが映画にもにじみ出ていると思います。観てくださる皆さんのクリスマスが素敵なものになったらうれしいですね。

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

映画「ブラックナイトパレード」©2022「ブラックナイトパレード」製作委員会 ©中村光 / 集英社

プロフィール

Eve(イヴ)

2枚の自主制作アルバムを経て、2016年10月に初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」をリリース。2020年12月にテレビアニメ「呪術廻戦」第1クールのオープニングテーマ「廻廻奇譚」とアニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」の主題歌「蒼のワルツ」を収録した音源「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」をリリース。2022年2月に自身初のボーカロイドアルバム「Eve Vocaloid 01」を配信した。3月にはオリジナルアルバム「廻人」を発表。同じく3月にはEveをフィーチャーした映画作品「Adam by Eve: A Live in Animation」が劇場およびNetflixにて公開された。4月に過去最大規模の全国ツアー「Eve Live Tour 2022 廻人」をスタートさせ、8月には追加公演として東京・日本武道館でのワンマンライブ「Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演」を行った。11月に中村光の同名マンガを実写化した映画「ブラックナイトパレード」の主題歌「白雪」を配信リリースし、12月には自身初の映像集「ZINGAI」を発表する。

中村光(ナカムラヒカル)

1984年4月21日生まれのマンガ家。2001年に「海里の陶」が掲載された「月刊ガンガンWING」にてデビュー。2002~2003年に同誌でショートギャグ中心の「中村工房」を、2004~2015年に「ヤングガンガン」で「荒川アンダー ザ ブリッジ」を連載し、2006年には「モーニング・ツー」で「聖☆おにいさん」にて連載をスタートさせた。現在は「ウルトラジャンプ」「デジタルマーガレット」にて「ブラックナイトパレード」を連載中。2022年12月には同作の実写映画が公開される。