étéが3rdミニアルバム「episode」を1月15日にリリースした。
コドモメンタルINC.に所属して以降、2018年12月から2019年7月にかけて多数の音源を発表してきたété。これまで短いスパンでリリースを重ねてきた彼らが約半年の時間をかけて制作した最新ミニアルバム「episode」は、常に新しいアプローチを求めるバンドの意思が反映された新曲5曲で構成されている。
なおこの作品は、2019年11月にリリースされる予定が、諸事情により発売延期となっていた。今回のインタビューでは発売延期に至った経緯や制作プロセスを振り返りながら、étéというバンドの表現欲求の源泉を探った。
取材 / 倉嶌孝彦 文 / 下原研二
時間が足りず、延期に
──「episode」は昨年11月にリリースされる予定でしたが、発売が延期になりました。なぜ延期になったんでしょうか?
オキタユウキ(G, Vo) レコーディングの途中で延期が決まったんですけど、正直曲を練る時間が取れなかったんです。コドモメンタルに所属してからたくさん音源を作ってきましたが、時間が足りないからといって満足していない音源を世に出すことはどうしてもできなくて。リリース日もツアーの開催も決まっていたのですが、無理を言ってレーベルに延期のお願いをしました。
──曲自体はできていたけども、クオリティ面に不安があったということですか?
オキタ そうですね。リリックもそうですけど、よりよいものになるんじゃないかと。
ヤマダナオト(B) リリックだけではなくて、各々のフレーズもけっこう苦戦していました。
オキタ 僕らは曲単位、CD単位で毎回新しいアプローチを試しているんです。演奏陣はそういう部分を取り入れつつétéらしい1曲に仕上げる、というところで今回苦戦していたかもしれないね。
小室響(Dr) なんだか人ごとみたい(笑)。
──時間をかけたことで、オキタさんの満足のいく音源に仕上げることができたんですね。
オキタ もちろんです。ただこれは今回のアルバムに限らないことなんですが、アルバムの作り始めに考えていた仕上がりとはけっこう違うものになったんですよね。メンバーが3人いるわけですし、作っている中で曲が変化しいくことがけっこう多くて。そういう想定外を楽しむこともバンドで音楽をやる醍醐味だと感じています。
étéのアニソン
──「episode」というタイトル、一見するとストレートな言葉のように見えますがどのような意味を持たせているのでしょうか?
オキタ “episode”という言葉は医学の世界で“発作”“発症”といった意味で使われているんですね。今回のミニアルバムは、“心の病を発症してる期間”という意味で「episode」と名付けました。収録曲がすべてそろった段階で、それぞれ違う情緒が込められていることに気付いて、いろいろ考えていたらこの言葉に行き当たったんです。
ヤマダ 今回のミニアルバムはオキタの自分語りに近い要素もあるよね。そういう意味での“episode”でもあるのかなと思ってた。
オキタ うん。5曲それぞれを違うストーリーと捉えて、物語の意味での「episode」だと思ってもらっても全然問題はないんです。解釈は人それぞれですし、そう感じ取ってくれたことに間違いはないから。
──前作「Apathy」では「ruminator」という楽曲がアルバムの方向性を決定付けたとおっしゃっていました(参照:été「Apathy」インタビュー | 3人が共に歩む理由)。今回の「episode」にそういった曲はありますか?
オキタ 「Bipolar」「skepticism」の2曲ですね。この2曲を軸にして1枚のミニアルバムとして成立させようという狙いはありました。
ヤマダ 「Bipolar」は僕らの曲にしては珍しくすごくキャッチーな曲なんですよ。「アニソンができました!」ってレーベルの社長に聴いてもらったら「ううん、アニソンからはほど遠い(笑)。言いたいことはわからなくないけど」と怒られましたけど(笑)。
オキタ この曲を作るときは明確にミニアルバムのリードトラックになるものを作ろうと考えていたんです。これまで僕らが培ってきた音楽をそのまま進化させつつ、難しくなりすぎないようにキャッチーにする。それが実現できたと思いました。
ヤマダ ベースの立ち位置はけっこう難しかったですね。この曲ではガンタンクをイメージして演奏しました。
小室 どういうこと?
ヤマダ キャタピラで進む感じというか。
オキタ どっしりしていて目立たないけど、着実に進んでいく感じ?
ヤマダ そうそう。やっぱり1歩引くべきところは引かないと曲が成り立たないんですよ。1歩引いた状態でもやれるところは曲ごとにあるので、そこに自分が入れたいフレーズを入れる。
小室 考え方としてはドラムも一緒で、やりたいことはいろいろあるけど、あくまで曲がいいかどうかが一番。その中で自分にできることを精いっぱい探すようにしましたね。
自分の弱い部分をリリックに
ヤマダ 今回の作品では、「Bipolar」のリリックを読んで、オキタの歌詞がちょっと変わったように感じたんですよ。これまでのリリックはもっと尖ってたと思うけど、それが少しまろやかになったというか。
──これまでのオキタさんのリリックは、聴き手に呼びかけるものが多かったと思いますが、今作では自分自身への問いかけのように捉えられるものが多いですよね。
オキタ リリックを書くときに意識していたのは「自分の中にあるものを、自分の言葉で曲にしよう」ということでした。「Bipolar」はこれまでのリードトラックの中で一番感情的な曲かもしれないですね。自分の弱い部分をリリックに落とし込めたというか。だからヤマダはそう感じたのかもしれない。
──自分の弱い部分をリリックにすることに対して抵抗はなかった?
オキタ もともと自分のことしか書いていなかったので、そこまでの抵抗はなかったです。ただ誰かに向けて言葉を投げるより、自分に向けて言葉を投げるほうが難しいというか、しんどいところもあって。そういう意味ではこれまでとは違うリリックが書けた手応えがありますね。
ヤバいドラム、ヤバいベースにラップ
──「skepticism」のように全編ポエトリーリーディングで構成された曲は、étéの楽曲の中でも珍しいですよね?
オキタ 簡単に言うと「ヤバいドラムと、ヤバいベースの中でラップをする」というのをコンセプトに作りました。仕上がってみたら変拍子でラップにも隙間がないので、面白い曲ができたなと。
──小室さんと山田さんは“ヤバいベース”と“ヤバいドラム”を求められたわけですね。
小室 この曲が一番苦戦しました。叩くのがメチャクチャ難しくて。
オキタ 初めてドラムのビートを先に作った曲でもあるんですよ。3拍子のカッコいいビートを叩いてもらって、それを僕が打ち込み直して曲にしました。そのドラムがちょっと難しくてね(笑)。
──オキタさんのラップの譜割りもちょっと特殊ですよね。
オキタ 変わった位置にビートのアクセントがあるから、それを生かすように譜割りも工夫しています。5拍子にラップを付けると言葉の段落分けもいつもと違うので、リリックの組み方もいつもと意識が違いました。実際にラップを乗せるときはドラムのビートに引っ張られて思っていたのと違うアクセントの付け方になったのも面白かったですね。
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