衝撃を受けたつんく♂曲は
──作詞に関して秋元さん以外で影響を受けた人はいますか?
うーん、マンガとか、音楽以外のものから影響を受けることのほうが多いかもしれないです。「こういう状況のとき、こんな気持ちになるんだ」って。音楽的なことだと秋元さんかつんく♂さんの曲しか聴いてないので、そのどっちかになっちゃいますね(笑)。
──つんく♂さんからは具体的にどういう影響を受けてますか?
つんく♂さんの書く、女性の複雑な気持ちを描いた曲が大好きで。松浦亜弥さんの1stアルバム(2002年発表の「ファーストKISS」)の収録曲で「そう言えば」という曲があって、中学生のときに初めて聴いたんですけど、「すごい!」って衝撃を受けたんですよ。それと、藤本美貴さんの「大切」(2003年発表のシングル「ブギートレイン'03」の収録曲)。その2曲がホントに衝撃で、語呂が気持ちよくて、キャッチーな曲もあれば、ちゃんと恋愛の気持ちを描いた曲も作品に入れる、というのは自分としても意識してることかもしれないですね。
──つんく♂さんが有料マガジン「つんく♂のプロデューサー視点。」の中で、具体的な数字を書いたほうが感覚的に女の子目線になるとおっしゃっていて、なるほどと思いました。例えば「熱が出た」という歌詞を書くなら、「38.2℃」という数字を入れるという。
私もそれ見ました。オンラインサロンにも入会しようかと思っちゃいましたが、意識しすぎるのもよくないかなって(笑)。最近、つんく♂さんは歌詞について語ることが多いですし、そういう作詞のコツみたいなのを聞くのは楽しいですね。秋元さんには「一番聞かせたい部分はAメロ、Bメロで出さないほうがいいよ」と言われたことがあって、考えてみればすごく基本的なことなんですけど、私は最初意識できていなかったことでした。「桜の咲く音がした」だったら、“桜”というワードは大サビまで取っておくっていう。
──「桜の咲く音がした」は新生活や初恋を描いたナンバーですが、メンバーにインタビューしたとき、「新学期」などのストレートな表現が出てこないのに、「履き慣れないローファー」という歌詞でその情景が浮かぶのがすごいと言っていました。
普段メンバーから曲の感想を聞くことがないので、なんだかうれしいです(笑)。私としてはなるべく歌詞の中でストーリーを進めたいんですよ。だんだんと気持ちの変化が見えるようにして、大サビでそれまでと違う歌詞が来るっていう。そのためにストレートな言葉を入れるか入れないかは曲によってですかね。もっとストレートに表現したほうがいいときもありますし、今回は初恋を描くのに細かい描写を入れたほうがいいかなと思いました。
──今回、アルバムを制作するにあたっては「桜の咲く音がした」の歌詞を最初に書いたんですか?
この曲はかなり前から書いていた曲なんです。楽曲自体はもともと「『君と私の歌』」(2020年7月発表の7thシングル「CAMEO」の収録曲」)のときに選考から漏れた曲で、1年近く寝かせていてやっと日の目を見た感じですね。いつも200曲くらいの中からシングルのための4曲を選ぶんですが、そのときに漏れたやつがもったいなさすぎて、改めて洗いざらい聴き直したんですよ。こんなにいい曲がこぼれているという事実が怖すぎるんですけど、前作とのバランスなど、そのタイミングで合うものを選んでいて、今回はアルバムのリード曲のイメージにぴったりだったので「絶対にこれがいい!」と即決しました。
センター髙松瞳には独特の魅力がある
──ここからはリード曲以外の新曲について話を伺いたいと思います。まずは、メンバーの名前で韻を踏む歌詞が印象的な「Oh!Darling」について。
「Oh!Darling」を作ったきっかけは、(高松)瞳と(齊藤)なぎさが歌う楽曲「流星群」(2020年11月発表の8thシングル「青春"サブリミナル"」の収録曲)なんです。この曲の中に「ポニーテールが瞳に映る時」「ツインテールで 渚 駆ける君は」という2人がお互いの名前を呼び合うところがあるんですが、何かのインタビューでみりにゃ(大谷映美里)が「瞳となぎさは歌詞に入れやすい名前だけど、私の名前は絶対入れられない」みたいに言っているのを見て、今回「1.5(ミリ) おおたに(えみり)」という歌詞をねじ込んだんです。なので、この曲はBメロから作り始めました。
──キャッチーな歌詞も相まってライブの盛り上がり曲になりそうな印象ですが、こういう底抜けに明るいアッパーチューンって意外と今までの=LOVEにはなかったですよね。
そうなんですよ。≠MEには「クルクルかき氷」という曲があるのに対し、=LOVEにははしゃいだ雰囲気の楽しい曲があまりなくて。「Oh!Darling」の歌詞は深い意味はないけど、リズムが気持ちいい言葉が並んでいます。
──「桜の咲く音がした」と「Oh!Darling」では髙松さんがセンターを務めています。髙松さんは1年間の休養期間を除き、参加したシングルすべての表題曲でセンターに立っていますが、やはり指原さん的にグループの顔として絶対的な信頼を置いているんでしょうか。
瞳の休養中になぎさやみりにゃがセンターを務めてくれたシングル曲も最高の楽曲になったと思っていますし、瞳が絶対的なセンターというイメージは実はなくて。でも、全体のバランスを見たときに、彼女が真ん中にいるのが一番気持ちいいんですよね。声や笑った顔もそうですし、センターとしての堂々とした佇まいはすごいと思います。
──ひと言で言うと、華があるということなんですかね。
めちゃくちゃありますね。独特の魅力があって、逆にセンター以外のポジションに立っているとぼんやりしちゃうんです。それって才能なんでしょうね。うらやましいです。
──このほか、アルバムには齋藤樹愛羅さんがセンターを務める「セノビーインラブ」や、音嶋莉沙さんのセンター曲「cinema」も収録されています。「セノビーインラブ」は背伸びしたい女の子の気持ちを歌ったナンバーで、最年少メンバーでありつつ、大人に成長している真っ最中の今の樹愛羅さんにぴったりな歌詞ですね。
樹愛羅にはすでに「樹愛羅、助けに来たぞ」「いらないツインテール」というセンター曲が2つもあるし、なるべくいろんな子にセンターをやってもらいたいという思いもあるので、正直この曲を書くかめっちゃ迷ったんですよ。でも、メンバーにとって最高の状況やタイミングに合わせてセンター曲を歌わせてあげたいという気持ちもあり、今回「セノビーインラブ」を作りました。歌がうまくなってソロパートを多く任せられるようになったタイミングとか、そういうことを考えたときに、樹愛羅ってすごく優秀で。歌もダンスもうまいし、キャラクターも濃いし、素晴らしい人材だなと改めて気付いたんです。それに加えて本人の成長というストーリー性もありますし、歌詞を見ただけで樹愛羅っぽいと思ってもらえるのは彼女自身の才能だと思います。ほかの曲でも歌詞を書いていて、「このパートは樹愛羅だな」と思うことがよくあるんですよ。
──最近、特にどのあたりに成長を感じます?
歌のニュアンスの付け方がすごく上手になってますね。しびれるくらいうまいときがあって。「セノビーインラブ」だと、「ちょっと待って!woo」の「woo」が聴きどころですね。曲に流されない声を持っていて、それは本人の努力の結果でもあるでしょうし、もともとの才能でもあると思います。もともとうまかったダンスもさらに上達していて、ステージでも目立つんです。
──一方の「cinema」はどういう経緯で曲ができあがったんでしょうか?
=LOVEではセンターを選んでから歌詞を書くパターンと、書いてからセンターを決めるパターンがあるんですけど、これは後者だったんですよ。作詞した結果、この曲のセンターに合うのが莉沙しかいないという考えになって。映画館デートをテーマにした曲なんですが、服選びのときの慎重さとかが一般の感覚に一番近いのは莉沙だと思うんです。例えばなぎさだったら、「これが一番私に似合う!」と堂々といくイメージがある。あと、センターを選ぶ基準としては音域もポイントの1つで、この曲だと落ちサビを安心して歌えるメンバーが莉沙なんです。せっかくセンターをやるなら損はさせたくないというか、音域が合ったメンバーに落ちサビを歌ってほしいんですよ。
これが本物のアイドル
──続いて、なぎささんの初ソロ曲「現役アイドルちゅ〜」について聞かせてください。
「現役アイドルちゅ〜」は5秒くらいで曲を決めました。「絶対これだ!」という曲がすぐ見つかったんです。なぎさは顔がかわいすぎるあまり努力してないように見える、「いいよね、顔がかわいくて」と思われちゃう存在かもしれないですが、実際はものすごい努力家なので、アイドルとしてのプロ意識が高い彼女だからこそ歌える歌詞を書いて、曲もそれにぴったりな王道のアイドルソングにしました。ミュージックビデオもすごくて、「これ、ほかに誰が着られるの?」と思うような衣装を着てるんですよ。ちょっと毒々しさを感じるくらいのアイドル衣装を完璧に着こなしていて、しびれましたね。才能もあるし、努力もしてる。これが本物のアイドルだなと思いました。
──こういう“ザ・アイドル”な存在感を出せるアイドルって意外と希少ですよね。
本当にすごいです。もし私がアイドル時代にこの衣装をもらってたら、「いや、いじられてるじゃん!」と思ってたんじゃないかな。でも、なぎさは「この衣装をいただけてめちゃくちゃうれしい」と言ってくれて、これを着ることの恥ずかしさが一切ないんですよ。
──そういうところは、ももいろクローバーZの佐々木彩夏さんに通じるものがあるかもしれませんね。
そうですね。あーりんも職業アイドルな人じゃないですか。今はもっと自分を開放している感じがありますが、徹底したアイドルっぷりを見せる職人なところは同じだと思います。
──なぎささんは、オーディションのときからその片鱗があったんですか?
めちゃくちゃかわいいなとは思っていたんですけど、3rdシングル(2018年5月発表の「手遅れcaution」)あたりから歌もびっくりするくらいうまくなって。今や歌唱メンバーで、ルックスだけじゃなく実力も兼ね備えていて、無敵になりつつありますね。
──同じく、アルバムで初のソロ曲「拝啓 貴方様」を歌っている野口衣織さんについては、どんな印象でしょう?
たぶん、衣織は人のことを呪い殺せるタイプなんですよ(笑)。憑依型というよりも努力型で、歌詞をじっくり読み込むタイプ。レコーディングのときは毎回かなり苦労して完璧な人物像を作り上げてきてくれるんです。衣織がセンターを務めた「『君と私の歌』」もそうでしたが、「拝啓 貴方様」でも曲の主人公になりきっていて。この曲の子はすごく複雑ですが、彼女のイメージにすごく合っていると思います。
──YouTubeでは野口さんによるYOASOBI「夜に駆ける」のカバー動画が150万回近く再生されています。やっぱり歌唱力があるメンバーがいるのは頼もしいですか?
強いですね。歌にもダンスにも一切妥協がなくて頼もしいですし、尊敬します。表現力もあって、ステージで一番目に付きやすいメンバーです。パフォーマンス中とMCでは全然表情が違って、どれが本当の彼女なのかわからないのが魅力だと思います。
──アルバムには樹愛羅さん、髙松さん、野口さん、諸橋沙夏さん、山本杏奈さんによるユニット曲「24/7」も収録されていますが、この曲はアイドル要素の薄いクールなダンスナンバーで、野口さんと諸橋さんの2人がセンターを務めています。
「24/7」はバリおしゃれ系の曲ですね(笑)。「青春"サブリミナル"」や「現役アイドルちゅ~」のようなアイドルファン向けの曲ではないかもしれませんが、コンサートのセットリストを作るにあたって緩急を付けるのが毎回のテーマで。コールが入るようなタイプではないけど、お客さんをしびれさせる曲だと思います。これくらい突き抜けていても今の彼女たちなら表現できるんじゃないかなという信頼も込めて、アルバムに入れました。今回ユニット曲を制作するにあたり、本人たちにアンケートを取ったんですよ。「ダンス曲とかわいい曲、どちらがいいですか?」って。それでダンス曲を選んだ子と、この曲に合っている子でメンバーを構成しました。
──ではもう一方の、大谷さん、大場花菜さん、音嶋さん、なぎささん、佐々木舞香さん、瀧脇笙古さんによるユニット曲「お姉さんじゃダメですか?」ではかわいい曲を歌いたいというメンバー、曲の雰囲気に合ったメンバーを集めたんですか?
そうですね。ダブルセンターのみりにゃと舞香のバランスがすごくよくて。グループの中でもお姉さん的な包容力があって、メンバーの精神的な支えになっている2人だと思うんです。この2人にセンターをやらせたいと思ったときに、誰目線の曲にしようかと考えて、大人の女の人の歌にしました。みりにゃは=LOVEの中でお姉さんっぽさが一番ありますし、舞香もこういう曲のほうが似合うと勝手に思ってるんです。「全部、内緒。」というアルバムタイトルと通じるところがあるんですけど、人には言えない内緒のストーリーが描かれています。
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競争意識はあったほうがいいのか
2021年5月19日更新