chellyが歌えばポップスとして成立する

──「名前のない怪物」のカップリング曲の「カナデナル」は、変拍子で意表を突かれますね。これはどういう発想だったのでしょうか。

元々自分はビョークがすごく好きなんです。ビョークがLFOのマーク・ベルとやってた「ホモジェニック」とか「ダンサー・イン・ザ・ダーク」みたいな感じが好きなので、あんなニュアンスのトラックを意識しましたね。カップリング曲を考えるにあたって、カッコいい曲でも合わないし、かわいい曲も合わないと思ったので、ここは雰囲気のある、ゴシックなテイストを持ったものでいこうと思って作りました。変拍子の曲って普段あまりやらないですけど、こんな感じの曲を昔よくインストで作ってたんですよ。

──それはsupercell以前にですか？

そうです。個人で好きで作ってる頃に、この手の音楽がすごい好きだったんですよね。昔よく作ってた感じになんか似てますね。

──この曲は特に目立ってますけど、ryoさんの曲はどれもドラムがすごくカッコいいですよね。

ありがとうございます（笑）。元々自分はドラムをやってたんです。だからドラムから派生したリズム楽器にしか興味が全くなかった時期があったんですよね。でもビョークとかって、そこに例えば生のストリングスを使ってみたりして、デジタルなバックトラックとの対比がすごくきれいだったりするんですよ。そうやって作られた無茶苦茶な変拍子に歌が乗っかるみたいなのは憧れではありました。今回、多分chellyちゃんの歌じゃなかったら、こんな曲は作れなかったと思いますね。これは基本的にはポップスでもなんでもなくて、カップリングだからこそこれだけ遊べるという曲なんです。でもchellyちゃんの声で歌えば、ポップスとしてまあ自然に聴ける。歌ものとして聴いたときにちゃんとボーカルに耳がいく、求心力がある声なんですよね。

──あと、CDでは冒頭にクラッシャー木村さんのストリングス曲が入っていますけど、あれはどういう意図だったんでしょうか。

「お葬式みたいな感じのイントロがあったらいいんですよね」って話してたんです。それを1曲目にして、2曲目から本編スタートみたいにしたら、お葬式というか死んでるみたいな場所から、いのりが復活してくるような感じにできると思ったんですよね。そうしたら、なんと作ってきてくれたんですよ。

──やはりEGOISTというのはそういう物語性を打ち出すユニットだから、こういった構成を作ったんでしょうか。

まあ、そういうところではありますね。雰囲気を重視するというか。

届かない思いを表現したsupercell

──ではもう一方、supercellの「銀色飛行船」についてもお訊きします。こちらは映画「ねらわれた学園」のオープニングテーマということですが、これも作品のイメージから膨らませて作ったということになりますよね。

そうですね。お話の中にケンジくんとナツキちゃんっていう、隣同士で住んでる2人が出てくるんです。でもケンジくんは違う女の子が好きで、ナツキちゃんはケンジくんが好きなんですね。隣に住んでいるのに、その思いは届かないっていう感覚を意識して作りました。

──こゑださんがボーカリストになってからのシングル曲って、もうちょっと現実世界から離れたイメージが強かったですよね。でも今回は、女の子の切ない気持ちを等身大の言葉で書いた歌詞で、ある意味でsupercellらしさがありますね。

確かに、この曲はそうですよね。「戻ってきた」感じというか。まあアルバムで、これまでのシングルもうまいこと全部まとめるつもりではいるんですけど（笑）。ここまでのシングルが支配するとか、支配される側とか、そういうイメージの楽曲が多い感じになっているので、そういう世界の理不尽さにさらされる人たちがいる中で、癒やしのポイントとして「銀色飛行船」が入ってくるようなアルバムになるのかなとは思ってますけど。

──カップリング曲の「リルモア」はどうでしょうか。これもアルバムの世界観に関係するのですか？

いや、これはもう全然関係ないですね。こっちも、隣にいる人に気持ちが届かないっていう曲なんですけどね。例えば過去を回想すると、記憶に残っている風景がすごくキラキラしたものに思えますよね。「銀色飛行船」はそういう世界観なんです。学生の頃に通学路で見た景色って、ただのコンビニであったり、民家であったり、坂道であったりしても、記憶の中では輝いている。だけど、今改めて歩いてみると、多分全然違うものに見えると思うんですよね。「リルモア」はそういう曲なんです。通学路はただの道でしかなくて、民家はただの民家でしかないという現実を見ながら、この隣の人に気持ちが届かないっていうことを歌っている。今現在なのか、振り返った昔なのかっていう違いですね。

──ジャケットを担当された三輪士郎さんには、こういうイメージの曲だというのを伝えたわけですか？

そうです。「海があって、坂道を上ってて、女の子は振り返ってて」って言ったら、その場で「こんな感じ？」ってサーッと20分ぐらいで描いてくれて。三輪さんにお願いするときはいつもそうなんですけど、ファミレス行ってメシ食いながらとか、紙と鉛筆があればその場でラフを描いてくれるんです。「すごくいいっすね！ これで」って頼んで、それを元に描いてくれた感じ。さすがです。