トム・ウェイツからの影響
──お二人は以前から親交があるとのことで。今となっては難しくなってしまいましたが、コロナ禍以前は一緒に呑みに行かれたりしたこともあったんですか?
オダギリ もちろんあります。「大川端~」の撮影時は、撮影現場と森さんのお家が近かったので、何度かご一緒させていただきました。
──そういうときは、どんなお話をされるんですか?
オダギリ いろいろですけど、やはり音楽の話が多かったですよね。
森 うん。レモン酎ハイを呑みながら、いろんなレコードを聴いて。フェイクジャズの話で盛り上がったような……。
──ちなみにお二人とも、トム・ウェイツの大ファンなんですよね。
オダギリ トム・ウェイツ、大好きですね。僕は基本的に、この人じゃないとこの音楽は生み出せないと思わせてくれるアーティストが好きなんです。トム・ウェイツが作る音楽って、ほかの誰にも真似できないだろうし、ある意味、“トム・ウェイツ”というジャンルがあるという感じじゃないですか。
──確かに誰にも似ていないサウンドですよね。
オダギリ 初期はジャズをベースとしたわりとオーソドックスなサウンドなんですけど、アルバムでいうと「Rain Dogs」(1985年)あたりから、どんどんクレイジーな方向に進んでいって。フランク・ザッパにも同じことを感じるんですけど、常識にハマらない表現の仕方に憧れを持ちました。「こういうことをやっちゃっていいんだ!」っていうことを教えてもらった気がします。
森 まず音に匂いを感じますし、怖い絵本に出てきそうな世界観、子供だったら絶対に付いて行っちゃうチャーミングな人柄、すべてがツボですね。あと僕、トム・ウェイツの「BIG TIME」っていうライブ映画が大大大好きで。あの映画でマーク・リボーっていうギタリストの存在を知って。「なんやこのギター、オモロイ!」となって、そこからマーク・リボーにもハマりました。
──マーク・リボーはオダギリさんのフェイバリットギタリストでもありますよね?
オダギリ 大好きです。僕も森さんと同じく、トム・ウェイツを通じて知ったんだと思います。で、マーク・リボーのソロアルバムを集めたり、一気にのめりこみましたね。あとはマーク・リボーが所属してたThe Lounge Lizardsとか、あのあたりはジム・ジャームッシュの影響から一気に広がりましたね。自分も曲を作ったりするので、マーク・リボーっぽいギターを入れてみたり(苦笑)、本当に影響を受けました。
──マーク・リボーも唯一無比のギタリストですよね。誰にも真似できないような独創的なプレイスタイルで。
オダギリ 「ここに、こんなギターソロ入れちゃうんだ!」みたいな。
森 究極、笑っちゃいますもんね。
オダギリ でも誰にも似てないということで言えば、エゴさんも結局、そういうところで同じく自分の中で響いているんですよね。EGO-WRAPPIN'っぽいバンドって今までいくつも出てきたけど、結局、みんな真似に見えちゃうし。それらしいことをやってる限り、絶対にEGO-WRAPPIN'を超えられないと思うんです。エゴさんのオンリーワンな存在感っていうのは、まさに僕の好みの真ん中ですね。
カッコいいだけのことほど恥ずかしいものはない
──表現やモノ作りを行ううえで、“誰にも似ていない”ということはやっぱり意識しますか?
オダギリ できるだけ、そうありたいと思いますね。すでに誰かが作ったものがあるのであれば、それは自分が今作る意味がないものだし。モノ作りをするのであれば、何かしら自分なりに新たな挑戦をしないと意味がないと思います。
森 先代が作り上げたスタンダードなものに何か壊してやろうという衝動とユーモアがその音楽の魅力につながればいいなと常に思いますね。
──お二人の表現の根底には、いわゆる“フツーのカッコよさ”に収まらない、独特の美学みたいなものがあるように感じます。
オダギリ 外しの美学みたいなものが、きっと自分の中にあるんでしょうね。森さんも先ほどおっしゃってましたけど、カッコいいだけのものって、あまりカッコよくなかったりするじゃないですか。
森 うんうん。
オダギリ 一見ダサいものが何周かしたらカッコよく見えるようになったり。過去に観てきた映画や聴いてきた音楽の影響で、自分なりの外し方みたいなものが感覚的に植え付けられているのかもしれないですね。カッコいいだけのことほど恥ずかしいものはない、みたいな(笑)。
森 外し、大好物です。でもオダギリさんを見てると、すごく自然体やなと思うんです。いい意味で、演技のひねくれ感みたいなものを感じて、そこがいいんですよ。
オダギリ ありがとうございます(苦笑)。
森 本人は意識してないと思うんです。あくまでも自然体だから。でも、自然なひねくれ感が魅力につながってると思うし、やっぱり、そういうところから表現のオリジナリティって生まれてくると思うんですよね。そこが人間の作るものの愛おしいところかな。
- 森雅樹(モリマサキ)
- EGO-WRAPPIN'のギタリスト。1996年、大阪で中納良恵(Vo)とEGO-WRAPPIN'を結成。1999年の2ndミニアルバム「SWING FOR JOY」や2000年の3rdミニアルバム「色彩のブルース」、2001年の2ndアルバム「満ち汐のロマンス」などで多様なジャンルを消化した独自の音楽性を示し、人気を集める。結成20周年イヤーである2016年、4月にベスト&カバーアルバム「ROUTE 20 HIT THE ROAD」を発表し、11月には初の東京・日本武道館公演「EGO-WRAPPIN' memorial live」を実施。2019年5月に約6年ぶりとなるオリジナルアルバム「Dream Baby Dream」を発表した。2021年9月に7inchアナログ「サイコアナルシス / The Hunter」をリリース。
- オダギリジョー
- 1976年2月16日生まれ、岡山県出身の俳優。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、2003年に第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された「アカルイミライ」で映画初主演を果たす。2004年には「血と骨」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞し、その後ブルーリボン賞をはじめ、国内外の数々の賞を獲得する。近年の出演作には「湯を沸かすほどの熱い愛」「ルームロンダリング」「エルネスト もう一人のゲバラ」「宵闇真珠」など。第76回ヴェネツィア国際映画祭では、自身初の長編監督作「ある船頭の話」がヴェニスデイズ部門に、ロウ・イエがメガホンを取った出演作「サタデー・フィクション」がコンペティション部門にと2作品が同時出品された。