ナタリー PowerPush - EGNISH

被災地から広がる、優しさの「大きな輪」が世界を変える

味見する前にまずいって言わないでほしい

──初めて全曲日本語詞にした理由は?

「伝えたい」っていうのが一番ですね。メンバーとも話し合ったんですけど、EGNISHの曲はわかりやすいメロディだし、よりダイレクトに伝わる言葉にしたいなと思って日本語をチョイスしたんです。英語でもいいんですけど、日本語だとフィルターを通さないで伝わるので。

──逆に、今まで英語で歌っていた理由は何かあるんですか?

すごいシンプルなんですけど、カッコいいからです。すいません、本当に(笑)。

──わはは(笑)。

英語なんて全然できないんですけどね。Hi-STANDARDとかGREEN DAYとかを見て、ああいうふうになりたいと思ったのが入り口だったんで、日本語で歌詞を書いて英語に訳すのが普通のことだと思ってやってたんです。本当に深い意図はなくて。

──でも、今はカッコよく見せることよりも伝えることを重視するようになったということですね。

そうですね。まあ、日本語だってカッコいいと思ってますけど。EGNISHでも前から、英語の歌詞の中に1カ所だけ日本語のフレーズを入れたりしてたんで、日本語詞を書くことには抵抗はないんです。でも日本語って難しいですよね。メロディに乗せるのも難しいし、言葉のチョイスによっていろんな捉え方ができるし。

──英語詞の曲を日本語詞でリメイクして、昔からのファンがどう反応するか気になりますよね。リスナーにもその曲に対する思い入れってあるだろうから。

インタビュー写真

めちゃめちゃ気になるし不安ですね。EGNISHのライブにたくさん来てくれる静岡の女の子が、このアルバムのことをAmazonで知って、Twitterに「あれ? これ昔の曲じゃない?」「私の思い出が塗り替えられる……」みたいなことを書いてて。

──ああー。

それ見て「おいおいおいおいマジかよ!」って泣きそうになったこともありましたけど(笑)。でも、そうなることはわかってましたね。ただそれでも、まず聴いてほしい。1回食べてみて口に合わなかったら吐き出してもらって構わないから、味見する前にまずいって言わないでほしいんです。日本語になって、今までよりもっと言葉が伝わるでしょ?って。

──そうですよね。

去年バンドにキーボード(鈴木志穂)が加入してから、ライブでお客さんに「ピアノアレンジにしないでよ」なんて言われたこともあるんですけど、それも今やりたいこと、表現したいことに必要なものなんです。だから、バンドが変わることでそういう声が挙がるのもわかるけど、まずは聴いてもらってからですね。その結果どう思われるかは正直不安ですけど。

──先入観を捨てて楽しんでほしいと。

リメイクっていう形じゃなくて、新曲って捉えて聴いてもらえたらうれしいな。ずっと聴いてくれてた人には難しいでしょうけど、でも別物なんで。その違うものを生み出すためにメンバーみんなで頭抱えて考えたから。まあ、味見してください(笑)。

──英語で歌うときと日本語で歌うときで、同じ曲でも感覚は違いますか?

やっぱり日本語のほうがコブシが出ますね(笑)。あと、英語で歌うときは歌詞の内容よりもリズムや音を意識してたのが、日本語だと「ここが伝わるように」とか、より感情的になって歌うようになります。

たくさんの人を救う力はないから、自分が救えるところから救っていきたい

──「伝わる」アルバムを作ろうと思ったきっかけは?

5月くらいにアルバムを出そうという話になったとき、どういうこと書いていいのかわからなかったんですよ。漠然としたイメージはあったんですけど、それが形にならなくて。しかもまだ震災の気持ちが全然抜けきってないし。周りにも大変な状況の奴がいる中で、俺はこういうことやってていいのかなって思いながら、でもアルバムは出したいし、っていう複雑な気持ちになってて。アルバムを出すことについて、今までで一番メンバーと話し合ったんじゃないかな。

──メンバーの中から反対意見が出たんですか。

ありましたよ、結構いろいろ。実際に曲作りを始めても、「Peace Maker」の歌詞に「殺めてみようか」みたいな強い言葉が出てくることについて「これってまずいんじゃないの?」って言われたり。それに対して「僕の歌は人を殺すこともできるんだよ、でも人を救うこともできるんんだよ」って歌詞の意味を説明したり、お互いに「ここはどうなの?」っていう部分を話し合いながら作りました。

──ストレートに「復興応援ソング」みたいなものにしなかったのはなぜですか?

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地震からしばらく経って落ち着くまでは、愛とか希望とか平和とかを歌われても「嘘つけ」みたいな気分だったから。そういう歌を聴いても、ここの状況はもっと生々しいんだ!お前そんなこと言ってる暇あるんだったらこっちこいよ!って思いが俺にはあった。仲間には現場で働いてる土方が多いんで、がんばれとか言われなくてもこっちは無茶くちゃがんばってるんだよ!みたいな気持ちになるし。だから俺はキレイごとだけじゃなくて、もっとリアルなことを歌わなくちゃいけないと思ったんです。正直、今でも俺は音楽の力で日本を元気にできるとは思ってなくて。

──ああ。

ただ、音楽を聴いたことがきっかけになって「よし、がんばろうかな」っていう人が1人増えて、その人からまた次の人に伝染していけば、時間をかけていずれは大きな輪っかになると思うんです。俺にはたくさんの人を救う力はないから、だったら自分が救えるところから救っていきたいし、その人がまた救える人を救っていけばいいと思ってます。「Peace Maker」はそういう気持ちで書きました。

──オフィシャルサイトで年末に発表された決意表明の「僕らに世界を変える力はないけれど、世界を変える一員になると心に決めた」というのは、まさにそういうことですね。

ストレートに復興を歌うのも別に間違いじゃないと思うし、そういう考え方もありだと思います。僕はちょっと違うやり方だったってだけ。うちのギターは地震の後に速攻で「東北元気になれー!」ってメッセージをYouTubeにアップしてましたし(笑)。

ニューアルバム「The World」/ 2012年3月11日発売 / 2400円(税込)/ FABTONE RECORDS / FABC-109

CD収録曲
  1. Peace Maker
  2. Life Is Beautiful
  3. Bitter End
  4. Rain
  5. Do You Remember ?
  6. Dancing In The Moonlight
  7. Stay With Me
  8. サヨナラ、そして、アリガトウ
  9. Hero
  10. Lily
EGNISH presents「OUR UNION」-未来を担う子供たちへ-

2012年3月11日(日)宮城県 仙台MACANA
OPEN 17:00 / START 17:30
<出演者>
EGNISH / ゴーストノート / FAT PROP / RUNNERS-Hi / JINBEY [OPENING ACT]
料金:前売2000円 / 当日2500円

EGNISH(いぐにっしゅ)

2002年に佐々木一史(B, Vo)と渡邊繁和(G, Vo)を中心に結成された仙台在住のロックバンド。哀愁あふれるメロディを英語詞で歌い、パンクロックを軸にしつつ、ダンスミュージックなど多彩なジャンルの要素も取り込んだサウンドを作り出す。地元・仙台ではKen Yokoyamaや10-FEETと共演し、2009年には仙台の野外フェス「ARABAKI ROCK FEST」のメインステージに出演。仙台在住ながら東京・Shibuya O-WESTのツアーファイナルを大成功に収める。2011年にはサポートメンバーとしてEGNISHを支えてきた鈴木志穂(Key, Cho)が正式加入し5人編成に。東日本大震災からちょうど1年後の2012年3月11日に、初の全編日本語詞アルバム「The World」を発表する。