ナタリー PowerPush - EGNISH

被災地から広がる、優しさの「大きな輪」が世界を変える

3月11日にやらなきゃいけない意味がある

──キーボードがメンバーに入ったことで変わったことはありますか?

やっぱり幅が広がりますね。ピアノやストリングス、電子音なんかは今まで僕が持ってなかった武器なんで、やりたいことがどんどん出てくるんですよ。それがうれしいし楽しい。あとはかゆいところに手が届くっていうか、今まで「こうしたい!」と思ってもどうしたらいいかわからないことがあったんですけど、鍵盤が入ってからは「それだそれだ!」みたいなことが増えたりして。4人でやってたときよりも絶対今のほうがいいですね。

──ライブをやるときはどうですか?

レコーディングもあったし、震災以降はまだそんなにライブをこなしてないんですけど、5人になってからはやっぱり毎回試行錯誤してますね。1人増えたわけだから立ち位置どうしようって話にもなりますし(笑)。あと最近ライブで変わったことと言えば、日本語詞の「Peace Maker」と「サヨナラ、そして、アリガトウ」は演奏する前に話すことをちゃんと決めるようになりました。

──今までは曲について説明する必要がなかったということですか。

インタビュー写真

なかったですね。「まだまだ行くぜー!」とか「楽しんでいこうぜー!」みたいなことは言ってましたけど(笑)。今は「震災で当たり前のことが当たり前じゃなくなってしまった」っていう話をして、今回こういう新曲やらせてくださいと前置きしてから歌うようになりました。震災後のライブは試行錯誤の連続で。

──いろいろやってみて、そろそろライブのやり方が固まってきた頃ですか?

はい、もうバッチシっす。ただ、3月11日のイベントについては正直めちゃくちゃ不安ですけどね。

──不安とは?

地元でも「3.11にイベントやるってどうなんだ?」みたいな声もありますから。でも、あって当然だと思うし。両親や家族などを亡くした人はそんな気分になれないはずだけど、それでもこの日にやらなきゃいけない意味があるから俺はやるんです。

「伝わった」って言われたことがすごくうれしくて

──3月11日にイベントをやる意味というと?

もともとアルバムも4月にリリースする予定で、イベントもそのタイミングでできたらいいなって話をしてたんですけど、3月11日に地震で壊れてなくなったライブハウス、MACANAでやるからこそ意義があるんじゃねえかなって。俺の理想としては、県外から来るお客さんよりも仙台にいる奴らがたくさん集まるイベントにしたいんですよ。地元の奴らに「仙台まだまだ行けるじゃん!」って思ってほしい。移転して再オープンしたMACANAで俺らがライブをやって、当日の収益をチャリティにさせてもらって、地元で困ってる奴を地元の奴が助けられるようなイベントになればいいですね。

──やっぱりMACANAは思い入れの強い場所なんですか?

インタビュー写真

はい、そうっすね。ほかのライブハウスにもいろいろお世話になってるんですけど、MACANAは僕らが育ってきた場所でもあるし、勉強させてもらった場所でもあるし、初めてワンマンをやった場所でもあるし。高校生のときは「大人になったらあのステージに立つんだ!」っていう憧れの場所でもあったな。だから僕らが恩返ししたり、力を貸せることがあったらなと思うんです。デリケートなことだから気軽に「来てくれよ!」ともなかなか言えないし、「地震に便乗してるんじゃねえよ」みたいなリアクションがあるかもしれないとも思うけど、それでもやるから意味があるんじゃねえかなって。

──なるほど。

アルバムに関してもイベントに関しても不安はいっぱいです。今回日本語のアルバムを作って、手ごたえがあったかどうかもよくわからないです。でもライブで「Peace Maker」を歌ったら、お客さんから「私にとってはただの被災ソングじゃないし、元気をもらいました」っていう感想が届いたんですよね。やっぱり伝わるんだなって、だったらこれからも伝わる言葉で曲を書いていけたらいいなって思いました。

──ああ、「伝わってる」というのは今まであまりない感覚だったんですね。

そうですね。だから本当に「やったー!」っていうくらいうれしかったですよ。そういう声がダイレクトに届くことはなかったから。「カッコいいです!」「アガりました!」とかじゃなくて「すごく伝わった」って言われて、すごくうれしくて、俺は相手に伝わる歌が歌いたかったんだなって気づきました。

自分たちだけでできるところからチャリティを続けたい

──今後EGNISHはどういうふうに活動していきたいですか?

こうしたいっていうのはあんまりないかも。今は目の前のことから片付けていきたいですね。遠い目標じゃなくて、まずは3.11イベントだし、そしたら次に待ってるのはツアーだし、ツアーをやってる最中はツアーファイナルに目線が向いてるし。ほかのメンバーがどう考えてるかはわかんないですけど、俺はまず目の前にあることを1個1個ちゃんとやっていきたいっていう気持ちですね。

──今回の3.11イベントのような、震災を踏まえた活動はこれからも続けていきますか?

チャリティ活動は続けたいです。ただ、規模の大きいものをやろうとすると人の力を借りなきゃいけなかったりするので、まずは自分たちだけでできるところから。飲み屋を貸しきって60人くらい集めてイベントをするのでもいいですしね。

EGNISH 「Peace Maker」

ニューアルバム「The World」/ 2012年3月11日発売 / 2400円(税込)/ FABTONE RECORDS / FABC-109

CD収録曲
  1. Peace Maker
  2. Life Is Beautiful
  3. Bitter End
  4. Rain
  5. Do You Remember ?
  6. Dancing In The Moonlight
  7. Stay With Me
  8. サヨナラ、そして、アリガトウ
  9. Hero
  10. Lily
EGNISH presents「OUR UNION」-未来を担う子供たちへ-

2012年3月11日(日)宮城県 仙台MACANA
OPEN 17:00 / START 17:30
<出演者>
EGNISH / ゴーストノート / FAT PROP / RUNNERS-Hi / JINBEY [OPENING ACT]
料金:前売2000円 / 当日2500円

EGNISH(いぐにっしゅ)

2002年に佐々木一史(B, Vo)と渡邊繁和(G, Vo)を中心に結成された仙台在住のロックバンド。哀愁あふれるメロディを英語詞で歌い、パンクロックを軸にしつつ、ダンスミュージックなど多彩なジャンルの要素も取り込んだサウンドを作り出す。地元・仙台ではKen Yokoyamaや10-FEETと共演し、2009年には仙台の野外フェス「ARABAKI ROCK FEST」のメインステージに出演。仙台在住ながら東京・Shibuya O-WESTのツアーファイナルを大成功に収める。2011年にはサポートメンバーとしてEGNISHを支えてきた鈴木志穂(Key, Cho)が正式加入し5人編成に。東日本大震災からちょうど1年後の2012年3月11日に、初の全編日本語詞アルバム「The World」を発表する。