「イナズマロック フェス」への思い
──昨年に続いての「イナズマロック フェス 2021」中止は苦渋の決断だったと思います。12年前のスタート時点から西川さんが地元の方々の理解を得るために奔走する姿を拝見しておりましたので。
光明が見えてくるまで5年くらいかかりました。なかなか新しいことに対して前向きではないのは仕方ないと思うんです。ただ、急がずとも時間をかけてきちんと信頼が得られれば、一過性のものとは違ったお付き合いができると信じてやってきましたし、そこはこの状況下においても変わらず次につなげられると僕自身も信じているので。落雷や台風で中止せざるを得なくなった年もありますけれども、野外フェスなんて、もともとリスク高いですからね。9月なんて台風シーズンの真っ只中ですし、そもそもこんな時期にやってるお前らが悪いと言われることもあるので(笑)。ただ、いろんな理由があってこの日になっていますので、そこはご理解いただけたら。もちろん今の状況下において、きちんと皆さんとの信頼関係を作っていくことはまず大事なんですけれども、フィロソフィはしっかり持っておかないと。周りの意見に流されるだけじゃなくて、何が大事なのかきちんと考えていれば、おのずと答えが見えてくるのかなと思います。
──しっかりお話いただき、ありがとうございます。全国でフェスを主催されてる方やアーティストも、きっといろいろな思いを抱えていると思います。
だからこそ、むしろ僕がとった行動はそういった皆さんの活動に制限を与えてしまったんじゃないかというところで今でも悩んでいます。というのも、メディアなどで吊るし上げられるような形で報道されているイベントはごく一部で、どの主催者も、「いったい何回PCR検査させるんだろう?」と思うくらい本当に徹底してますから。そんな中でイベントをやむなく中止するという自分の判断がこれだけ大きく取り上げられてしまったことで、しっかりと対策されてきた皆さんの準備を無駄にさせてしまったんじゃないかという申し訳ない気持ちはずっと残っています。ここまで大きく報道されるとは思ってなかったので、自分も正直驚きました。立ち上げた当初からすれば皆さんに「イナズマ」とイベントの名称を記憶していただけているだけで、とんでもなくすごいことで。改めて、よりほかのイベントの規範になるような行動や準備をしていかなきゃいけないなと思いました。
──来年の「イナズマロック フェス」開催を心から楽しみにしています。
ありがとうございます。僕自身一番楽しみにしていますから。本当は去年もやりたかったですし、今年も絶対やるぞってギリギリまで動いていたんです。今年のラインナップもすごくカラフルなメンバーで、どのイベントにもないゴチャ混ぜな感じがイナズマらしいものになってきただけに非常に残念で(参照:「イナズマロックフェス」第1弾でDISH//、Novelbright、ももクロ、MWAMら11組発表)。今はちょっと伝わり方がよくない形で、フェスという催し自体に対して拒否反応が起きている気がしてるんです。ただ、決してそういったものだけではなく、うちみたいに地元の自治体としっかり話し合って地域の財産と捉えて行っているものも少なからずありますので。
T.M.R.ではなく西川貴教として
──今回「Roots」ではアーティスト・西川貴教としてのライブもオンエアされます。今年4月にリリースした最新シングル「Eden through the rough / Judgement」を筆頭に繰り広げられる三井寺での最新パフォーマンスはファン必見ですね。
今年のイナズマのラインナップをご覧になった方の間で「1日目の西川貴教と、2日目のT.M.R.は何が違うんだ?」という議論がけっこうございまして(笑)。改めてまだまだ西川貴教としての活動には課題がたくさんあるんだということを感じましたので、今回こういった機会をいただけて、T.M.R.でご存知の方に少しでも西川貴教としての活動を見知っていただけたらうれしいなと思います。
──音楽ナタリーでも西川貴教としての活動について、これまで何度かインタビューさせていただいています(参照:西川貴教の特集・インタビュー)。
ありがとうございます。2019年の1stアルバム「SINGularity」からツアーを経て、次はこういったものをという形で目標に向けてがんばろうと準備してきた最中でコロナ禍に突入してしまったので、西川貴教としての活動はT.M.R.以上に奪われてしまった感じがあって、僕としてはそこが悔しいというか残念な気持ちはあります。T.M.R.とは違った楽しさが確実にあるので、社会の情勢を見ながら徐々にでも届けていけたらいいなと思っています。今回、dTVのような大きいプラットフォームに応援してもらえる機会をいただけたので、別の角度から僕のいろんな姿を見てほしいと思います。
- 西川貴教(ニシカワタカノリ)
- 1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々の楽曲がヒットを記録した。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を開催。舞台やミュージカル、ドラマなど幅広い分野で精力的に活動している。2016年5月にはT.M.Revolutionデビュー20周年を記念してベストアルバム「2020 -T.M.Revolution ALL TIME BEST-」を発表。2018年3月に西川貴教名義では初となるシングル「Bright Burning Shout」、翌2019年3月に1stアルバム「SINGularity」をリリースした。2020年4月に“西川貴教+ASCA”名義で「天秤-Libra-」、9月には鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)とのユニット・西川くんとキリショー名義でテレビアニメ「ポケットモンスター」のオープニングテーマ「1・2・3」をリリース。2021年4月に4thシングル「Eden through the rough」を発表した。