ナタリー PowerPush - 堂珍嘉邦
CHEMISTRYから新たな大地を目指すワケ
「耽美エントロック」の作り方
──あっ、吉井さんのファンなんですか。
THE YELLOW MONKEYの頃からのファンで、ソロになってから観たライブがチョー感動的で。グループのときの曲とソロの曲を織り交ぜてやってたんですけど、プレイは常にギラギラしてるし、でも、モニタにつまづくフリをしてみたり、コミカルな一面も見せてくれる。で、バックステージで「スゲーカッコよかったです」「いや、20年に1回くらいのいいライブだったんだよ、今日」なんてやりとりをさせていただいて以来、曲ができるたびにCDを送ってくださるようになったんですけど、そのタームがすごく早いんですよ。「この人、しょっちゅう曲を作って、しょっちゅうツアーやってんな」みたいな感じで。で「今のオレに必要なのはこういうアグレッシブさなんだろうな」と。あと、一緒に酒飲んで「バイバイ」って別れるときの後ろ姿もカッコいいんですよねえ(笑)。
──その吉井さんとはまた別の堂珍さんならではのギラつきを見せる楽曲ってどうやって制作したんですか?
1stシングルの頃からジョシュ・ウェルバーっていう、SUM 41やLIMP BIZKITなんかを手がけていて、グラミー賞のベストエンジニアに選ばれたこともあるエンジニアと一緒に曲を作ってるんですけど、彼との共作では、作曲とベーシック(トラック)作りまではアメリカで一緒にやって、あとは生楽器を足してもらったりするたびに音源を送ってもらって、こっちから歌を送ったりリアクションしてっていうやり取りをずっと続けていた感じですね。で、日本でアレンジやミックスをした曲については全部の工程に立ち会ってます。
──そうやってすべてにコミットしたからか、ハードなデジロックの「handle me right」もあれば、エモいパワーロックの「Reload」、ストレンジなギターロック「OKOKO」「なわけないし」と、バリエーションは豊富ながらも、どれも「耽美エントロック」っていうキャッチフレーズ通りというか、実はテイストは一貫してますよね。
そうですね。
──どれもちょっとゴシック調というか、耽美的で、キャッチフレーズの元ネタであるアンビエントっぽいというか、音を塗り固めずに、かなり空間を意識したアレンジとミキシングになっている。
その「アンビエントっていうキーワードは大事にしたいなあ」とは思っていたんですけど、さっきも言ったとおり、それ以外のことについては、やっぱり肌感覚に素直に従って作った感じですね。「ここにデジタルな音を混ぜてみたりしたら面白いかなあ」とか。今回一応「日本、アメリカ、イギリス、スウェーデンの作家達と共作」なんて言ってますけど、これも別に「インターナショナルにやってます!」ってアピールしたいからこういうメンツを並べたわけでもないですし。ジョシュと、あともう1人、MONORALっていうバンドのAliとの共作が多いんですが、彼も含め、どのアーティストも「あっ、任せられそう」「一緒にやれそう」っていう人を選んだだけなんですよ。
OASIS派からBLUR派への転向
──その感覚を実際の音にする作業ってスムーズでした?
曲によりけりですね。実は「なわけないし」はケミ時代に作った曲で、当時のライブでも出血大サービスっていう感じでやってたんですけど、確か日テレだったかフジテレビだったかの楽屋で歌詞をパパッと書いたんじゃないかなあ。
──「なわけないし」って歌詞カードを読むぶんには「そんなわけないし」をブロークンに言っていることがわかるんだけど、このメロディに乗ると、ものすごく不思議な響きを帯びるじゃないですか。だんだん言葉の意味が曖昧になっていって、音の面白さだけが抽出されていく作りになっている。アレンジもいい意味でヘンだし、時間をかけて練った曲なんだと思ってました。
「サビに入る前のドラムのブレイクをグランジっぽくしたいな」っていうところには気を遣いましたけど、詞と曲はけっこうすぐにできましたね。というか、いいものやユニークなものって、時間をかけるとむしろダメで、たいていスピーディに一筆書きできるようになってるんですよ。例えば「OKOKO」なんかは今回一番短い時間でできた曲ですから。ホントに20分くらいで作った曲で。僕、昔はOASISとBLURならOASIS派というか、BLURが聴けなかったんですよ。
──いかにも30代のロックファンならではの例え話ありがとうございます(笑)。
でも今はBLUR、ぜんぜん聴けるんですよ。このあいだも(ロンドン)オリンピックの(閉幕記念)ライブDVDを買っちゃいましたし(笑)。で「なんか最近オレ、ひねくれてきてるのかなあ」と思って、BLURっぽいっていうのともまた違うんだけど、ミディアムテンポでヘンなリズムを刻んでるんだけど、味付けは薄め。音数は少なめのガレージっぽいロックをイメージして「OKOKO」を書いて。「こういうヘンな曲なんだから、みんなが知らないであろう僕の内面を面白おかしく歌ったら楽しいかな」と思って、「怒ってんの?」「私のこと怒ってる?」っていう意味の造語「OKOKO(おここ)」っていうタイトルで「『めんどくさいのぉ』人に押し付ける」「夢見心地の大男」のことを歌ってみたんです。さっきの吉井さんじゃないけど、ロックにも茶目っ気は欲しいですから。というのも、去年のサマソニのSIGUR ROSみたいに、ずっとカッコいい演出でずっとカッコいいことをやってるのって、確かにカッコいいんだけど、僕、2曲くらいで飽きちゃうんですよ(笑)。
──あはははは(笑)。
だったらカッコつけずに、あっけらかんとお茶目にしてみようかな、と。もともと堺正章さんとか所ジョージさん、それから植木等さんみたいな人に憧れている僕っていうのも確かにいるんだし、ここは「平成の無責任男」を目指してみようかな。これもこれで普段の僕の雰囲気だし、ということで作ったのが「OKOKO」なんです。で、この曲を書いてた頃、BLURのほかにサカナクションも気になってたので、彼らのエンジニアをやっている浦本雅史さんにミックスをお願いしてみたら、こうやって面白く仕上げていただけた、って感じですね。
- ソロデビューアルバム「OUT THE BOX」/ 2013年2月27日発売 / DELICIOUS DELI
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3990円 / POCS-24902
- 通常盤初回プレス分[CD+オリジナルカレンダー] 3150円 / POCS-24903
- 通常盤 [CD] 3150円 / POCS-24007
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CD収録曲
- handle me right ~album ver.~
- Shout
- なわけないし
- Reload
- SUNRISE
- 未来ハンモック
- hummingbird
- OKOKO
- OUT THE BOX
- Adored
- Lasers
初回限定盤DVD収録内容
- 「Shout」PV
- 「hummingbird」PV
- 「handle me right」PV
- 2012年10月8日渋谷公会堂公演「[A La Musique]」ライブ映像(「Shout」「hummingbird」「handle me right」「Reload」「未来ハンモック」)
堂珍嘉邦(どうちんよしくに)
1978年生まれ、広島県出身。オーディション番組「ASAYAN」の男性ボーカリストオーディションを経て、2001年3月にCHEMISTRYとしてデビュー。1stシングル「PIECES OF A DREAM」から大ヒットを飛ばし、日本を代表するアーティストとなる。2012年より本格的にソロ活動をスタートさせ、同年10月に東京・渋谷公会堂でライブ「堂珍嘉邦 "A La Musique"」を開催し、11月にシングル「Shout / hummingbird」でソロデビューした。自らの音楽性を「耽美エント(耽美+アンビエント)ロック」と位置付けており、CHEMISTRY時代とは異なるロック色の強いサウンドを構築している。