ナタリー PowerPush - 堂珍嘉邦

CHEMISTRYから新たな大地を目指すワケ

毒っ気のある人があんまりいないのってつまらないなあ

──ところが詞の中の堂珍さんって基本的に怒ってますよね? 「hummingbird」や「Lasers」のような、詞の中に明らかな二人称がいるラブソングは別ではあるものの、「あわれみ蹴っ飛ばすぞ」(「Reload」)、「果てるまで憎悪抱く」(「OUT THE BOX」)とかなりキツい言葉が目立ちます。

確かに(笑)。やっぱりさっきも言った世の中の誤解だったり、逆に自分が自分のことを上手に伝えられないいらだちだったりはありますから。あと、なんかこう、今ってすごく平和なことを言っている人がすごく多い気がして……。

──音楽シーンにですか?

うん。ライブハウスなんかでやっているバンドはまた違うんでしょうけど、メインストリームには毒っ気のある人があまりいないから。「なんかそういうのってつまらないなあ」っていう気持ちがあったので、あえて自分の日陰の部分にある気持ちをさらけ出してみようかな、って。ただ「handle me right」なんかが特にそうなんですけど、歌っていることはそういう日陰の気持ちではあるんだけど、音は気持ちのいいデジタルロック。あわよくば、そういう毒っ気のない音が好きな人にも聴いてもらえたらいいなと。

──確かに今回のアルバムって内省的になりすぎたり、マニアックになりすぎたりはしていない。ちゃんとメジャーフィールドにもアプローチできるヌケのいいロックが並んでいますよね。

堂珍嘉邦

今までずっとメインストリームにいて、いろいろなことを経験させていただいたから。このソロ活動って本当にゼロからのスタートだったから自分なりにいろいろ調べてみたら、昔の「インディーズ」と今の「インディーズ」は同じ言葉ではあるんだけど、中身はぜんぜん違う、と。「以前の環境から飛び出した今の自分はインディーズみたいな状態なんだ」ということを理解はしたし、今のスタッフからは僕がやりたいこと、これまでの自分を突き放したい姿勢みたいなものを評価してもらってはいる。だけど、お世話になっている以上、やっぱり恩返しもしなきゃいけないし、それにメインストリームにいたときのことが全部イヤだったわけじゃない。そういう思いが無意識のうちに混ざったんじゃないですか。

──自分の無意識や感覚に従ったらこういう音になっていた、という感じ?

ええ。そこは本当に肌感覚で。特にコンセプトや計算はないですね。今回、アメリカと日本で曲を作ってるんですけど、そういう土地の違いとか、インディーズとかメジャーとか、邦楽と洋楽とか、CDが売れないとか、世の中とか、予算とかっていうことはとりあえず一切考えずに、自分の内面と向き合った結果、こういう音になったっていう感じです。

自分でやっちゃえばいいんだよ

──その内面というか、「堂珍嘉邦のロック観」ってどこで養われたものなんですか?

僕、広島の田舎の出身なんですけど、高校時代の1学年上にすごく天才的な先輩がいて。英語もしゃべれるし、ドラムもベースもギターも弾けて、曲も作れて、絵も描けて、顔もカッコいい、みたいな。その先輩がある年の学園祭のライブでビートルズを歌ったんですけど、それを見て衝撃を受けたんですよ。で「あっ、この人、きっとデビューするな」ってそのとき予感がしたんですけど、本当にアメリカで3ピースのバンドでデビューして。ちょうどその噂を聞きつけた頃、僕もその先輩を追うように、一応遊びレベルのバンドをやっていたりもしたんですけど、もうそういう遊びレベルの活動は辞めて、ちゃんと音楽業界に入ろう、と。

──ロックを聴くきっかけどころか、デビューのきっかけもその先輩だったんですか。

そうですね。ロック系のアーティストとかって境遇自体がすごかったりするじゃないですか。それまでもそういう人に対する憧れはあったんですけど、自分は中学、高校と私立の学校に通っていて平和に育っていたから、そういうカリスマにはなれないな、とも思っていて。そんな中、その先輩が身近でリアルな目標になってくれたんです。で、とりえず音楽業界でデビューしなきゃ始まらない。デビューできれば、いろんな人と出会いはあるだろうし、自分の音楽もできるんだから、って。

──それこそ昨年のソロデビューのときのように。

そうそう(笑)。当時から歌だけは自信があったので「とにかく出ていくことが大事だ」って感じで、ツバで歌詞カードがボロボロになるまで毎日歌の練習をしてみたり、業界に近付くためにテレビ局でアルバイトをしてみたりして。まあ、どれもうまく結果には結びつかなかったんですけど。で、テレビで募集しているオーディションっていうのが一番信憑性があるかな、っていう結論にたどり着いて、オーディションを受け、デビューできたって感じですね。その後先輩は、アメリカから戻ってきたんですけど。

──今も会ってるんですか?

ええ。ちょうど先輩が帰国した頃、僕はCHEMISTRYでデビューしたんですけど、地元の知り合いに番号を聞いたらしくて、突然ケータイに連絡があって。で、今でも音楽制作の意欲はまったく衰えてないんですよ。いまだにどこか天才で、作っている曲もすごく洗練されていて。それに感銘を受けて、今でもお互いの最新作を送り合う関係が続いてます。「ビデオを作るのにこれしか予算がなくて」なんて話をすれば「それだけあれば充分じゃん。自分でやっちゃえばいいんだよ」って返してくれる。「あっ、そうか。自分でやればいいんだ」っいう今のソロ活動の基本姿勢みたいなものを教えてくれたのもその先輩ですね。……あっ、あと吉井和哉さんもいた!

ソロデビューアルバム「OUT THE BOX」/ 2013年2月27日発売 / DELICIOUS DELI
初回限定盤 [CD+DVD] 3990円 / POCS-24902
通常盤初回プレス分[CD+オリジナルカレンダー] 3150円 / POCS-24903
通常盤 [CD] 3150円 / POCS-24007
CD収録曲
  1. handle me right ~album ver.~
  2. Shout
  3. なわけないし
  4. Reload
  5. SUNRISE
  6. 未来ハンモック
  7. hummingbird
  8. OKOKO
  9. OUT THE BOX
  10. Adored
  11. Lasers
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Shout」PV
  • 「hummingbird」PV
  • 「handle me right」PV
  • 2012年10月8日渋谷公会堂公演「[A La Musique]」ライブ映像(「Shout」「hummingbird」「handle me right」「Reload」「未来ハンモック」)
堂珍嘉邦(どうちんよしくに)

1978年生まれ、広島県出身。オーディション番組「ASAYAN」の男性ボーカリストオーディションを経て、2001年3月にCHEMISTRYとしてデビュー。1stシングル「PIECES OF A DREAM」から大ヒットを飛ばし、日本を代表するアーティストとなる。2012年より本格的にソロ活動をスタートさせ、同年10月に東京・渋谷公会堂でライブ「堂珍嘉邦 "A La Musique"」を開催し、11月にシングル「Shout / hummingbird」でソロデビューした。自らの音楽性を「耽美エント(耽美+アンビエント)ロック」と位置付けており、CHEMISTRY時代とは異なるロック色の強いサウンドを構築している。