増子直純(怒髪天)×宮藤官九郎(グループ魂、画鋲)対談|ロックはなぜ楽しい? 50代ロッカー2人が大放談 (2/2)

チバユウスケは宇宙人だった!?

増子 「ロックスターロック」は、デヴィッド・ボウイの「スターマン」しかり、昔からあるロックスター=宇宙人説の歌だね。俺は「まあそんなもんか」と思ってたけど、鮎川(誠)さんだったり、チバ(ユウスケ)だったりのことを考えると、なるほどってなるんだよね。去年の「WEEKEND LOVERS 2024 "with You"」のポスターの手を広げてるチバの写真なんて完全に宇宙人だったもんね(笑)。別に追悼とかレクイエム的なものじゃなく。

宮藤 そういう感じがないのがいいですよね。

増子 まあでも、寂しいなというのはある。ただ、宇宙人だったのかなって考えると納得できることもけっこう多い。

左から増子直純、宮藤官九郎。

左から増子直純、宮藤官九郎。

宮藤 (忌野)清志郎さんが亡くなったあとの出来事を振り返ると、予言みたいなことをいっぱい歌ってたなと思って。未来を見て書いたような歌詞が多いですよね。

増子 わかる。清志郎さん、地球外から来たのかなと思うよね。さっきレクイエム的なものじゃないって言ったのは、俺が人の葬式にあんまり行かないようにしてるから。行くと死んだことを認めることになっちゃうから、現実として。そいつ以外全員いるのが耐えられない。うちの親父が3年前に死んだときも母ちゃんに電話して「行かなきゃダメ?」って聞いたら「何言ってんだ」って怒られたよ(笑)。長男がありえないって。

宮藤 ハハハハハ!

増子 でもさ、いよいよ人生が面白くなってきた感じするんだよね。「命懸けでやる」という言葉が若い頃と違ってリアルだから(笑)。ツアーを回りながら「あと何回この街来れんのかな?」と思うようになってきたし。一期一会じゃないけど、毎回これが最後になっても悔いのないようにやろうと。だってこのスタイルであと10年やったら、俺69でしょ。まあ、永ちゃん(矢沢永吉)を見てると15年ぐらいはいけるかなとは思うけど。

宮藤 若いときは思わなかったですけど、自分の年齢が上がってきた今、先輩に近付いちゃったような気がしますよね。

増子 そうなんだよ。歳を取ってくると70も80も変わんないから。

宮藤 すごい上だなと思ってた人のところに自分たちが上がってきちゃってすみません!みたいな感覚があって。

増子 「あれ、亜無亜危異、意外と年近いんだな」とかね。俺と7つぐらいしか違わないから。

宮藤 ジョニー・ロットン(1956年1月31日生)と(田口)トモロヲさん(1957年11月30日生)の年がほぼ一緒だって聞いて「どういうことだ!?」と思いました(笑)。

ダサいものはカッコいいの“先”に

増子 そういや今の若い人、ロック聴かないでしょ? ロック、ダサいもん。でもさ、それが俺らにはたまらないんだよ。

宮藤 聴いてるのはごく少数派ですね。ただこの前、下北沢の定食屋に入ったら、働いてる若い女の子から「画鋲のコピーバンドやってます」って言われて「そんな人いるんだ!?」とびっくりしましたけど。

宮藤官九郎

宮藤官九郎

増子 俺らのこと好きだって言ってる絆創攻(現在20歳のハードコアパンクバンド)は「お父さんに怒髪天を教えてもらった」って言ってたよ。だからもう1周半ぐらいしちゃってる感じ。若いやつらがいい大人になる頃、俺らは死んでるかもしれない(笑)。今、ロックがカッコいいと思ってるのはジジイか頭のおかしいやつしかいないよ。パンクなんて最たるもんだ。

宮藤 (笑)。去年、the 原爆オナニーズ、少年ナイフ、画鋲でライブをやったとき、これから飲み会が始まんのかな?と思うくらい見事に客席がおじさんばっかりでした。よく見ると原爆のTシャツ着てるから、「そうか、ライブか」と我に返って。

増子 パンクバンドの高齢化に伴って客層も高齢化してるから。鋲ジャンぱつんぱつんだったり、歯はねえわ、髪はギリギリモヒカンできてる感じとかなんだよ。

宮藤 亜無亜危異のライブに行ったときも、トイレに腕章した人がいっぱい並んでました。トイレ近いから前に行けないとか言ってて。

増子 でもさ、みんな若い頃の無茶がたたってガブガブになってんのが素敵なんだよ。それこそ命懸けで来てるから。俺たちも、そういう気持ちでずっとやってきてるからね。しかもほかの世界の“しきたり”を知らないから、これがベストなのかどうかもわからない。これに慣れちゃってるというか、当たり前になってるんだよ。俺はギター弾いたり音楽的なことが何かできるわけじゃないし、今の怒髪天の形でしか音楽できないから、必然的にそうなってる。

宮藤 10代の頃いろんなバンドが出てきたけど、カッコいいを通り越しちゃってるバンドがやっぱり面白いんですよね。動いてるサンハウスの動画を初めて観たとき、髪の毛が赤いおじさんがマイクしごいてる姿がカッコよすぎて笑っちゃったし。

増子 わかるなあ。俺も初めてQueen観たとき、爆笑したから。なんだこれは!って。

宮藤 ダサいものってカッコいいの“先”にあるんですよね。

増子 まあ、踏みとどまれない人たちが向こう側に行っちゃった姿だからね。「カッコ悪いことはなんてカッコいいんだ」ということに気付いてからは、いわゆるただのカッコよさに俺はなんの興味もなくなったんだ。

増子直純

増子直純

宮藤 ライブも“美学”を観に行ってるようなところありますよね。ダサいと思う人から見たらダサいかもしれないけど、このスタイルを観に来てるんだって。この間、氣志團とライブをやったとき、そう思いました。この曲順のライブ何回も観てるけど、おのずとこうなっちゃうんだろうなって。

増子 伝統芸能と一緒で「待ってました! よっ!」の世界だよ(笑)。the 原爆オナニーズのライブで、おじいさんにパンクのノリ方を教わるのとかめちゃくちゃカッコいいから。

「音楽を作ることは魔法を人にかけてるのと同じ」

宮藤 ちなみに増子さん、若い人がやっている音楽についてはどう思ってます?

増子 YMOがかつて言ってたけど、今の音楽は「いいものもある、悪いものもある」だね。メインストリームにあるものが俺の口に合わないだけで別に否定するもんじゃない。

宮藤 そう言えば、アルバムの最後の曲「yallow magic orchestra(野郎魔術楽団)」ってタイトル、最高ですね。

増子 YMOは本当神様だから。もちろんアルバム全部持ってるし。シャツも持ってる。InterFMで(高橋)幸宏さんに会ったとき、紹介してもらってね。「怒髪天というバンドやってる者です」って言ったらなんとも言えない顔してた(笑)。わかりづらいとは思うけど、俺は相当影響受けてるんだよ。「yallow magic orchestra」は老眼だと見間違うよね、きっと(笑)。これは友康が「音楽を作ることは魔法を人にかけてるのと同じだと思う」って言い出してね。「俺たちはもう魔法使いで、みんなに魔法をかけてる」とはっきり言葉にしてほしいと言われて書いた。だから逆に言うとちょっと第三者的な目線で、俺が怒髪天に楽曲提供した感覚に近い。

左から増子直純、宮藤官九郎。

左から増子直純、宮藤官九郎。

宮藤 最初から友康さんの中に曲のイメージがはっきりあった。

増子 あった。あと、オルケスタ・デ・ラ・ルスみたいなのやりたいって。

宮藤 それを3人でやろうと思うところがすごい。

増子 できないんじゃないかとは一切考えないからね。ただ「最後は明るいのにしたい」と。いつも楽しい曲を作りたいって必ず言うんだよ。

宮藤 実際楽しそうですもんね。

増子 まあね。「yallow magic orchestra」と「ロックスターロック」は奥野(真哉)に上物のアレンジを任せたんだ。「ロックスターロック」は歌詞もできてタイトルが付いてからアレンジしてもらったんだよね。あいつはいろんな音を持ってるから、俺らが細かいことを伝えなくてもUFOの音まで全部ドンピシャで用意してくれて。でも「yallow magic orchestra」はタイトルがまだ付いてない状態でデモを渡してたら、あやうくテクノの音でやられるところだったよ。オルケスタ・デ・ラ・ルスじゃなくなるもんね。YMOだってもともとマーティン・デニーとかエキゾチックなところから始まってるわけだから。なんにしても今回は過去イチ、みんなで作った感があるよ。

怒りは常にあるから、なくなることはない

宮藤 このアルバムと並行して、増子さんには6月に出す画鋲のニューアルバムに詞を3曲提供していただいたんです。

増子 前からちょいちょい一緒にやってるし、この間も超画鋲(画鋲+兄貴)としてライブやったばかりだから。

宮藤 ライブのたびに新曲が増えてかないと気が済まない感じになってきたところだったので、ホントに助かりました。3人とも増子さんが歌うことを意識して曲を作ったんですけど、まず1曲録ってみたら予想をはるかに超えてて。

増子 仮歌入った音源聴いたら、すげえよかった。

宮藤 増子さんが聴くからちゃんとやんなきゃって、いつも以上に思ってました。書いてもらった3曲とも「残心」には入らない感じの曲でしたね。

増子 「銃刀法違反」がちょっと入りかけたかな?

左から増子直純、宮藤官九郎。

左から増子直純、宮藤官九郎。

宮藤 この歌詞カッコいいと思ってたのに、増子さんが「いや違うな。これは画鋲向きじゃない」って却下してきたじゃないですか(笑)。もったいないことしました。

増子 曲も三者三様の曲作りで面白かった。うちは友康1人で作ってるから。

宮藤 「中野止まり」って曲は、総武線に乗るとだいたい中野止まりでイラっとくる(笑)という曲なんですけど、これは三宅さんっぽいなと思って。「他のバンドのファン嫌い」は、たぶん俺が作ったほうがいい。「早くしろ」は行列のできるラーメン屋でゆっくりビール飲んでるやつ殺す、って曲で、これはよーかいくんがいいなと思って。そしたらよーかいくんが作ってきた曲がめちゃめちゃ楽しそうで「♪早くしろ~早くしろ~早くしろ~」(笑)。全然違うよと思って1回ボツにしました。

増子 イカれてるね(笑)。

宮藤 また超画鋲やったり、怒髪天で画鋲と対バンしてください。

増子 超画鋲だと若いバンドとも対バンできるから面白いよね。

宮藤 新しいお客さんの前でライブやるのって楽しいですよね。必ずしもトリじゃなくていいし、頭でもいいし、始まったらあっという間に終わるし。あと、グループ魂ではわりとイジられている三宅さんが、画鋲だとよーかいくんにときどき当たりがキツいんですよ。それが面白くて。細かいことすごい言ってる。よーかいくんが書いたセットリストを見て「これさあ、字が小さすぎるだろ!」とか文句を言ってるのがたまんないんです(笑)。

増子 下には下がいるから(笑)。

宮藤 最後に1つ聞いていいですか? 怒髪天、ずっとリリースがあるじゃないですか。増子さん、枯れるとか、飽きたりとか、しないのかなと思って。

増子 俺の場合“怒り”が原動力だから。怒りは常にあるから、なくなることはない。それでも最近はだいぶ細分化してるけどね。怒髪天にはちょっとなっていう曲は画鋲に提供してる。ラーメン屋のイラッとする客とか(笑)。ちょうどいい落としどころができたなと思って。

宮藤 そういう野菜クズみたいなやつ、全部画鋲がいただきます(笑)。

左から増子直純、宮藤官九郎。

左から増子直純、宮藤官九郎。

怒髪天 公演情報

エリア1020 TOUR

  • 2025年5月14日(水)東京都 Top Beat Club
  • 2025年5月29日(木)和歌山県 和歌山CLUB GATE
  • 2025年5月31日(土)福岡県 小倉FUSE
  • 2025年6月1日(日)熊本県 NAVARO
  • 2025年6月3日(火)兵庫県 神戸VARIT.
  • 2025年6月14日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2025年6月15日(日)宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
  • 2025年6月21日(土)長野県 ALECX
  • 2025年6月26日(木)京都府 KYOTO MUSE
  • 2025年6月28日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2025年6月29日(日)岡山県 PEPPERLAND
  • 2025年7月5日(土)石川県 vanvanV4
  • 2025年7月6日(日)岐阜県 yanagase ants
  • 2025年7月12日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2025年10月29日(水)千葉県 千葉LOOK
  • 2025年11月1日(土)香川県 DIME
  • 2025年11月3日(月・祝)福岡県 LIVEHOUSE CB
  • 2025年11月5日(水)三重県 club chaos
  • 2025年11月8日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
  • 2025年11月9日(日)群馬県 Club JAMMERS
  • 2025年11月23日(日)宮城県 Rensa
  • 2025年11月28日(金)北海道 cube garden
  • 2025年11月29日(土)北海道 cube garden
  • 2026年1月24日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2026年1月25日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2026年1月31日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2026年2月1日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2026年2月10日(火)東京都 Spotify O-EAST
  • 2026年2月11日(水・祝)東京都 Spotify O-EAST

画鋲 公演情報

ショートコア合法集会vol.3

2025年5月21日(水)東京都 下北沢QUE
<出演者>
画鋲 / 奇妙礼太郎 / 快速東京

プロフィール

怒髪天(ドハツテン)

1984年に札幌で結成。自らの音楽性をJAPANESE R&E(リズム&演歌)と称し、独自のロックンロール道を確立している。メンバーは増子直純(Vo)、上原子友康(G)、坂詰克彦(Dr)の3人。2014年1月には結成30周年を記念して初の東京・日本武道館公演を開催。楽曲提供、映像作品や舞台への出演、アイドルとのコラボなど、ロックバンドというイメージにとらわれることなく、ジャンルの垣根を越えて活動を展開している。2023年3月に6曲入りのアルバム「more-AA-janaica」をリリースした。結成40周年を迎えたことを記念して2024年1月に配信シングル「ザ・リローデッド」を発表。同年10月に現体制初の楽曲「エリア1020」をリリースした。2025年4月にアルバム「残心」を発表。5月からライブツアー「エリア1020 TOUR」を行う。

宮藤官九郎(クドウカンクロウ)

1970年生まれ。1991年より大人計画に参加し、脚本家・監督・俳優として活動している。1995年に結成したパンクコントバンド・グループ魂ではギタリストを務め、作詞・作曲も担当。ショートコアパンクバンド・画鋲のメンバーとしても活躍中。「第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞」「第53回芸術選奨文部科学大臣新人賞」「第49回岸田國士戯曲賞」「第29回向田邦子賞」「東京ドラマアウォード2013脚本賞」「第67回芸術選奨文部科学大臣賞」など多数の賞を受賞。2013年にオンエアされたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」、2019年に放送されたNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では脚本を手がけた。