ピック弾き、サンボーン、スラッシャー映画
──今回のインタビューでは「あっ!」の制作に影響を与えたものについてもメンバーおひとりずつ聞いていければ思っています。まずは藤原さん、いかがでしょうか?
藤原 今回のアルバムで初めてピックでベースを弾いたんですよ。20年ぐらいずっと指で弾いてきたんですけど、ふとピックで弾いてみたらいろんな感覚が変わりました。肩とか痛くなってくるし、全然弾けないから不安なんですけど(笑)。
──ピックで弾き始めたのは何かきっかけがあったのでしょうか。
藤原 たまたまピックでの弾き方を人に教える機会があったんですよ。あと、DOGADOGAと別のサポートしているバンドでピックが映えそうな曲があったので、ちょっとやってみるかなと思い立ちまして。やっぱりピックで弾くとベースライン自体変わってきますね。
──今回の作品のグルーヴにもその変化が反映されていますよね。
藤原 出ていると思います。けっこうグルーヴの捉え方自体が変わってるかもしれない。
──渡邊さんはいかがですか?
渡邊 僕はデヴィッド・ボウイの「Young Americans」にも参加しているサックス奏者のデヴィッド・サンボーンですかね。スティーヴィー・ワンダーの「Tuesday Heartbreak」なんかでも吹いているんですけど、サンボーンの70年代の音ってちょっと独特で、今の録り方だとああいう音にならない。今回の録音でもマイクの方を向かないで、あえて部屋の壁を向きながら吹いてみたりと、サンボーンみたいな音を鳴らすために試行錯誤しました。
──壁を向きながら吹くと音が変わるんですか?
渡邊 “部屋鳴り”みたいなものが入るんです。あくまでも自分の中のイマジナリーなものではあるんですけど、そうするとあの頃のサンボーンの音に近くなる気がして。今回はそういうことも意識しました。
──古市さんはいかがですか。
古市 僕は最近スラッシャー映画をよく観てまして……。
江沼 俺も最近観てた! 何を観てたの?
古市 「バタリアン」とか「13日の金曜日」ですね。人をザクザク殺す勢いってこのアルバムに通じると思うんですよ。録音していた時期によく観ていたので、そういう豪快さがドラムに出ているんじゃないかと。娯楽としてのハチャメチャさってDOGADOGAにもあると思っていて、今回のEPに入っている「フェイクファー」は一発録りだったんですけど、あの疾走感にはスラッシャー映画のような勢いがあるような気がします。
タランティーノのように
──では最後に江沼さんも「あっ!」の制作に影響を与えたものを教えてください。
江沼 俺も健太に近いかも。「キル・ビル」を最近観直してたんですよ。タランティーノ作品って、よく人が死んだり、腕がぼろっと取れたりしますけど、なぜか笑えるじゃないですか。あの感覚ってDOGADOGAにもあるんじゃないかと。
古市 すごくよくわかります。
江沼 人が死ぬようなシーンもシリアスではなくて、「この描写を真面目に観てるやつって誰もいないじゃん?」という感じ。DOGADOGAでいえば、歌詞もそうかもしれないし、音作りもそうかもしれない。1曲に対してはいろんなアイデアが詰まってるんだけど、そこを感じさせないというか。「誰も真面目に聴いてないんだけど、実は緻密」というのがDOGADOGAでやりたいことなのかも。
渡邊 確かに。
江沼 でもまったく無意味かと言われたらそうじゃないし、くすっと笑えて、言ってることはけっこうキツかったり……すごくさわやかな曲なんだけど、血が流れてる感じというか、そのギャップ。それがDOGADOGAらしさかもと思っています。
4人にとってDOGADOGAとは?
──では、最後の質問です。皆さんそれぞれの活動があるわけですが、1人ひとりにとってDOGADOGAというバンドはどういう表現をする場なのでしょうか?
渡邊 自分は、演奏する音楽が好きかどうかということを大事にしていて、その中でもDOGADOGAはすごく楽しくやらせてもらっています。ひたすらに楽しい。このバンドではめちゃくちゃ吹きまくっているし、仕事っぽい感覚ではないですね。
藤原 俺もけっこう遊びの感覚が強くて、楽しんでやってますね。今までは固く考えすぎてあまりやらなかったようなスラップ奏法とか、今まではやってこなかったことをたくさんやっています。
古市 僕にとってDOGADOGAというバンドは“友達”ですね。
──友達?
古市 いろんなサポートをやらせてもらってるんですけど、DOGADOGAの曲が一番難しいんですよ。20歳になってすぐからやっているから、バンドと一緒に自分が成長してる感じがしていて。難しいからがんばらなきゃいけないし、DOGADOGAも成長しているし、自分も成長しなきゃという。だからDOGADOGAは友達みたいな感じなんですよね。
──なるほど。では、江沼さんは?
江沼 僕は……お仕事ですね。
渡邊・古市・藤原 えっ(笑)。
江沼 楽しいことは間違いないんだけど、ちゃんとしなきゃなとも思い始めています。曲を作る側だからこそ、みんなが楽しめるよう、ちゃんと作らなきゃと。バンドって何もしなかったら何も起こらないまま空中分解しちゃうものなんですよ。自分でもDOGADOGAをやっていて楽しいんだけど、みんながDOGADOGAをやりたくなるような曲を作らなきゃという緊張感もあります。
──ここまでの話を聞いていると、メンバーそれぞれが今までにできなかったことをトライできる場所になっている感じがしますよね。そういう曲が江沼さんから出てきているわけで、まさに理想的な状況ではないかと。
江沼 そうなっているといいですね。僕としては「しめしめ」という感じです(笑)。
プロフィール
DOGADOGA(ドガ)
江沼郁弥(Vo, G)、渡邊恭一(Sax, Cl, Fl)、古市健太(Dr)、藤原寛(B)からなる4人組バンド。江沼を中心に2023年に結成された。パンク、ダブ、レゲエ、ファンク、ラテン、ジャズ、ファンカラティーナ、アフロビートなど、さまざまな要素をごちゃ混ぜにしたサウンドが特徴で、2024年9月に1stアルバム「CHAOS Z.P.G.」をリリース。2025年8月にEP「あっ!」を発表し、9月にはワンマンライブを東京・新代田FEVERで開催する。