ナタリー PowerPush - ダルビッシュP

人気ボカロPがビリー・シーンと激突!最高の“ボカロック”アルバムが誕生するまで

華麗なギターテクニックを生かした疾走感あるロックナンバーで人気のボーカロイドクリエイター、ダルビッシュPが自身2作目となるボカロアルバム「High Gain Street」をリリースする。本作にはニコニコ動画で好評を博した人気曲に加え、Mr.Bigの一員としても知られるベーシスト、ビリー・シーンを大胆にフィーチャーした新曲「Mr.Melancholy」など全15曲を収録。同曲はスリリングなギター&ベースバトルが楽しめる、極上のロックチューンに仕上がっている。

ナタリー初登場となる今回のインタビューでは、ダルビッシュPがニューアルバムの魅力についてはもちろんのこと、ギターに興味を持ったきっかけから音楽的ルーツ、バンド活動からボカロPへの転身までを説明。さらに、自身に強い影響を与えたギターロックアルバム3枚をピックアップし、各アルバムに対する思い入れをたっぷり語ってくれた。

取材・文 / 西廣智一 撮影 / 佐藤類

ギターとの出会いはJリーグ中継

──ギターに興味を持ったのはいつ頃、何がきっかけだったんですか?

ダルビッシュP

ちょうど僕が小学校3、4年のときにJリーグが始まって、オープニングセレモニーの中継でTUBEの春畑道哉さんが燕尾服を着てギターソロを1人で弾いてたんです。それがすごくカッコよく思えたのが、最初のきっかけですね。で、中学2年の頃にギターを買って、そのあたりからロックを意識して聴くようになりました。中でも自分の基本的な部分を作ったのは、たぶんGLAYだったと思います。GLAYのHISASHIさんにすごく憧れてた時期があって。

──HISASHIさんのどういうところに惹かれたんでしょう?

HISASHIさんってちょっとひねくれ者というか、ひねくれたファッションとサウンドを持ち合わせてたと思うんです。普通じゃない感じというか、それが僕にはカッコよく見えたんですよね。

──ほかにはどういったギタリストに興味を持ちましたか?

ラルクのkenさん、SEX MACHINEGUNSのANCHANGさん、それにB'zの松本孝弘さんからも影響を受けて。特にSEX MACHINEGUNSを通じて、いわゆるヘヴィメタルをカッコいいなと思うようになったんです。そこからギター雑誌の「YOUNG GUITAR」を買うようになって、そこによく載ってるイングヴェイ・マルムスティーンとかポール・ギルバートとか、いわゆる洋楽のスーパーギタリストたちを知って。以来、片っ端から洋楽のヘヴィメタルの名盤をレンタルしまくって、どんどんメタルにのめり込んでいきました。

──そこからバンドを始めるわけですか?

そうですね。最初にバンドを組んだのは高校2年のとき。文化祭に出るために同級生を誘ったのが最初のバンドでした。そこでは女の子ボーカルだったんですけど、僕がどうしてもやりたくてGLAYの「誘惑」をコピーして(笑)。あとはジュディマリとかやってたかな。

──あ、そこではメタルは演奏しなかったんですね。

はい。周りに合わせてJ-POP、J-ROCKのコピーをしてました。

──なるほど。高校卒業後も音楽活動を続けていたんですか?

そうです。高校卒業前に別の同級生たちとバンドを組んで。僕が聴いてきたソフトヴィジュアル系みたいなサウンドを持ったバンドで、24歳ぐらいまで続けてました。僕は大学には行かなかったので、高校を卒業してからは実家の仕事の手伝いをしながらバンド活動をしてたんですけど、本当に絵に描いたようなダメ人間で(笑)。とにかく働きたくなくて、配送の仕事が終わったらそのままブックオフに行って立ち読みしてたんです。そんな生活がずっと続いていて、さすがにまずいなと思ってた頃にほかのバンドメンバーもみんないい歳になってきて。仕事が忙しくなったり家族ができたりで、もう一緒に活動するのが難しくなって解散したんです。で、僕もちゃんと自立しなきゃ思って、25歳のときに楽器店で働き始めて。

“弾いてみた”からボカロPへ

──バンドは解散しても、音楽に近い場所で働きたかった?

そうですね(笑)。楽器店ではギターコーナーとDTM(デスクトップミュージック)の担当でした。

──なるほど。DTMがその後のボーカロイドにもつながっていくわけですね。ちなみにDTMは当時からやってたんですか?

DTM自体はバンドのデモ作りのときに初めて触れたのがきっかけで。当時はまだMTR(マルチトラックレコーダー)の時代だったんですけど、そのうちに音楽雑誌でパソコンでも宅録ができることを知って、いろいろ試してるうちに自分的にしっくりきたんです。

ダルビッシュP

──そんな中、ボーカロイドに出会ったと。

はい。最初の出会いは2008年頃だったと思うんですけど、知り合いが海賊王さんの動画を薦めてきて。演奏がすごくカッコよくて動画に寄せられるコメントもたくさんあって、面白そうだと思ったのがきっかけで、まずニコニコ動画に“弾いてみた”動画をアップしたんですよ。でも辛辣なコメントばかりでちょっと難しいなと思ってたところに、ボカロ曲を聴く機会があったんです。それはジミーサムPさんの曲だったんですけど、「うわー、すげーな! 1人でこんなことができるんだ」と思って。その頃にはすでにバイト先の楽器店にも売っていたので、僕も自分で買ってやってみようと思ったのが最初のきっかけです。

──最初にボカロ曲をアップしたのは2009年でしたね。

2009年の1月1日。最初はビギナーズラックでそこそこ評価してもらったんですけど、その後は全然ダメで。4曲目の「Squall」って曲あたりからゴリゴリのギターを前に出したらちょっと反応があって、その頃からほかのボカロPの人たちにも認知されるようになったんです。

「音楽で生きていこう」と年甲斐にもなく思って

──2012年3月には1stアルバム「5150」でメジャーデビューを果たしました。タイトルからエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALENのギタリスト)を思い浮かべた人も多かったと思います。(注:「5150」はVAN HALENが1986年に発表したアルバム名。同名のギターアンプも販売された)

あははは(笑)。そうですね。僕、もともとdevilish5150っていう名前で活動してたんですけど、「5150」はギターアンプから取ったものでして。もちろんエディ・ヴァン・ヘイレンのことは知ってましたし、カッコいいと思ってました。それもあって「5150」を名前に頂戴した感じなんです。

──1stアルバムと同時期には、ナノの1stアルバム「nanoir」への楽曲提供でも話題になりました。これ以降、ニコ動のコミュニティから外のフィールドにも向けて音楽を届け始めるようになるわけですが。

まだそのときはニコ動だけで盛り上がってる感じがあったと思うんですけど、メジャーデビューをきっかけにもっと外の世界に向けて広げていきたいなと考えるようになって。だからCDリリースの機会をいただけたのは純粋にうれしかったです。実は僕、今年の5月まで地元の石川に住んでたんですよ。で、去年「5150」を出してちょっと舞い上がってたところもあって「音楽で生きていこう」と、年甲斐にもなく思っちゃったんです(笑)。そこからは、いわゆる“外仕事”としての音楽活動をするようになって。ホント、ボカロをきっかけに人生が開けていった感じですね。

ニューアルバム「High Gain Street」[CD] 2013年11月6日発売 / 2200円 / Due. RECORDS / DGSA-10084
ニューアルバム「High Gain Street」
収録曲
  1. High Gain Street(guitar instrumental)
  2. 夢幻 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  3. Mr.Melancholy / ダルビッシュP feat.GUMI
  4. Holography / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  5. Inside Darkness / ダルビッシュP feat.GUMI
  6. Twitter / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  7. ポップンガール@コミュニケーション / ダルビッシュP×Junky feat.GUMI
  8. Kung-Fu / ダルビッシュP feat.GUMI
  9. DAYBREAK / ダルビッシュP feat.GUMI
  10. Unlucky Pierrot / ダルビッシュP feat.GUMI
  11. Spiral / ダルビッシュP feat.GUMI
  12. 天上天下 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  13. 想イ出カケラ / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  14. 5150 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
  15. Delight / ダルビッシュP feat.GUMI
ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」[CD] 2013年11月6日発売 / 2625円 / ティームエンタテインメント / KDSD-666
ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」
収録曲
  1. Kung-Fu / ぱなまん
  2. Holography / みーちゃん
  3. 雪月花 / 花たん
  4. final letter / un:c
  5. twitter / MARiA
  6. egoistic lovers(chrono arrange) / amu
  7. 想イ出カケラ / りょーくん
  8. DAYBREAK / 実谷なな
  9. 天上天下 / ヲタみん
  10. 夢幻 / amuTen
  11. Link / clear
  12. DEADLINE / ピコ
ダルビッシュP(だるびっしゅぴー)
ダルビッシュP

1983年11月1日生まれ、石川県出身のボーカロイドクリエイター、ギタリスト。2009年1月、ニコニコ動画への楽曲投稿を開始する。ストレートで疾走感あふれるロックテイストの楽曲が人気となり、9作目「Holography」がニコ動殿堂入り(10万再生)を達成。2012年3月に1stアルバム「5150」でメジャーデビューを果たし、同月に発売されたナノのデビューアルバム「nanoir」に「magenta」を含む数曲を提供する。同年5月、ナノが歌うテレビアニメ「ファイ・ブレイン 神のパズル」第2シリーズのオープニングテーマ「Now or Never」の作曲・編曲を担当。華麗なテクニックを駆使したギタープレイにも注目が集まり、Junky、ゆちゃP、Nem、OSTER project、鬱Pなどのクリエイターの楽曲にギターで参加している。2013年11月6日、Mr.Bigなどで知られるビリー・シーン(B)をゲストに迎えた新曲「Mr.Melancholy」を含む2ndアルバム「High Gain Street」をリリース。同日にはダルビッシュPの楽曲をニコ動などで活躍する“歌い手”がカバーしたアルバム「chronosing」も発売される。