ナタリー PowerPush - ダルビッシュP
人気ボカロPがビリー・シーンと激突!最高の“ボカロック”アルバムが誕生するまで
ダルビッシュPに影響を与えたアルバム(1)
──実は今日のインタビューでは事前に、ダルビッシュPさんに大きな影響を与えたギターロックアルバムを3枚選んできてもらってます。最初はイングヴェイ・マルムスティーンの1stアルバム「Rising Force」。
僕が最初に聴いたイングヴェイのアルバムは「Anthology 1994-1999」っていうベスト盤なんですけど、初めて聴いたときは「これ、本当にギターで弾いてるの?」って衝撃を受けましたね。今まで聴いてきたギターの音とまるで違うし、「これ、音は何個出てんの?」みたいな感じで(笑)。そこからイングヴェイのアルバムはほぼすべて聴いたんですけど、中でも一番すごいなと思ったのが1stアルバムの「Rising Force」だったんですよ。
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イングヴェイ・マルムスティーン「Rising Force」
[CD] Fontana Polydor
──「Rising Force」はいわゆる“歌モノ”アルバムではなくて、全体の8割くらいがインストでした。
そう、ほとんどインストなんですけど(笑)、このアルバムは演奏レベルがすごく高い。イングヴェイって「Rising Force」と2ndアルバム「Marching Out」、3rdアルバム「Trilogy」を指して初期3部作みたいに呼ぶじゃないですか。どれも本当にクオリティが高すぎて、彼の演奏テクニックのすべてが詰まってるんじゃないかな。本当に透き通った音というか、独特の艶っぽさがあって大好きなんです。
──イングヴェイが好きな人って、特に1stアルバムから3rdアルバムの3枚を選ぶ傾向が強いですよね。
それ以降のアルバムにもいい曲はあるんですけど、やっぱり初期の作品の濃さは尋常じゃなくて。いまだにライブでも1枚目からの曲をたくさんやってますしね。「Black Star」とか「Far Beyond The Sun」とか名曲ばかりでたまんねえわ、みたいな(笑)。
──イングヴェイが世間で注目を集め始めた80年代中盤って、ちょうどヘヴィメタルシーンには彼みたいな速弾きギタリストが増え始めた頃なんですよ。ダルビッシュPさんは速弾きについてはどう思いますか?
僕、ボカロ曲では速弾きの部分についてけっこう評価してもらってるんですけど、個人的にはそっちよりもチョーキングとかビブラートとかを重視してきたつもりでいて。速く弾きたいときに速く弾けて、泣かせたいときに泣けるみたいなバランス感が自分の中ではすごく大事なんです。ただ速いだけのソロは弾きたくないとは常々思っていて、もっとハートフルな部分を出していきたいと考えてます。
ダルビッシュPに影響を与えたアルバム(2)
──そして2枚目がMr.Bigの2ndアルバム「Lean Into It」。
ギタリストだったらMr.Bigはやっぱり通る道だと思うんです。ポール・ギルバートのプレイやサウンドメイキングにはすごい衝撃を覚えたんですよね。あの独特のクリアさにすごく憧れて。実はイングヴェイをコピーしてる人には、けっこうピッキングをごまかす人がいるんですよね(笑)。でもポールに関しては1音1音を完璧に弾いていて、そのへんはとても影響を受けた部分です。あとは曲作りにおけるポップセンスも素晴らしくて。彼はThe Beatlesが大好きってよく言ってますけど、そのへんもこのアルバムには強く出てますよね。
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Mr.Big「Lean Into It」
[CD] Atlantic Wea
──ブルースロック路線だった1stアルバム「Mr.Big」から一変して、「Lean Into It」ではポールのポップでカラフルな面が打ち出されていましたし。
「Green-Tinted Sixties Mind」とか万人受けする曲が増えて、本当にすごいアルバムですよね。あの曲の特徴的なイントロのギターフレーズなんて、メタルが好きなギタリストなら誰もがコピーしたと思いますし(笑)。やっぱり自分もそういうキャッチーで印象的な曲を求めているんですよ。
──ギタリストとしてフィーチャーされるのはもちろんだけど、アルバム全体のトータル感をより求めてる?
そうですね。これは極端な持論なんですけど、「サビさえキャッチーだったら、あとはどんだけカオティックでもいい」と(笑)。Mr.Bigもまさにそうで、アルバム1曲目の「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」ではポールとビリー・シーンが電動ドリルを使ったギター&ベースソロを披露するけど、曲自体はめちゃめちゃキャッチーなんですよね。
ダルビッシュPに影響を与えたアルバム(3)
──ハードロック、ヘヴィメタルの名盤が2枚続きましたが、最後の1枚はGLAYの大ヒットアルバム「pure soul」です。
これは僕が最初にコピーした「誘惑」が入ってるアルバムっていうのもあるんですけど、このアルバムがリリースされた当時はGLAYに心底憧れていて。20万人ライブとかスタジアムツアー、ドームツアーをやってた時期で、僕も阪急西宮スタジアムでのライブを家族と一緒に観に行ったんですよ。ライブが本当にカッコよくて、地元に戻ってからすぐに楽器店に走って、当時売ってた「バンドやろうぜ」っていう雑誌を買ったんです。そこには「1カ月で弾けるGLAY『誘惑』」っていう特集が載ってたんですけど、ゆっくり弾いたギター演奏が収録されたCDも付いてたんですよね。当時はすごい画期的だったんですよ、雑誌にCDが付くのって。それで一生懸命練習して、イントロの「デーデデデーデデ♪」っていうリフが弾けた瞬間に「うおーっ!」って火がついて(笑)。「すげえ、弾けた!」って興奮して、そこからどんどんギターにのめり込んでいったんです。
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GLAY「pure soul」
[CD] 1998/07/29発売 3059円 ポリドール POCH-8001
──なるほど。でも「pure soul」というアルバムはGLAYの歴史の中でもかなりポップな部類に入る作品ですが、この作品のどこがダルビッシュPさんを惹き付けたんでしょう?
確かにポップですよね。でも……自分の中ではそのポップな要素が一番大事なんじゃないかって、今話しながら気付きました。あははは(笑)。
──こうして3枚選んできてもらいましたが、イングヴェイは別として、Mr.BigもGLAYもテクニカルなギタープレイは随所に含まれているものの、全体的に楽曲のよさを重視するアーティストですね。
そうですね。これは自分なりの聴き方なんですけど、僕はアーティスト単位というよりも曲単位で音楽を聴くことが多いんです。誰々だから聴くんじゃなくて、この曲がいいから聴いてみよう、みたいに。イングヴェイもMr.BigもGLAYもそうなんですけど、ギターだけがすごいだけじゃなくて楽曲も素晴らしいものばかりだと思います。
- ニューアルバム「High Gain Street」[CD] 2013年11月6日発売 / 2200円 / Due. RECORDS / DGSA-10084
- ニューアルバム「High Gain Street」
収録曲
- High Gain Street(guitar instrumental)
- 夢幻 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Mr.Melancholy / ダルビッシュP feat.GUMI
- Holography / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Inside Darkness / ダルビッシュP feat.GUMI
- Twitter / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- ポップンガール@コミュニケーション / ダルビッシュP×Junky feat.GUMI
- Kung-Fu / ダルビッシュP feat.GUMI
- DAYBREAK / ダルビッシュP feat.GUMI
- Unlucky Pierrot / ダルビッシュP feat.GUMI
- Spiral / ダルビッシュP feat.GUMI
- 天上天下 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- 想イ出カケラ / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- 5150 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Delight / ダルビッシュP feat.GUMI
- ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」[CD] 2013年11月6日発売 / 2625円 / ティームエンタテインメント / KDSD-666
- ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」
収録曲
- Kung-Fu / ぱなまん
- Holography / みーちゃん
- 雪月花 / 花たん
- final letter / un:c
- twitter / MARiA
- egoistic lovers(chrono arrange) / amu
- 想イ出カケラ / りょーくん
- DAYBREAK / 実谷なな
- 天上天下 / ヲタみん
- 夢幻 / amuTen
- Link / clear
- DEADLINE / ピコ
ダルビッシュP(だるびっしゅぴー)
1983年11月1日生まれ、石川県出身のボーカロイドクリエイター、ギタリスト。2009年1月、ニコニコ動画への楽曲投稿を開始する。ストレートで疾走感あふれるロックテイストの楽曲が人気となり、9作目「Holography」がニコ動殿堂入り(10万再生)を達成。2012年3月に1stアルバム「5150」でメジャーデビューを果たし、同月に発売されたナノのデビューアルバム「nanoir」に「magenta」を含む数曲を提供する。同年5月、ナノが歌うテレビアニメ「ファイ・ブレイン 神のパズル」第2シリーズのオープニングテーマ「Now or Never」の作曲・編曲を担当。華麗なテクニックを駆使したギタープレイにも注目が集まり、Junky、ゆちゃP、Nem、OSTER project、鬱Pなどのクリエイターの楽曲にギターで参加している。2013年11月6日、Mr.Bigなどで知られるビリー・シーン(B)をゲストに迎えた新曲「Mr.Melancholy」を含む2ndアルバム「High Gain Street」をリリース。同日にはダルビッシュPの楽曲をニコ動などで活躍する“歌い手”がカバーしたアルバム「chronosing」も発売される。