ナタリー PowerPush - ダルビッシュP
人気ボカロPがビリー・シーンと激突!最高の“ボカロック”アルバムが誕生するまで
ギタリストと作曲家とのバランス感を考えた
──さて、ここからはニューアルバム「High Gain Street」について話を聞いていきたいと思います。本作にはこれまでに動画サイトで発表してきた楽曲に加え、新曲も多数収録されています。どういうアルバムにするか、事前にイメージはありましたか?
ボカロ曲をニコ動にアップした際にリスナーの反応を見ると、やっぱりギターの要素を求められているのをすごく感じていて。で、今回はハードなサウンドにキャッチーな要素を取り入れた僕ならではの個性をもっと押し進めてみようかなと思ってました。あとは曲にバリエーションを付けたいと思っていて、いろんなタイプの楽曲を入れたいと考えてましたね。
──1stアルバム「5150」はそれまでの活動の集大成的な内容だったと思いますが、確かに今回の「High Gain Street」は前作以上にいろんなタイプの楽曲が収録されています。ギタープレイにしてもただハードにリフを弾くだけじゃなくて、それこそV系にありそうなバッキングとかJ-POPにありそうなギターフレーズとか曲にあわせた弾き方をしてますよね。そういう意味でも最後まで飽きさせない1枚だと思いました。
ありがとうございます! 今回はギターロックにしても、北欧風からアメリカンロック調、エモ系まで、1つに限定されずにいろんな色を散りばめたつもりです。作曲家として出したい部分はもちろんあるんですけど、それと同時にギタリストとしてやりたい部分もある。自分としてはその両方を同じくらい出していきたいので、そのバランス感はすごく考えました。
──なるほど。そういえば新作には、前作「5150」に収録されていた楽曲がいくつか再収録されています。これは再レコーディングしたものなんですか?
そうです。ドラムの音源も変えたりベースもアレンジし直したりと、全部録り直してます。それと前作で初音ミクが歌っていた曲を今回はGUMIが歌っていて、曲のキーも変えましたからね。
──アルバムのミックスも、前作ではギターが前面に出てくる印象だったのが、今回はもっと全体的なバランスが考えられているような気がしました。
その通りです。前作は音圧も強めにしてたし、ギターも前に出しまくりだったんですけど、今回はより聴きやすくバランスを取れたかなと思ってます。ミックスしてくれたエンジニアさんとも何度もやり取りしながら詰めたので、聴きやすいと感じてもらえたなら大成功ですね。
あのMr.BigのCDから聞こえてくるベースの音だ!
──そんな中、このアルバムの収録曲「Mr.Melancholy」にはMr.Bigのベーシスト、ビリー・シーンが参加しています。やりましたね!(笑)
やっちゃいましたねえ(笑)。
──大好きなアルバムに参加しているプレイヤーが自分の作品に参加するのって、どういう気持ちなんですか?
ホント……いまだに実感が湧かないんですけど。制作自体は日本と海外とでデータのやり取りで進めたんですけど、最初にビリーからデータが送られてきたとき、聴いた瞬間に「あのMr.BigのCDから聞こえてくるベースの音だ!」とわかって、「ああ、これはやべえな!」と衝撃を覚えました。ただただビックリでしたね(笑)。
──僕もまったく一緒で、冒頭のベースフレーズを聴いただけで「あ、ビリー・シーンだ!」って思いました。
出音が違うんですよね、ほかのベーシストと。「ああ、このベースの音聴いたことがある!」みたいな。本当にぜいたくですよ。
──そこにギターを被せていくのも、本人的にはかなりテンションが上がったんじゃないですか?
ですね(笑)。もともとこの曲はビリーにお願いする時点で、デモとしてほぼ完成してたんですけど、やっぱりビリーに聴かせるっていうことでギターはかなりがんばって弾いたんです。で、ビリーが弾いたデータが届いたときに一番衝撃的だったのは、自分のギターフレーズに対してビリーがユニゾンで弾いてくれることで。ファンとしては感動ものですよね。
──ビリーが弾いた曲は豪華なイメージだけど、全体を通して聴いたときに浮いてないところが興味深くて。そういう意味では、本当に曲の力が強いアルバムなんだなと思いました。
ありがとうございます。ビリーが参加したのは1曲だけだったけど、ビリーが参加してない曲に関してもクオリティは落としたくなかったので、ベースのフレーズはかなり作り込んでるんです。どの曲もアレンジに力を入れてるんで楽しんでほしいですね。
今の制作方法はバンド時代の感覚に近いかも
──今回のアルバムのアレンジはバンドサウンドを想定してプログラミングされたものだと思いますが、例えば自分が弾くギター以外のパートは誰かほかの人が演奏することを想定して作ってるんでしょうか?
それはあります。実は僕が曲を作る際には共作者がいて。地元の音楽友達なんですけど、その人と一緒にアレンジをしてるんです。ドラムのプログラミングに長けてるから、すごく助けられてるんですよ。ボカロPって全部1人でやっちゃう人が多いと思うんですけど、僕はわりといろんな人の力を借りてるところがあって。自分はギタープレイと、メロディや曲作りに力を注いで、不得意なところはほかの人に助けてもらってます。
──作品としてのクオリティをより高いものにしようと思ったら、外からのインプットをよしとするのも1つの手段ですよね。
自分からは出てこないフレーズってやっぱりありますし、そういうフレーズに限ってすごく新鮮に感じられて。そこからインスピレーションを受けることもあるし、いろんな人とやることってやっぱり大事だなって思います。
──そういう意味では仮想バンドをやってるような感じなんでしょうか?
そうかもしれない。もともとバンドでやってきた人間だし……バンドの場合、メンバーとディスカッションを重ねて1つの楽曲を作っていくと思うんですけど、その感覚に近いのかな。結局はそこに舞い戻ったというか。
- ニューアルバム「High Gain Street」[CD] 2013年11月6日発売 / 2200円 / Due. RECORDS / DGSA-10084
- ニューアルバム「High Gain Street」
収録曲
- High Gain Street(guitar instrumental)
- 夢幻 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Mr.Melancholy / ダルビッシュP feat.GUMI
- Holography / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Inside Darkness / ダルビッシュP feat.GUMI
- Twitter / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- ポップンガール@コミュニケーション / ダルビッシュP×Junky feat.GUMI
- Kung-Fu / ダルビッシュP feat.GUMI
- DAYBREAK / ダルビッシュP feat.GUMI
- Unlucky Pierrot / ダルビッシュP feat.GUMI
- Spiral / ダルビッシュP feat.GUMI
- 天上天下 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- 想イ出カケラ / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- 5150 / ダルビッシュP feat.GUMI(HGS edition)
- Delight / ダルビッシュP feat.GUMI
- ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」[CD] 2013年11月6日発売 / 2625円 / ティームエンタテインメント / KDSD-666
- ダルビッシュPトリビュートアルバム「chronosing」
収録曲
- Kung-Fu / ぱなまん
- Holography / みーちゃん
- 雪月花 / 花たん
- final letter / un:c
- twitter / MARiA
- egoistic lovers(chrono arrange) / amu
- 想イ出カケラ / りょーくん
- DAYBREAK / 実谷なな
- 天上天下 / ヲタみん
- 夢幻 / amuTen
- Link / clear
- DEADLINE / ピコ
ダルビッシュP(だるびっしゅぴー)
1983年11月1日生まれ、石川県出身のボーカロイドクリエイター、ギタリスト。2009年1月、ニコニコ動画への楽曲投稿を開始する。ストレートで疾走感あふれるロックテイストの楽曲が人気となり、9作目「Holography」がニコ動殿堂入り(10万再生)を達成。2012年3月に1stアルバム「5150」でメジャーデビューを果たし、同月に発売されたナノのデビューアルバム「nanoir」に「magenta」を含む数曲を提供する。同年5月、ナノが歌うテレビアニメ「ファイ・ブレイン 神のパズル」第2シリーズのオープニングテーマ「Now or Never」の作曲・編曲を担当。華麗なテクニックを駆使したギタープレイにも注目が集まり、Junky、ゆちゃP、Nem、OSTER project、鬱Pなどのクリエイターの楽曲にギターで参加している。2013年11月6日、Mr.Bigなどで知られるビリー・シーン(B)をゲストに迎えた新曲「Mr.Melancholy」を含む2ndアルバム「High Gain Street」をリリース。同日にはダルビッシュPの楽曲をニコ動などで活躍する“歌い手”がカバーしたアルバム「chronosing」も発売される。