Def Techが音楽を作り続ける理由。2ndベストアルバム「The Best」発表までの9年間の歩みを振り返る (2/2)

ずっと赤信号のままでもいいか

──そして結成20周年を迎えた昨年の11月に10thアルバム「Powers of Ten」を発表しました。

Micro 本当はこの作品で盛大に結成20周年をお祝いしたかったし、東京オリンピック開催でサーフィン人気に火がついて、僕らの音楽も注目されるかもと思っていたんですけどね(笑)。サウンド自体に関しては、自分たちのやりたいことを無理なく表現できました。この作品からプロデューサーが変わって、新たなチームでフレッシュな音楽を作れたという手応えがあります。

Shen リリースから1年経過しても、フレッシュ感の消えない作品だなと思います。それに、メッセージ性はあるのに、聴く人にそれを感じ取ってほしいと強要していないというか。言葉が自然に心に染みてくる感じの楽曲が多いですね。特に僕は「I Like Me(Day Time)」を車の中で聴いていると、普段は早く青信号になってくれと思うけど、「ずっと赤のままでもいいか」と(笑)。「君といる時のこの僕が好き」という歌詞を聴いていると、好きなことに純粋に向き合っているそのままの自分でいていいんだなと思えるんです。いろんな責任を負わなくてはいけない年齢になってしまったけれど、このアルバムを聴き返すと、好きなことにワクワクする気持ちを思い出すから、子供の頃に持っていたようなピュアさをいつまでも持ち続けることって大切だなと改めて感じられる。結成から20年間、いろんなことを経験してきたけど、一番ベーシックなDef Techをこの作品では表現できたかなって。

──また同年、冒頭でも少し話題に上がった「THE FIRST TAKE」の映像がYouTubeで公開されましたね。代表曲「My Way」の歌唱動画は3000万回に迫る再生数を記録しています(2021年12月現在)。

Shen この企画でも、時代が変わっても色褪せない楽曲を僕らが制作してきたことを示せたのではないかと思います。僕は現代のヒップホップについて、自分をひけらかして飾り立てるようなリリックばかりが目立っている印象があるんですが、僕らはそういうことはしていない。どんな環境や状況にいる人の心にも響く、普遍的なメッセージを伝えようとしている。だから長い時間が経ってもみんなから愛してもらえる「My Way」みたいな曲を作れたのかなと思います。

Micro 僕らが「THE FIRST TAKE」に出たことについて、実は海外からの反響もすごいんです。今まで日本でパフォーマンスしてきたし、日本語がわかる方にしか歌詞の意味が伝わっていなかったんですが、今回の映像では詞に合わせて英語の字幕が出ているから、歌詞の内容が海外の方々にも理解され、かつ日本にもこんなメッセージを届けるミュージシャンがいるんだと認知された実感があります。その結果、これだけたくさん再生してもらっているのかなと。今はコロナ禍の影響で日本も外国も閉鎖的にならざるを得ない状況ですけど、やがて社会はこれまで以上にますますグローバルな方向にシフトしていくと思う。僕らもより世界を視野に入れて活動していきたいと考えているから、今回の反響は、今後の自分たちの可能性を広げるいいきっかけになったなと思いますね。

アルゴリズムに頼らずに自分の耳で出会う音楽

──そんな濃厚な9年を歩んできたDef Techが、12月22日にベストアルバム「The Best」を発表します。今作には結成から20年間で発表された楽曲の中から全29曲の音源が収録され、再レコーディングをした音源以外はすべてリマスタリングが施されています。お二人の歩みを追いかけてきたリスナーは、よりドラマティックなサウンドで名曲の数々を堪能できると同時に、「THE FIRST TAKE」をきっかけにDef Techを知ったリスナーには、お二人の音楽的な懐の深さを感じてもらえる内容になっていますね。

Micro 僕らはこれまで100曲以上の楽曲を発表しているので、「THE FIRST TAKE」の「My Way」で僕らのことを知った人は、次に何を聴けばいいのかわからないと思っているはず。今はサブスクリプションサービスでオススメの曲をどんどん紹介してもらえるかもしれないけれど、僕らの本意ではない流れになる可能性もあるので(笑)、「だったら自分たちで次に聴いてもらいたいものを提示したい」と思って完成させました。

Shen アルゴリズムに頼らずに、自分の耳でいいと思える音楽に出会う。そんなきっかけを新しいリスナーの方に与えられたらと思ったんですよね。このベストアルバムを聴いてもらったら、僕らのことも、僕らが愛している音楽のこともわかる。「THE FIRST TAKE」で僕らのことを知っていただいた人にはピッタリな作品になっていると思います。

10月に行われたDef Tech「Billboard Live 20th Anniversary Special~Surf Me To The Ocean~」の様子。(Photo by umihayato)

10月に行われたDef Tech「Billboard Live 20th Anniversary Special~Surf Me To The Ocean~」の様子。(Photo by umihayato)

──今作の収録曲「おんがく MUSIC」は、もともと4thアルバム「Mind Shift」(2010年10月発表)に収録されていたものでしたが、今回は2021年の東京オリンピック開会式、パラリンピック閉会式でのパフォーマンスが話題を呼んだドラマーの酒井響希さんをフィーチャーして、再レコーディングされていますね。

Micro (酒井)響希くんとは彼が2013年に僕らのライブを観に来てくれたときに出会って。そのとき「いつか共演しようね」と約束して、その後大阪城音楽堂でのライブ(2018年7月開催)で一緒にステージに立ったという経緯があるんです。だから響希くんがオリンピック開会式やパラリンピック閉会式に登場する以前から、彼とは“仲間”として、いつか必ず一緒に楽曲制作をしたいと思っていた。ここに来てようやく実現できたことを本当にうれしく思います。彼は1人のミュージシャンとしてハンディキャップを感じさせない、優れた表現力、技術力を持ったプロのドラマー。才能あふれる人だということを、この曲をきっかけに多くの人に知ってもらいたいです。

Shen 世の中には素晴らしいスキルを持っていても、それを発揮できずに過ごしているミュージシャンがたくさんいると思うんです。でも、誰かと作業をすることで、その魅力が広く伝わることがある。今回の僕らのセッションでは、それが実現できていると思います。それに、僕ら自身も響希くんと共演させていただいたことにより、新しい魅力がスパークした気がします。

飾り気のないリアルな音が求められている

──今回のベスト盤で、Def Techの歩んできた20年が総括されたと思います。次の10年、20年に向けて、今後はどんな活動をしていきたいですか?

Micro 今はいろんな素材を集めてそれをエディットすることで、音楽だけでなく、ミュージックビデオやジャケットなど、1つのアートとして作品を発信するのがスタンダードになってきていると感じていて。そういう時代の流れがある一方で、一発録りという何も編集せず、そのままの音楽を届ける新鮮さがみんなに喜ばれて、「THE FIRST TAKE」が人気になったのではと思うんです。僕らも参加させてもらったことで、今、飾り気のない“リアルな音”が求められていることに気が付いたし、僕ら自身もその面白さを再確認できた。だから今後もShenと2人で、切磋琢磨しながらリアルな音楽を追求していけたらと思います。

Shen その反面、自分たちのことをオープンにさらけ出しすぎてはいけない。きっとそうしているうちに、自分たちのセーフティゾーンがなくなってしまう気がするので、リアルをつづりながらもどこかで制御する部分も必要なのかなと、ふと考えることがあります。でも結局スタジオに入ると、音楽をやれていることが本当に楽しくて、そういうことがどうでもよくなってしまうときもあるんですよね(笑)。その場のノリで、自分たちもどこにたどり着くかわからない、ドキドキした感覚がたまらない。それが楽しいから活動を続けている部分もあるし。今後も僕らなりのスタンスで活動し続けていくんだろうなと思います。

──昨今の社会では「SDGs」(Sustainable Development Goals / “持続可能な開発目標”の略称)という言葉で、あらゆる面において共生の重要性が訴えられていますが、お二人はデビュー当時から、音楽を通じて他者との共生を大切にされてきたと思います。そういう面でも、今後は一層Def Techの存在は大きなものになっていくのではないかと。

Micro 人間社会においても誰かと共生していくことは永遠のテーマだと思うし、地球温暖化の問題についても、珊瑚の養殖をしたり植林したり、温暖化を食い止めるために人間ができることはまだまだたくさんある。1人ひとりがもっと協力し合えば、絶対にこの世界はよりよいものになっていく。そういうことを僕らは音楽を通して伝えていきたいと思いますね。

Shen そういう問題には積極的に関わっていきたいし、サポートしていきたいなって。僕らも音楽を通じてメッセージを発信できると信じているし、次の新曲はそういう内容になるかもしれませんね。じゃあMicro、そろそろスタジオに音楽作りに行きますか?(笑)

10月に行われたDef Tech「Billboard Live 20th Anniversary Special~Surf Me To The Ocean~」の様子。(Photo by umihayato)

10月に行われたDef Tech「Billboard Live 20th Anniversary Special~Surf Me To The Ocean~」の様子。(Photo by umihayato)

プロフィール

Def Tech(デフテック)

ハワイ育ちのShenと東京出身のMicroによる“Jawaiianスタイル”のユニット。2005年にアルバム「Def Tech」でデビュー。280万枚を超えるセールスで当時の国内インディーズの売り上げ記録を塗り替えた。以後、活動休止を経ながらも自由なスタイルの音楽活動を繰り広げ、2015年には自身初となる単独野外ライブを開催。ほかにもハワイや台湾などで公演を行う。2018年7月にミニアルバム「Cloud 9」、2020年11月に10枚目のアルバム「Powers of Ten」を発表。2021年12月22日には2ndベストアルバム「The Best」をリリースする。