ナタリー PowerPush - DE DE MOUSE
ようやく自分に辿り着いた4thアルバム
パーソナルな作品という意味では本作は1枚目
──そして、2年半ぶりのアルバム「sky was dark」がついに完成したわけですが、テンポが以前の半分になっていたり、音の重ね方がシンフォニックになっていたり、はたまた、ノンビートだったり、新しい表現が切り開かれた作品になりましたね。
ありがとうございます。実はこのアルバムの制作は、「A journey to freedom」を作り終わった後ですぐに取りかかっていたんですね。でも、やりたいことを突き詰めるつもりでアルバム1枚分の曲を作ったものの、DE DE MOUSEを中途半端に意識した内容で自分としても釈然としなかったんですよ。そんなときに今回の1曲目「floats & falls」ができたことで、そのアルバム1枚分の曲がつまらないことに気付いてボツにしたんです。それが2010年の10月くらいかな。
──そうだったんですか。
それ以降は躁状態のリズムもいらないし、ライブを意識したりもしませんでした。ただがむしゃらに作っていた1stのときの心境に立ち返って、アンビエントだったり、ミニマルなもの、長らく自分のインスピレーションの源になってきた郊外の街並みに合う音楽を出せばいいんじゃないかってことで制作を進めていったんです。
──なるほど。
トラックメイカーとして郊外の風景にこだわっている人って周りにはほとんどいないし、これまでだって自分独自の道を胸張ってやってきたんですよね。だから今回はその道をもう一歩踏み込んでみようと思って、ジャケット写真もカメラマンと2人で多摩へ行って撮ったものだったり、ビデオクリップもその素材を使って自分で作ったものだったり。音もビジュアルも徹底してこだわったんです。
──創作意欲を刺激してきた「郊外」はDE DE MOUSEにとって、どういった意味を持つものなんですか?
ダメだった自分の20代前半、仕事も大してせず貧乏暮らししながら、休みになるとお金がないから多摩ニュータウンを散策していたんですね。あの街は開発されているのに人の気配がほとんどなくて、夜になると全く車が通っていなかったりする。だから無人の街に入り込んだような錯覚が起きたり、自分の住んでるところとは違う現実離れした体験ができたんです。その経験が自分の音楽スタイルや美的感覚に表れているんですね。だから、このアルバムではDE DE MOUSEってことじゃなく、パーソナルな遠藤大介の体験や経験を見直して、ストレートに出す作業をしました。
──何をやっているのかよくわかっていなかった1stから始まって、4作目にしてようやく自分に辿り着いたと。
やっとね(笑)。昔ユーミンが「私は天才です」っていうすごいキャッチーなフレーズからスタートする「ルージュの伝言」っていうエッセイを出していて、「(アーティストは)3作目まで作れれば、その人はやっていける」って言葉が書いてあるんです。僕はそれがこの10年くらいずっと頭から離れなくて。僕はインディーズで1枚、メジャーで2枚出して、今回4枚目をメジャーから独立して出したことで、ユーミンが書いていた条件をクリアしたのかどうか(笑)。でも自分のパーソナルな作品という意味では、まだ1枚目だから(笑)、あと2枚もさっさと出してしまいたいって思ってます。なので、今回の作品は4作目にして集大成的な作品でもあり、またスタート地点に戻ったアルバムなのかなって。
提示したものが伝わるかは自分次第
──この作品のブックレットには自作の短編小説が掲載されていますね。
今回のアルバムが、聴く人にわかってもらえるのかなっていう不安があって。でも時間をかけてでもこの世界に入り込んでもらえれば、その良さはわかってもらえるはずだ、と。だからそのためにはわかりやすい入口となる言葉が必要だなって思ったんです。もちろん僕は音楽家なので、言葉での説明はあまりやりたくないんですけど、宮崎駿さんが「ハウルの動く城」についてインタビューで「あの映画は徹底的に説明をやめた作品だったけれど、結果として作品に込めたものが観る人に伝わらなかった」っていうことを語っていて。宮崎駿さんのような人でも作品の中での説明をやめてしまうと伝わらないこともあるんだったら、今回、自分はライナーを書いたほうがいいかもしれないって思ったんです。ただ、アルバム世界の入口となる序章を書き始めてみたら、作品を読み解くキーワードを散りばめた暗号のような文章になっていって、むしろわかりにくくなってしまったかもしれない(笑)。
──では、その世界観をここでご説明いただけますか?
今回の作品は実はクリスマスアルバムで、「一度だけ夜をやり直すことができたら」がテーマになっています。そこには「孤独」というキーワードも含まれているんですけど、人間は1人でいるときが自分と向き合う唯一の時間だと思ってて。例えば、寝る前とか学校や仕事から帰る道とか、そういう時間がすごい大事だと思ってるんです。恋人ができたり、家庭を持ったり、歳を取れば取るほど、1人の時間を持つことは難しくなるじゃないですか。だから、このアルバムを聴いて、クリスマスイブの夜に抱いていた気持ちやワクワク感を思い出しつつも、いつもとは違う街に1人で迷い込むような、そんな日常の中での新たな発見があればいいなって。
──つまり見慣れた街が見知らぬ街に見えるような、ちょっとした視点の変化を促すアルバムということなんですね。
萩原朔太郎の短編小説に、すごい方向音痴の主人公が猫の町に迷い込む「猫町」っていうのがあるんです。自分の家の近くでも、今まで通りすぎていた知らない路地に入ってみると、全く知らない場所を発見することってあるじゃないですか。だから、このアルバムでも「もしあの路地を入っていれば……」とか「もし、あの夜にこんなことがあったら……」ってことを楽しく想像してもらえたらいいなって思っています。
──では、アルバムタイトルの「sky was dark」にしても「“空は暗かった”かもしれないけど……」というニュアンスが含まれているということですか?
そう。「次その瞬間と出会うとき、夜は暗くないかもしれないよ。ただ、そのためには君自身の力も必要なんじゃない?」って。そのスタート地点に立つことで、このアルバムは終わるんです。そして、そのスタート地点は僕にとってのスタート地点でもあるんですよね。今回、ミックスやマスタリングに至るまでの音楽制作や、ビデオクリップ、短編小説を全部自分でやったのも、自分の伝えたいもの、提示したいものが伝わるかどうかは自分次第だと思ったから。だから、一周してまた戻ってきたんだなって、今は思っていますね。
- ニューアルバム「sky was dark」 / 2012年10月17日発売 / 2100円 / not records / NOT-0001
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CD収録曲
- floats & falls
- bubble marble girl
- flicks tonight
- fading tonight
- sky as dark
- sky was dark
- laugh, sing, clap
- star appears
- my alone again
- dusk of love
- frosty window
DE DE MOUSE(ででまうす)
遠藤大介によるソロユニット。緻密に重ね合わせたオリエンタルなメロディとドリーミーで聴きやすいサウンドで、幅広い層からの人気を獲得している。自主制作で発売したCD-R「baby's star jam」が各方面で話題になり、2007年1月にExt Recordingから1stアルバム「tide of stars」を発表。異例の好セールスを記録し、同年7月には早くもリイシュー盤「tide of stars SPECIAL EDITION」がリリースされた。2008年3月にavex traxへのメジャー移籍を発表、5月7日にメジャー第1弾となるアルバム「sunset girls」を発売。その後自主レーベル「not records」を設立。レーベル第1弾となる4thアルバム「sky was dark」を2012年10月に発売した。