あの×幾田りらは、おんたん×門出そのままだった
──歌詞は曲を作ったあとに書いたんですか?
そうですね。歌詞のほうがある意味、本業に近いところではあるので、ものすごく悩んだんです。もうちょっとわかりやすくしてもよかったかなと思いつつ、意味よりもリズムと音を優先して書きました。僕がリズムを重視しているのは、音楽だけじゃなく、マンガに対してもそうで。セリフを頭の中で読むときに、リズムがズレると突っかかっちゃうんですよね。だからリズム感がよくなるように、内容を妥協したり変えたりするようなことはマンガでもよくあるんです。それで今回もリズム優先でずっとやっていったんですけれど、まったく無意味な歌詞にするのも違うから、どうしようかなと。
──楽曲リリースの発表時、「『デデデデ』の世界観を念頭に置きつつも、その近似値のような終末感漂う混沌とした現代に生きる『私たち二人』の曲として制作しました。可愛さの裏側にある生意気さ。ふざけ合いの中に垣間見える諦念。そんな複雑な感情を歌詞の中に残せたと思います」とコメントされていました。
最初はもう完全にキャラクターソングとして、ボーカルのクレジットをキャラクターの名前にするのもいいんじゃないかって提案もあったんです。でも、それが僕の中でやりすぎというか、作中で門出とおんたんが歌うシーンはほぼないわけだから、辻褄が合わない。
──確かに。
だから、あくまでオープニング曲ではあるけれども、バチバチのキャラクターソングではなくて、曲単体で聴けるくらい作品との分離感が必要だと思いました。その中で、じゃあどういう人たちの共感を得られるような曲になればいいかと考えたときに、作中の2人のような女の子と女の子、その2人のもう依存と言っていいぐらいの関係、執着心のようなものを織り込めたらなと思ったんですね。僕は男だからわからないですけど、どうも女性同士の間には友情でも恋愛でもない、独特の感情がある人にはあるらしくて。前向きなメッセージを入れようというのは全然なく、かと言ってシリアスなものでもなく、こんな世の中なんだけども、そんなことはどうでもいいんだよという2人の女の子の開き直りみたいなニュアンス。そういう開き直り自体が僕の歳になってくると、はかなく、味わい深く見えるんですよ。あとは作品で一番重要な「絶対」という言葉とかも入れていますが、作中のワードはあのちゃんの「絶絶絶絶絶対聖域」や幾田さんの「青春謳歌」でも使ってくれているし、みんなが示し合わせたわけじゃないけど、連携が取れていて。すごくバランスがいい形になったと思います。
──「絶絶絶絶絶対聖域」や「青春謳歌」の制作については、浅野さんから何も指示はしていなかったんですか?
まったくないですね。仕上がってきたものを聴くだけで「もう最高じゃん、2人とも」って。映画のエンディング曲として狙いすましたかのように完璧な曲で、ちゃんと本人のキャラクターも出ていて。本当に素晴らしいと思います。
──「SHINSEKAIより」の歌割りも浅野さんが決めたんですか?
歌割りに関しては、あのちゃんと幾田さんの曲のデモができたあとに決めたんですけど、2人で歌う曲だから、いろいろと選択肢があるじゃないですか。完全にユニゾンしちゃう方法もあるし、サビだけ2人で歌うのもある。僕は本当に古臭い飲み屋で流れてるデュエット曲みたいに順番に歌っていくのがよくて。参考になる曲はあるかなと考えたとき、「かりあげクン」のアニメのオープニング曲(うしおと一郎「夜の銀ギツネとタヌキ」)がデュエット曲だったんですよね。あとは30年以上前にやってた「天才・たけしの元気が出るテレビ」で高田純次と兵藤ゆきがデュエットしてた曲(「CHANCE! 心ときめいて」)も頭の中にすごく残ってて。
──だいぶ意外なところですね(笑)。
その2つとは別で、僕はPUFFYとか女の子のデュオユニットも好きなんです。40年近く前におニャン子クラブから派生した「うしろゆびさされ組」というグループがありましたけど、僕はいまだに聴いていて。それもあって「女の子のデュエットソングはこうあるべき」みたいな理想が自分の中にあったから、歌割りに関しては確信を持って決められましたね。
──順番に歌うことで2人が支え合う感じが出ていていいなと思いました。
特にサビの部分はそうですよね。自分でデモを作ってるときからわかってたんですけど、1人じゃ絶対に歌えない符割りになっていてブレスがないんですよ。だからどうしても順番に歌ってもらうしかなくて、レコーディングでは「かぶせるぐらいの感じで、2人のメロディをつなげていってくれないか」という話もしたんですよ。前のめりにすることで曲により疾走感が出たし、サビの部分では2人がかけ合いつつ、混ざり合っていって、どんどん盛り上がっていく感じを出せたかなと。
──レコーディングにも立ち会ったんですね。
ボーカルの2人は収録が別日だったんですけど、それぞれ行きましたね。楽器の録音も観に行ったし、最終的にマスタリングの現場にも行きました。それはもう完全に僕の興味で。1回見てみたい気持ちがあったんですよ。
──2人のレコーディングはどうでしたか?
アニメの収録のときからそうだったんですけど、2人とも自分の中でしっかり準備してきてくれるんです。どちらも勘がいいから大きく外れることはないし、むしろ自分がやりやすいようにやってくれればいいなとも思っていたので、僕が何か言うようなことはなかったです。収録はあのちゃんが先で、幾田さんがあのちゃんのボーカルを聴いてバランスを取ってくやり方だったんですけど、あのちゃんが好き放題やって、幾田さんがフォローするという流れ自体が、2人の演じるキャラクターそのまんまだし、それで全部帳尻が合ったというのが本当に美しいなと思います。
──確かにおんたんと門出の関係性そのままですね。
そうそう。例えば2番目のAメロは、あのちゃんがささやくような歌声で歌っていたから、幾田さんにもそのレベルまで下げてもらうような感じで調整してもらっています。
“完全な趣味”で入れてもらった演奏
──吉田雄介さん(Dr / tricot)、越智俊介さん(B / CRCK/LCKS、Shunské G & The Peas)、小川翔さん(G / LAGHEADS)という演奏メンバーも豪華ですね。
全員素晴らしかったです。当日まで参加メンバーを知らなかったんですけど、僕はtricotが好きで、吉田さんのドラムもめちゃくちゃ好きなんですよ。異常に手数が多いんですけど、その場でさらに増やしていって、たぶん二度と同じ演奏はできないんだろうなというくらい複雑になっていく。そういう対応力がすごかったです。
──特に演奏に口を出すこともなかったと。
アレンジャーの方が大枠の演奏プランを作ってくれたので、僕は本当に見るだけでしたね。プロの現場を見られて満足しました。ただ、2回目のサビが終わったあとで、この曲唯一の間奏があって。最初はギターのリフが繰り返されるだけだったんですけど、ここは僕の完全な趣味で、ギターのフィードバックを入れてくれないかと頼んで、うっすら入れてもらいました。
──完成した音源を聴いてどう感じましたか?
曲の構成とかメロディラインはまったく変わってないんで、そのままなんですけど、やっぱり生音が入ると、曲がちゃんと生きてくる感じがあって。全然別物でしたね。
──自分はアニメシリーズ全18話をオールナイト上映イベント(参照:幾田りら×あの主演「デデデデ」アニメシリーズ初披露、浅野いにお作詞・作曲の新曲が主題歌)で一気に観まして。
ああ、明け方までやってたんですよね。
──そこでオープニング主題歌「SHINSEKAIより」も18回連続で聴かせていただいて。
そうなりますよね(笑)。
──聴くたびに気持ちが盛り上がって頭が冴えましたし、本当に素晴らしい仕上がりだと思いました。
それならよかったですし、自分でもよくできたなと思います。
──「SHINSEKAIより」と劇伴を収めたサウンドトラックも発売されました。劇伴は梅林太郎さん、yuma yamaguchiさん、清竹真奈美さん、犬養奏さんといったメンバーが制作していますが、浅野さんのほうではどのような考えがあったんでしょうか?
最初に梅林さんやプロデューサー、監督を含めた打ち合わせがあって。こういうとき僕は基本的に好きなようにやってくれたらいいって言っちゃうんですけど、今回は「やりすぎぐらいにやってもいいですよ」みたいなことを伝えましたね。別に無難にする必要は全然ないんで、って。
──なるほど。
そのあとにもうちょっと具体的な絞り込みが欲しいと言われたときに、僕はテクノがすごく好きなんで「打ち込みっぽい感じがいい」とか「生音とかオーケストラみたいな感じよりは無機質な感じとかにしても、違和感があっていいんじゃないか」ということは言わせてもらったんです。それで最初に上がってきた曲が、前章のオープニングで母艦が現れるシーンの曲で、すごくいいなと思いましたね。本当に無機質な感じで、メロディ主体というよりは音響に近いというか。そういうアプローチは面白いと思いました。
──ほかに印象に残っている劇伴はありますか?
最終的に監督たちのディレクションがあったのかなと思うんですけど、逆に歌が乗っかっている曲とかもあって、盛り上げるところはけっこう盛り上げるんだなあと思った記憶がありますね。しっかり盛り上げるのも、あえてやらないのもどっちもアリだなと思いました。