人生を賭けたレコーディング

──アルバム「ラブカレンダー」全体の話も聞かせてください。今作は冒頭でお話していただいたとおり、恋人たちの1年間を通した恋愛模様と成長というテーマがまずあって、ボーカルを入れ替えつつも1つの軸にそって進んでいくというコンセプチュアルな作りになっていますよね。

DECO*27　最初は何曲くらいにするのがいいのかを考えたんですね。で、12曲くらいにしようって思ったとき、この12という数字を12カ月という言葉に発展させて。今まで恋の歌を書いてきたし、この恋の歌と12カ月という要素を混ぜて、1年間のストーリーにするのはどうかなと思ったんです。男女ふたりが恋をして、成長していく過程をアルバム1枚として書いてみようと。ふたりは最後は別れちゃうんですけど。

中川　ああっ！

DECO*27　でも救いもある的な。エンディング後のCパートみたいな。

──中川さんが歌う「甘宿り」は前半の3曲目で、流れとしては恋の始まりの幸せな時期ですね。

DECO*27　ハッピーハッピーしてるんですよ（笑）。

──それから、アルバム全体を通してすごくいいミックスというか、音が異常にいいアルバムだなと感じました。ミックスにはYMOなども手がけたベテランエンジニア寺田康彦さんと一緒に、DECO*27さん本人の名前もクレジットされてますよね。やはり音質には大きなこだわりが？

DECO*27　はい。時間もたっぷりとって、やり直しも何回もやったり。

──先程もこの取材場所にあるスピーカーに真っ先に食い付いてましたけど（笑）、オーディオマニア的な感性もあるのかなって。

DECO*27　大好きですね。音に関しては本当にこだわっていて、今回のアルバムを作るために僕、引っ越ししたんです。レコーディングにできるだけ時間をかけられるよう、スタジオの近くに。

中川　すごい！ 人生を賭けたレコーディングだ。

DECO*27　次のアルバムはめちゃめちゃいいもの作るぞと。音も歌詞も設定も全て。音に関しては、耳が痛くならないように、かと言ってあまり音を潰しすぎないように。ダイナミクスを残しつつ、聴く人がもっと音を上げたいって思えるような感触にしようというのは寺田さん、柴田（滋）さんとじっくり話して。

──重く歪んだディストーションギターが前に出てる曲が多いにもかかわらず、非常に耳なじみのいい音っていうのは、やはり狙ってのことなのでしょうか。

DECO*27　そうですね。いや、そこを言ってもらえるのはうれしいですね。

こだわりの「チーン」

──機材専門誌のインタビューで話すようなこだわりも、できたら教えてもらえますか？

DECO*27　ああ。機材も相当こだわってます。ギターだって何本買ったかな。このアルバムを作るためにエレキギター3本買って、アコギも1曲録りたいがために、ちょっとがんばってすげえやつ買ったり（笑）。聴く人にはそこまで伝わらないかもしれないですけど、音に関しては機材だったり、ミックスの聴感的な部分とか、今自分ができる100％を出したいと思っていて。

──「甘宿り」で音的にこだわった部分は？

DECO*27　2番の「笑えないこの事態」ってあとに「チーン」って音が鳴るんですけど、そこには並々ならぬこだわりがありまして。スタジオに入ってドラムとベースを録ったあとに、この「チーン」を録りたいですって言って、スタジオにあるいろんなものを叩いたんです。スタジオミュージシャンの方から車のキーを借りてコップを叩いたり、ドラムのシンバルもいろんなところを叩いてみたり。

中川　おー、すごい！

──最終的にどの「チーン」に？

DECO*27　トライアングルと、ライドシンバルのカップを叩いたものを混ぜた音です。

──これこそ理想の「チーン」？

DECO*27　いやもう、最高です。

──そこに大きくこだわったのはなぜですか？

DECO*27　「笑えないこの事態」って言ったあとに「チーン」と鳴らして、いったん笑えるというか、おちゃらけた感じにしたいなと思って。

隅々まで用意された「ラブカレンダー」の仕掛け

──音や歌詞以外の部分で、今回こだわったところは？

DECO*27　登場人物たちのキャラクター設定もきっちりと決めてあるんです。ストーリーを決めてから作り始めたので。女の子のほうが学年ひとつ上で……。

中川　ステータスがちゃんとある！（設定資料を見ながら）糸織ちゃんは1993年生まれで……。

──ステータス決めは重要？

DECO*27　そうですね。まず恋愛がキラキラしてる高校生って年代にしたのと、それから名前にもすごくこだわって。紅季くんと糸織ちゃん、2人の名前には「糸」が入っていて、これは赤い糸って意味なんです。だから紅季くんの「こう」は赤＝紅、「き」は季節がテーマのアルバムなので「季」。糸織ちゃんの「織」には「音」という字が入っていたり。これが実はマンガにもなるんです。「ビッグガンガン」で8月25日からスタート。「ラブカレンダー」のストーリーを原作に、水瀬マユさんが描いてくださいます。音楽だけじゃなく、歌詞カードを見ながら楽しんだり、マンガになって実際にキャラクターが動いていく様子を楽しんだり。いろんなところから音楽に入ってきてほしいですし、音楽を通してマンガやイラストにも興味を持ってもらえたらなって。

──マンガ版はDECO*27さんが原案者として、このアルバムの世界観を渡して、という。

DECO*27　そうですね。アルバムの曲ごとにストーリーを追いつつ、またマンガならではのちょっとした違いがあったり。

──それはマンガ読みでありマンガ描きでもある中川さんとしても気になりますよね。

中川　面白そう！「甘宿り」では「キミが逃げ出した 私をおいて」のあたりがどう描かれるのか楽しみですね。

DECO*27　設定には無意味なこだわりもあって。「お留守番人」って曲は、格ゲー（格闘技ゲーム）からアイデアを取って、コマンドとか技の名前も決まってるんです。このイラストのキックは「大好キック」で。

──あはははは（笑）。

DECO*27　それから、アートワークには全部赤い糸が出てくるんですけど、ずっとつながってて、ある場所でハサミが出てくるんですよ。そしてジャケットには全曲のモチーフが詰まっています。歌詞カードを手にとって、イラストを眺めながら順に聴いてもらって初めてアルバムが完成する、みたいな。あと、ジャケットの裏にはタイトルが英字で書かれていて、「カレンダー」の綴りは本来「CALENDAR」なんですけど、あえて「ER」にしてるんです。これはプレイヤーとか、動詞から人を表すときに使う「ER」を意識して。

中川　おお。死角なしですね。

DECO*27　中高生がこっちのつづりを覚えて「違います」って言われるかもしれない（笑）。

──思った以上に仕掛けが練り込んである作品ですね。全部解き明かしておいたほうがいいんじゃないでしょうか。それともあえて言わずにおきたい？

DECO*27　見た人がこっちが意図しないところまで「ここはこうなんじゃないか」とか考察してくれたりしたらいいなあと思ってます。仕掛けは実はまだまだあって、CDを取ると……。

中川　こんなにこだわり満載のアルバムは初めて見ました。最近はアルバムを買っても、パソコンに入れたらCDはそれっきり、ということが多いと思うから、こうやって大切にしておきたいと思わせてくれるアルバムは昨今とても必要ですよね。

DECO*27　そういう意味では翔子さんの「しょこたん☆べすと――(°∀°) ――!!」（2012年5月に発売された10周年記念ベストアルバム）のパッケージはすごいと思いましたけどね。

中川　図鑑かっていうくらいデカい。殴ったら気絶させられるくらいの。

DECO*27　あははははは（笑）。