ナタリー PowerPush - DAISHI DANCE × →Pia-no-jaC←

想定外コラボが「想像通りに想像以上」アルバムを生み出すまで

文/杉山忠之(FLOOR net)

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今や日本でもっとも多忙なハウスDJ/アーティスト、DAISHI DANCE。オリジナルからリミックスまで、数多くの作品制作に加え、年間150本を超えるDJプレイなど、その精力的な活動には目を見張るものがある。

しかし2010年、彼はより意欲的に、そして新たなチャレンジを数多く展開。まず、今春には意外にも自身初となるミックスCD「MYDJBOOTH. -DJ MIX 1-」をリリース。オリジナルのメロディ至上主義的な印象とは異なるDJとしての側面を初めて公に披露し、クラブ界隈のみならず既存ユーザーからも高い評価を獲得。そして、そのすぐ後には3rdアルバム「Spectacle.」で共演した三味線奏者・吉田兄弟とともに上海万博・日本産業館の公式テーマ曲「Re...JAPANESQUE」を手掛け、現地でライブを敢行。万博会場ながらアンコールまで沸き起こるほど異例の盛り上がりをみせた。さらには、スマートフォン用DJアプリ「DJ Turndroid」、そして「Re...JAPANESQUE」を使ったアプリが立て続けにリリースされるなど、多方面からの注目を集めている。

一方の→Pia-no-jaC←は、ピアノとカホンだけとは思えないような圧倒的なライブパフォーマンスを武器に、全国の大型フェスで会場動員記録を更新。彼らの全国ツアーは発売5分でチケットが完売するほどの人気となっている。

さらに音源リリースにおいても、2008年1stアルバム「First Contact」から快進撃を続けており、オリジナル楽曲もさることながらクラシックのカバーアルバム「EAT A CLASSIC」シリーズが話題に。その独自の音楽性が各方面からの注目を受け、ディズニーやゲーム業界最大手のスクウェア・エニックス、ショパンのコンピやPE'Zのトリビュートに参加し、さらに宝塚歌劇団の宙組ミュージカル「シャングリラ-水之城-」公演の劇中音楽にオリジナル楽曲が使用されるなど、こちらも幅広い活躍が続いている。

2010年、怒濤の展開を見せてきた彼らだが、実はこれだけに留まることなく、今夏さらなるサプライズが待ち受けていた。

というのも、上記の作品群と同時にもう1作のコラボ作品を手掛けていたのである。DAISHI DANCE、→Pia-no-jaC←共に、鍵盤=ピアノを軸とした楽曲構成ながらも、その方向性・ベクトルは正反対。ジャンルも違えばスタイルも異なる両者によるコラボは、予想をはるかに超えた内容となった。流麗で美しさが際立つDAISHI DANCEに対し、ピアノのHAYATO、カホンのHIROからなる→Pia-no-jaC←は、力強く激しいサウンドが持ち味。まさに対極の組み合わせなのである。

「もともと→Pia-no-jaC←さんの楽曲は好きで、けっこう聴いていたんですよ。自分は同じ土俵の人とコラボするより、他のジャンルの方とやるほうが想像をかなり超えるものができると思うし。彼らとは何か一緒にやってみたいなと漠然と思ってて」(DAISHI DANCE)

そんな思いが結実した今作「PIANO project.」をスタートするにあたり、まず試みたのはお互いの代表作のリミックスだったという。お互いの楽曲は心得ている両者だが、実際相手がどのような感覚、感性で制作を行なっているのかを確かめるがごとく、彼らはそれぞれの作品を再構築していったのである。そうしてできたのが「Typhoon(DAISHI DANCE remix)」と「P.I.A.N.O.(→Pia-no-jaC← remix)」の2曲。前者は、オリジナルのパワフルなサウンドをDAISHI DANCEがハウスならではの高揚感や疾走感で補完し、快活でアグレッシブな作品へと昇華。一方、後者はオリジナルの流麗なメロディラインを残しながらもハウスフォーマットを逸脱した大胆なサウンドへと変換。

「『P.I.A.N.O.(→Pia-no-jaC← remix)』は衝撃的でしたね。オリジナルの要素を残しながら、まったく新しいものに仕上がっていて。僕には絶対に作ることのできない作品で、めちゃくちゃ気に入ってます。僕のリミックスのほうは、→Pia-no-jaC←の勢いとテンションをビートや細かいギミックで加速させて、ハウス特有のグルーヴやうねりが出るように意識しましたね。そのせいか、この曲はフロアでかけてもリアクションが素晴らしく、ここ数年で作った曲の中でドカ~ンと盛り上がる曲の1つになりました」(DAISHI DANCE)

インタビュー写真

そうして互いの距離感を測りあった後は、いよいよオリジナル楽曲の制作へ。今回は、両者2曲ずつ基本となるオリジナルメロディを作り、それを交換しながら練り上げていくという手法がとられた。基本、ピアノとカホンだけで成立させていく→Pia-no-jaC←に対し、DAISHI DANCEはさまざまな要素を加え、バランスを整えていく。大元となる要素(楽器)が少ないだけに、DAISHI DANCEはさまざまな構成や展開を考え、いつも以上にドラマチックに、数多くの筋道が存在する劇的な楽曲へと仕上げていく。曲数にして計4曲。中でも異彩を放つのは→Pia-no-jaC←がメロディを作った「Andalucía」だろう。展開の妙もさることながら、そこに見え隠れするさまざまな要素は幅広く、さらにはこれまでDAISHI DANCEが意識的にあえて避けていたジャズの要素を初めて取り入れ、彼らしくもあるがこれまでにはない、新鮮味を放つことに成功している。

その他にも、DAISHI DANCEがメロディを手掛けた「Mystery Glide」は、→Pia-no-jaC←のメロウな部分だけを抽出し、自らのサウンドと重ねあわせた楽曲で、本作の中でも特に美しさが際立つ作品に仕上がった。そして“→Pia-no-jaC← meets ハウス”とでも呼べそうな、ダンスミュージックファン好みのフロアチューン「Beautiful Night…Beautiful Morning.」。さらには互いの強みを真っ向からぶつけ、組み合わせた「Pulse of the earth」など、アルバムにはそれぞれバリエーション豊かな楽曲が並ぶ。

「制作当初、自分のオリジナルであれば、ゲストの選択などでバラエティを出すことができましたけど、今回はコラボ、それも全曲インスト、使用するメインの楽器も決まっているだけに、どう作っていくべきかかなり悩みましたね。そして、→Pia-no-jaC←さんのピアノとカホンで完成された世界観に、僕がどこまで入り込んでいいのか。でも、制作していくうちに、いつもよりもっと自由に展開を構成して、後半は音数も楽器もどんどん増えていって、とにかく勢いのある作品になりました。ミニアルバムではありますけど、エネルギー的にはフルアルバム以上のものが詰まってると思います」(DAISHI DANCE)

ピアノという唯一の共通項を頼りに、互いの音楽感を自由にシャッフルし、構築していった本作。DAISHI DANCEは「ここまでピアノにこだわったのは1stアルバム以来。それだけに新鮮な感覚でピアノと向き合うことができ、しかも以前から嘱望していた→Pia-no-jaC←とのコラボということで、作品的にも自信作になった」と胸を張って言い切る。

「今回、想像通りに想像以上のもの、お互いの持ち味を作品に凝縮できたと思うんです。ただ、彼らとならもっと自由なものができるんじゃないかとも思う。僕はこれまでフィーチャリングしたアーティストも、1回だけのセッションで終わるのではなく、ファミリー的な感じで、2度、3度とやって、お互いの個性を広げていきたいと思っていて。だから、ぜひまた一緒にやりたいですね。もう次の話もしてたり……?」(DAISHI DANCE)

と言いながらも、実のところ来夏まで制作スケジュールはぎっしりというDAISHI DANCE。この後も続々と新たなサプライズが控えているという。一方の→Pia-no-jaC←も9月1日に5枚目となるアルバム「THIS WAY UP」をリリースし、全国ツアー「Jumpin'→JAC←Flash TOUR」(9月4日~10月16日・全国12カ所13公演)を行う。両者の今後の動向もやはり見逃せない。

「PIANO project.」 / 2010年8月4日発売 / 1890円(税込) / urban sound project. / XNAE-10034 ~ ヴィレッジヴァンガード限定流通盤 / 2010年7月21日発売 / 1890円(税込) / urban sound project. / XNAE-10033

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  • ヴィレッジヴァンガード限定流通盤
CD収録曲
  1. Welcome to wonder spot ~intro
  2. Typhoon (DAISHI DANCE Remix)
  3. Mystery Glide
  4. Andalucía
  5. Pulse of the earth
  6. Beautiful Night...Beautiful Morning.
  7. P.I.A.N.O. (→Pia-no-jaC← Remix)
ヴィレッジヴァンガード限定流通盤特典DVD内容
  • 「Pulse of the earth」ビデオクリップ
PIANO project. Release Party

2010年8月14日(土)東京都 ageHa ARENA

DJ: DAISHI DANCE
Special guest live: →Pia-no-jaC←
DOOR ¥3,500 / MEMBER ¥3,000 / ADV ¥2,800

DAISHI DANCE(だいしだんす)

DAISHI DANCE

札幌を拠点に活動するハウスDJ/プロデューサー。3台のターンテーブルを駆使した、箱の特性や客層に応じたハイブリッドなDJで、ダンスミュージックシーンから絶大な支持を得ている。2006年7月に自身初のオリジナルアルバム「the P.I.A.N.O set」をリリースし、外資系CDショップやiTune Storeなどあらゆるダンスチャートで1位を獲得。その後も「MELODIES MELODIES」「theジブリset」「DAISHI DANCE Remix.」「Spectacle.」と毎年作品を発表し、いずれもロングセールスを記録している。個性的なプレイスタイルは海外からも高く評価されており、多数のリミックス制作や作品プロデュース、コンピレーションへの参加、家電製品への楽曲提供など多岐にわたる活動を展開。上海万博では「日本パビリオン(日本産業館)」の公式テーマソングとして「Re...JAPANESQUE」が起用された。

→Pia-no-jaC←(ぴあのじゃっく)

DAISHI DANCE

ピアノのHAYATO、カホンのHIROにより2005年に結成されたインストユニット。鍵盤を中心にしたシンプルな楽器編成ながら、ジャズともクラシックとも異なったエネルギッシュでオリエンタルなサウンドが、リスナーに強烈なインパクトを与えている。2008年の1stアルバム「First Contact」を皮切りに1年半で4枚のオリジナルアルバムを発表し、合計で30万枚のセールスを突破。国内外のフェス出演を含む、年間250本以上のライブを精力的に敢行している。なおユニット名は、左から読むとピアノ、右から読むとカホンと読むことができる。