ナタリー PowerPush - DAISHI DANCE
ハウスミュージック目線で語るジブリ音楽の魅力
「the ジブリ set」の曲をまた違った角度で聴いてもらおうと
──そうした影響を踏まえた上で、今回「the ジブリ set」の続編を作ろうと思った動機というのは?
選曲やアレンジの方向性を含めて、リリースから5年経った今も「the ジブリ set」の出来に満足しているんですけど、CDの収録時間の関係で当初入れたかった曲を全部入れることができなかったんです。だから当初から続編もいつか出したいなと思っていて、「魔女の宅急便」の「やさしさに包まれたなら」とか、「紅の豚」の「帰らざる日々」と「時には昔の話を」をとっておいたんですけど、その後の活動で忙しくしていたら、あっという間に5年が経って。ちょうど2013年は新しい映画も公開になりジブリが盛り上がる年になるというのもあって、このタイミングを1つのきっかけに、スタジオジブリさんにも何度かお伺いさせてもらって、細かく確認を取りながら、続編の制作を進めさせてもらったんです。
──今回は前作で取り上げた「天空の城ラピュタ」の「君をのせて」や「となりのトトロ」の「風のとおり道」、「耳をすませば」の「Take Me Home, Country Roads」、「千と千尋の神隠し」の「あの夏へ」もアップデートした形で再録音されていますよね。
そうですね。自分の中で何曲かはどうしても外せない曲がありましたし、最初の「the ジブリ set」で楽しんでもらった曲をまた新しいバージョンで聴いてもらうのも新鮮でいいんじゃないかなと思ったんです。だから例えば「the ジブリ set」では麻衣さんにすべて英詞で歌ってもらった「君をのせて」を今回は日本語で歌ってもらったり、前作ではarvin homa ayaさんに英詞で歌ってもらった「Take Me Home, Country Roads」を武田真治先輩のサックスを入れたリミックスでアップデートしつつ、その日本語バージョン「カントリー・ロード」は原曲を歌われている本名陽子さんに参加していただいたんです。もちろんどれも新しいトラックで作り直してます。今回「君をのせて」と「カントリー・ロード」の日本語詞バージョンはより原曲に忠実なアレンジに仕上げたんですけど、逆に前作では原曲に忠実だった「風のとおり道」を、津軽三味線奏者の吉田兄弟に参加してもらって、ダンスミュージックに寄ったテンションアップのアレンジにしました。
原曲のよさを引き立たせるものにしたかった
──前回ダンストラックにアレンジされた「あの夏へ」は、今回ぐっとテンポを落としたアレンジになっていますね。
ジャジーヒップホップ的なアレンジを作りました。オリジナルアルバムでもやってみたかったんですが、先延ばしになってしまっていて、「あの夏へ」と「紅の豚」の「帰らざる日々」の2曲はそのアレンジを実践してみました。
──楽曲を解体したり、オリジナルを活かしたり、カバーのアプローチはいろんなやり方があると思うんですが、DAISHIさんはジブリサウンドのメロディに影響を受けていることもあって、どの曲も主旋律を活かしたアプローチになっていますよね。
そうですね。もともと僕はジブリの曲が好きでカバーしていますし、原曲の素晴らしさは損ないたくなかったというか、むしろ、ビートを融合させたときに生まれるハウスミュージック独特の高揚感を交えて、原曲のよさを引き立たせるものにしたかったんです。作品全体としては日本的だったり、メロディアスだったりするDAISHI DANCEの定番アレンジの曲が多いんですけど、例えば「カントリー・ロード」の原曲は洋楽だったり、「やさしさに包まれたなら」と「ひこうき雲」には洋楽のエッセンスがあったりするので、その3曲に関しては、今の気分が反映されたDD的なスタイルで制作しました。やっぱり前作から5年経っていますし、ダンスミュージックのトレンドもどんどん変わっていっているので、適材適所なアレンジを考えて、前作以上に振り幅の広い内容になっているんじゃないかと思います。
このアルバムを聴いて「ジブリ作品をまた観たい!」と思ってくれたら
──前作と比較すると、今回の作品は曲の尺が短くまとめられていますよね。
そうですね。前作はクラブでかけるためにイントロを長くしたり、曲の尺を広げた自分専用のプライベートバージョンを作ったんですけど、最近は現場でも短く、瞬発力を重視したコンパクトなアレンジが多いんです。ここ2年で、ヒップホップやレゲエをはじめいろんなジャンルの人がハウスミュージックのビートを取り入れるようになったんですが、ダンスミュージックがオーバーグラウンドなポップスなどとも結びついたことで、曲に瞬発力が求められるシーンが増えてきているのがきっかけというか。楽曲制作においても、そうした移り変わりが自然に反映されているんだと思います。
──そんな今回のアルバムをどう楽しんでもらいたいですか?
クラブの現場ではいまだに初対面の人から「『the ジブリ set』持ってます!」って言われるので、今回の「the ジブリ set 2」もクラブミュージックを楽しむ最初のきっかけや1つの入口になればいいなとは思います。そしてそれ以上にこの作品を聴くことによって、気持ちがリセットされたり、浄化されるジブリの映画を「また観たい!」と思うきっかけになってくれればいいなって。だってジブリの作品を観て、悪いことしようと思う人はいないはずだし、むしろ世の中をよくする大きな影響がジブリ映画にはあると思いますから。
収録曲
- 君をのせて(JPN ver.)feat. 麻衣(天空の城ラピュタ)
- やさしさに包まれたなら feat. GILLE(魔女の宅急便)
- カントリー・ロード(JPN ver.)feat. 本名陽子(耳をすませば)
- 風のとおり道 feat. 吉田兄弟(となりのトトロ)
- アシタカとサン(もののけ姫)
- Arrietty's Song feat. Cecile Corbel(借りぐらしのアリエッティ)
- 帰らざる日々(Mellow mix)(紅の豚)
- 時には昔の話を feat. COLDFEET(紅の豚)
- ひこうき雲 feat. arvin homa aya(風立ちぬ)
- あの夏へ(Mellow mix)(千と千尋の神隠し)
- さよならの夏~コクリコ坂から~ feat. Lori Fine(COLDFEET)(コクリコ坂から)
- Take Me Home, Country Roads feat. arvin homa aya, SHINJI TAKEDA (Re-Visited SAX mix)(耳をすませば)
DAISHI DANCE(だいしだんす)
札幌を拠点に活動するDJ / プロデューサー。メロディアスなハウスからマッシブなハウスまで守備範囲の広い、ハイブリッドで先鋭的なDJスタイルに定評がある。東京・新木場ageHaをはじめ大阪、京都、福岡、韓国などの大型クラブでレギュラーパーティを行うほか、各地のクラブにDJとして年間150回以上出演。ピアノやストリングスを軸としたメロディアスな楽曲プロデュースが特徴で、2006年7月にリリースした自身初のオリジナルアルバム「the P.I.A.N.O set」は、外資系CDショップやiTune Storeなどあらゆるダンスチャートで軒並み1位を獲得している。その後も「MELODIES MELODIES」「DAISHI DANCE Remix.」「Spectacle.」と毎年作品を発表し、いずれもロングセールスを記録。特に、スタジオジブリ作品で使用された名曲をメロディアスなハウストラックでカバーする「the ジブリ set」は、クラブミュージックのリスナーのみならず幅広い層から支持され異例の大ヒット作となった。このほかにも多数のリミックス制作や作品プロデュース、コンピレーションへの参加、家電製品への楽曲提供など多岐にわたる活動を展開。上海万博では「日本パビリオン(日本産業館)」の公式テーマソングとして「Re...JAPANESQUE」が起用された。2013年には新名義「DD」としてのアルバム「NEW PARTY!」と、ジブリ音楽カバー集の第2弾「the ジブリ set 2」をリリースした。