Creepy Nutsインタビュー|アルバム「アンサンブル・プレイ」で築き上げる、自意識を通過したフィクショナルな世界 (2/2)

最近はちょっと停滞していませんか?

──「dawn」は特にそういう部分が強いですね。トラックもフロウのアプローチもシンプルな分、韻でグルーヴを出さないと乗りづらい曲になるんじゃないかなと思うし。

DJ 松永 四つ打ちのトラックで、コードは展開しないワンループのシンプルな構成で、フロウのバリエーションに頼らずに……となると、ライムを外さないで駆け抜けないとグルーヴが出なかったんで。

R-指定 韻を組み立てて、さらにパズルみたいに組み合わせていって、文章としても成り立たせるという作業をひたすらやりましたね。変な脳の使い方をした曲だと思います。

Creepy Nuts

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──そういう強度を打ち出せるのは2人のヒップホップ的な思考性によるものだと思いますが、楽曲のテーマとして「自分たちのヒップホップ性を担保する」タイプの曲はないですね。

DJ 松永 そこに対して圧倒的に自信があるから、それを出す必要はないのかなって。あと……そもそもサウンドの変化が目まぐるしいヒップホップですが、最近はちょっと停滞していませんか?

──EDMもそうだけど、音色自体のトレンドがしばらく変わらないから、そこでの差別化が難しいこともあって、個性の出し方には苦労する時代だろうなと思います。もちろん、トッププロデューサーはそこで本当にフレッシュなものを出してくるんだけど、様式美になってる部分は否めないなと。

DJ 松永 俺としても、同じような作品を作り続けることは作曲が作業化してしまいそうで、恐怖を感じるんですよ。だから今回のトラックは、いろんなところからエッセンスやアプローチを探してきて「1人で作ったとは思えないようなバラエティを出そう」というのは、トラックメイカーや作曲家の意地として思いました。ほかの人とは違うトラックを作ろうというのはかなり意識したし、トラップにBメロ的な展開を付けたり、四つ打ちのワンループにしたり、ピアノとドラムだけという最小編成で作ってみたり、「Madman」のようなDrillっぽいインストにしたり、全曲バラバラにしようって。自分としても新しいアプローチを考えたり、未開の土地に踏み込んだりした瞬間こそが楽しいし、その楽しさを優先させたら今回みたいなトラック群になったんですよね。

──新しい領域といえば、「フロント9番」や「堕天」のような恋愛をモチーフにした曲があることにも驚きました。Creepy Nutsは恋愛リリック禁止の「魁!!男塾」的ユニットだったので(笑)。

DJ 松永 恋愛については本当に書いてきませんでしたからね(笑)。

R-指定 「『阿婆擦れ』もよく聴くと対人間ではないんですよ」みたいな(笑)。そこに関しては「堕天」の制作が大きかったのかな。「よふかしのうた」の主題歌ではあるんですが、Creepy Nutsとしてはもう“夜”については書き尽くしていて。

Creepy Nuts

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DJ 松永 制作の話し合いで「もう夜について何も新しいことは浮かばないよ!」って2人でキレたんですよ(笑)。

R-指定 hokutoの「Shooting Star feat. CHICO CARLITO & R-指定」で、ついに星のことまで歌ったんで、「星にも手出してたわ、もう無理や」って(笑)。それもあったし、「よふかしのうた」は自分たちの曲からイメージを膨らませてくれたフィクションだったので、今回はそれを自分たちが受け取って、そこからもう1つ新しいフィクションを生み出そうと。そういう意図もあって、マンガから着想を得て、作品の中のカップリングを意識して書き出したんですよね。でも、恋することをドキドキワクワクじゃなくて、不安も含めて「堕ちる」と書いてしまうのはCreepy Nutsの作家性なのかなと(笑)。

──「フロント9番」の色恋の情景も明るくはないし。次は幸せなラブソングを書けることを祈ってます(笑)。

R-指定 ははは。確かに恋愛は幸せな側面もありますからねー(笑)。

豪速球な暴論が俺らにも必要

──上田正樹「悲しい色やね ~OSAKA BAY BLUES~」や憂歌団「大阪ビッグ・リバー・ブルース」の系譜に連なるような、「フロント9番」の関西弁ブルースのエッセンスは本当に興味深くて。

R-指定 土地柄でくくるのは乱暴ですけど、俺が生まれ育った大阪は、そういう形のブルースが市民権を得ている土地だと思うんですよね。ヒップホップでもSHINGO☆西成さんの「あんた」とか、ERONEさんの「SA.YO.NA.RA~逢いたない~ feat. KG」みたいな曲があって。俺もそういう曲を作ろうと思って7、8年前に雛形だけは作っていたんですけど、完成には至らなくて保留にしてたんです。

DJ 松永 僕のピアノとドラムだけで進むシンプルなトラックも、当時だったら作れなかったと思うし、捨てないで温めてきてよかったよね。

R-指定 年齢を重ねてきたのもありますね。周りの知り合いや友達に取材して、いろんな経験談をより聞くようになったからこそ書けたし、内容に自分の意識と年齢が追い付いたというか。

Creepy Nuts

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──確かに、これを20代半ばで書いていたら、ちょっとしっくりこない気もします。

R-指定 女性側を主人公にして書こうと思ったのも、フィクションだからできることで。もともとは、やしきたかじんイズムというか、“振り回される女性”を書こうと思ったんですよ。

──「やっぱ好きやねん」とか「東京」みたいな。

R-指定 そうそう。でもその逆もあるやろと。だからこの曲は女性側がもう面倒くさくなってるんだけど、悪者にはなりたくないから別れを切り出してほしいと思ってるんですよね。「阿婆擦れ」もそうでしたけど、どうしても「男が振り回される側」として書いてしまうきらいがありますね。

──でもこの女性は「最後は相手の顔を立ててあげようとしてる」とも解釈できるし、そういう多元的な意味合いの込め方は、すごく作詞家的なアプローチだと思いました。それは今回の作詞術全体に通じているし、10年後に聴いても感触は変わらないアルバムなのかなって。「友人A」もフィクションだからこそ、寿命が長い曲になったと思います。

R-指定 これも以前から雛形があった曲なんですけど、ラジオ盤でも話した通り、これを今「自分たちの話」として書くのは違うよなって。

DJ 松永 だからフィクションのアルバムを作ることになってラッキーだったよね。

──これが作り話でよかったですよ(笑)。

R-指定 ははは。この曲の主人公は完全敗北ですからね。それもフィクションだからこそ説得力を持たせられるなって。

DJ 松永 トラックのイメージも、マンガでキャラクターが何かを想像してるときに「ホワンホワン」って出てくる吹き出しみたいな、ファニーで浮遊感のあるサウンドをイメージしたんですよね。制作時における着地点への想像力に関しても、スキルアップした実感はありますね。

R-指定 そうやってお互いがスキルアップしたからこそ、ビートで世界観を説明することも、ラップを物語として成立させることもできるようになったと思いますね。あと、このアルファベットのワードプレイはすごく気に入ったから、今回生かせてよかった。

──「M字開脚の写真 / 彼氏に送ってるのかも...NO!!」はバカすぎて震え上がりましたけど(笑)。

DJ 松永 ガラケー時代の思い出ですよ。「これ〇〇の写真らしいぞ!」「えー!?」みたいな。

R-指定 画素の粗い、小さーい写真で「これあいつかも」みたいな噂に一喜一憂して……アホすぎる(笑)。正直、こういう表現は時代的に合わないかもしれないから、違うワードも考えたんですよ。でも、この曲の主人公はこれぐらいアホなことを考えるなと。だからよりヒドい内容にしました(笑)。

DJ 松永 品のない曲はいいよね(笑)。やっぱり、いろんな意味で品のある曲、ちゃんとした曲が最近は多かったもん。METEOR & CHIN-HURTZの「ラッパーの集まり遅刻OK(feat. 崇勲)」を聴いて、まっすぐ豪速球な暴論に誠意すら感じたし、俺らにもそういう曲が必要じゃないかって。

Creepy Nuts

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──BIG-RE-MANの「アイアン」も“純粋暴論”で最高なのでオススメします。それは置いといて、「ばかまじめ」はAyase・幾田りら(YOASOBI)とのコラボ曲ですね。

DJ 松永 完全共作での作品制作はCreepy Nutsとして初めてですね。Ayaseさんも初めてだと話してました。僕のトラックを叩き台にAyaseさんが展開を作って……というのが曲の基礎になっています。

R-指定 自分以外が考えたメロディと歌詞を歌うというのも自分としては初めての経験で。こんなにハッピーなノリというか、“陽”のバイブスをまとった音楽はCreepy Nutsからは出てけえへんと思うし(笑)。一方でこういう忙しい日常をドキュメント的に歌う内容も、YOASOBIからは出てきにくいと思うし、そういう意味でもお互いにユニットでは出ていなかった部分が引き出された作品になったと思いますね。

キャリア最大規模のさいたまスーパーアリーナへ

──そしてツアー「Creepy Nuts ONE MAN TOUR『アンサンブル・プレイ』」が9月26日からスタートします。ツアーのラストはさいたまスーパーアリーナとキャリア史上最大規模の会場になりますね。

DJ 松永 ありがたいですね。

R-指定 このアルバムを作ったことで、アリーナ映えする曲も増えたと思うし。

DJ 松永 そうね。サウンドも色鮮やかになったから、よりリスナーに楽しんでもらえるんじゃないかな。でもPAさんは大変だよね(笑)。

R-指定 曲の中でラップのカラーが変わるからね。バラエティ豊かなライブにできればと思いますね。

DJ 松永 このアルバムのストーリーによって、既存曲のイメージもより膨らむようなライブになると思います……まあ現状、何も決まってないですけど!

Creepy Nuts

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公演情報

Creepy Nuts ONE MAN TOUR「アンサンブル・プレイ」

  • 2022年9月26日(月)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2022年10月4日(火)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2022年10月5日(水)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2022年10月7日(金)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2022年10月8日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2022年10月12日(水)北海道 Zepp Sapporo
  • 2022年10月14日(金)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2022年10月17日(月)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年10月18日(火)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年10月26日(水)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年10月27日(木)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年11月12日(土)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2022年11月13日(日)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2022年12月8日(木)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

Creepy Nuts Major Debut 5th Anniversary Live''2017~2022'' in 日本武道館

2022年11月5日(土)東京都 日本武道館

プロフィール

Creepy Nuts(クリーピーナッツ)

MCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」大阪大会で5連覇、「UMB GRAND CHAMPIONSHIP」で3連覇を成し遂げた経歴を持つ大阪出身のラッパー・R-指定と、DJの世界大会「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019」バトル部門で優勝した新潟出身のDJ 松永によるユニット。2017年11月にシングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」でソニー・ミュージックエンタテインメントよりメジャーデビューを果たした。メディアミックス作品「ヒプノシスマイク」や菅田将暉、木村拓哉といったアーティストへの楽曲提供も行っているほか、CMやバラエティ、ドラマ、ラジオに執筆業など、多方面に活動の幅を拡大中。2022年9月にメジャー2ndアルバム「アンサンブル・プレイ」をリリースし、同月より自身最大キャパとなる埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演を含む全国ツアーを行う。