アンジャッシュのコントみたいに
板倉 僕もさすがだなと思っていました(笑)。あのプロットがこの曲になるんだって。
尾崎 僕は曲ができてからハイティーンの絵をもらって、すごいと思ったんです。自分が「愛す」で歌っている「本当はそう思っているわけじゃないのにブスと言ってしまうねじれた感じ」がそのままハマるようなイラストで。最初は違和感がちょっとあるけど、ずっと見ているとかわいく見えてくる。そのズレをうまく表現してもらったなと思います。
板倉 最初はハイティーンのことをブスって言ってるのかな?と思ったりしたんですけど(笑)。聴いていくうちに、この曲でいうブスという表現のねじれた感じを汲み取って。僕が考えていたアイデアでは、例えばすごく絵がヘタなマンガ家さんがいたとして、その世界の中で美少女を書いたらそれはちゃんと美少女としてかわいく見えるみたいなことで。相対的にかわいいのかどうか、みたいな。
尾崎 「工業哀歌バレーボーイズ」のタッチでエロいシーンを描かれていてもエロく感じるというようなことですよね(笑)。
安達 そうそう。あれはあの世界の中だったら通じるエロだもんね(笑)。ほかのマンガと比べずにそこの世界に浸ってたらエロいみたいなね。
尾崎 僕も「愛す」のジャケットを見てそう感じました。MVの内容は歌詞を解体してもらって、ストーリーにはめていって、目まぐるしく展開していくという内容じゃないですか。そこに歌っている世界とのズレがどんどん生じていって、歌詞を拾ってもらってはいるけれど、全然違う意味になっていく。
安達 今回の制作がそもそもずれてたというのが、ここに返ってきますね……(笑)。
尾崎 そうですね(笑)。お互いが待っていたという。アンジャッシュのコントのようですね。観た人はみんな「なんだこれ……」と言っていますけど、作っている側もどんどんずれていたという(笑)。
「愛す」は絶対に壊れない免震構造
尾崎 最初のほうで話した「壊される前提で曲を作った」という話に戻るんですけど、僕はあらすじを読んだときに「本当に大丈夫かな?」と少し不安になったんです。自分の中ではしっかり揺れに耐えられるようなものを作ったつもりだけど、映像を観て「これは飛ばされるかもしれない」と思いました。でも今回は飛ばされたら意味がなかったんですよ。壊れたあとに残ったものを見てもらいたい、聴いてもらいたいという思いが強かったので。
安達 僕らは曲を聴いたときに何が来ても大丈夫な免震構造だと思ったんです。クネクネ揺れ動いても絶対に壊れないと。
板倉 Slackで「名曲来ましたね!」と話していました。
尾崎 曲を渡して、AC部サイドから「いい曲があがってきた」という反応が返ってきたとスタッフさんから聞いたとき、すごく安心したんですけど、さっきのやり取りを経てあれは情報操作をされていたんじゃないかと疑っています(笑)。万全の対策をして強い台風に臨むということは音楽制作をする中ではあまり経験しないことなんです。タイアップで曲を書くことは“寄り添う”ことだし、吹き飛ぶ前提で何を残せるかを考えて曲作りをするのは今回が初めてでした。それによってすごくスタンダードな曲作りができたんですよね。そういう機会をもらえたのは、曲を作る人間として恵まれたことです。AC部とじゃなければこの曲はできなかったとすら思います。
わからないものに救われてきた
安達 曲に寄り添わないというのはこっちとしても常に思っていたことなんです。これで曲にぴったりな映像を付けてしまったらプロモーションビデオでしょう? 僕らとしてもただのMVとして見られたくないという意地があって、もっと詰め込まなくちゃ、もっと詰め込まなくちゃと作りましたから。
尾崎 あの情報量はきっと3曲分くらい詰め込まれていますよね。
安達 映画1本分にしようと思っていたんです。
板倉 それを早回ししているような感覚ですね。
尾崎 そうなんですね。2回目に観たときに「都会って明るいね」という言葉にグッと来たんです。寄り添っていないのにたまにバチッとハマる瞬間がある。
安達 ありますよね。そういうの。僕らも完全に予測して作ってはなくて、どんどん絵を作っていって音にハメていったときに、「ダッダッダッダッダッ」とサビに始まるところにああいう絵を当てて、「キタキタ! これこれ!」となりました。納期最終日に作ったんですけど、そういうマジックが起こって「これでなんとかなった。イケる!」と、明かりが見えました。
板倉 「都会って明るいね」となったよね(笑)。
安達 うん(笑)。本当に「明るいね……」という気持ちでした。
尾崎 怒涛の流れの中で本質を突く瞬間がいくつもあるんですよね。だから「なんだこれ、わからないな」という感想はすごく多いんですけど、それであきらめてしまうのはもったいないと思うんです。僕は、昔からわからないものに救われてきたし、自分の理解が及ばないものが世の中にあることに安心してきたので、AC部の表現にもすごく安心するんです。大人が子供に対して「理解していないだろうな」と思いながら話していても、子供はなんとなくは理解している。あの瞬間がすごく好きだったんです。大人の世界が見えるワクワク感、見てはいけないもの、知ってはいけないものを知ったあの感覚。大人になってくるとそういう感覚は忘れてしまうから、大人にあの感覚を思い出させてくれる作品があるのはすごくありがたいことだと思います。
安達 子供って意外とわかってるんですよね。なめてたら全部わかられちゃって、「こんなもんか」みたいに見られちゃうのが怖い。
尾崎 言葉で説明できないだけで、ちゃんとわかっているんだと思います。
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できないことが個性になる